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時き継幻想フララジカ 第三部 『真界編』  作者: ひなうさ
第三十節 「誓いの門出 龍よ舞い上がれ 歌姫を胸に抱きて」
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~爆風 かつての友が居る空へ~

 勇達の前に建つのは茶奈専用射出台(カタパルト)

 大きな凹型の柱がおおよそ45度ほどの傾きで建っており、空に向いて伸びている。

 それはかつて魔特隊本部完成直後に勇達が興味深そうに眺めていた物だ。

 ぱっと見ではタダのオブジェにしか見えず、【東京事変】の際にも破壊されずに今も残っていた。


「これで勇君達を打ち上げ、茶奈さんに空島まで運んで頂きます。 アメリカまで30分程しか掛からなかったと聞きましたし、現場までは15分と掛からないでしょう」


 ディックがそんな話を前に驚きの顔を浮かべる中、理解した勇が頷き返す。

 しかしまだ疑問点があるのか、勇が疑念を持った顔付きを再び福留へと向けた。


「人員を選んだ理由はなんですか?」


「それは単純に重量制限ですよ。 重ければ重い程、茶奈さんの負担が大きくなり、速度も落ちます。 なので体格のあるマヴォさんやイシュライトさんは除外されるという訳です」


「なるほど……」


 勇は納得し、思考を巡らせる。

 今後の指示に役立つ情報でもあるのだ、憶えていて損は無いと思ったのだろう。


 だが……そんな理由を前に、納得のいかない人物が一人だけ。


「ちょっと待ってくれよムッシュ福留、それなら前衛だらけの構成より、援護が出来る俺が居た方がいいんじゃないかい?」


 ディックの体格は白人特有の大柄さはあるが、比較的勇達寄りだ。

 そして武器は対命力兵装と、戦うだけならば申し分無いと言える。


 戦うだけならば……であるが。


「ええ、そうかもしれません。 ですが貴方を候補に上げられないのは別の理由があります」


「別の……?」


「ええ……そうですね、貴方は戦闘機に乗った事はおありで?」


「いや……無いが……」


 その問いを前にディックが戸惑いを見せると、福留が追撃するかの様に言葉を連ねる。

 彼の語る内容を前に……ディックはただただ……驚愕する他無かった。


「戦闘機に乗る為には相当な訓練と装備が必要になります。 何故かというと……人間は本来音速に耐える事が出来ない体だからです。 音速へと至る加速度に体がついてこられないのですよ」


 現代の戦闘機は音速での航行を基本とした物が主流である。

 しかしそんな機体を乗りこなす事など常人には出来はしない。

 例え乗る事が出来ても、音速に至る段階で気を失い、最悪の場合には死に至る。


 それは何故か……


 人間の体には血液が巡っている。

 心臓や血管の収縮で圧力を生み、全身にくまなく通わせているのだ。

 だが、音速を大きく越え、体の負荷を越える加速度が体に与えられた時……その仕組みは一挙にして機能不全に至る。

 加速度の圧力に負け、血液が巡らなくなるのである。

 そして脳に血液が回らなくなった結果、待つのはブラックアウト、意識の混濁。

 戦闘機乗りが恐れる事故の原因の一つだ。


 それを解決する為には、肉体を鍛えるだけでは済まない。

 戦闘機のパイロットには漏れなくパイロットスーツと呼ばれる物が必要とされている。

 それは航行時、パイロットの体を圧迫させるような機能を持った物だ。

 それが働く事で、外部から強制的に体を圧迫させ、血液を循環させるのである。


 その二つがあるからこそ、戦闘機は有人で飛ぶ事が出来るのだ。


「ディックさんは見た所、命力を有しておりませんね? という事はつまり、ほとんど常人と変わらない訳です。 それに対し、茶奈さんのトップスピードは並みの戦闘機では追い付けない程の速力を有していますからね……恐らくディックさんが乗れば、一瞬にして血袋の様に弾けて終わりでしょう」


