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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十節 「誓いの門出 龍よ舞い上がれ 歌姫を胸に抱きて」
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~想風 死を乗り越え続けたから~

 勇がカプロとロナーを救助している頃、ナターシャもまた内部に侵入していた救世同盟兵の排除に成功。

 心輝と瀬玲も表層部に居た兵士達の排除及び捕縛を完了させ、負傷した国連兵達の治療の補助に当たる。

 その途中で洋上での問題を解決した茶奈も合流し、心輝達を手伝い始めていた。




 こうして、勇達の空島防衛作戦はあっという間に……成功で幕を閉じたのだった。




 でも、勇達はそれを手放しに喜ぶ事は出来ない。

 多くの犠牲者が出てしまったから。


 死傷者……戦闘員十七名、非戦闘員三名。


 決して少なくは無い人数である。

 その中にはカプロが良く知るカルロスとグゥエンの名も連なっていた。


 彼の護衛として充てられた三人。

 ロナーを除き、『こちら側』の人間の兵士である。

 しかし彼等は兵士としての任務を全うする事が出来た。

 死んだ事は免れぬ事実。

 それでも彼等は紛れも無く誇り高かったのだ。


「本当は、何があっても生き抜いて欲しかったんだけどな……」


 そんな彼等の遺体を包む袋の前で、勇が静かに独り言を漏らす。

 口に出すつもりは無かったのだろうが……無意識に口が動いていた。




 誇りや責任、覚悟や祈り。

 勇はそういった心情を以って死を望んだ者達を沢山見届けて来た。

 いずれも、話し合う事が出来たなら救う事が出来た命だ。


 例え翻訳能力があろうとも、例え話す舌を持ち合わせていたとしても。

 今こうして、救世同盟達とは相容れる事無く戦わざるを得ない現実を実感したから。


 人が理解し合う事の難しさを……感じずには居られない。




 そこは空島表層部、臨時テント。

 テントの下には多くの黒い袋が並べられている。

 それは全て遺体袋……今回の戦いでの被害者達だ。


 そこの前に立つ勇の背後から一人の小さな人影が歩み寄る。


「でももう結果を変える事は出来ねッス。 だからボク達は生きなきゃなんねんスよ……皆の死を無駄にしない為に」


「カプロ……そうだな」




 きっと、勇を前に心情を見せた者達は、彼に想いを託したかったのかもしれない。

 例え本当はそうでなかったとしても、そう思いたくもなろう。

 あのデュゼローでさえも、もし今の勇に最後の声を掛けるならば……何と答えるだろうか。

 現実に向き合い、こうして世界を救わんと動く勇に対して。


 死とは別れであるが、生きている者にしてみればそれは呪いでしかない。

 意思を強く絡めた者同士ほど、死に別れれば残った者には死者の想い足る呪いが掛かる。

 勇もまた同じだ。

 統也を始め、エウリィや亜月、カラクラ七人衆といった者達の死は未だ勇の心に残っている。

 敵だった者達でもその数は多い。

 挙げるならば、ウィガテやオンズ、ナイーヴァといった魔者達や、代表で言えば当然デュゼローだろう。


 彼等の様々な想いや祈り、怨念が勇への呪いとなって重く圧し掛かっているのだ。


 呪いとは聞こえの悪い言い方だが、それが決して悪い事とは限らない。

 今こうして勇がこの場に立っているのは、彼等の呪いが彼の心を良い方向へと導いたからだろう。


 だから人は敬意を篭めてそれをこう言うのだ。




 『願い』、と。




「さて、これから色々と計画を前倒しにしなきゃなんなくなるッス。 こうやってる間にも【救世同盟】の奴等が何してくるかわかったもんじゃねッスからね」


「ああ、そうだな」


 勇はそっと振り返るとカプロと共に踏み出した。

 その行き先、向こうに待つのは仲間達。

 彼等はやるべき事を済ませ、既に集まっていた様だ。


 カプロと並び、仲間達の下へと向かう。

 そんな時ふと勇がカプロへ振り向くと……ちょっとした違和感が脳裏をよぎった。


 それはカプロの身長だ。

 今こうして二人が並ぶと、そこで初めてカプロの成長が浮彫となる。

 

