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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十一節 「幾空を抜けて 渇き地の悪意 青の星の先へ」
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~空隙交曲 〝再会〟~

 勇達が南部施設へと攻め込んでいる頃。

 瀬玲達もまた西部に位置する施設の直上から急襲を仕掛けていた。


 イシュライトが急降下で飛び込み先行。

 瀬玲が命力の膜を展開し、滑空しながら上空から矢弾の雨を降らせる。

 今までの戦い方と見た目は殆ど変わらないが……僅かに様相が異なる。

 瀬玲の撃ち込んだ矢弾はいずれも分裂せず、貫通力を持たない光球へと変わっていた。

 だが威力は折り紙付きだ。

 地表へ到達した途端……破裂を起こし、周囲の救世同盟兵を弾き飛ばしていく。


 それはいわゆる音響爆弾。


 殺傷能力は無いが……衝撃が空気を揺さぶり、身近であればその身を吹き飛ばす。

 例え離れていても、発生した音波が脳を揺さぶり、意識をも奪うのである。

 これを食らえばたちまち……影響の少ない者であろうと膝を突いてしまう。

 不殺を貫くには十分過ぎる程の広域攻撃と言えるだろう。

  

 その間にイシュライトが駆けずり回り、身動きの取れなくなった者達を次から次へと弾き飛ばして戦闘不能へと追いやっていった。


 二人のコンビネーションは実に息のあったもの。

 ほんのわずかな間で、着地地点の表層上に居た救世同盟兵をほぼ無力化させていた。


 とはいえ、敵の戦力は想像よりもずっと少なめ。

 これは明らかな()()()だろう。


「ここにきてまた本丸ではないとは……いよいよもって運がありませんね」


 勇との対決で満足したイシュライトではあったが……戦いに関しての彼は貪欲だ。

 満足出来る戦いにこうも巡り合えないとなれば、こうも愚痴が出てしまうのはいざ仕方の無い事か。


 彼等が立つ施設……というよりも元村といった方が正しいだろうか。

 簡易なコンクリートを塗り固めて造った様な建屋は質素なもので、土埃で茶こけている。

 それ以外の表層部はほぼ砂と土と石で覆われ、残りはテントや土壁の建屋ばかりだ。

 コンクリート製の建屋は地下に続いているのだろうか、襲撃に気付いた兵士達が遅れて中から姿を現し始めた。

 いずれもターバンや布を巻いた様な衣服を身に纏う者達。

 この地の風習からなのだろうか、似た様な服装が戦場に異様さを醸し出す。


「こうも同じ服装ばかりだと……例のアルディ氏が誰か判別がつきそうにありませんね……!!」


 イシュライトがそう呟きながらも、敵を払い除けながら入口へ向けて乗り込んでいく。

 瀬玲はそれを援護しつつも……中央に立つ見晴台の屋根へ着地を果たした後、魔剣を構えたままそこから動く事は無かった。


 瀬玲はいわゆる露払いを買って出たのだ。

 入口は当然一つではない。

 別の入り口から出て来たり、もしくは隠れていた伏兵に挟撃されぬよう、背中を守る必要があったからである。

 例え余裕であろうと、小さな疎いが致命的にもなりかねない。

 万全を期すからこその強者……そこに抜かりは無いに等しい。


 当然の如くどこからか湧いて出て来た敵兵を漏らす事無く撃ち抜き、戦闘不能へと追いやっていく。

 

「イシュの言いたい事もなんとなくわかる気がする……ちょっと拍子抜けね」


 ここまでに倒してきた敵兵の数はざっと見積もって三十人前後。

 まだ増えるとはいえ、空島戦の時と比べても半数以下と言った所だ。

 二人が満足出来るような戦力には程遠い。


 とはいえ、彼女達にとってしてみれば、人数など何の関係もないのだろう。


 彼女達の様な力を持てば、例え手を抜こうが抜かなかろうが……その手間は殆ど変わりはしない。

 それでも相手の動きは止められてしまうのだから。




 瀬玲がほんの少し退屈そうな顔を見せながらも周囲に気を配り、動向に睨みを利かす。

 もはや逃れる事の出来ぬ監視の目の前に……とうとう敵の動きが止まる様子を見せ始めていた。




 騒がしかった表層部はたちまち静けさを呼び、砂を運ぶ風の音だけが目立ち始める。

 その間もイシュライトが内部で戦い続けているであろうが……それは彼の望む所。

 瀬玲は気に掛ける様子も無く、周囲を探る事だけに集中していた。


 そんな彼女には少し気にかかる所があった。


 突如として敵の動きが止まった様に感じたからだ。

 地表への入り口前に隠れる様に待機する姿が見えたがゆえ。

 それはまるで出る事を拒否するかの様に。

 何かを待っているかの様に。

 

