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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十一節 「幾空を抜けて 渇き地の悪意 青の星の先へ」
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~突破劇曲 〝宇宙〟~

「だから……私が行きます!!」


 魔剣ミサイルが打ち上げられ、絶望が包んだ時……一人の女性が声を上げる。

 その手に掴む、身長大の長杖を強く握りしめて。


『茶奈!?』

「問答している暇はありません!! 福留さん、今すぐアドバイスを!!」


 それは決意を篭めた叫び。

 もはや彼女に迷いも戸惑いもありはしない。

 今の状況を覆す事が出来るかもしれないのは自分しか居ないと思ったから。




 だから彼女は今、空へ上がる事を決意したのだ。




 すると、インカムから間髪入れず聞き慣れた声が響く。


『わかりました……茶奈さんいいですか、これから成層圏を突破する前に熱、空気、気圧、重圧、考えうるありとあらゆるフィールドを何重にも展開し維持してください!! もし仮にこれらのフィールドを消してしまった場合……貴女は即座に、死に至ります!!』


 そう、彼女が行こうとしているのは……暗黒の世界。


『貴方がこれから行くのは宇宙……死の世界です!! 周囲に何も無いため遠近感が失われます。 そして重力と空気が無くなり、全ての抵抗が失われます。 その為地上と宇宙ではバランスが全く変わり、軌道と重心のズレが即軌道離脱の原因となりえます!! バランスを崩せば一瞬にしてミサイルを見失うでしょう!!』


 茶奈が「ゴクリ」と唾を飲み込み、過酷な道のりである事を噛み締める。

 その間にも彼女は魔剣に跨り、発進を目前としていた。


『宇宙に付けばインカム通信は届きません。 サポートは一切無いと思ってください!! 以上です!!』

「わかりました!! 行きます!!」






 そしてその瞬間……大地に凄まじい炎が吹き荒れた。






ドッッッバォォォーーーーーー!!!!!




