表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十二節 「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」
163/466

~かつて見た恩者の唄~

 タイ王国、滞在三日目。


 勇達がモンランで盛り上がりを見せている間に、世界はほんの少し前進していた。

 乗組員達のパスポートが発行され、それがタイに認められたのである。

 これにより、彼等はようやくタイ本土に上陸する事が出来る様になるのだった。


 これを受けて最初に反応を示したのは、勇達の両親達だった。


 今回の同伴は同意の上ではあるが、半分は強制とも言える。

 一部の者に限り、艦内に居続けるだけでも相当なストレスになるだろう。


 その一部の者とは……そう、心輝の母親だ。


 彼女は日本出発以降、家から出ずに引き籠り続けていた。

 心輝の父親が彼女の面倒を見ているが……当人は出発当初の出来事をなお引きずったまま。

 そんな彼女の事を心配する人は多く、連日勇や瀬玲の母親達が訪れて彼女と話をするなど気を紛らわしたものだ


 そんな事もあり……彼等はパスポート発行に合わせ、思い切ってタイ観光を提案したのであった。


 日程はアルクトゥーンがタイを離れるまで。

 予定も全く組んではいないが、ただ歩くだけでも十分楽しめるだろう。

 何があってはいけないと、ナターシャと獅堂が護衛に付く事に決まる。

 二人ならばほとんど露出していないメンバーであり、ただの旅行者として紛れる事も比較的容易だからだ。

 観光に赴くのは勇達の両親達と竜星、加えて十人程の乗組員の同伴者組だ。

 後はタイを祖国とする国連兵の一人が息抜きを兼ねた観光ガイドとして彼等を牽引する事となった。


 こうして予定は定まり……滞在四日目。

 同伴者組のタイ観光が始まるのだった。

 





