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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十二節 「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」
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~闇夜を照らす銀の唄~

 勇達グランディーヴァの乗る【機動旗艦アルクトゥーン】が宇宙空間を漂っている頃……。

 世界各地では大きな動きを見せていた。


 魔剣ミサイルの破壊と同時に伝えられたのは、アルディの捕縛。

 これにより、南アフリカで被害を受けていた人々だけでなく、【救世同盟】の行いに異を評していた人々が称賛を上げていたのだ。


 そして何よりも喜びを上げていたのは他でも無い、標的だったタイ王国の国民だろう。

 自国への攻撃を阻止してくれたという事実。

 例え攻撃のキッカケの一つに勇達の存在があったとしても、理不尽とも言える今回の標的騒動を止めた彼等を称賛せずにはいられなかった。

 既に時刻は深夜……それでも彼等は喝采を上げ、喜びを空に打ち立て続けた。



 

 世間がそう騒ぎ立てる最中……タイ王国首都バンコク。

 中心部周辺はさすがの首都か、大きく発展しており活気に溢れているものだ。

 グランディーヴァの功績を讃えているのは、主にこういった地域の人々だった。


 しかしまだ発展が行き届いていない地域も多い。

 外れに行けば木材で建てられた旧時代の家々が姿を見せ、昔のタイらしい一面を見せていた。

 都市部とは打って変わり、この場所は静かなもの。

 まだ情報が行き渡っていないからだろうか。

  

 そんな家々が立ち並ぶ小さな通り。

 そこに場違いとも言える女性が一人、悠々と歩く姿があった。


 長く柔らかな髪を揺らし、白く透き通る様な肌を晒す。

 背丈は高く、それでいて妖艶さを感じさせる様な体全体を揺らす様な歩き方。

 それに加えて白い薄地の衣服を身に纏う様は人を誘うかのよう。

 たまたま見かけた人の視線を釘付けにするその姿は……暗闇が包む道を照らすかの様に輝きを魅せていた。


 なぜ彼女がこの場所に居るかは当人のみぞ知る事だろう。

 何かを見るかの如く視線は地面へと向けられ、歩みは左右にブレて安定しない。

 何かをしている様にも見えるが……はたから見れば酔っている女性にも見えなくは無かった。


 そんな折、彼女の前に男が二人立ち塞がる。


「なぁネェチャン、そんな覚束ない足取りでどこ行こうってんだい?」

「なんならうちにでも寄って行かねぇかぃ? 一緒に愉しもうぜ」


 彼等はこの辺りに住む若者。

 彼女の姿を見掛け、引っ掛けようと追いかけて来た様だ。

 それ程までの上玉とも見えるのだ……彼女が実は齢三百二十余りとは誰も思いはしないだろう。


 そんな彼等を前に……女性は呆れた様な溜息を吐くも、優しい笑みを男達へと向けた。


「あらぁ、愉しいってどういう事かしらぁ? お姉さん的には凄く気になるわぁ」


 途端、彼女は自身の体に腕を回し、その身を妖しくクネらせる。


 彼女のまんざらではない様な態度は、男達の欲情を駆り立てていた。

 何せ彼女の事を知らないのだから当然か。



 

 彼女の名はラクアンツェ。

 剣聖と共に創世の鍵を追い求める者である。


 例え男達の誘いが成功したとしても、目的に至りはしないだろう。

 何故なら彼女の半身が魔剣。

 【鋼輝妃】の異名を持ちし、人器一体型魔剣【ウーグイシュ】の所持者。

 人間の体とは既に構造からして異なるのである。

 そして彼女の望む『愉しみ』の概念も彼等とは異なる。

 体が武器と成ってしまった彼女にとっての『悦び』とはつまり、戦い以外の何物でもないのだから。




「でもねぇ、今すっごく忙しいから、出来れば放っておいて欲しいなぁなんて!」


 「ウフフフ」と笑いを上げ、男達の誘いを軽く退ける。

 そんな彼女の余裕は男達を動揺させる程に軽快さを見せつけていた。


「そ、そういう訳にはいかねぇなぁ……」

「大人しく付いてきてもらおうか!」


 ラクアンツェの怯えるどころか余裕綽々(しゃくしゃく)の態度に対し、男達に余裕は無く。

 途端に荒々しい態度を見せつけ、彼女を恫喝するかの様に声を張り上げた。

 手に取り出したのはナイフ……折り畳み式の簡素な物だ。


「抵抗する様な―――」




 彼女に敵意を見せるという事。

 それはすなわち、戦いの証。

 



 だが……そうなった時、既に戦いは()()()()()()




「あらぁ、随分お粗末な玩具ねぇ……」


 男達には何が起きたのか、わかる訳も無かった。

 何せ、気付いた時には既に彼女が自分達の背後に居て。

 手に持っていたナイフの刃が、まるでマーガリンを掬い取ったかの如く滑らかに千切り取られていたのだから。


「ダメよぉ~? 人様にこんな物を向けちゃ。 相手が私じゃなきゃきっと大変な事になっちゃうんだから」


 彼女の指に摘ままれているのは当然、彼等の持っていたナイフの刃。

 それも間も無くして指に潰されて砕けて落ちる。

 月の僅かな光を反射し、煌めきながら落ちていく破片を前に……男達の顔が怯えに染まり上がっていたのは言うまでもない。


「「は、はい……すいません……」」


「ンフフッ……よろしいっ!」


 男達の素直な反応に、彼女もどこかご機嫌だ。




 『こちら側』に来てから五年……容姿柄、こういった事に遭ったのは数知れない。

 その対応も手馴れたもので、今となってはこの様に()()()追い返す事が増えた。

 以前は叩き伏せる事も多かった様で……彼女もこの世界に順応しているという事か。


 混迷する時代の中でも……彼女の様な戦いの中で生きて来た者にとって、この世界はまだ優しい方なのかもしれない。




 圧倒的な実力を前に男達も逃げる所かしおらしくなり、ラクアンツェに謝り倒す。

 そんな彼等にラクアンツェは優しく笑みで返すも……その瞳は細められ、哀れみの視線を向けていた。


 彼等も元々は根の良い青年達だったのだろう。

 こんな時代だからこそ、彼等の様に【救世同盟】の思想によって歪んでしまった人間も少なくは無い。

 デュゼローの行いはラクアンツェも今や知る所。

 彼の事を良く知る彼女だからこそ、その()()を正す事も責任の内だと感じているのかもしれない。


 月明かりが照らす街の片隅で、彼女は星の空を見上げて想いを馳せる。

 かつての仲間の行いを、自分の追い求める真実で塗り潰さねばならないという信念を乗せて。




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