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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十一節 「幾空を抜けて 渇き地の悪意 青の星の先へ」
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~希望想曲 〝抱擁〟~

 気付けば……宇宙を漂う茶奈の掠れた視界に無数の何かが浮いていた。

 それは彼女の眼から零れた涙。


「あれ……なんで私……泣いてるんだろ……」


 それは無意識に溢れた雫。

 奥底に秘めた想いが呼んだ心のカタチ。


 本心から生まれた……願いだった。




―――勇……さん……―――




 彼女の心に勇の面影が浮かび上がる。

 それは今までに見て来た彼の思い出の姿。




―――勇さん……逢いたいよ……―――




 いずれも愛おしくて。

 また逢いたくて。




―――逢いたいよ……死にたくないよ……―――




 現実を受け入れても。

 想いを否定したくなくて。




―――怖いよ……助けて……勇さん……!!―――




 薄れていた意識を呼び起こさせる。

 受け入れる事を拒否する様に。




―――勇さん!! ……勇!!―――




 そして心は叫びを上げる。

 願いを、想いを、全てをその声に乗せて。






「助けて……助けて……ッ!! 勇ッ!! 勇ゥゥゥーーーーーーーー!!!!!」












 無限の暗闇が、全てを乗せた声すら溶かし、無を呼び込む。

 だが……一人の女性の想いは今、青の星を……駆け巡った。











『茶奈ァァァーーーーーーーーー!!!!!』











 それはまるで幻聴だった。

 彼女の心に響く、最後の声の様だった。

 それは希望すら失い掛けた彼女の心を闇が包もうとしていた時の事だったから。


 でも、彼女はその時……その目を見開いた。


 それは幻聴でも何でもなかった。

 暗闇に響くはずもない声でも無かった。




 それは確かに届いた……(こえ)だったのだ。




 強き願いはいずれ、形を成そう。

 例え悠久の時を経ようと、その強さが変わる事無く連なり続ければ。


 そして彼女は見た。




 視界が再び地球を魅せた時……その中心に輝く銀色の翼を。




 その巨体が次第に視界の中で大きく広がっていく。

 それはいつか見た姿。

 よく知った姿。


 太陽と地球の光を受け、幾多にも輝きを放つその巨体は……確実に茶奈へ向けて近づいていた。


 彼女を見つけたから。

 その強い願いを辿れたから。


 巨体が彼女へと接近し、その背面を晒す。

 見えるのは、背首元にある小さな隔壁扉。

 そこから彼女に向けて手を伸ばす一人の男。


 彼の姿を見た時……彼女を見つけた時。


 二人は心の底から……叫びを上げた。






「勇ぅぅぅーーーーーーーーー!!!!!」

「茶奈ぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!」






 夢にまで見た瞬間だった。

 来るはずも無い人が今ここに居る。

 自分に手を伸ばしてくれている。




 それが彼女の諦めを……完全に払拭させた。




 二人の距離はもうほんのすぐ近くだった。

 でも勇とアルクトゥーンはそれ以上近づく事は出来ない。

 これ以上動かせば、逆に離れかねなかったから。


 だから後は……彼女の一歩だけ。


 もはや茶奈に迷いは無かった。

 両手に握っていた魔剣を手放して。

 考える間も無く……彼女はその魔剣を蹴り出していた。

 拍子に蹴り出された魔剣【イルリスエーヴェII】は宇宙の彼方へとその姿を溶かす様に消して行く。


 しかしその重さが彼女の体を……勇の居る方へと押し出させた。


 ゆっくり……ゆっくり……その身が真っ直ぐと勇の下へと近づいていく。

 手を伸ばし、彼女を待つ勇の下へ。


 真っ直ぐ伸びた二人の腕は、互いの心を象徴するかのよう。

 想いを交わし、願いを受け入れた二人の……純粋な心のよう。


 引き合う様に、結ばれた様に……互いの距離が縮まっていく。


 彼女の腕がとうとう、アルクトゥーンを包むフィールドへと触れる。

 そして埋める様に入り込んだ時――― 




 勇の手が彼女の腕を掴み……思いっきり引き寄せた。




 途端、彼女の身に重力と気圧が覆い包む。

 そこはアルクトゥーン艦内……そして勇の胸下。


 茶奈はとうとう……帰還を果たしたのだ。


 己の想う人の下に。

 自分の慕う家族達の下に。


「茶奈……良かった……茶奈ッ!!」

「勇……私……私頑張ったよ……」


 勇に抱かれていた茶奈が、その細い腕を勇の腰へとそっと回す。

 そして二人は抱き合い、互いの温もりを感じ合い続けた。


「茶奈……ありがとう……生きていてくれて……ありがとう……!!」

「勇も……来てくれてありがとう……勇……!!」

 

 それ以上の言葉はもう無かった。

 二人はただ、互いがこうして抱き合えただけで嬉しかったから。






 二人はそれだけで……これ以上に無い程、幸せに満ち足りていたのだから。






 暗闇の中で地球から離れる様に漂う銀の魔剣が、星の光を浴びて淡い輝きを瞬かせる。

 まるで二人の再会を祝福するかの様に……静かに……静かに……。





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