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出発当日。

 出発当日。

 王都の城門外に集まっている開拓団はおよそ40人を少し越えるくらいだ。そして粗の内の半数ほどは恩赦で参加することになった犯罪者だ。


「しっかしまぁ、ヴァルハラ・クランの『眠り姫』様がロバに跨がっているとは… 悲しいねぇ。」


「うっさいな!」


 眠り姫とはギンの異名だ。ギン本人としては細マッチョだと思っているのだが、平均的な成人男性と比べいささか小柄の優男で魔力を高めるまじない的に伸ばした髪も相まって性別を間違えられた異名なので好きではない。


「すまんすまん。で、なんでまたロバに跨がってんだ? 前見たときは立派な軍馬に乗ってた気がするが?」


「生憎こちらも戦争無くちゃ自分の夕飯に事欠く身でね、大食らいの飼い葉代を面倒みきれんかった。」


 なので泣く泣く売るはめになった。ではどうやってロバを買ったかというと移住のために家財道具を丸々売り払ったからだ。


「世知辛いねぇ…」


「あんたほどじゃないさ。」


 ギンはそう答える。

 先程からギンが話をしている相手は恩赦を与えられた犯罪者、元盗賊団の親玉のボーマンだ。とは言え、知り合った頃は派手さはないが非常に小回りが利いて味方としてとてもありがたい傭兵団、『鷹の目(イーグルアイ)』の団長だった。



「すまん!遅くなった!!」


 ギンがボーマンと世間話をしているとアルバーが駆けてやって来た。


「おっボーさんじゃないっすか、ちっす!」


「ちっす!っじゃねぇよアル!!なんだその顔は!?」


 ギンが大声をあげるのも無理はない。昨夜は色街でお楽しみだったのかアルバーの顔には情熱的な色合いの口紅がベタベタとついていた。


「まったく…… つぅかアル、荷物はどうした?」


「いやぁ、世話になった嬢たちにぱぁっと使ったら…なっ? まっモテる男の甲斐性ってやつさ。」


「しらねぇよ……」


 開拓したての村はしばらくは物々交換になるから日用品を多目に準備しとけとアドバイスをしたのはアルバーだと言うのに、本人は小さなリュック1つかい……


「がっはっはっ! その通りだって、いてぇっ!!」


 ギンとしては呆れを通り越して頭の痛いアルバーの行動だがボーマンは豪快に笑い飛ばし、後ろの誰かに頭を小突かれる。

 ボーマンの後ろには恰幅のいいおばさんとさらにその後ろでおずおずしている少女がいた。


「あんた! なぁにがその通りなんだい? 甲斐性ってのは嬢に貢ぐ前に家庭にちゃんと金を入れることだろ?」


「かっかかあ!?」


「まったく。」


 おばさんはボーマンの奥さんだ。どうやらボーマンが盗賊にジョブチェンジしても尻に敷かれているのは相変わらずだったようだ。


「あっあの…」


 肝っ玉母さんにボーマンがたじたじになっているのを皆と共に笑っていたら少女の方が話しかけてきた。


「ん? リコちゃんか。どうかした?」


 リコはボーマンの娘だ。たしか15歳のはずだが少し年齢より幼く見えるが、奥さんの若い頃にそっくりだとかで本当に親父さんの遺伝子を引き継いでるのか不思議になるくらい美少女だ。


「あのっ、えっと… ギンさんも一緒だと知って…… えと、その、とても心強いです!」


「あっああ。」


「ごめんねぇ、リコちゃん。こいつ唐変木で。」


 なんと返していいのか分からず無愛想な返事になってしまったらアルバーが割り込んできて、リコは再びおばさんの後ろに引っ込んでしまった。

 別にアルバーが嫌われている訳ではないだろうが、でかくて筋肉もりもりの戦士なのだ、どうしても威圧感が半端ない。


「で、お前は姐さんに挨拶してきたのか?」


「ああ、昨日茶飲みがてら少し話をしてきたよ。」


 アルバーのいう姐さんとはギンが懇意にしていた嬢のことだ。

 一緒に茶を飲むだけで若い兵士は月給が飛ぶ売れっ子でとうに年季も終えている。今さら渡す物もないので本当に話をしてきただけだ。


「そうか、 ……そういやこの開拓団の指揮官、フィリオ様だそうだ。」


「…マジか?」


 フィリオ様とは帝国との終戦の立役者で、王太子だった(・・・)人物だ。


「…邪魔になったから僻地に追いやるってわけか……」


「ああ、ひょっとしたらそのまま亡き者に…なんて考えもあるかも知れんな。」


 今の王太子は帝国の姫と現国王との間に生まれたばかり。終戦の立役者として政治力もあり、戦中に宮廷を終戦へとまとめあげる人望もあれば… 現国王としては実子であったとしても、邪魔者いやそれどころか恐怖でしかない。


「ずいぶんとキナ臭い話だな。」



 そして件のフィリオ元王太子の短い演説の後、開拓団はひとまず王国の西の端、魔境に接するストレイクーガ辺境伯の領土へと出発するのだった。

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