 タイ観光ツアー一向は予めチャーターしておいた小型客船を経由して、海からタイ本土へと上陸を果たす。

 そこからまたしても予め呼んでおいた観光バスでバンコク都内近郊部へと向かった。


 首都とはいえまだ発展途上国……交通状況は日本と比べると非常に緩い。

 手動式の信号から所狭しと駆け巡るバイク、車達がひしめく場所だ。

 そんな中をバスで進もうものなら時間が掛かり過ぎるという事もあって……そこからは歩きによる観光となった。

 何より、バンコクの空気をバスの中では楽しめないというガイドの意見もあっての行動であった。


 それからしばらく歩き続け、一向は都市中心部へと辿り着いた。

 中心部の街並みは比較的開発が進み、パッと見れば日本都市部とも変わらないと思われる様な風景だ。

 しかし一部では未だ街内ボートを使用した通勤なども行われていたり、昔ながらの様相が所々と見られる。

 ほんの少し異なる文化が見え隠れし、一向の興味を大いに引くのだった。


 観光対象は街中だけではない。

 離れた所には昔から残り続ける寺院や、一世を風靡した煌びやかな古風の建物が並ぶ観光地が存在する。

 歩き疲れた一向をバスが迎え、今度は眺める様な景色を前に楽しむ事が出来たのだった。

 もちろん立ち寄り、近くで眺める事も忘れない。


 そんな観光が一日掛けて行われ……どうやら園部夫妻も気が紛れた様だ。

 終わる頃には疲れ果てていたが、ツアー同行者達と仲良く話す姿が見受けられた。


 彼女が以前の様な明るさを取り戻すのは遠くない話なのかもしれない。




 しかし……その観光ツアー一向の中二は、既に藤咲夫妻の姿は無かった。




 それというのも、実はツアー開始直後にとある出来事が起きた。

 二人はそれに対応する為に、アルクトゥーンへと戻っていたのだ。


 一体何が起きたのか……それは半日ほど遡る。






――――――

――――

――






 それはバンコク郊外へと辿り着いた時の事だ。

 一向がバスから降り、ガイドの後を付いていく。

 彼等は列を成して、未だタイの昔ながらの光景が広がる街中を歩き続けていた。


「ここ、地面に気を付けてください。 こけて怪我でもしたら大変ですから」


 ガイドが適切に説明し、周囲の案内をしながらも注意を払う。

 日本にとってはなんて事の無い事も、この国ではまだ色々と怖い事は多い。

 例に挙げれば、未だ衛生面では安心出来るとは言い難い事か。

 傷一つで病気になり、重症にすらなりえる事もある。

 しかしそういった事を知っていれば自然と対処も出来るため、こんな時にこそガイドの存在は心強いだろう。


 人が多く行き交うその場所で、藤咲夫妻は楽しそうに周囲を眺めながら風景を楽しんでいた。


「見て見て、あの屋台の料理おいしそうよぉ」


 丁度時間もお昼前。

 歩き疲れて空腹感を催す時間帯にそんなものを見れば、どんな物でも美味しく見えるものだ。

 タイ名物料理のオンパレードだったという事もあり、彼等の興味は既に腹ごしらえにシフトしていた。




 だがそんな時……ふと、勇の父親の視界にとある光景が映り込む。




 そこに映ったのは一人の人物だった。

 巨大なバックパックを背に抱え、人込みの中で人一倍大きな背丈で隠れる事無く突出させる。

 筋骨隆々で周囲に気も配る事無く堂々と歩く姿。

 そんなの姿を……彼等は知っていた。

 忘れるはずも無かったのだ。


「お、おい、見ろ、あれって……」

「え? あ……あれ……剣聖さんじゃない?」




 そう……彼等の良く知る、剣聖当人だったのである。




「ちょっとちょっと!!」

「何でこんな所に……待っててくれ」


 剣聖が歩いていたのは道路の反対側。

 勇の父親が彼を追う様に道路を横断しようとその身を進ませる。

 横断する街の人々の真似をするも、危うく車に轢かれそうに。

 一向が驚き慄きながら眺める中……かろうじて勇の父親は道路の横断に成功し、そのまま歩く剣聖へと向けて走っていった。


「け、剣聖さん待って、待ってください!!」


「あん? なんだぁ?」


 相変わらずのふてぶてしさを見せる剣聖を前に、見間違いでなかったのだろうと安堵の溜息を零す。

 剣聖本人は勇の父親の事などとうに忘れたのか、何故呼び止められたかわからず首を傾げていた。


「私ですよ私……勇の父親です」


「っつーてぇと……どういうことだぁ?」


「あー……茶奈ちゃんの代理親ですよ!!」


「お? あ、ああ~~~!! お前かぁ~~~!!」


 実は勇の父親は……剣聖が茶奈の名前だけは知っているという事をしっかり憶えていた。

 それは自身の眼鏡に適う者の名前しか覚えられないという彼の特徴柄での事。

 しかし自分の事を憶えていなかったという事実に、勇の父親の僅かな落胆があったのは否めない。


「まさかこんな所で出会えるなんて……一体どうしたんですか?」


「どうしたもこうしたも……あそこに行く為に向かってたんだぁよ」


 そして彼の太い腕が空を突き、とある一方へと向けられる。

 それは当然の如く、遥か先……曇り空に浮くアルクトゥーンを指していた。


「やっぱり……私達、あそこから来たんですよ」


「何ぃ……!? なら俺をあそこまで連れてってくれねぇか?」


「もちろんですよ。 行きましょう!!」


 剣聖がこの場所を歩いているという事……それがどこか勇達と関連性がある様に感じて。

 その予感は正しく、勇の父親は彼を引く様にして一向の下へと戻っていった。


「すいません、私はこれから一旦アルクトゥーンに戻るので、皆さんは観光を続けててください」


 突然の剣聖の登場に、彼を知る者達の驚愕は隠せない。

 獅堂に至っては視線すら合わせられずに居た。

 なにせ心臓を突き刺して殺そうとした事のある相手なのだから。


 当人に至っては全く憶えている様な節は無いが。


 ガイドがそれを受け、頷き応える中……勇の母親も父親の傍へと歩み寄る。


「それなら私も夫に付いていきます。 園部さんごめんなさいね、一緒に行こうって誘っておいて……」


「いえ、私の事は気になさらないでください……もう大丈夫ですから」


 心輝の母親の事が気掛かりではあったが、夫である勇の父親に全てを押し付けて観光する訳にもいかず。

 こうして藤咲夫妻は剣聖を連れてアルクトゥーンへと戻っていったのだった。






――

――――

――――――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