 遠慮する事なく真実を語る福留の前に、ディックがただ唖然と立ち尽くす。

 自分が一瞬でミンチになるような乗り物に、勇達の様な若者が乗り込むというのだから。

 自身の力が無い事など理解はしていたし、彼等が超人なのはよくわかっていた事だ。


 だがこうして現実に直面すれば、如何に自分が非力だという事を痛感させられるもので。


 ナターシャの様な少女ですら乗り込めるのだから、自分にもチャンスがあると踏んでいただけに……ショックを隠せない。




 そんな話をしていると、遠くから大きな物を抱えて走るマヴォとイシュライトが姿を現した。


「持って来たぞー!! なんとか一台分だけあった!!」


 彼等が持って来たのは、簡単に言うなれば……手引き台車(リヤカー)の様な物。

 内部には簡易シートが四人分、大きな籠の中に備えられていた。

 全身は恐らくアルミ製か……銀色の濁った光沢を持ち、比較的軽そうな形だ。

 しかし外装には古代文字を象った意匠が目立ち、それが魔剣の類である事を察させる。


 二人は手馴れた様にカタパルトへカーゴを乗せる。

 凹字の形状はレール故なのだろう……台座に上手くハマるとしっかりと固定され、乗り込むのに差し支えない状態に。


 カーゴは準備万端……そう確認をしていると、図ったかの様に茶奈達が準備を整え姿を現した。


「お待たせしました!!」


 心輝と瀬玲は先日同様の装備と同じ。

 彼等にとってのフル装備とも言える状態だ。


 ナターシャはと言えば……彼女もまた、心輝達と同様の魔装を身に着けていた。

 当然それは彼女専用(ライトピンク)の【循環蓄積(ウァルコ)型】魔装。

 心輝の物と同様に袖や裾が短くあつらえられ、動きやすさを重視した仕様となっている。

 それに加え製作者の趣味なのだろうか、腰から下がるのはレース状のショートスカート。

 デザイン性を重視した造りは彼女の気に入っている所だ。

 腰に下げるのは言わずと知れた魔剣【レイデッター】と【ウェイグル】。

 師とアンディより託されて以来、彼女が使い続けて来た魔剣である。




 そして彼等の中心に居るのは当然、茶奈。

 彼女はと言えば……昔と比べ、全く異なった様相の装備を身に纏っていた。


 言うなれば全身が……純白。

 以前は紫を基調とした魔装を纏う彼女だったが、今はもうその面影も無い。

 当然の事ながら【循環蓄積(ウァルコ)型】魔装を身に纏うが、それはほとんど目立たないと言っても過言では無かった。

 何故なら、その上から着こむ装備が余りにも仰々しかったからだ。

 まるで鎧の様な装甲板が肩回りを覆い、金と銀の装飾が太陽の光を浴びて輝く様は神々しさすら感じさせる。

 背中には何かしらリュックの様な物が背負われ、金属質が所々に覗き見える。

 腰には膝下に届く程の長さの飾り布が備えられ、靡く度に銀の装飾が輝きを瞬かせていた。

 頭部には、まるで天使の輪を象った様な飾りが備えられており、そこにも何か秘密があるのではないかと思わせる意匠が目を惹く。

 手に持つのは魔剣【イルリスエーヴェII(ツー)】……先日にも使った装備だ。

 

 


