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決闘

 その日、フィリオは珍しく苛立ちを隠せずにいた。

 王族として幼い頃から自分を律していたフィリオにとってこのところ訳もなく感じる苛立ちを隠すことは難しくもなかった。しかし、苛立ちの原因が目の前にいてしかも言葉を交わしているその日はどうもうまくいかなかった。



「聞いておるのですか!フィリオ様!!」


 苛立ちの原因、ジャンミールが机をバシバシ叩いて抗議する。


「これは決定だ。下がれジャンミール。」


 フィリオはそんなジャンミールにむべもなく言い放す。

 ジャンミールの抗議、それは先日マルフィリアたちが持ち帰った莫大な金の取り分けについてだった。


 はじめジャンミールは金をフィリオと騎士たち、つまり貴族以上の者で分けるべきと進言してきた。当然ながらフィリオはそんなものは却下した。今後の移民のことも考えて大半は村の財産として残すが、これから本格的に各家庭を持って生活する者たちへのこれまで給料、または『祝い金』として支払うことにしたのだ。

 もちろんそれはジャンミールにも支払われる。彼の働きを考えたら支払いたくもないが、騎士という立場を配慮して他の市民より少し多めの額にしておいた。それも市場に還元されれば…と、なんとか自分を納得させての額であった。


「開拓に多大な貢献をしたワシへの褒賞が!たった!!たったこれだけとはどういうことなのですか!!!」


 多大な貢献?? こいつは何を言っているんだ??


「ジャンミール。お前がいったい何をした?」


「なっ!?」


 いつもとは違う冷ややかなフィリオの声に、ジャンミールも思わず息を飲んだ。


「確かに私はお前を開拓の監督官に任命した。…だがお前は何をした?」


「それは……」


 その空気にさっきまで声を荒立てていたジャンミールも飲み込まれていく。


「ジャンミール、今の麦畑の広さがどれだけでどれ程の収量か、わかるか?」


「えっと…それは……」


「どうしたジャンミール? 多大な貢献をした監督官ならばわかるだろ?」


「それは、だな……」


 監督官とは名ばかりでまともに働いていないジャンミールは当然答えられず、しどろもどろになった。


「…ご苦労だったジャンミール。監督官の任を解こう、下がれ。」


「…っ!!」


 有無を言わさぬフィリオの言葉はジャンミールの顔を白黒させ、息を詰まらせ、そして…


 バシッ!!


「フィリオ様!ワシはあなたに決闘を申し込む!!」


 ジャンミールに手袋をフィリオへと投げつけさせた。


「監督官としてこの村を開拓したワシにはこの村の所有者としての正当な権利がある! 一方的な解任!さらには財産を掠めとる行為!断じて受け入れることは出来ぬ!! 決闘だっ!!!」


 もし、ジャンミールが監督官としての仕事を十全に全うしていたのならそれは筋の通った抗議であっただろう。


 クズが!!


 しかしジャンミールはそうではない。

 フィリオは耐え難い怒りに剣を取り、決闘を承諾したのだった。







 キンッ、キンッ…


 場所を村の広場に移して、決闘を始めて、剣を交えて数合…


 つ、強い…


 ジャンミールはフィリオの剣の腕を見誤っていたことを認めざるをえなかった。

 王族であるフィリオは幼い頃からあらゆることを高いレベルで教えられていた。そう、それは当然剣術においてもだ。

 しかし平和主義というイメージが先行し、勝手に大したことはないとジャンミールは考えていたのだ。


 キンッ


 鋭く打ち込まれたフィリオの剣をジャンミールはなんとか防ぐ。

 フィリオの剣はまさしく教科書通りの剣といえた。そうそれは、正しく構え、正しく防ぎ、正しく攻める。研鑽により研ぎ澄まされ、一切の無駄のない、王道の剣。


 くそぅ… こんなはずでは、こんなはずでは…!!


