いざ魔境へ
いざ魔境への出発の朝、開拓団の皆は馬車から荷物を下ろしていた。
ここからはこれまでのような整備された道がない。馬の背に直接荷物を括り、乗せきれない分は自分たちで背負って歩かねばならない。
「だるいぃ~、なあギン。魔法でパパーッと運べね?」
「…正直俺もそっちのが楽なんだが… 行き先決まってないんだろ?」
Sランク魔法使いのギンとしてはそっちの方が楽だったりする。
そんなわけでグダグダ文句を言いながら二人は働いていた。
「ボーマン、ギン、アルバー! フィリオ様から話がある。集まれ。」
その時、燃えるような赤毛の騎士エイスがそんな風に呼んでいるのが聞こえた。
「…なんだろうな?」
「さぁ?」
「いいから、早くしろ!」
そんなわけでギンたちはフィリオのいる天幕までいくことになった。
「…と、いうことだ。フィリオ様は率直な意見を求めておられる。」
天幕に着くとギンたちはガルバスという騎士から昨日辺境伯から告げられた『魔の森はストレイクーガの領土だ。』という話を聞かされた。
「そりゃあんまりですよ! こっちは元老議会から開拓の許可も得ているのでしょ?」
事前に開拓計画を聞かされていたのか、ボーマンは抗議の声をあげる。
…正直ボーさんが呼ばれた理由はわかったが俺たちの呼ばれた理由がわからんな……
「まぁ、選択肢は3つ、でいいのか?」
「…3つ?」
とりあえず率直な意見とやらを求めているらしいのでギンは思ったことを口にした。
「ああ、まず神竜山脈を越えてその向こうを開拓するのが一つ。次に神竜山脈を越えず東側の山腹を開拓するのが一つ。最後は元老議会の許可を盾に魔の森を開拓する。この3つだろ?」
「まっ待て! 神竜山脈を越えるというが、越えられるのか!?」
「知らん。俺たちは兵卒であって将校じゃない。やれと言われたことをやるだけだ。」
エイスの言葉をギンはあっさり切って捨てた。
ひどいようだが、これがヴァルハラ・クランだ。戦いを好むヴァルハラ・クランの者が上に立てばもっとひどいことになる。そのため、あくまで一兵卒であることが掟であった。
だからこそエイスはぶつくさ「出来もしないことを!」とか言っているが、自分たちが呼ばれた理由がわからん。
「となると、実質一択、東側の山腹を開拓するほかないように思われるが…」
「…そうでしょうか?」
ガルバスの言葉にボーマンが横槍を入れた。
「どういうことだ? まさか辺境伯とやり合うつもりではないだろうな?」
「「あっそれいいな。」」
「戦争中毒共は黙ってろ!!
そうではなくてですね、フィリオ様の命が狙われている以上、山腹も魔の森もやり合うことには変わりがないと思うのですよ。どちらにしろ防壁を越えてしまえば人の目は無いのですから。まあ、防衛するのなら山腹の方が良さそうですが、我々の人数ではどちらも不利でただの誤差のようなものでしょう。
また、山腹では十分な耕地を確保するのは難しそうですし、確保出来た僅かな耕地も山の東側となれば日照時間が短く作物の育ちはよくないと思います。」
「…ボーさんすげぇ…… 何で農業とかわかんの?」
「…生まれてこの方、戦争のことしか考えてないお前がおかしいんだが…… まぁ、自分もガキの頃は田舎の農家出身だからな。」
「へぇー…」
てことはボーさんは農家だった可能性もあるのか… 似合わないな……
「こほんっ、してボーマンよ。お前は山腹ではなく魔の森を開拓する方がよいと申すのだな? 辺境伯と戦争になるのを理解した上で!」
「それは先程も申したでしょう。戦いになるのは山腹も森も変わりがない。それに正直な事を言ってしまえば、戦いを避けたいのならエイムサハールに極大魔法が届く位置を開拓してここにいるギンを突きつけて脅してやるのが一番いい。」
「何をいうか、それではこちらから戦いを仕掛けるようなものじゃないか!!」
エイスが怒鳴り声をあげた。
どうやらガルバスとエイスは魔の森を開拓することに反対のようだ。まあ、フィリオ様は戦争がお嫌いだと思うのでそれを慮かってのことだろう。
他の三人の騎士は…こちらを気にしてこそこそしている髭とフィリオを睨んでいる青年、あと顔が見えないんで起きてるのかすらわからない毛玉…… 皆、会議に興味がないのかそれどころでないのか… こいつらはどういった立場なんだろ?
「なあ、ギン? あの髭、どっかで見たような気がするんだが……」
アルバーがこっそり話しかけてきた。
当の髭はというとこちらを気にしていたおかげでアルバーの声が聞こえたのか、びくりと体を強張らせて冷や汗をだらだら流しだした。
「いや、知らん。」
ギンのその言葉に「んなっ!?」と声をあげ、今度は顔を真っ赤に染めながらプルプルする髭。
マジで覚えてないんだが… あれ?ひどいことしちゃったかな?