 二年前までは勇の肘下程しか無かった背丈が、今では口元程にまで伸びていたのだ。

 アルライの成長期が訪れたのだろうか……目を見張る成長に、勇の口から思わず感心の息が「はぁー」と漏れる。


「お前、大きくなったなぁ……」


「へへ、ボクはあんま実感無いッスけどね」


 「うぴぴ」と笑う所はいつも通りだが、よくよく見れば以前の様な幼さはもう感じ取れない。

 外見で見れば、他のアルライ族となんら変わりの無い様にも見える。

 カプロももう年齢で言えば十八歳前後……人間と大差が無いのであれば身体的に成熟してもおかしくない年頃だ。

 もしかしたらこれが彼等にとっての成体なのかもしれない……いささか背が低くはあるが。


 そこはいざ仕方の無い、遺伝なのだろう。


 そんな僅かなやりとりの間にも、茶奈達の下へと辿り着く。

 二人がやってくるや否や勇に飛ばしたのは……心配の声だった。


「もう大丈夫なのか?」


「ああ、大丈夫、ちょっと感傷に浸っていただけさ」


「また気落ちしたらどうしようかって思っていたんですよ……」


「はは、まあもう昔とは違うから……俺は大丈夫さ」


 仲間からの怒涛の探りに勇もたじたじ。

 打たれ弱い所は周知の様で、思わず苦笑いを浮かべずには居られなかった様だ。

 だが、仲間達の心配は必要無かった。


 そう、彼は強くなったから。

 願いという名の呪いを受け続け、今日まで生き抜いてきたから。


 勇はそっと空を見上げ、想いを馳せる。




 今日逝ってしまった人々の「願い」も引き受けて……未来に繋いでみせる、と。




「それじゃ、ちょっと皆に見てもらいたいもんがあるんで……付いてきてもらっていいッスかね?」


 仲間達の心配も他所に、カプロがいつもの様なマイペースな能天気顔を見せつけながら入口へと指を向ける。

 そんな顔を久々に拝んだ勇達は堪らず笑みを浮かべ、彼の頭を総じてクシャリと撫でまわしていた。

 当の本人はといえば……何故そんな事をされたのかわからず、眉を寄せた訝しげな表情を浮かべていた訳であるが。


 周囲では、まともに動ける人員が負傷した者の看護や施設の復旧になお奔走している。

 勇達も先程まで手伝ってはいたが、まだまだ落ち着くには時間が掛かりそうな状態だ。

 まだ手伝う気概もあったのだが……ある程度片付いた所で「君達の役割に戻れ」と手を引かされていた。


 そんな時、目の前に一人の男が通り掛かる。

 軍服を着込んでる辺り、戦闘員なのだろう。

 すると……ふと何かを思い付いたカプロが咄嗟にその手を掲げ、その男を呼び止めた。


「あ、これから【プロジェクト リ・バース】を実行するんで、全員を速やかに島最深部の居住スペースに移動して欲しいッス。 貴重品以外は全部捨て置いていいんで」


「了解しました!」


 男がその応えと共に綺麗な敬礼を見せ、素早く仲間達の下へ駆け寄っていく。

 恐らく今カプロから言われた事を伝搬する為なのだろう。

 しかしその面持ちはどこか神妙で……伝えられた仲間達にも同様の表情が広がっていた。


 途端、彼等の動きが慌ただしい機敏さを見せ始める。

 遠くから見た勇達がわかる程に……明らかな変化だった。


「なぁカプロ……【プロジェクト リ・バース】って何なんだ?」


 それは勇達が共通して疑問に思った名詞。

 福留からも言われていない、今初めて聞いた単語だったのだから。


 当のカプロはといえば当然の如く、自慢げに鼻を高々と上げている訳であるが。


「うぴぴ……実はそれをこれから説明しようとしていた所ッスよ……!」


 相変わらずの独特な笑いを上げ、カプロが卑しい笑みを向ける。

