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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十二節 「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」
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~痛み知る長き道の唄~

 タイ王国、滞在六日目。


 一台の大型オフロード車両が道路を走り抜ける。

 運転席に座り、ハンドルを握るのは心輝。

 助手席には勇が座り、後部座席には茶奈、瀬玲、イシュライトが所狭しと詰め並ぶ。

 そして外に剥き出しの後部架台には剣聖が一人、ドカリと座り込んでいた。


 彼等が向かうのは当然、タイ政府が見つけたという隠れ里。

 陸路を使い、時間を掛けて向かっていたのである。


 それというのも……タイ政府がアルクトゥーンの国土上空横断を拒んだからだ。


 直接アルクトゥーンで乗り入れれば当然、タイを大きく横断しなければならない。

 超巨大なアルクトゥーンでの移動は国民に余計な不安を与えるとして許可が降りなかったのだ。

 農村部には未だ文化的に未発達の場所もあり、その巨大な姿が余計な混乱を呼び込みかねないからという事であった。

 下手に竜の様な形をしているだけに……不吉とでも思われてしまうからなのかもしれない。


 ならば茶奈の航行や【ヴォルトリッタープラス】を使う選択肢もあっただろう。

 それはタイ政府からも許可が出ており、問題は無い……はずだった。


 そこでネックになったのは……同伴する事になった剣聖だ。


 何せ彼の持つ荷物は凄まじく重い。

 ついでに彼自身も重い。

 しかも最終目標地点ともあり、万全を期すべきと荷物を置いて行こうとはしなかったのである。

 その結果、茶奈のカーゴは重量オーバーという結論に。

 さすがの茶奈もイルリスエーヴェを失った状態で、それらの超重量に加えて人数過多ともなれば抱えて飛ぶ事も叶わないという訳で。


 そして【ヴォルトリッタープラス】……こちらはちょっと毛色が違う。

 どうやら先日のリビアでの戦いが祟り、動作不良を起こしてしまった模様。

 プラスパーツ【グライドランサー】の動力は命力ではあるが、推力系はジェット機と同じ空力システムを採用している。

 しかしリビアの空気に混じる微細な砂を取り込んでしまい、それが悪戯して故障に繋がってしまったのである。

 現在メンテナンス中で、飛ぶ事もままならないという訳だ。

 カプロに至っては課題を解決しようと色々楽しそうに働いているが。

 モンラン騒動で殆ど参戦しなかったのは、単純にそっちの方が楽しかったからなのだろう。

 

 そんな事もあって……急遽車両を調達し、目的地であるラムナムナーン国立公園へ向けて走っているという訳である。


 目的地は国立公園の北側のとある山間。

 未舗装地帯を通り抜ける必要もあった為、用意されたのがオフロードにも適した車だという訳だ。

 もちろん剣聖を乗せても問題の無い、積載量が自慢の一台である。


 ……とはいえ、車が跳ねる度に「ギシギシ」と音を立てる所は実に不安な所ではあるが。


「剣聖さんが余計な荷物持ってこなきゃ、スパァーっと行って帰ってこれたんすけどねぇ~!」


「馬鹿野郎!! この先何があるかわかりゃしねぇだろうが!! ラクアンツェをやった奴が隠れてるかもしれねぇしな!!」


 半ば愚痴とも言える心輝の大きな小言に、すかさず剣聖の怒号が追撃を重ねる。


 だが勇は知っている。

 剣聖の荷物の中身の正体を。

 初めて会った時にその中身を見てしまったから。


 確かに鞄の中には魔剣がゴロゴロと詰まっているのは間違いない。

 しかしその大半は……使っているかもわからない旅の道具や、用途も不明な小物ばかりだ。

 整理整頓を行えば、これから必要ではない物くらいは判別できそうなのだが……。


 どうやら剣聖……粗暴な性格であるが、断捨離(だんしゃり)に関してはどうにも苦手な様だ。


 それに気付く勇ではあったが、心輝ほどハッキリとモノを言える性格ではない訳で。

 こんな移動をするハメになってしまった手前、彼も少し不満はあるものの……二人のやりとりを前に苦笑いを浮かべるしか無かった。


 後部座席に座る茶奈達もどこか静かだ。

 狭いというのもあるが……何分退屈だからだろう。

 何せ既に都市部から離れて久しく、周囲は草原、森、山……時々畑、他に何も無い。

 景色を楽しもうにも、代わり映えもしないのだから既に飽きてしまった様だ。


 バンコクから目的地までは、距離的に言えば東京から青森南部に到達するのと同程度。

 一日掛けての移動なのだから、もはや退屈も通り過ぎてしまう。


 余りにも静か過ぎて……気付けば茶奈は寝息を立てていた。


 ちなみに茶奈だけは日本でも運転免許を持っていないので、タイ国内での運転は許可されていない。

 暇潰しも出来ないとあっては、結果的にこうなってしまうのもいざ仕方のない事で。

 本来は勇達もタイ国内での免許を所持していないのだが、今回は特例で許されている。

 空路を使わせてもらえない事への代替案であった。


「勇、そろそろ代わってくれよ……もうケツがいてぇ」


「お前、そんくらい命力でカバーしろよな……」


 外力にはめっぽう強い命力も、自分の意思で座り続けて圧迫される事には弱い様で。

 しかも大型車でマニュアル車……やたらと動作に力が必要。

 長時間の運転に馴れている訳ではない心輝も、さすがに疲れを見せていた。

 

 その時見えたのは、車二、三台が停まれそうな路肩帯。

 拍子に道路から路肩へと躍り出ると……車両が止まり、二人が車外へと降り立った。


「おう、着いたのか?」


「違いますよ、運転交代するだけです」


「なんだぁ? あれだけ咆えてた癖にもぉう疲れちまったかぁ~!?」


 途端「ガハハ」という大きな笑いがその場に張り上がる。

 寝ていた茶奈が目を覚ます程に大きな声で。


 対してやり玉に上げられた心輝はと言えば……目を血走らせて口を窄ませ、肩を震わせる様を見せていた。


 それを不意に視界に映した勇、笑いに堪えるのに必死だ。

 後部座席に座る瀬玲は言わずもがな。




「はァー!? 疲れてねぇし!! まだまだ余裕だっつぅの!! 地球一周出来るくらい余裕だってぇの!!」




 剣聖の煽りが心輝の単純ミニマムハートに火を付ける。

 心輝はそう咆え散らかすと、途端に再び運転席へと戻ってハンドルを強く握りしめた。

 勇が慌てて助手席に戻るも……彼が扉を閉めきる前に、車が急発進し始めたのだった。


「あ、あっぶねぇーッ!?」


 ムキになった心輝は全身に命力を滾らせ、運転に全てを賭ける。

 その隣では、もはやうんざりなまでにシートに沈み込む勇の姿が。

 そんな二人を……何が起こったのかもわからない茶奈がキョトンと見つめていた。


 そして剣聖はと言えば―――




「へへ、叩けばまだまだ伸びるじゃねぇか……クハハッ」




 まるでお見通しと言わんばかりに笑みを浮かべ、車両の揺れに合わせて体を左右に振れさせる姿がそこにあった。






 そんな事がありながらも彼等は走り続け、ようやく目的地の付近へと辿り着く。

 そこで待ち受けるのは……一体、どの様な者達なのだろうか……。




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