「…ギン。先程あなたは神竜山脈を越える事をやれと言われたらやると言いましたね? それはやれだけやるが不可能だ、というと意味ですか?それとも…」
髭はさておき、ずっと黙って聞いていたフィリオがようやく口を開いた。
「未だかつて神竜山脈を登頂したという話は聞いたことがない、まああったとしてもそのルートは過酷過ぎて約半分が一般人な我々開拓団では使えんだろう。
でも俺なら飛行魔法で開拓団も物資もまとめて運ぶことが出来る。ただ、まとめて運ぶとなると魔力の消費が激しいからな、休憩を挟みつつおそらく3日。そのための休憩をとれる場所があるのか、移送中は俺は戦闘に参加出来なくなるが防衛は足りているのか、そもそも山脈の先に何があるのか知らんが越える意味があるのか。そういった事を判断するのは俺じゃない、といういみだ。」
俺の言葉に一同ポカンとした顔になった。
まあ無理もない。低ランクの飛行魔法は物を浮かせて動かせる程度、それも自分が手で運べる重さと対して変わりがない。部屋で椅子に座りながらあれこれ取ってきたり戻したり出来るので便利な魔法ではあるがどうしても便利な魔法でしかない。それがAランクになれば自身が自由に飛行出来るようになり、Sランクともなれば大化けする。もっとも、Sランクの魔法使いに物資の運搬をさせるなんてあまりにも役不足なんでそんなことが出来るなんてほとんど知られていない。
「まて、まてまて…まて! それでは魔法ならあの山脈を越えられるというのか??」
「理屈的にはな。」
「であればなぜ未だかつて神竜山脈を越えたという話がないのだ!」
「単純な話だ。数年前までこの国は戦争をしていて山脈を越えられそうなAランクやSランクの魔法使いは戦場か宮廷にしかいなかったからな。こんなところで登山に勤しむ暇人などいるわけがない。」
「な、なるほど… フィリオ様、これは一度調査して見るのがよろしいかと!」
ギンに突っかかるような態度だったエイスだが、完全に戦争をしなくてもよい選択肢に喜んだようにフィリオに進言する。
「お待ちください。」
しかし今度はガルバスが横槍を入れてきた。
「ギン。お前はAランク、Sランクの飛行魔法なら越えられるといったな? だがどう考えても魔法使いの魔力が最後まで持つとは思えんぞ?」
「ああ、そうだな。」
「では、なんだ? 魔石を使うのか? いったい幾つ必要になる? とても現実的ではない!」
「安心しろ、魔石は使わん。それに魔石を使ったところで出来るとは思えん。あくまでこれは俺なら出来るということだ。」
「俺なら出来る??はんっ! 噂通りの傲慢さだな! フィリオ様、このような世迷い事は無視してここは山腹を開拓するほかないかと。」
今度はガルバスが進言する。
自覚のあることだが自分の評判はずいぶんとまあ、嫌われて信頼の無いものだ。
「…マルフィリア。ギンと共に神竜山脈を越えてその先の開拓が出来るのか調査してきなさい。」
「はぁい。」
「フィリオ様!」
マルフィリアとは毛玉のようだ。
マルフィリアはなんとも気の抜けた声で了解したがガルバスが抗議の声をあげた。
「わかっています、ガルバス。無理なら諦めます。」
「わかりました。しかし無理であればきちんと諦めてください。」
「わがままを言ってすみません。
では、マルフィリアとギンは調査へ。残る者は山腹に向けて出発します。
エイス、土地に明るい先導役の手配を。」
「はい、フィリオ様!」
こうして開拓団は戦いを避ける方向で話がまとまった。
「旦那様。」
城門を越えて魔の森へと進む開拓団を眺める辺境伯に初老の執事が声をかける。
「手筈は整ったか?」
「はい。すでに冒険者の一団が森の中で待ち構え、彼等の先導役にも金を渡してございます。」
「うむ、そうか。」
国王から魔の森を領土として認めてもらい、フィリオの開拓が成功する可能性はほとんどなくなった。しかし辺境伯としては絶対に開拓など成功されてはいけない理由があった。
辺境伯とはただの田舎領主ではない。国境を守るため、様々な特権が与えられて、辺境の伯爵の名ではあるが権力的には公爵とも変わらない時さえあるほどだ。
それがフィリオが成功してしまえば辺境でなくなってしまう。今ある特権も奪われてしまうかもしれない。
それはなんとしても避けなくてはならないことだった。
「…いい報告を待っておるぞ。」
「はい、かしこまりました。」
辺境伯は黒い笑顔で開拓団を見送るのだった。
なーんーでー!技量もないのに9人の会話シーン何てやったんですか!!誰が誰だかわからないじゃないですか!!
ごめんなさい作者です。キャラ付けがふんわりなのにそんなことやってしまいました。特徴的な語尾とかも考えたんですが…シーンにあわなくなりそうなんで断念……ぐぬぬぬぬ…
賞に出すためのタグはもう少し話を書いてからつけようと思ってます。
最後になってしまいましたが早速の評価ありがとうございます。すごく嬉しかったです。これからも頑張ろうと思っているので評価、感想、お待ちしております。