「勇ッ!! お前にコイツをやるよ!!」


 すると突然、合流間際に心輝から何かが放り投げられた。

 舞い上がると同時に()()は開く様に広がり、青空の下に暗がりを作る。

 そのまま勇の頭上へと飛び込むと……勇はそっと掴み取り、大きく広げた。


「これは……!」


 それは魔特隊のジャケット。

 しかも最初期の何の力も持たない、制服の様な役割を持つただの服だ。

 黒を基調として赤のラインを有する意匠は、かつての懐かしさを呼び起こさせる。


「お前には何も無いっつうのもアレだったからな」


「ありがとう、シン……」


 勇は懐かしみを感じつつも、ジャケットを身に纏う。

 僅かに着苦しさを感じさせるが、着るだけならば何の問題も無い。


 それを纏った時……勇は当時の懐かしさを感じ取らずにはいられなかった。

 思わずその手を握り締め、当時誓った決意を改めて心に刻む。


 これから起きる戦いに向けて……自身の信念を貫く為に。


「どうやら準備出来た様ですね。 では早速ですが発進準備をお願いします」


「わかりました!」


 一番に飛び出したのは茶奈だ。

 既に何をするのかわかっているのだろう、身軽な体を跳び跳ねさせると……カタパルトへ設置されたカーゴへと乗り上げる。

 そしてカーゴへ備えられた連結用ユニットへと、レールの先へと向ける様に魔剣の柄を差し込んだのだった。


 完成したのは、茶奈を動力源とした簡易航空ユニット。

 たったそれだけで……彼等は揃って空を飛ぶ事が出来るのである。


「茶奈さん、これを!」


 その時、福留が茶奈に投げ付けたのは、手に握って納まる程度の長四角い端末の様なもの。

 それを茶奈が受け取ると、迷う事無く魔剣へとあてがう。

 専用のホルダーが備わっているのだろう、端末が杖の柄部へとカチリとハマり込んだ。


「準備完了です!!」


 茶奈が声を上げて手を振り上げると、間髪入れずに福留が反応する。


「では皆さん乗り込んで―――」

「ちょっと待って福留さん」


 だがそんな時突然、福留を制止する声が響いた。

 何事かと全員が顔を向けた先に居たのは……瀬玲だった。


「ナッティ、アンタその魔剣を使えるの?」


「う……」


 意気揚々と魔剣を持って来たナターシャであったが……瀬玲の問いを前に応える事は出来ず。

 何故なら……彼女は現役から退いて久しいから。


 前回の出動はおおよそ一年前。

 しかも大した事の無い対処だった。

 言うなれば、彼女は久しぶりの戦い……魔剣を使うのも当然久しい。


 彼女の持つ【レイデッター】と【ウェイグル】はとても命力効率の悪い武器と言える。

 リハビリ無しで使ってしまえば、彼女の命力を知らぬ内に使い切ってしまう危険性すらある代物なのだ。


「それは……でもね……」


「口答えしない。 ……ったく……獅堂、ちょっとアンタの魔剣渡しなさいよ!」


「えっ、僕のかい? ……あ、そうか……」


 そう、瀬玲は気付いていたのだ。

 獅堂が腰に下げていた魔剣が何なのかに。

 見た事のある意匠……それは自身の腰に下げた物と全く同じだったのだから。


 獅堂が空かさず腰に下げた魔剣を取り出すと……おもむろに外装に纏った機器を取り外し始めた。

 すると彼等の前に現れたのは……二年前に失われたままの姿の【エスカルオール】が姿を現したのだった。


 同様に瀬玲もまた、腰に下げた【エスカルオールII】を取り出し、ナターシャへと差し出す。

 瀬玲と獅堂……二人から差し出された二本の魔剣を前に、彼女はただ驚きの顔を浮かべるしかなかった。


「これなら多分ナッティの負担も少ないし、機動力もある。 大事に使ってよね?」


「うん……わかた!!」


 そして二本の魔剣がナターシャに託される。

 かつて勇達と共に戦った亜月の形見……それが今、ようやく二本一対を取り戻した瞬間であった。




 勇と心輝は既に搭乗済み。

 茶奈も魔剣に跨り、既に発進出来る状態。

 残るは二人のみ。


「では、二人共準備が良ければ乗り込んでください」


「了解っ!」


 瀬玲とナターシャが飛び込む様にカーゴへと乗り込む。

 そして全ての準備が整ったと同時に、茶奈が大声を張り上げた。


「危ないですから皆さん離れていてください!!」


 その声に呼応し、福留達がその場から離れ始める。

 最中、茶奈が力を集中し……内に秘める多大な命力を魔剣へと流し込んでいた。


 同時に強く輝く命力珠。

 その力が最高峰へと達した時……遂にその時は訪れた。




「行きますッ!!」




カッ!!






ドッゴォォォォーーーーーーーーー!!!!!






