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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十節 「誓いの門出 龍よ舞い上がれ 歌姫を胸に抱きて」
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~立風 歌姫を抱きて舞えよ龍~

 移動最終日が何事も無く終わりを告げ、翌日が訪れる。

 生憎の曇り空であったが、湿気は薄く……午後には晴れそうな雰囲気だ。


 そんな空から始まった……勇達の再出発の日。


 朝が過ぎ去り、午前十時頃へと差し掛かった所で……お茶の間に流れるテレビが慌ただしい様子を映し始めた。


『番組の途中ですが、これより緊急特番を開始させて頂きます』


 突如として予定されていた番組が切り替わり、堅い雰囲気を見せたアナウンサーの姿を映し出したのだ。

 どこの局も似た様相の特番を放送し始め、視聴していた人々を驚かせる。


『本日、政府より通達があり……現在相模湖上空にて待機中の魔特隊所属の航空艦【アルクトゥーン】が今日日本を発つという事です』


 先日人員の移動を済ませたアルクトゥーンは、早々に相模湖上空へと移動していた。

 余計な人との接触を拒む為と、街上空にいつまでも駐留する訳にもいかないといった理由からである。


『それにあたり、間も無く魔特隊から今後の活動に関する声明が生放送で行われるという事です。 なおこの声明は一般動画配信サービスによって行われる為、インターネットからの閲覧も可能となっております』


 画面の端でアナウンサーが緊張の面持ちを浮かべる中、その背後に映る黒い画面が存在感を示す。

 多くの人々がその様子を見守る中、刻一刻とその時が訪れようとしていた。






◇◇◇






 所変わり、アルクトゥーン内。 

 そこは艦内に設置された施設の一つ、演説スペース。

 政府発表などで使われる演説台が設置される演壇が置かれた場所である。


 そこの中央に福留が立ち、周囲に勇達中核メンバー全員が立つ。

 彼等もいささか緊張しているのか、余計な動きは見られない。

 千野、そして半ば強引に彼女に連れてこられたモッチこと望月(もちづき) 朝文(あさふみ)がカメラを構える。

 もう既に準備は万端とも言える様相に、誰しもが息を飲む。


 そんな勇達は……魔特隊時代とは異なる制服を身に纏っていた。

 それは先日、莉那が着ていた物と同じ服。


 艶やかな白地に黒の紋様が刻まれ、そこには意匠が感じ取れる。

 紋様はよく見れば絵柄が浮かび、今までの制服とは一線を画した物。

 それは少女が玉を両手で抱え上げるかの様な……まるで切り絵にも似たデザインは、何かのメッセージ性をも感じさせるものであった。


「撮影班の準備はオッケーよ! いつでも始められるわ」


「わかりました。 では早速始めるとしましょうか……」

 

 途端、周囲で待ち構えていた撮影スタッフや、眺めていた同行者達からの音が消える。

 緊張が場を包み、呼吸の音すら聞こえてきそうな程に静まり返った。


 千野が無言のまま、指で秒を刻む。

 五秒、四秒―――

 千野の指が次々と折られ、畳まれていく中で……誰しもがそれを目に時を待ち、心構えを整えていく。




 そして……その時が遂に訪れた。




「皆様、お初お目にかかります……魔特隊の総指揮を執り行っておりました、福留晴樹と申します」




 その言葉を皮切りに、とうとう動画配信が始まる。

 勇達の目に映るのは、自分達を見るかの様な自身を写す画面。

 彼等はカメラ目線でありながら自分達の様子が眺められる様になっているのである。


「この度、私達魔特隊によって多くの混乱を引き起こしてしまった事を先ずはお詫び申し上げます」


 壇上にて福留が小さくお辞儀し、頭をカメラへ向ける。

 そして僅かな間の後、再び彼がそっと顔を持ち上げると……そこに彼らしいふわりとした笑顔が姿を現した。


 見た者を漏れなく引き込む程に優しい……いつもの福留スマイルである。


「さて、早速ですが……先日、こちらの藤咲勇氏の手によって小嶋元総理を拘束した事件は記憶に新しいと思います」


 その一言が上がると、図ったかの様に勇が一歩前に踏み出し、福留と並ぶ。

 既にその顔立ちは堂々としたもので……僅かに口角を上げた表情が柔らかい雰囲気を漂わせていた。


「今回の彼の行動によって、国内に広がりつつあった【救世同盟】の思想に歯止めがかかり、日本が再び各国からの信用を得られる立場に戻る事が出来ました。 しかしそれはこの国だけの話であり、世界的な話で見れば依然混乱は続いています。 デュゼロー氏の謡った世界滅亡論もまたしかり」


