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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十一節 「幾空を抜けて 渇き地の悪意 青の星の先へ」
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~空戦抱曲 〝ユーグリッツァー〟~

 航空戦において背後を取られるという事は敗北にも等しい状況と言える。

 よほど機動性に差があるか、操縦技術に優れていない限り、追跡を躱す事が難しいからだ。

 無理をして旋回しようものなら機体がバラバラになりかねないし、相手の意表を突くにも背後では相手の状況を読む事も難しい。

 そして相手からは容赦の無い機銃掃射が見舞われるだろう。

 また、追跡弾頭(ホーミングミサイル)を搭載しているならば……相手にとっては絶好のチャンス。

 一度狙いを付けられれば……回避は困難を極める。




 三機の戦闘機が背後に回り、左右後方を囲むかのように二機が並ぶ。

 高速で飛ぶ茶奈を追い、離れようともしない。

 茶奈が攻撃を躱しながら旋回する事で歪む様に刻まれる命力の残光と、それを追う様に追跡で生まれた五筋の飛行機雲が空に描かれる。

 混じり合い、絡み合って残る軌跡は、彼女達の駆け引きの激しさを物語るかの様に激しいうねりを生んでいた。


 しかし未だ茶奈は戦闘機の追跡を躱す事が出来ず、その顔をしかめさせる。

 戦闘機のパイロット達も相当な技術を積んでいるのだろう、彼女を振り切らさせずにピッタリとくっつかせていた。

 更に彼女の行き先を塞ぐ様に遊撃の一機が時折現れては、その集中力を削いでいく。


 それはまるで茶奈を相手にする事を前提とした動き。

 彼女を追い詰め、討ち取らんとする……熟練した機体捌きであった。


ヴァアアアアアアアア!!


 茶奈に向けて放たれた銃弾は展開する防御フィールドによって弾かれ、屈曲を描きながら空へと消えていく。

 だがそれでもなお攻撃の手は収まる事無く続き、幾度と無く銃弾が激しい衝撃音を伴って弾け飛んでいった。


 茶奈がいくら【ラーフヴェラの光域】で防御能力を強化しているとしても、全方位からの連続的な攻撃にいつまでも耐えられる訳ではない。

 彼女の意思が途切れ、その防御能力が失われれば……その時が敗北の時。

 その時を虎視眈々と狙い、クレバーに、かつ大胆に……戦闘機達が攻撃を繰り返す。

 茶奈は振り切る事の出来ない状況に苛立ちにも近い感情が沸々と湧き上がっていた。

 



 そんな中、ぴったりと背後に付く一機の機体の掃射が止まった。

 その機体に乗るパイロットが照準器で狙いを定めながら機体を操作していたのだ。


 彼が狙うのは熱源。


「世界を混乱させる魔女め……くたばれ!!」


 茶奈と、彼女の撃ち放つ炎を追跡するさせる為に……ロックオンを狙っていたのである。

 そしてデジタル照準器が「LOCK ON」を指示した時、遂にそれは撃ち放たれた。




バシュオッ!!




 それは両翼に下げられたミサイル。

 熱源感知システムを搭載した追跡弾頭。

 一度当たれば、艦砲射撃などとは比べ物にならない威力の爆発が見舞われる武装である。


 それが二本、連続で射出されたのだ。


 追跡速度は航行速度を超え、徐々に茶奈へと接近していく。

 それに気付いた茶奈が振り向きながら旋回するも……追跡は振り切れない。


「ううッ!?」


 途端、各機が速度を落とし、茶奈から離れていく。

 爆発に巻き込まれない為に。

 もう躱す事は出来ない……そう確信したから。




 そしてそれは確信した通り訪れた。






ッバグォォォォォォーーーーーーン!!!!!






 

 直撃である。


 無情にも二基のミサイルが茶奈へと直撃し、大爆発を引き起こした。


 すさまじい爆発がたちまち巨大な真っ赤な爆炎を生み、周囲を黒い煙で包み込む。

 それだけではない。

 更に遊撃機からの追撃のミサイルが四基撃ち込まれ、再び大爆発を起こしたのだ。


 容赦の無い追撃がそれでもなお留まる事無く続く。

 全ての戦闘機が黒煙に向けて幾度と無くミサイルを撃ち込み続けた。


 何度も、何度も……大爆発を起こし、赤い炎が空を焼く。

 それは広大な砂漠の空を塗り潰さんばかりに……漆黒の煙を広げていった。

 

