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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十一節 「幾空を抜けて 渇き地の悪意 青の星の先へ」
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~爆裂走曲 〝出撃〟~

 準備を整えた勇達が満を持して前部格納庫へと到着する。

 段取りの最終調整を行っていた莉那達の前に現れたのは……完全装備を身に纏った彼等の姿だった。


 勇は武器防具こそ無いが、新調されたグランディーヴァ用の制服を身に纏う。

 デザインを重視した点は言わずもがな、その防御力はただのジャケットとは比較にならない。

 軽量かつ柔軟、弾性、靭性、耐熱性に優れた新開発素材、化合鋼板(アドバンスドメタル)【アドリミニウム】を採用した最新技術の塊とも言える防具である。

 魔兵装の前には言う程の効果は得られないが、通常兵装であればほぼ無効化可能という性能を誇る代物だ。

 謎の力の制御に成功した勇であれば魔剣を使う事も可能だが……もはや彼にはそんな物は必要無い。

 肉体そのものを使った方が……遥かに加減が利き、破壊力があるのだから。


 茶奈も勇と同様にグランディーヴァ仕様の魔装へと変わっていた。

 色は以前と酷似していて殆ど代わり映えはしないが、そのデザイン性と彼女の装備が程よく似合う。

 彼女の装備はと言えば……以前とほんの少し異なっていた。

 その手に持つのは二丈の杖。

 航行用に使われるであろう【イルリスエーヴェII】ともう一本、全く見た事の無い武器だった。

 長い柄は今までの物と似た様な形状。

 だが先端には円環(サークル)を描いた大きな飾り、その周囲にはまるで五芒星を描く様に尖った突起が備え付けられていた。

 これが彼女の持つ【C兵装】……持ちうる全ての装備を揃えた、【完全魔装(エンタイアドレス)】である。


 心輝や瀬玲、イシュライトも同様に、魔装は全てデザインがグランディーヴァ仕様。

 色こそ以前の物を継承しており、色とりどりだ。

 とはいえ、装備自体は変わらない。


 ナターシャは自身が装備する【エスカルオール・アルイェン】の性能をフルで発揮する為に若干の装備変更が施されている。

 腰に充てられていたスカートが大きく形状を変え、茶奈と同様の後ろへ広がるロングスカートへと仕立て上げられていた。

 デザイン性は当然の事、古代文字を描いた様相はそのスカートそのものに何かしらの力があるのではないかと彷彿させるもの。

 歩く分には少し動き難そうではあるが。


 マヴォがその手に掴むのは小斧では無い。

 彼が持つのは三本に折り畳まれた斧槍(ロングハルバード)……【ヴォルトリッター】運用の折に切り替えられた装備だ。

 先端には以前使っていた小斧型魔剣【ヴァルヴォダ】と【イムジェヌ】に似た意匠が飾られており、その二つがこうして一つとなった事が伺えた。

 そしてなにより……その柄になった部分こそ、彼の父であり師であるカノバトの遺品の魔剣。

 彼の望みを汲んだカプロが造り上げた魔剣……その名も【アンフェルジィ】。

 全長五メートルにも達する、超長大な専用魔剣である。


 ディックもまた、グランディーヴァ式の魔兵装を身に纏う。

 自分専用カラー(ダークグレー)の新型換装(クラウネ)型魔装に簡易補助魔装具(パワードギア)を組み込んだ軽装仕様。

 その腕に担ぐのは、格納庫内に置かれていたハイブリッドライフル。

 スナイパーライフルの狙撃能力とアサルトライフルの汎用性を合わせ込んだものだ。

 持ち運ぶには難儀する大柄な代物だが、今回の様な【ヴォルトリッター】への搭乗状態での銃撃にはもってこいの代物である。

 それだけではなく、白兵戦用に通常のサブマシンガン、アーミーナイフを携帯している。

 当然いずれも魔兵装仕様……相手が人間でも魔者でも戦える様に準備は怠らない。


 そして全員が耳に添えるのは……最新型のインカム。

 今までの使用実績から経験を積み、より良い形へと進化した物だ。

 おまけにマイクロ命力珠を搭載しており、同インカム同士であれば命力翻訳すら可能という代物である。


「全員揃ったッスね。 それじゃこれを」


 そこでカプロから渡されたのは……全員分の【リフジェクター】。

 自分達の位置情報がわかる様にと、彼が予め用意していたのである。


 道具を受け取り、備え付けられたベルトを各々の手首へと回す。

 時計型の地図表示器だと思えばいいだろう。

 これで道中迷う事も無く現地へ辿り着く事が出来る。


 もはや準備は万端だ。


「もう間も無くリビアに辿り着きます。 そこからは【救世同盟】だけでなくリビア軍にも警戒しなければいけません。 ですがアルクトゥーンは目標地点まで強行突破し、一気に拠点を叩きます。 作戦開始時刻まであと十三分……皆さん、早急に準備願います」


