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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十二節 「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」
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~月下に潜む闇者の唄~

 空は月を映し、闇夜を淡く照らす。

 静かに優しく輝く姿は、目下で騒ぐ人々の事など知らぬかのよう。


 夜風を纏いし銀乙女は……些細な喧騒をも、そんな月の様にただ受け流すのみ。




 だがその時、空を仰ぐ彼女の瞳が突如絞られる。




 途端、彼女は二人の男の胸倉を掴み取り……大きく跳び跳ねたのだった。






ッドッガァァァーーーーーーンッ!!!!





 

 間も無く、彼女の立っていた場所が突然弾け飛び、激しい粉塵を巻き上げた。

 凄まじい衝撃が周囲を襲い、脆くなっていた建屋が次々と倒壊していく。


 断続的に続く破衝音。

 今の出来事はそれ程までに……強烈無比の衝撃だった。

  

 飛び跳ねたラクアンツェは無事だ。

 男達も当然無事……何が起きたのかわからない状態だが。

 間も無く彼女達は引かれる様に、大地へと着地を果たす。

 爆発が起きた地点に目を離す事無く。


「貴方達、早く逃げなさいッ!!」


 男達は既に彼女の手から離れ、地べたへとへたり込んでいた。

 そう怒鳴られると……二人は悲鳴を上げながら一目散に暗闇の中へと走り去っていったのだった。


「全く……一体何だと言うのかしらねぇ……!!」


 もはやラクアンツェの意識の中に男達の行動は映ってはいない。

 全ては突如現れた『異質』に対する敵意のみ。


 そう、彼女にもまたぶつけられていたのだ。

 おぞましいまでに激しい憎悪の塊とも言える『殺意』が。


 粉塵の中に何か意思のある者が居る……それが彼女を警戒させていたのである。


 多くの悲鳴が響き渡る中、粉塵の先を見据えてその身を固まらせる。

 その中で徐々に納まっていく粉塵。

 そして粉塵が僅かに晴れ、月明かりが射し込んだ時……彼女は見た。




 雄々しく立つ……『異形』の姿を。




 思わず彼女の目が細まり、腰を落として身を構えさせる。

 体に沸き立つのは命力……そこに秘めるのは全力の闘気。


 何故なら、そこに立つ者の姿を彼女は知らないから。

 この三百年余り……世界中を回った彼女でも見た事の無い姿の魔者だったのだ。


 知るはずも無いのかもしれない。

 この異形は()()()()()()()()()()()()()()|なのだから。


 しかし外見など、彼女にはどうでも良かった。

 ただ目の前に居る異形が余りにも異質過ぎて。

 異質の正体はわからないが認識はしていた。

 感覚の面では誰よりも優れていると自負する彼女だからこそ……。




―――こいつ……命力を感じない……!?―――




 それが彼女の警戒する理由だった。


 万物に宿り、意思がある者ほど強い光を生む命力が、目の前の異形には微塵も感じない。

 その事実は、彼女が持つ知識の根底すら覆さんとする異常な事だったのだ。

 彼女の見せる反応は、かつての【東京事変】において勇と対峙したデュゼローと同じ。


 そう……ラクアンツェの目の前に居る怪物もまた、勇と同様に命力を持ち合わせていないのである。


 それどころか、彼とは異なる禍々しい気配を撒き散らし、今にも襲い掛からんばかりの殺意に満ちた瞳を向けていた。


「でも……私が標的だという意思は痛い程わかるわぁ……ッ!!」


 途端、手を覆う純白の手袋から凄まじい光が迸る。

 凄まじい命力の塊……茶奈のフルクラスタと同様、命力を滞留させて生み出す光の拳。

 指の関節が「ギリリッ」と軋みを上げる程に握り締められ、最大の力を惜しみなく籠める。


 彼女が見せるのは一撃必殺の構え。

 あからさまにするのは威嚇の意もまた含まれるから。

 それで逃げる様ならその程度。

 追う必要すらありはしない。


 では何故威嚇してまでその様な構えを見せつけるのか。

 答えは簡単だ。






 ―――その一撃は、避けられない。






 その時一瞬、周囲が光に包まれた。


 まさに雷光一閃の如く。

 周囲一帯が弾け飛び、大地に幾多もの亀裂が走る。

 途端凄まじい衝撃波が周囲を吹き飛ばし、崩れた家屋だけでなく未だ建ったままの建物すら崩壊させた。


 それ程までの速さ。

 それ程までの衝撃。


 しかしそれはただの助走に過ぎない。

 一撃の本質は彼女の体そのものにある。


 魔剣【ウーグイシュ】は人間の体を模しているが、構造は人のそれとは全く異なる。

 格闘を行う為だけの魔剣……人以上に格闘的動作に優れ、最適化、洗練された最高峰の魔剣の一つ。

 幾多もの命力珠が繋ぐ命力の筋が最高最上の動きを体現し、一撃一撃に持ちうる最大の効果を発揮するよう動作するのだ。


 そして超硬質、超突貫、超衝撃、超捻転……命力が全てを操る。


 全てが重なった時……その一撃は何者をも慈悲無く砕く。




 それが【光破滅突(イーラークェンシィ)】……彼女が最も得意とする最大最高の一撃拳である。






ッドッギャァァァーーーーーーンッ!!!!!