 福留の声が途切れたと同時に……茶奈が遂に空へと舞い上がる。

 今までをゆうに超えた加速で、空へと一直線に向けて。


 彼女が見るのは、空へと続く一本の雲。

 魔剣ミサイルが刻んだ足跡である。

 その先はまだ刻まりきっていない……赤い炎と黒い煙がなお見え、小さく吹き出し続けていた。


「ぐぅぅぅ!!」


 茶奈自身ですら重圧で押し潰されそうになる程の加速。

 魔剣すら軋みを上げ、いつ分解してもおかしくはない状態だ。

 それでもなお怯む事無く、彼女は空を見上げ続ける。

 未だその相対距離が計れぬ程の距離間……薄れそうなまでに離れたミサイルの影を追って。




 その加速が……あっという間に彼女を雲一つ無い世界へと押し上げた。




 途端、彼女の周囲を無色の膜が覆う。

 福留に言われた通りの、彼女を守るフィールドが展開されたのである。

 それはたちまち空気に押され、円錐状へと変形していく。

 まるで針の様に細り、その中心にいる彼女もまた所狭しと身を縮こませていた。




 その時、先に見えるミサイルから何かが落下していく。

 それは切り離された使い捨てパーツ。

 身を軽くする為のアクションによって生まれた残骸だ。


 破片が激しく暴れながら茶奈へと向けてその巨体を近づけていく。

 しかしそのコースは僅かに離れ、彼女の近くを通り過ぎていった。

 それが僅かに衝撃を与え、彼女を煽るが……それでも彼女は負けじと杖に力を篭める。

 彼女の意思を汲んだ魔剣はバランスを崩させる事無く力を振り絞り、一直線に舞い上げさせた。




 すると……たちまち周囲は暗みを帯び始めていく。




 彼女の視界もまた、青から黒へと変わっていき……星の瞬く煌めきがハッキリと見え始めていた。


 気付けば透明無色だったフィールドも僅かな色合いを帯び、視覚に存在を認識させられる程に。

 円錐状だった形もゆっくりと元の球体形へと戻っていく。


 大気圏を抜け、空気抵抗が無くなったのだ。


 抵抗が減っていった事で彼女の航行が僅かに乱れを呼び、僅かにブレさせる。

 しかし彼女は慌てる事無く制御し、重心を整えさせた。

 福留からの予備知識が役に立った様だ。


 それと同時に、彼女を浮遊感が襲う。


 今までの抵抗ある航行とは全く異なる感覚。

 邪魔なものが一切取り払われ、意思のままに進めそうな錯覚。


 そして落ちる感覚が失われた事による……不安定感。






 そう、遂に彼女は……宇宙空間に到達したのである。






 もし状況が状況でなければ、彼女の成した偉業は褒め称えられるに等しい行為であっただろう。

 何故なら、人間が単体で大気圏離脱を成功させたのだから。

 そして今、彼女は生身で宇宙空間に生きたまま居続けている。

 この二つの事実はもはや、これからの史実に有り得る事すら怪しい程に……奇跡の所業なのだ。




 彼女の吹き出す炎はいわば自燃式……燃料を爆発させて推進力にするロケットと変わらない。

 今までと同じ推進方法であっても宇宙空間での航行に支障をきたす事は無い。

 自慢の爆音も、音すら通らない宇宙では籠って聴こえる程度だ。


 そんな中、彼女を包むのは不安。

 速度感覚が感じられないからだ。

 加速する事で重圧こそ僅かに感じるが、今自分がどれだけの速度で飛んでいるかがわからないのである。

 それは単に、空気抵抗が無くなった事で慣性が弱まらず、加速し続ける事が可能になったからだ。

 おまけに地球は見えても、位置までが読めない。

 自分が今どこにいて、どれだけの速さで航行しているのかが体感でわからない。

 

 それが不安へと繋がるのである。


 だが、そんな彼女でも……まだ救いはある。


 そう、魔剣ミサイルだ。

 今彼女が視界に映す魔剣ミサイルが……彼女の唯一の指標。


 自分の位置と距離感を伝える唯一の物体なのである。


 遠くにあって小さく見える魔剣ミサイル。

 しかし外観はくっきりと映り、手にとってわかる様だった。




 どうやら想像以上に……彼女はミサイルに接近していた様だ。




 この様なタイプの大陸間弾道弾(ICBM)を宇宙へ到達させる理由は一つ。

 遥か彼方の到達地点にまでミサイル自身を運ぶ為、もっとも抵抗が少ない宇宙へ飛ばした方がずっと楽だからだ。

 到達すれば大気圏内と比べてほとんど燃料を消費せず、慣性とほんの僅かの推進力で向かう事が出来るからである。

 ミサイルは当然、電子制御式……間違いが無い限り、宇宙空間でも迷う事は無い。


 茶奈が想像より早く近づけていた理由はただ一つ。

 ミサイルは既に慣性航行へと移行し、加速していない為だ。

 対して常時推進力を放つ茶奈が追っている。

 結果、自然とその距離は縮まっていたという訳だ。




 その姿を捉えた時、茶奈はその身を構えさせた。


 片手と足腰で推進力である【イルリスエーヴェII】を支え、バランスを取る。

 もう片手で【ユーグリッツァー】を構え、攻撃準備を整える。

 なお多重フィールドを維持したままで。


 例え魔剣自動制御を司る【ラーフヴェラの光域】と【浮導オゥレーペ】があっても、それだけの魔剣と能力を同時に使うのには生半可な集中力では不可能。

 今までに多くを経験してきた茶奈ですらも困難を極める程に。


 だが不安を持つ事は許されなかった。


 心の迷いが全てのコントロールを狂わせてしまう。


 だから彼女は真っ直ぐ目標を見据え、決意を自信へと換えた。




 必ずやり遂げて見せる……その想いが彼女にそれらを可能とさせたのだ。




 これ以上の加速は不要だった。

 相対速度は既に茶奈が上……必要以上の加速は彼女のリスクを増やすだけ。


 視界に映るミサイルは既に大きくなり始め、その身をハッキリと晒す。

 アルディの打ち放った狂気が遂に……彼女の目前に迫ったのである。


 なお各々の魔剣を構えたまま、タイミングを見計らう。

 綿密に、正確に、確実に。

 何一つ狂えば、全てが泡に消える。

 そうしない為にも……冷静を保つ。




 そのまま茶奈はとうとう……魔剣ミサイルと並ぶのだった。




 その時、茶奈が【ユーグリッツァー】を構え、力を篭める。

 途端、魔剣に光が灯り、五つの星に力が伝わっていった。


 たちまち光り輝く五つ星。




 その光が最高潮へ達した瞬間……暗闇の宇宙空間に五つの筋が刻まれた。




 音も無く、抵抗も無く。

 縦横無尽に軌跡を描き、五つの星が魔剣ミサイルの周囲へと到達する。

 彼女の集中力が体現したかの如く、その動きは実に精密で幾何学的。

 ミサイルの周辺を螺旋を描く様に回り始めた。


 間隔に一切のズレの無い、とても美しい螺旋だった。

 円柱状のミサイル外壁を伝う様に、命力の軌跡が描かれていく。

 五重の糸が等間隔に巻き付く姿は、まるでリボンラッピングしているかのよう。

 光の多重リボンに巻かれていくミサイル……その帯はとうとう、全身を覆い尽くした。


 全ての星が先端部まで伝わりきった時……五つの星は一つに集約する。




 それこそが五つ星の刻む最終プロセス。

 そして茶奈が魔剣を掲げその力を解き放った時……最後が終わりを告げる。






 直後、魔剣ミサイルは一瞬にして……音も無く、幾数多へと切断されたのだった……。




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