 瀬玲が探っているのは他でもない……その元凶とも言える存在。


 それが何か、何者かはわかりはしない。

 ただ一瞬の隙を突かれぬよう警戒しているのである。




 だがそんな時……遂に空気が動いた。




「誰が来るかと思えば……そうか、お前が来たか……」




 瀬玲の耳に、低く唸るような声が届く。

 それと同時に、彼女は思わず……その眼を見開かせた。


 声に続き彼女の前に姿を現したのは……一人の巨影。

 ゆるりと地表の建物から現れ、遠目で彼女と対峙せし……白の者。

 荒れた甲冑を身に纏い、巨大な斧を背に携えて。


 忘れるはずも無い。

 見間違うはずも無い。

 それは彼女達が良く知った……魔者だったのだから。 




「……アージさん……なんでこんな所に……!!」




 それは見紛うこと無き……アージ本人。

 マヴォの兄であり、かつて勇達と共に戦った戦士の一人。

 以前と比べて煤けた様に汚れに塗れ、凛々しさは失われている。

 どこか弱々しくもあるが……逆にそれが荒々しさを呼び込むかのよう。


 武人らしき雄々しさを失った……白の兄弟の兄アージがそこにいたのである。


 瀬玲が見晴台から飛び降り、地表へ足を突く。

 アージもまた、彼女へ向けてゆっくりと踏み出し始めていた。


 そして互いに正面を見据えた時……二人の歩が止まる。


「久しぶりね……マヴォさん、心配してたわよ」


「そうか……アイツにはきっと色々と誤解させてしまったかもしれんからな」


 そう語る口調は……音質こそ落ち着いてはいるが、昔となんら変わらない。

 彼らしい優しさを感じさせる、ゆるりとした声色だった。


 しかしその顔はどこか不穏だ。

 その目は細まり、思い詰めている様にも感じさせた。


 そんな二人……互いに一定の距離を保ち、近づきはしない。




 互いに……()()しているからである。




「ま、今更どうこう言うつもりは無いし。 あの人も吹っ切れたから、何の心配も要らないよ」


「……ならばいい……それを聞けただけで充分だ」


 突如、場の雰囲気が急激な変化を迎えた。

 それは場の空気が重くなったかの様に……瀬玲に息苦しさを感じさせたのだ。


 それは物理的に。


 アージの身に滾るのは命力。

 凄まじいまでの殺意、敵意が迸る程の……威圧感。

 周囲を押し潰さんばかりの重圧を、彼が放っていたのである。


「そう……私の前に立ったっていう事は、()()()()()()なんだね」


 瀬玲はその重圧の中も身じろぎ一つせず、凛々しい立ち姿を示す。

 互いに強者であるという事……そこにもはや小細工は通用しない。


「そうだ。 これは俺が望み、そして我が師が望み……世界が望んだ戦いなのだ!!」


 それはまるでアルディが言い放ったのと同じ言葉。

 戦いこそが救済……それを礎とする【救世同盟】の在り方そのもの。


 その一言を前に、瀬玲の眼が鋭さを呼ぶ。

 目の前に居るのは仲間では無く敵……そう実感させるには十分だったのだから。


 アージが背負っていた魔剣【アストルディ】を掴み、構える。

 力強さは以前と変わらないどころか……強力さに拍車を掛けた姿へと変わっていた。

 この二年間、彼もまた自身で考え、鍛えて来たのだろう。


 しかしそれとは対照に、手に掴む魔剣は……酷いまでに損傷しきっていた。


 至る箇所に亀裂が走り、欠けて、汚れている。

 埃が溜まって黒く変色した部分も多く、全く手入れしている様にも見えない。

 命力珠が未だ光を保っている所は魔剣が生きている証ではあるが、どれほど酷使しているかは言うまでもない。

 二年前の魔特隊本部での戦いで取り付けた命力タービンも取りついたまま。

 機能しているかもわからない部品は……僅かな異音を放ち、まばらに命力の粒を少し噴き出していた。


「ふぅん……ま、深くは訊かないよ。 何の心境の変化かは知らないけど―――」


 その時、瀬玲の眼光が鋭く冷たく……アージへとぶつけられる。




「―――私達の敵だっていうなら、容赦はしない……!」


 


 彼女もまた戦士だ。

 目的もあり、使命もある。

 例え目の前に立つのがかつての仲間であろうと……立ち塞がる以上は完膚無きまでに叩き潰す。


 それが彼女なりの覚悟。


 犠牲を伴おうと……目的を達する為に。


 力を発揮せねば、勝てる相手ではない。

 目の前に居る()は、生半可ではないのだから。




 砂塵渦巻く乾燥の大地に二人、強者が相まみえる。


 彼女達の行き着く結果は……果たして―――




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