04 未来のカギ
ベランダからリビングに戻るパパ。タバコ臭いパパ。渋い顔のパパ。それを許すママ。寛容なママ。
「部活はどうだ?」私に聞いてくるパパ。
「部活はフツー」答える私。
「学校は楽しいか?」また質問のパパ。
「凄い楽しい」答える私。
「良かったな」並みの感想のパパ。
そのまま風呂へ入りに行くパパ。
リビングのテーブルで、テレビを見る。ママと私。
「どうなのよ」とママ。
「なにが」
「好きな人、出来た?」
「いるけど、教えない」
「ふ〜ん」
今日も見た。下駄箱でエナメルバッグを担いでソックスを履く中田先輩が好き。これは内緒。ママにも内緒。ミキとサナエにも実は内緒。秘密を打ち明けてる相手はいるけど、内緒。
「じゃ、明日の宿題やるから」
そう言って、私は自分の部屋に戻る。私の家、一軒家。学校から歩いて10分くらいの所にある、一軒家。ここらへんは似たような家が沢山ある。パパが言うには、タテウリ住宅って言うらしい。なにそれ。知ったふりをして、パパにはそれ以上は何も言ってない。
部屋に入る。私の部屋。私の空間。
中学1年生になったら、与えられた私の部屋。一軒家の二階の一室。これが私の部屋。
あっ、そろそろだ。私はCDコンポの電源を入れる。リモコンで電源を入れる。モードを切り替える。ラジオが流れる。FMラジオが流れる。未来のカギを握る学校、そういったコンセプトのラジオ番組が流れる。それを聴きながら、私はノートを開く。これも、皆には内緒。パパやママにも内緒。日記。日記を書いている。
私が今日の出来事を書いていると、ラジオからは同い年ぐらいの子の恋愛相談が流れる。
私はラジオから出る声を聞きながら、シャープペンシルで書く。日記を書く。
『今日の出来事』
ー〝茨城県、ラジオネーム、あっちゃん、です〟ー
『相変わらず、アホの小宮が私を見てきた。ミキとサナエと、アイコのお父さんを見に行った』
ー〝私は今、好きな人がいます〟
『あとは、今日も中田センパイがいた。今日も声をかけられなかった。やっぱりカッコいい。カッコイイし、サッカーも出来るみたい。カノジョ、いるのかな?』
ー〝私の友達と、好きな人が被っています。諦めたら良いでしょうか?友達の方が可愛くて、その友達のほうが好きな人を幸せに出来ると思います〟
『そういえば、バナナが歩いてて、イヤホンをつけてた。』
ー〝諦めるな!〟
『何を聴いてたのか気になった。バナナってナゾい。』
ー〝友達は関係ない!あっちゃんが好きなら、好きだと思っていい〟
『クラスのナゾい人ランキングに入ると思う。マジでナゾい』
ー〝でも・・・それで気まずくなったら嫌です〟
『ま、どうでもいいか』
ー〝そんな事で気まずくなるのは、友達なんかじゃない!!!〟
どうでもいい。バナナのイヤホンの中身も。
知らないとこに住んでる誰かの恋愛相談も。
どうでもよかった。