 もはや見慣れた仕草を前に、勇達も懐かしさから出るニヤニヤが止まらない。


「まぁ今は襲撃直後だから逆に時間の余裕もあるッス……ゆっくり歩きながら話すッスかね」


 例え【救世同盟】が用意周到であろうと、追撃を仕掛けているとは考えにくい。

 空島が出立し始めたのは勇達が動き始めてから僅か二日後の事……それ程までに準備を整えるには物理的な時間が足りない。

 それに、コストの掛かる戦艦をおいそれと何隻も派遣するほど資金が潤沢であるとは到底言えないからだ。


 【救世同盟】は規模こそ多いが全てが統一された団体では無い。

 様々な国や団体の一部として存在し、それぞれに代表者の様な存在が居るのだ。

 中には多国間で繋がっている団体もあるが、ほとんどは個別に行動を行っている。

 つまり、今回も国連に巣食う団体及び関連する軍隊……さしずめ、アメリカ軍に潜むシンパと、それに通ずる国からの艦隊派遣だったのだろう。


 多くの者が満身創痍ではあるが……襲撃を見事退けた今、心配は皆無という訳だ。






 周囲を駆け巡る者達に跡目を引きながらも……勇達はカプロに導かれるままに空島内部へと向けて足を運んでいく。


 島最深部までは言うまでも無く相当な距離を歩く必要がある。

 それを知っている勇達は、そんな長い道のりの暇潰し程度に話を聴くつもりだった。




 しかしそんな腹積もりも、カプロの企みを前に無為に消える事となる。




 入口の奥、別れ道のT字路へと差し掛かった時、途端にカプロが足を止めた。

 勇達が「なんだ?」と首を傾げる中……カプロは何を思ったのか壁へと手を添える。


 すると突然、正面の壁が動き出したではないか。


 まるでからくり屋敷の隠し扉の様に……動き出した壁が人二人分ほどの四角い形の筋を形成していく。

 そして四角の枠内がそのまま奥へとへこみ、横へとスライドして消えて行った。


 その先に見えたのは……簡易的に建造されたエレベーター。

 ひし形金網と縞鋼板をツギハギで溶接して造られた外観は、どこか鉱山などで見られそうなオープンな様を見せつける。

 おおよそ二十人程が乗れそうな大きさを誇るが……いかんせん、外装は軽量を図った事でスカスカだ。

 乗った事があるはずも無い勇達を不安にさせるには十分な、どうにも貧弱そうな様相であった。


「これで一気に最深部まで行けるッス」


 自慢げにカプロがそのままエレベーター内へと足を踏み入れる。

 見た目に反して頑丈に出来ているのだろう、彼が乗った程度ではビクともしない。


 しかし……勇達は別の理由でどうにも納得のいかない様子を見せていた。


「最初から……これ使って逃げれば良かったんじゃないか……?」


 そんな声が聞こえると……途端カプロの肩がビクンと跳ね上がる。

 同時に足も止まり、振り返る事の無い頭が……そっと俯かれていった。


「て、敵に見つかっちゃマズいし……細心の注意を払う必要があったし……」


 そのまま口を紡ぎ佇むカプロを前に、居た堪れない気持ちで一杯の勇達。

 虚勢を張る彼の態度があまりにわかりやす過ぎて……ツッコミを入れるのも憚れて。

 そんな雰囲気を引きずったまま……ゾロゾロとエレベーターへ乗り込んでいくのだった。


 カプロの言い訳の内容も決して間違いでは無いのだが。


「と、とりあえず行くッスよ……!!」




 こうして彼等を受け入れたエレベーターが下降を始める。

 その先に待つのは、カプロが自慢したくなる程の存在。

 それが何なのか……勇達にはまだ理解に至るキッカケは何一つ手元に無かった……。




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