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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十節 「誓いの門出 龍よ舞い上がれ 歌姫を胸に抱きて」
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~導風 かつて見ぬ領域~

 箱……それは物を入れて包む器の事。


 いつから人は、その島を【箱】と呼んだのだろう。

 いつから人は、その島を【箱】と呼ばなくなったのだろう。

 いつから人は、それが島であると言ったのだろう。


 全ては歴史で生まれ、歴史に消えた事。


 しかし、その存在こそがその理由を証明する。




 【アルクルフェンの箱】……その真意を。












「空島が……希望そのもの……!?」


 驚愕する勇達。

 今立っているこの場所が彼等の希望……カプロが自信満々にそう答えたのだから。


 例え希望の素と言われようと、空を浮くだけの空島に一体どれだけの価値があるのだろうか。

 精々、この場にある家屋の様に人が住むだけでは無いだろうか。


 そうすら思わせる今、この中で……カプロは静かに振り返ると、止めていた足を再び歩ませた。


「考えても見て欲しいッス。 なんで古代人は入口からあんな回りくどい通路を作ったのか」


 空島の全体的な形状と言えば、数キロメートルにも渡る菱形状。

 その内部に足を踏み入れれば、その外周スレスレを沿うかの様に上下への螺旋の通路が続く。

 まるで内部へそう簡単には行かせない為の迷路のようにも見えるだろう。


 しかしその道のりはと言えば……ほぼ一本道だ。


 僅かな別れ道はあるものの、その先はほとんど続きはしない。

 細かく見ればジグザグに刻まれ、その形は統一性を持たない。


 では何故そんな通路になったのか。


 その答えを、カプロは知っている。

 そして更なる疑問も……持っていた。


「なんで古代人は空島内部を命力が感知出来ない構造に仕立てたんスかねぇ? なんで古代人は空島を空に浮かせる必要があったんスかねぇ?」


 普通に考えればそれは、命力を感知させない様にするのは内部にある宝に到達させない為。

 空に浮かせたのは簡単に島に至らせない為。


 でもそれは……ただの表向きの理由だったに過ぎない。


「答えは全部、ここに在ったんスよ……」


 そう言って足を止めた時、勇達の目の前に映ったのは……なんて事の無い通路。

 広場から続く様に意匠の整えられた、一切の無駄の無い四角い通路。


 ただの通路……そう思わせるのには十分な程に。


「この通路が答え?」


「そうッス。 実はこれ、最初は無かったんスよ。 まるでその先に行かせない様に……周辺の壁と一体化させた壁で塞がれていたんス。 そんでおまけの命力遮断……誰も気付ける訳がねーッスね」