 時間的余裕は思う以上に無い。

 しかし勇達には迷いも戸惑いも何一つ無かった。

 第二部隊の瀬玲とイシュライトを除き、各々が各機へと乗り込み、茶奈が接続を開始する。

 あっという間に準備を終え……とうとう発進五分前といった所で、彼等は全ての準備を完了したのだった。


「では私は管制室に戻ります。 カプロさん、後はよろしくお願いします」


「ラジャーッスよ!!」


 莉那と龍が揃い格納庫から退出すると、間も無く強固な扉が締まりきる。

 カプロやスタッフも準備完了を確認すると、足早に格納庫の端、有隔操作室へと入っていった。

 茶奈や【ヴォルトリッター】の発進時に発生する炎に巻き込まれない為の安全対策部屋である。


『発進まであと三分……最初に茶奈さんが発進、南の地点へ向かって欲しいです。 その後ワンテンポ置いてマヴォさん発進、その後合図するのでセリさんとイシュさんは直接飛び降りてくださいです』


 途端、丁寧な声が勇達の耳に響き渡り、思わず微笑みを呼ぶ。

 それが彼等の任務に対する一つ緊張を和らげ、余計な力を抜けさせた。


 同時に前方が「ガコン」という音と共に駆動し、途端強い白の光の筋を生む。

 それは外の光……格納庫が開き始めたのだ。


 彼等の前に姿を現した空。

 リビア上空であろう……雲一つ無い、澄んだ青空であった。


 間も無く発進時刻……。

 皆が高鳴る鼓動を抑えながら合図を待ち続ける。


 そしてとうとう、カウントダウンが始まった。


『発進十秒前……九、八―――』


 茶奈が魔剣の柄を握り締め、勇と心輝が身構えて。


『六、五―――』


 隣に居合わせるマヴォら第三部隊が見守る中で。


『三、二、一―――』


 カーゴの背後が炎を吹き、推進力をとめどなく発揮する。


 皆の注目の中……遂にその時が訪れた。






「第一部隊、発進します!!」






ドッバォォォーーーーーンッッッ!!!!!




 激しい炎を噴き上げて、茶奈達が一瞬にして青空へと飛び出した。

 真っ直ぐの光の筋を描きながら。


 アルクトゥーンから飛び出た茶奈は即座に方向転換し、速度を維持しながら目的地へと飛び去って行った。




 残された第二、第三部隊もその時を待つ。

 しっかりと【ヴォルトリッター】の防御シールドが展開されているのだろう、壁にしていた生身の第二部隊も同じ格納庫にいようと全く何も影響を受けてはいない。


『続いてマヴォさん達第三部隊の発進です』


 茶奈が発進した事で空いたスペースに、マヴォ達の乗る【ヴォルトリッター】が横にスライド移動されていく。

 そして間も無く発進待機位置へと到達すると、カタパルトへと接続された。


『操縦方法はバイク状態とほぼ変わりません! 上下運動が発生するのでそれだけ注意してほしいです!!』


「了解だ!」


 マヴォが掴むハンドルの役割は加減速のみ。

 上下・左右旋回に使うフラップ操作は両足の仕事だ。

 その感覚を確かめる様に、両手両足を動かし機体を確認する。

 彼の動きに合わせて動く機体はまるで彼の信頼に応えるかの様にフィットした動きを見せていた。


「いつでも大丈夫だ!!」


『ではマヴォさんの任意で出撃してかまわないです!! コントロールをマヴォさんに!!』


「了解!! 皆行くぞ!!」




キィィィィィン―――




キュオンッッッ!!!!!




 その瞬間、マヴォ達の体に凄まじい重圧が掛かる。

 軽減されてもなお感じさせ、慣れていないディックが思わず身を固まらせるほどに。


 しかしそれと同時に……銀の翼がアルクトゥーンから離れ、空を強く舞うのだった。




 マヴォの為に用意された新たなる銀の翼。

 流線形のフォルムが輝くその巨体は……轟音を掻き鳴らし、一直線に目的地へと向かって突き進んでいった。




『セリさん、イシュさん、間も無く第二部隊の作戦ポイントです。 降下をお願いします!!』


「了解!」

「行くわよー!!」


 二人は生身。

 滑走など必要は無い。

 合図があったと同時に格納庫内を走り、外へと向けて一気に飛び出した。


 外へ出た瞬間、二人にアルクトゥーンの航行速度からなる重圧が襲い掛かる。

 機内であれば影響の無い力が、外に出た事で途端に降りかかったのだ。

 しかしそれでも二人は顔一つ変える事無く、空気のクッションで受けながら降下していく。


 二人の目の前に見えるのは砂漠の中央に見える何かの施設。

 人の住む村にも見えるが、それもカモフラージュなのかもしれない。


 そこへと向けて……一直線に降下していくのだった。






 三つに分かれた部隊がそれぞれの作戦地へと辿り着く。

 彼等を待つのは……如何な敵か刺客か。


 間も無く起こる戦いは……誰に知られる事無く、既に不穏さを醸し出していた。




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