 はじめは監督官の任を解かれる、つまり職を失う恐怖からの決闘だった。だがマルフィリアたちが持ち帰った莫大な金をフィリオが村の財産にすると言ったことにより、その途方もない富も手にいれることが出来る決闘でもあった。


 畜生、畜生…畜生!!!


 破れかぶれに振るうジャンミールの剣をフィリオは冷静にかわし、弾き、逸らす。そんな届かない自身の攻撃に合わせて、寸での所まで、手の届く所まで来ていた大金がするすると指の隙間から溶けて消えていくような錯覚をジャンミールは感じた。


 それは!ワシの金だ!!!


 バッ!!


 一瞬、ジャンミールはポケットをまさぐり隠し持っていた砂を握りしめるとフィリオの顔目掛けて投げつけた。


 王室育ちのボンボンに目潰しなど想像もつくまい!


 しかしそんなジャンミールの思惑とは裏腹にフィリオはあっさりそれをかわす。


「んなっ!?」


 フィリオは目潰しを予想していたわけではない。ただ、ジャンミールという男が必ず卑怯な手を用いることを予想していただけだ。


 カキンッ


 目潰しという秘策を意図も容易くかわされた驚愕に少し集中を欠いていたのだろう。ジャンミールの剣はフィリオを弾かれ、彼の手から遠く彼方へと飛ばされてしまった。


「ひぃぃいいいっっっ!!」


 武器を失い、死を感じ、腰砕けにへたり込むジャンミールにフィリオの剣が突き付けられる。


 だがしかし、その鋭い切っ先は光を反射してチカチカと煌めいている。


 っ! …震えておる…… 震えておるな!!


 そう、フィリオの手は震えていた。

 もし真っ直ぐに構えられていたのなら小刻みにチカチカと光を反射することはない。


「死にとぅない!殺さないでくれ!!」


 震えるフィリオにジャンミールは大きな声ではっきりと懇願した。

 ジャンミールは知っている。人を殺すことはその精神にも強いストレスがかかることを。


 どうやらフィリオもその葛藤に囚われているようだな。


 ジャンミールのその考えは正しく、フィリオはまさに葛藤の中にいた。

 王子であるフィリオは王国にいた頃、その手で人を殺めたことはない。初めて殺した人間はモーガンだ。しかしその経験は彼に人殺しを慣れさせることはなく、むしろ蛇のように心に巻き付いて、締め付けて、彼を苦しめていた。


「頼む!殺さないでくれ!! 死にとぅない!ワシは死にとぅないのだ!!」


 だからこそジャンミールはわざとはっきりフィリオが聞き取れるように、『死』『殺す』、そんな単語を繰り返し繰り返し口にしたのだ。

 それはまるで傷付いたフィリオの心に塩でも擦り込むかのように。


「死にとぅない~! 殺さないでくれ~!!」


 苦しみ、怒り。焦り、葛藤。様々な思いが綯交ぜになった感情に、フィリオはその感情を表しているかのようなぐちゃぐちゃに歪んだ苦悶の表情を浮かべていた。


 助かった!!


 その表情にジャンミールは確信し、間もなくフィリオも剣をおろした。


「…去れ、ジャンミール。」


 か細く、なんとか絞り出した微かな声。


「去れ、ジャンミール。そして二度と戻ってくるな……」


「はいはい、わかりましたわかりましたよ。」


 無事に生き残った安堵から小躍りでもしそうな様子で歩き去るジャンミール、そしてその背を前にただ立ち尽くすフィリオ。

 フィリオが勝ち、ジャンミールは追放された。


 だがその光景からは本当の勝者が誰なのかは、わからないままだった。

んー… そろそろフィリオ視点もいれたくて前半はフィリオ視点にしたんですが…読みにくいですかね?


作中の時系列的には主に3章から使うキャラたちを登場させたいのですが……

間違いなくごちゃごちゃなる…わかる。確信できる!

読みやすさをとってまずは2章を終わらせ、そいつらは3章入ってから時系列遡って書くべきか。それともなるだけ時系列を意識するべきか…


個人的には時系列意識が好きなんですが…ごちゃるのわかりきってんだよなぁ…………

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