 デュゼローすら気付かなかった空島の秘密。

 そしてそれに気付いたのは誰でも無い……カプロ本人。


「空島の存在に対する疑問とかそういうのを深く煮詰めていたら……結論が大きく変わったッス。 そしてある時気付いたんスよ……これはただのフェイクなんだって」


 そう言い切るとカプロ達が再び歩み出す。

 通路の先、広場の光から離れると、周囲に再び赤色灯の光だけが包むようになり始めた。

 その光は当然現代の物……内部に設置された発電機から供給された電気で動くLED光だ。


 そんな通路に幾つか扉が見える。

 これもまた後付けであろう、現代製と思われるスライド式の自動扉だった。


「あ、ここ勇さん達の部屋になる予定ッス。 詳細は後で伝えるッスから今はとりあえずスルーで」


 扉の上に設けられた人感センサーと思われる小さな黒枠に近づいても反応は無い。

 そこはまだ動力の電気が通っていないのだろう。


 そんな物が勇達の視線を奪う中、カプロが途端その足を止める。


「ここからはちょっと移動が面倒臭いッス」


 そう言われて勇達が振り向くと、目の前に見えたのは……壁。

 自分達の部屋に意識を取られ、暗い視界と相まって気付けなかった様だ。


 行き止まり……そうとも思わせる状況の中、カプロがそっと頭を上へ向ける。


 その先に見えたのは……ずっと上に続く長く四角い通路だった。

 手を広げた二人分程の幅を持つ、広い通路。


「ここはこのハシゴを使って登るッスよ」


 そう言われて初めて気付く、右手の壁に備えられたハシゴ。

 それは遥か先上部、おおよそ百メートル程先に続く。


「マジかよ……これ登んのかよぉ……」


 心輝が言うのは決して大変だという意味では無い。

 一歩一歩ゆっくり、この距離を登るのが面倒臭いという意味だ。


「当然ッス。 そうしなきゃ行けないでしょが」


 だがそこはさしもの勇達。

 さすがにハシゴを皆で連なってゆっくり登ろうと思う程……彼等は悠長では無かった。


バォウッ!!


 その小さな爆音と共に、突如心輝が通路の先へと飛び上がって行く。

 カプロが眉間を寄せた神妙な面持ちを向ける中で。


 それに続き、茶奈も、瀬玲も、ナターシャも……身軽に壁を蹴り上げながら素早く駆け登っていく。

 あっという間に……残るのは勇とカプロのみとなった。


「皆、雰囲気ってモンを楽しもうっていう気概は無いんスかね?」


「まぁ……みんなお前みたいな科学者じゃないからなぁ」


 人に寄って真実の追求に対する好奇心は違う訳で。

 もしかしたら彼等の中にも、こうまどろっこしいカプロの語りに合わない者が居たのかもしれない。

 例えば心輝やナターシャの様な……。


「それじゃ()()も行くぞ」

「え、達ってな……」


 途端、勇がカプロの体を抱き込み、その顔を上へと向ける。

 仲間達が遥か先で彼等を待つ中、勇はそっとその身を屈み込ませた。




「ピョッ―――」












 何が起きたのか、カプロには全く理解出来なかった。

 でも気付けば……既にハシゴの終点に居て。


「カプロ大丈夫かぁ?」


 心配そうな表情を浮かべた勇達が目の前に居て。

 「ハッ」と気付いたカプロが大きな眼をパチクリと瞬きさせ、そこで初めて状況を飲み込ませた。


「あー……すまねッス、余りの出来事に意識が飛んだみたいッスね」


 時間で言えば僅か数十秒の出来事。

 とはいえ、頭脳派の彼が肉体派の勇の動きに付いてこれる訳も無く。

 勇曰く、放心状態だったそうだ。


 とはいえ反動で血袋に出来る茶奈の航行と比べれば優しいものだろう。


「さ、さて……続き行こうッスかね……というより、もう目的地なんスけどね。 そんじゃ、気晴らし程度に最後の質問……周囲を見て、何か思わねッスか?」


 そう言われて勇達が周囲を見渡す。

 するとそこに見えたのは、どこか違和感を感じさせる光景。

 暗い視界ということも相まってハッキリとは見えないが……外装はどこか金属質にも見え、銀色の独特の鈍い輝きが赤色灯の光に当てられ目立つ。

 元居た場所から続くその通路から継ぎ目すら見られない、まっすぐ続く鋼板の壁にも見えた。


 そう、鉄の壁である。


「さっきと……内装が変わってる……?」


「そう、その通りッス。 そんでボクらはここにほとんど手を入れてねッス。 つまり、古代人が作ったままの状態って事ッスね」


 先程の大部屋と言えば、外壁が白で僅かな紋様が浮かび上がるオリエンタルチックな雰囲気があった。

 だが今は違う。

 単に言って質素。

 ただ目的の為だけに造られた様な……色気の一つも無い空間。


「ここまで飾る必要は無かったんスね。 この島の真の価値を知る者以外がここに訪れる訳がねーッスから」


 つまり意匠が島の価値とは別であるという事。

 そしてその結論が勇達の背後すぐにあるという事。


 それに気付いた勇達が振り向き立ち上がる。

 先に見えるのは、一つの台形型を象った紋様が浮かぶ壁。

 それこそもはや大事である事を悟らせる様な……仰々しい古代文字を飾った物であった。




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