罠は食い破るもの
「不自然な集団だと!?」
ボーマンの報告にエイスが声をあげた。
「ぼ、冒険者たちでしょうきっと。この先には休憩にぴったりな広場がありますからたまたまですよたまたま、うん。ささっそんなことは気にせずみなさん出発しますよ!」
パロが慌てたように声をあげるのが、
「では、詳細についての報告です。
まず不自然な集団は合計で48名。おや?たまたま集まった、にしては多すぎですな。
ついで彼らの配置、いえ一応待機場所、とでも言いましょうか? 狩りを終えた休憩中の5人パーティーを装った分隊が3つ広場にいますが、残りは何故か森の中で待機しているそうです。それもなにかを待ち構えるように広場を囲む用に放射状に、前衛後衛に別れて。」
「きっ、きっとなにかモンスターでも待ち構えているのでしょう。」
「いえ、それがおかしなことに森からなにかを待ち構えるようにではなくこちらから向かうなにかを待ち構えるように構えているのですよ。それにそもそもモンスターを狩ろうとしている場所で休憩なんかさせないでしょう。まぁ我々が通り過ぎるときに彼らが場所を空け街に戻り出せば、ちょうど我々の退路を塞ぐ蓋になりそうではありますが。」
「ぐっ! そ、それは我々エイムサハールの冒険者たちの事を疑っているということか!」
「いえいえそんなことは言ってません。ああ、そうそう。そんなことより部下からの報告があと一つありました。不自然な集団は皆装備に同じ小さなエンブレムをつけていたそうですよ? ハイイロオオカミを象った、ちょうどあなたが着けているようなエンブレムを…」
ダッ!!
「あっ!待て!!」
エイスの呼び声も無視してパロは脱兎のごとく逃げ出す。
「ん~っ、ここは俺の仕事って事でいいか?」
離れたところで様子を見ていたアルバーが伸びをしながら言う。
「やってくださいますか? それより、何人かつけましょうか?」
「いや、必要ねぇよ。まっ王子様方はのんびりしといてくれ。」
フィリオの言葉に飄々と返し、アルバーは得物のバスターソードを一つ、パロを追いかけた。
「はぁ、はぁ… 馬鹿野郎ども!何バレてんだ!!」
一足先に広場についたパロはたむろしている部下たちを怒鳴りつけた。
「はぁ? どうしたんですかパロの兄貴??」
「鷹の目だよ!お前らがあいつらに見つかったせいで待ち伏せは失敗だ!!注意しとけって言っただろうが!!」
「ええっ!?」
人数もしっかり数えられ、エンブレムまで見られたというのに部下たちは見つかったことすら気付いていなかった。
ちぃっ! 噂には聞いていたが…なめてたか……
鷹の目は戦力としては高くない、しかしその偵察能力はずば抜けておりまるでボードゲームのように戦場を俯瞰して見れると言われている。
そんな鷹の目だから猪突猛進型の脳筋戦士集団ヴァルハラ・クランのサポートにぴったりで戦場ではコンビのように組んでいることが多いのだが、そのおかげでヴァルハラ・クランの金魚の糞と言われることも多い。
「だがボーマンは失敗した。手柄を得意気に語って俺に逃げられたんだからな。今から襲撃してやれば…」
「ばーか、お前は逃がされたんだよ。」
「誰だ!」
パロが驚き振り返るとそこにアルバーがいた。しかも必死で走ったというのにアルバーは息の一つも切らしていない。
「ボーさんは案外悪党だからな。あのままお前を捕まえてもお前の雇い主がその事を認めるわけない。でもきっと優しい王子様はお前を殺したがらんだろう? なら荷物にならないよう俺に殺させようとしてんのさ。」
「なっ!?」
「でもまっ、んなこたぁどうでもいいんだよ! 俺の望みは血沸き肉踊る闘争だ!ひりつくような命の取り合いだ!お前らのような雑魚でも窮鼠猫を噛む精神なりゃ、ちったぁ俺を楽しませれんだろ?」
アルバーは獣のように歯を剥き出しにして笑った。
その笑顔に灰狼のメンバーは皆、ぞくりと足のすくむ恐怖を感じる。
「お、お前ら何してやがる! 鉄腕のアルバーとはいえ敵は一人だ!お前ら!やっちまえ!!やっちまえ!!!」
「うっ…うおおおぉぉぉぉ!!!」
パロの言葉に前衛の戦士たちがまとめてアルバーに襲いかかる。しかし…
「おらぁ!!」
バーン!!