 すると福留が壇上に載せていた両手を上げ、羽毛の如くふわりと左右へ開く。

 両脇に掲げたジェスチャーがまるで雰囲気を盛り上げるかのよう。


「私達も独自の情報の下、デュゼロー氏と同じ結論に至った事は否めません。 ですが……それと同時に、争う事以外の方法も存在する可能性があるという情報も、実はこの手に掴んでいるのです……!」


 その時の熱意が、両脇に開かれた両手を強く握らせた。


 この時、その情報がどれだけの人々を騒然とさせただろうか。

 それはまさに希望とも言えるべき可能性なのだから。


 多くの人々が続き見守る中……福留の力説がさらに熱を帯びていく。


「それにあたり……藤咲勇氏を始めとした私達魔特隊はその可能性を追い求める為に、この旗艦アルクトゥーンを得て……間も無く世界へ向けて旅立つつもりです。 既にこの事は国連及び同盟国にも通達済みの事となっております。 全ては争いの無い世界を迎える為に……」


 その時、掲げられていた福留の拳が下がっていき、腰へと降ろされる。

 顔にも僅かに陰りを作り、トーンダウンを誘い込んでいた。


 しかしそれは……ただの演出に過ぎない。


「とはいえ、残念ながら魔特隊は皆様の持つ印象ほど、世界には良い存在としては見られておりません。 これは小嶋政権が遺した負の遺産……魔特隊を私物化し、世界中で【救世同盟】にも足る悪行を行っていた事が影響しています」


 カメラから視線を外しながらも語る福留の声に力が再び籠り始める。

 それは己が実際に見てきた事に対する悔しさからの……本音。


「そんな状況を打破すべく、私達は旅立ちを迎える前に一つの区切りを迎えるつもりです。 それは……魔特隊の解散です」


 その言葉が放たれた途端、勇達の握る拳に力が籠る。

 それは解散を惜しんだからではない。


 これからの形に決意を乗せたから。


「幸いにも、今ここに居る方々に限っては未だ世界各国から望まれています。 だからこそ、私達は彼等の期待に応える為にも……志を新たに、新組織を発足する事に決定いたしました!」


 福留の表情が途端に決意を秘めた真剣の面持ちへと変わり、鋭い目つきをカメラへ向ける。

 そして彼の言葉が力強さを帯び始め、その勢いは最高潮へと達した。


「今なお否応なき戦火に包まれる状況を解決し、世界を救う為にも……私達は新たなる旗の名の下で、この力を奮います!! それが私達の出来る役目だから!!」


 勇達の意思、そして福留の想い。

 その全てがカメラへぶつけられた時……世界は刮目する。






「よって我々は……独立組織、【双界連合グランディーヴァ】の設立を今日ここで宣言いたします!!」






 その瞬間、世界が震えた。

 それはまさしく、かつてのデュゼローの告発よりも大きな衝撃だったから。

 

 世界を平和に救う方法があるという事。

 それに対して勇達が動くという事。


 そして新組織【双界連合グランディーヴァ】。


 その全てが余りにもセンセーショナル。

 更に力強い演説が、その期待さえも存分に押し上げたのである。


「新組織は今後、世界各国の管理から外れ、独自のルートで動く事となるでしょう。 そして友好国からの情報を頼りに可能性を追い求めてゆきます」


 勇達もその言葉を前に思わず頷き、自分達の果たすべき事を認識する。

 彼等はもう傍観者では無いのだから。




「全ては明日を生きる為に……今こそ高々と歌いましょう!! 生命(いのち)の詩を!! この大地に生き、明日の平和を望む人々の願いと共に!!」




 彼等は歌う。

 大地の歌姫と成って。

 二つの大地を繋ぎ、共に明日を生きていく為に。






 この日、六月下旬。


 双界連合グランディーヴァは日本を発った。


 ずっと願っていた、世界の崩壊を止める術を求める為に。 


 今なおその道はハッキリとは見えないままだ。


 それでも彼等はもう止まらない。


 彼等が風となって……世界に生命の詩を届けるまでは。




 大地の歌姫を胸に抱きて……巨龍よ、青の空へと舞い上がれ。






第三十節 完




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