 それを遠くから見ていた勇はただただ唖然とする。

 凄まじい威力と、茶奈の身の危険を案じて。

 茶奈に見舞われたのは命力弾頭。

 それがハッキリとわかる程に……爆発の際、白い光が幾多にも散る様子が見えたからだ。

 この状況を前に、彼女を想う勇が心配しない訳が無い。

 当の心輝は依然無反応のまま。


 引き返した方が良いのではないか……勇の脳裏にはそんな想いさえ過っていた。




 救世同盟兵の誰しもが、茶奈が地に堕ちたと思った。

 それ程までに自信のある兵器だったのだから。


 戦闘機のパイロット達もまた、「作戦成功」を伝えんと通信機にその手を掛ける。




 だがその時……異変が起き始めていた事に、勇を含め誰もが気付いていなかった。




 誰が予想しただろうか。

 誰が理解出来るだろうか。

 人類の英知の結晶とも言える破壊兵器に生身の人間が耐える事が出来るなどと。

 例え相手が魔者であっても一緒だ。

 命力弾頭の開発で、全ての問題は解決したはずだった。


 しかしその時……その場に居た者全員が驚愕する。




 黒煙を振り払いし者を見てしまったのだから。






 それは神々しき白光の翼を大きく広げる……茶奈の姿であった。






 霧散する黒煙の隙間から差し込む太陽の光を受ける姿は、暗雲の中で光を浴びる天使の如く。

 芸術的とさえ思えるその姿を前に……誰しもが絶句していた。


「あれは……天使なのか……」


 そんな声を漏らすパイロットすらいた。

 敵、味方すら魅了せんばかりの茶奈の姿を前に、そう囁かざるをえなかったのだ。




 茶奈が身に纏う翼こそ、彼女の持つ三種の神器の一つ……魔剣【翼燐(よくりん)エフタリオン】。


 通常はバックパック状になって格納されている。

 だが一度開けば、【ラーフヴェラの光域】の制御の下、命力によって形成された光の翼が放出されるのである。

 形成された光の翼はそれそのものが推進力といっても過言ではない。

 自由意思による滞空はもちろんの事、その加速力は僅か1秒程度で音速を超える程。

 更に無軌道……大気の影響や重力に逆らい、航行中の自由で急激な方向転換すらも可能とした超機動力を誇っているのである。

 【イルリスエーヴェII】の直線航行速度と比べれば劣るが、戦闘であればこれほど驚異的な能力を持つ魔剣は存在しない。


 もちろんこれは彼女だからこそ使用出来る魔剣。

 彼女以外が使用すれば、間も無くその体は弾け飛び、死に至る。

 リスクを跳ね退けるからこそ装備出来る、彼女のもう一つの翼であった。




 彼女の示す力はそれだけに留まらない。




 その時、茶奈が片手に掴んだ魔剣を大きく空へと掲げる。

 それは今回勇の前で初めて使う、三種の神器の一つ。


 【エフタリオン】を使う事で初めて使用が可能となる……彼女の最強武器。






「輝け!! 【ユーグリッツァー】!!」






挿絵(By みてみん)




 茶奈の叫びと共に、魔剣が激しく輝く。

 その輝きは途端、五つの突起へと集まり―――


 ―――光の刃を伴った突起は突如として……魔剣から離れ、四方へと散っていった。

 

 それはまるで五つの輝く星。

 全てが彼女の意思に寄って操られ、超高速で機動する……無限軌道武装。

 魔剣本体と繋がる命力の尾を引きながら、戦闘機など物ともしない速度で接近していく。


 たちまち、五つの星のいずれもが……逃げ惑う戦闘機達へと到達した。

 そしてそのまま……光の尾を戦闘機へ巻き付けるかの様に、その周囲をグルグルと回り出したではないか。


 パイロット達は一体何が起きているのか、わかる訳も無い。


 彼等の意識の外で各機に巻き付いた光の尾……それが途端、絞り込まれる。

 光の星が尾を引っぱり込んだのだ。




 その瞬間、五つの戦闘機が全て……螺旋を描く様に斬り裂かれた。

 まるで輪切りにされたかの如く、綺麗な切れ目を伴って。

 



 たちまち戦闘機は爆砕し、弾け飛んだのだった。




 破壊された戦闘機のパイロットは皆無事。

 搭乗席のある先端部だけを切り離していたから。


 残された遊撃機のパイロットはどういう思いだったのだろう。

 何が起きたか理解出来たのだろうか。


 そんな事などわかる訳も無い。




 数秒後には、彼の乗る機体もが五つの星全てに貫かれ……操縦席を残して全てが細切れになったのだから。




 それは一瞬の出来事。

 瞬く間に……茶奈は逆襲を果たした。




 こうなる事はきっと彼女の想定通りだったのだろう。

 勇も、救世同盟兵も……結果的に彼女に踊らされていただけに過ぎない。

 ドッグファイトで不利になった事だけは想定外であろうが……その事が驚愕の結果に拍車を掛ける事となった様だ。




 航空戦力が失われた事によって、救世同盟軍の勢いが僅かに留まりを見せる。

 勇と心輝はその隙を突き……アルディが潜んでいるかもしれない施設へと向けて一気に駆け抜けるのだった。




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