 その名に相応しい一撃が異形へと容赦なくぶつけられる。

 一瞬にしてその場が……超圧縮されていた命力の拡散によって、黄金色に包まれた。


 凄まじい衝撃音と共に、たちまち先程とは桁違いの衝撃波が立て続けに放たれる。

 崩れた家々が破片もろとも吹き飛ばされ、巻き上げられ、逃げ惑う人をも巻き込み弾き飛ばした。

 先程逃げていた男達も巻き込んで。

 瞬く間に……周囲の建物全てが吹き飛び、何一つ残さず姿を消したのだった。

 余りの威力に……砂埃が遅れて周囲に撒き散らかされる程に。


 そうまでしなければならない相手だったのか?

 それは違う。

 彼女は理由も無く一定以上の殺意を向けた相手に容赦をしない……それだけだ。

 その為には例え何を巻き込もうと、彼女自身には関係無いのだから。

 それが魔剣【ウーグイシュ】を装着した者に与えられる不遇(デメリット)


 戦いにおいて、彼女は敵以外を『見る』事が出来なくなるのである。


 しかし今回に限ってはそれでもよかったのだろう。

 相手は得体の知れない異形なのだ、しかも恐ろしい殺意を飛ばす程の。


 だからこそ―――




メキキッ……




 その瞬間、ラクアンツェの撃ち放った拳に違和感が走る。

 途端、打ち放った先を包む砂埃が突風と共に吹き飛ばされ、周囲へと霧散していった。


 そして彼女はその目を疑う事となる。




 異形が最高の一撃を受けてもなお、地に立ったまま微動だにすらしていなかったのだから。




「なッ……!?」


 ラクアンツェの顔がたちまち驚愕の色に染まり上がる。


 渾身の一撃のはずだった。

 直撃のはずだった。

 しかしそれはまるで鍛えられていない細腕から繰り出した拳撃を貰ったかの様に。


 あろう事か、異形の体は……全くの無傷だったのである。


 自身の力を過信していた訳ではない。

 手応えは十二分にあった。

 それでもなおこうして立っているという事実が……彼女の常識すらをも打ち崩す。


「そんなバカ―――なあッ!?」


 そう言い掛けた途端、彼女を突如として浮遊感が襲う。

 異形が撃ち出されていた手首を掴み、持ち上げていたのだ。

 全身が金属である彼女の体ですら軽々と片手で持ち上げ、彼女の動揺を呼び込む。


バキキィンッ!!


 それと同時に鳴り響いたのは……金属の破砕音。

 異形が掴んでいた彼女の手首を、強引に握り潰して粉砕したのである。

 絶対防御を誇るラクアンツェの手首をいとも容易く。


「うああああああッ!!?」


 体が魔剣であっても痛覚は存在する。

 その瞬間、凄まじい激痛が彼女の脳裏を貫いた。

 魔剣が体そのものである彼女にとって、一部が砕かれたとしても全身を砕かれたのと同じ痛みが伴う。

 感覚を全身に共有させる魔剣の特性が仇となってしまう為だ。

 

 たちまちラクアンツェの腕と手首は離れ、その体ごと地面へ向けて落ちていく。

 大地との距離はほんの数十センチメートル、たったそれだけしか浮かされていたに過ぎない。


 だがその間に……異形は次の一手を打っていた。




 彼女の腰回りよりも巨大な拳を下方より振り上げ、撃ち抜かんとしていたのである。




 その時、ラクアンツェは悟る。

 この一撃は避けられない、と。


 そしてその結末までをも。


 刹那の間に全てを理解した時……彼女はその目を伏せさせた。

 抗う事無く、その結末を受け入れるかのように。




―――剣……聖……―――




 虚しき心の声が僅かに響く。

 無情の一撃はその刹那の間にも……容赦なく襲い掛かっていた。






バッキャァァァーーーーーーンッ!!!!!












 都市部各地で打ち上がるお祭り騒ぎ。

 深夜でありながら、その大きさは街全体を覆い包む。


 外れで起きていた騒動など……瞬く間に掻き消されてしまう程に。


 警察が気付いたのは、逃げおおせた倒壊地域の住人の駆け込みがあってから。

 しかし警官が駆け付ける頃には……彼女達の痕跡は全てその場から消え去っていたのだった。




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