 

 途端、激しい炎が周囲を包み込んだ。

 魔剣からでは無く、カーゴ背面から放出された炎だ。

 茶奈の力が魔剣を通して伝わり、カーゴそのものを魔剣に仕立てたのである。




 そして、勇達を乗せたカーゴは一瞬にして……空の彼方へと飛び去っていったのだった。




「勇君……カプロ君達をよろしくお願い致しますねぇ……」


 後に残る福留達は彼等の去った名残とも言える飛行機雲を見上げ眺め……彼等の無事を祈る。

 「きっと彼等ならやってくれるだろう」……そんな期待を胸に抱きながら。






◇◇◇






 勇達が空を一直線に突き進む。

 凄まじい勢いで空気を引き裂き、轟音を掻き鳴らしながら。

 そこから生まれた突風は、彼等を筐体ごと揺らす程に激しく強く。

 だがそれでも彼等は止まる訳にはいかない。

 その先に待つ者がいるのだから。




 カーゴが「ギシギシ」という軋みを上げ、勢いのままに大きくその身を歪ませる。

 まるで今にも壊れ、分解してしまいそうな程に。

 振動が勇達の身を激しく揺さぶるが、彼等は動じずその場に座り続けていた。


 茶奈ももはや馴れたもので……動じる事無く福留から受け取った端末へと指を触れる。

 するとどうだろう、端末が光を放ち……突如その直上、茶奈の正面、何も無い空間に細かい光の粒子が浮かび上がったでは無いか。

 それはまるで空島で見た、画像を構築した光の粒子のよう。


 いや、まさしく()()そのもの。


 端末から放たれた光の粒子は突風に全く影響される事も無く、茶奈の前に透過した画像を映し出していたのだ。

 それは世界地図……茶奈と空島を繋ぐ道のりを丁寧に示したものであった。


「茶奈、それは……?」


 その様な物が世間に出回っている訳も無く。

 そんな事が出来る機器を初めて見た勇は思わず茶奈に向けて疑問の声を上げていた。


「あ、これですか……これは【リフジェクター】という機器で、空島の技術を素に造り上げた最新投影機です」


 それはまるでSF映画などに出て来る三次元投写器のよう。

 目を凝らして見てみれば……画像の下で細かく動く粒子がユラユラと揺らめき、色鮮やかに変化しながら二次元画像を構築していた。

 

「カプロ君が空島の技術で再現して、そこから複製した物です。 スマホと違って壊れにくいので、航行の際には重宝するんですよ」


 茶奈はそう簡単に言うが……恐らくそれはそう易々と造れはしないだろう。

 福留が持っていた辺りを考えれば、彼が意図的にその存在を隠していたに違いない。

 それがもし小嶋の手に渡っていたら間違いなく【救世同盟】に渡り、悪用されていたであろう事は火を見るより明らかだ。


「まだまだ改良の余地はあるみたいで……スマホみたいに便利には使えませんけどね、こういう時は……凄く便利なんです!」


 途端、筐体が僅かに傾き、彼等の軌道が傾いていく。

 地図を見ながら軌道補正を行っているのだろう。

 イルリスエーヴェの柄が大きく湾曲する程に圧力が掛かり、カーゴにもまるで落下するかのような重圧が正面からの加速重圧と重なり激しく揺さぶりを掛けていた。

 全体的に「ミシミシ」という音が響くが、それでも茶奈は止まる事無くその力を篭め続ける。


「ここから一気に飛ばします!! 気を抜かないで下さいッ!!」


 心輝達ももはや狼狽える事無く、座席にしがみ付いてその身を縮こませた。

 勇も同様に……彼女の力を信じ、その腕、その体、その足に力を篭める。


 止まぬ爆音を掻き鳴らしながら……彼等は空島のある太平洋南部へと向け、一直線に加速し、突き抜けて行ったのだった。


 


 不穏な風が勇達に不安を運ぶ。

 だが、もはや彼等はその程度では靡きはしないのだろう。

 それ程までに……彼等の起こす逆風は、力強いのだから。




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