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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十一節 「幾空を抜けて 渇き地の悪意 青の星の先へ」
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~決闘越曲 〝本能〟~

 勇とイシュライト……二人の対決は、勇の反撃によって勝敗が付いた。

 死力を尽くし合ったともあり、互いにボロボロではあったが……その姿はどこか満足そうにさえ見えていた。


「さすが……勇殿。 完敗ですね……」


 途端、イシュライトの腰が床を突き……その力がガクリと失われる。

 たちまち彼の全身がだらりと垂れ、背中から床へと転がる様に倒れ込んだ。


 そんな彼に勇が向けるのは穏やかな笑み。

 見下ろし陰りを作るが……イシュライトにはその表情がハッキリと見てとれていた。


「いや、正直言うと……今の結果は互角だと思ってる」


「えっ?」


 思わずイシュライトがキョトンとした表情を浮かべ、そんな事を言う勇へと向ける。

 すると……彼の目にはとある光景が映り込んだ。


 勇の鼻から、「ツツツ……」と鼻血が流れ出ていたのである。


「さっきの連撃、あれは相当ヤバかった。 実はアレ喰らってさ……意識が飛んだよ」


 イシュライトの繰り出した【命牙崩蓮掌】は勇の体へ確実なダメージを与えていた。

 例え防御していたとしても、全方位からの衝撃ダメージが揺さぶり、振動となって受け手を襲う。

 つまりこの技は、常人であれば耐える事の出来ぬ大技。

 勇だからこそ今ここに立っていられる……そう言っても過言ではない程の技だったのだ。


「……では先程の強烈な意思は一体……?」


 そう問われると……勇が思わず首を傾げ、考える様に手で顎を押さえる仕草を見せる。


「うーん……俺も覚えていないから詳しくは言い切れないけど、多分生存本能みたいなもんじゃないかなぁ」


「生存本能……ですか」


「例えが難しいけど……なんていうのかな、あの時『絶対に死ぬ訳にはいかない』って感じの声が心の中に響いた気がするんだ。 そしたら気付いた時、イシュライトは離れてて、俺は睨みつけてたって訳さ」


 戦いの達人が戦闘中に気を失った時、無意識で戦い続ける事があるのだという。

 それは闘争本能……戦いにおいて負けぬという鋼の意思が揺り動かした結果である。


 勇もまた、それと同様だった。


 先程イシュライトが見たのは、勇の無意識からなる生存本能。

 死ねないという意思が、それを脅かすイシュライトへの強烈なまでの威嚇となったという訳である。


「なるほど……それは確かに、私達にはあまり縁の無い意思かもしれません……」


 戦いに包まれた『あちら側』の者達にとって、死に対する概念は個々のレベルで『こちら側』と異なる。

 それは戦いと修練の中で生き続けて来たイシュライトも変わらない。

 人の生き死にに何の躊躇もしない。

 自身の死にも恐怖は無い。

 そういった世界で生きて来たから。

 だからこそ、彼等にとって生存本能とは最も遠縁とも言える能力なのかもしれない。


 でもきっと……それはただの思い過ごしに過ぎないのだろう。




「そんな事は無いさ。 真に守るべき人が出来ればきっとイシュライトも俺の言った意味がわかるハズだ」




 そう言われた途端、イシュライトの目が大きく見開かれた。

 勇の言った事がどういう意味か……なんとなくわかった気がして。


「そう……ですか……はは、納得が行きました。 私では及ばない訳だ……力の根源が根底から異なっていたのですね……」


 イシュライトが求めた力は、より高みを目指し他者を薙ぎる力。


 だが勇は違う。

 彼は愛するべき人と共に居るための力を求めた。

 愛するべき人を守り、自身が生き続ける為に。




 その為にならば……どこまでも強くなってみせよう。




 その信念こそが今の勇の力の根源なのである。


「お手合わせありがとうございました……。 私も貴方の様な強さが欲しい……絶対に、手に入れてみせますよ。 その時はまたお手合わせをお願い致します」


「もちろんさ。 その間に俺もまだまだ強くってみせるさ」


「フフ……少しは立ち止まってもいいんですよ?」


 そんな冗談を前に、勇が歯をニカリと見せた大きな笑みを浮かべる。

 そしてイシュライトへと手で挨拶を送ると……そのまま広場の出入り口まで歩き去っていった。


 後に残されたイシュライトは床に倒れたまま天井を見上げる。

 勇とのやり取りから得た貴重な経験という大味を噛み締めるかのように……万遍の笑みを浮かべながら。


 そんな時、勇とすれ違い近づいてきていた瀬玲がイシュライトの視界へと映りこんだ。


「どう? 満足出来た?」


「ええ、最高の時間でしたよ……私の考案した一手が彼に届いただけでも、大きな進展です」


 満足出来たかどうかなど、顔を見ればわかりそうなものだ。

 しかしそれでも聞いたのは、イシュライトがそう答えたいだろうと察した瀬玲の気遣い。


 それも正解だったのだろう……そう答えたイシュライトがこれ見よがしに言葉を連ねる。


「あの技は彼用に編み出した物ですからね……少なくとも、着眼点は間違っていなかった。 ならばここから更に昇華し……いつか必ず、彼の領域へと辿り着いてみせます」


 イシュライトにとって、命力も謎の力も関係無い。

 最終的に行き着くのは……相対した時、どちらが立っていられるかという結果のみ。

 今回の戦いで二種類の力の特性が似ているという事がわかった以上、その差は力の差だけに過ぎないのだから。


 だからこそ、イシュライトは高らかに声を張るだろう。






 次こそは必ずや立ち続けてみせると。






「あー『銘菓ほうれん草』だっけ? さっきの技」


「セリ……それは違います、違いますよ……!!」


 それはイシュライトの決意が放たれようとした途端の事。

 瀬玲の緩い声が彼の情熱を容赦なく削ぎ落とす。


 さすがのイシュライトも、これには反論せずに居られない。


「あれは『命牙崩蓮掌』です……!! せっかくだからと、セリでもわかる様にと日本語で名付けたのですよ?」


 顔を真っ赤にして応えるイシュライト。

 しかし瀬玲当人はと言えば……。


「あっそう……私そういうの全っ然興味無いし……」


 無表情でそう返されたイシュライトの落胆は計り知れない。




 彼が勇と同じ領域に立つには……まだまだ前途多難の様だ。











 こうして真剣試合を兼ねたデモンストレーションは終わりを告げた。

 始まりは順調とも言えたが、終わりに至るまでが一瞬の出来事で……一般人であるギャラリーの大半も何が起きたのかよくわからず仕舞い。

 ハイスピードカメラによる映像によってようやく人並みの速度になったとあり、そこでようやく理解出来た様だ。


 しかしそんな中でもイシュライトの動きは評判が良かった。

 速すぎるが故に分身している様に見え、それが派手で見栄え良かったのだそうな。

 生の動きだからこそわかる美しさに、見惚れる女子の姿もあった程。


 対して勇には不満の声が上がっていた。

 なにせ二撃のみ、しかも一瞬での飾りっ気何一つ無いワンツーパンチ。

 デモンストレーションとしては余りにも不釣り合いで……面白みが無かったのだとか。




 その後……それを知った勇が密かに心輝へ相談を持ち掛けていた姿があったのだという……。




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