そんな戦士たちにアルバーの振り下ろしたバスターソードは、戦士の一人を縦に両断しただけに留まらず、爆発のような衝撃で地面を穿った。
「ぎゃああぃぁぁぁ!!」
「いでぇ!!いでぇよぉぉぉ!!!」
戦士たちの阿鼻叫喚が響く。
一太刀の元に両断された者は幸せだっただろう。周囲の者たちはその余波で弾け飛ばさせた瓦礫が鎧を砕き肉を抉り、酷い有り様だ。
しかし彼らもアルバーに一瞥されただけで首をはねられ、直ぐに物言わぬ肉塊に姿を変えた。
「おいおいどうしたどうした? 戦いは始まったばかりだぜ?」
また歯を剥き出しに笑う。
…狂ってやがる……
その戦力も精神も…
パロは蛇に睨まれて動けないカエルのように、冷や汗は滝のように流れるのにピクリともしない体のせいでまっすぐアルバーを見させられ、そんなことを感じた。
「…はぁ…… なんだ動けねぇのかよ…… 戦意なくしたやつとは戦いにならんから楽しくねぇが…まぁいい。お前ら、死んどけ。」
死神が、一歩、また一歩とバスターソードを揺らして近づいて来る。
「あ、あ… あひゃ…?」
バスターソードをぶんと振られて首が飛ぶ。
パロが最期に見たものはくるくる回る世界に赤い噴水のような自分の体。
その日、エイムサハールの闇を牛耳っていた組織の一つ、灰狼は壊滅した。
「ぷぎぃやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
オークの雄叫びが森に木霊する。
突然の事態だが、ギンの心には動揺も驚愕も生まれなかった。いや、ほんの少しくらいなら生まれたかも知れないがそれは一瞬にも満たないわずかな時間だけだ。
雄叫びをあげるオークが目に入った瞬間、武器を手にしたオークが目に入った瞬間、怒り狂うオークが目に入った瞬間、どうしてこんな近くまでオークの接近を許したのか?何故オークは怒り狂っているのか?そんな疑問は浮かぶ前に塗り潰された。
彼らは敵であり、これは戦いである。
「きしっ。」
ギンは歯を軋ませて笑い、飛び出す。
それはまるで限界まで引かれた弓から矢が放たれたようだった。
あまりに早すぎる判断、行動に先頭にいたオークは何も出来ずにぶった切られる。
「ぷぎゃ?」
「きししっ。」
呆気にとられるオーク、笑うギン。
…どうなってんだ?ありゃ??
木の影から様子を見るポロの前で想像だにしていなかった光景が広がっている。
暴風の様に暴れまわるギン。ハルバートが振り回される度にオークの血や臓物が風に吹き散らかされる枝葉の様に飛び散っている。
…魔法使いじゃねぇ!騎士でもねぇ!狂戦士じゃねぇか!!
悲鳴と笑い声が響く惨状。
対人得意だの対モンスター苦手だのパロと話していたがそんなの暴風の前には関係ない。
っ! そういや昔『暴風』と呼ばれる傭兵について聞いたことが… でもあいつは死んだはずじゃ……
暴風と呼ばれていたのはSランクになる前のギンのことなので間違ってはいない。ただ当然死んではいない。ある時を境に暴風の噂が途絶えたことから死んだと思われただけだ。実際はSランク魔法使いとなり戦略上死なれては困るから守られて戦い、眠り姫と呼ばれるようになったことを多くのものは知らないだけだ。
「ぶぎゃあああ!!」
戦場に一際大きな雄叫びがあがり、他より一回り大きいオークが現れた。
おっ!ありゃオークソルジャーじゃねぇか!!
オークの上位種で通常のオークとは別物と言える強さだ。
この群れだとボスと共にいる精鋭隊といえ存在。
やつらが戻ってきたとなりゃ、さすがのあの化物も……
ギンに向かって襲いかかるオークソルジャー。
それを待ち構えるギンだが、なんと足元に散らばった臓物で足を滑らせてしまう。
よし!やった!!
しかしそんなポロの思惑はあり得ない形で覆される。
足を滑らせたギンはそのままスライディングのようにオークソルジャーの股下に滑り込むと真下からの切り上げで真っ二つにしたのだ。
しかも振り上げたハルバートを勢いそのままに半円描いて地面に叩きつけ、その反動で起き上がるというおまけ付きだ。
これには追撃をかけようとしていたボスや他のオークソルジャーたちも思わず足を止めた。
「きしっ。どうした豚ども? かかってこいよ!殺し合おうぜ!!」
言葉は通じていないがその気迫にボスたちは怖じ気づく。
何やってんだ!数で押し潰せ!!…ってあれ?
ギンを囲んでいたオークの数が驚くほど少なくなっていることにポロは気がついた。
暴風のようなギンの戦いに気取られていたが、その嵐の中隙をつく一筋の風のようにマルフィリアがオークを始末していたのだ。
勝ち目がない。そうなれば野生の獣の判断は早い。
「ぶぎゃあ!!!」
ボスの雄叫びでオークたちは蜘蛛の子を散らすように逃げていくのだった。
ああーっ… もう少し進めようと思ってたけどやっぱやめ!! これ以上の場面転回はわかりづらくなる!!
のびのびになって話が進まないのは悪い癖ってわかってるけど… それ以上に自分の構成の下手さががががが……
頑張りますんで許してください何でもはしません