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黒の算段

感想、誤字報告、大変ありがとうございます。

 王都への使者に決まったアーンボルトだが、少しやることがありまだエイムサハールにいた。


「さて、どうしたものでしょうか?」


 目の前のリストに目を通して思案するアーンボルト。

 フィリオから預かったものをどうするかもまだ決まっていない。だがこれはその後を少しでも良いものにするために重要なことだった。


 …


 しかしそうはいってもやはり最も重要なのはフィリオから預かったものだ。視線は自然とリストからフィリオの書状に向かっていた。


 …トルファンの言うように奪ってしまうべきでしょうか?


 もちろんそれが悪手であることも知っている。だが届けることも悪手である以上、アーンボルトはどちらかの悪手を打たねばならない。


 ではどうやって奪いますか?


 アーンボルトは奪った場合のシュミレーションを始めた。

 まず、馬鹿正直にこの場でなかったことには出来ない。マルフィリアがオークションの会場で、皆の目の前で辺境伯に渡したからだ。会場の中には辺境伯の力の及ばない者もおり、口封じが出来ない。下手に口封じをすればより厄介な問題に派生しかねない者もいる。そしてそういった者たちからフィリオの書状を預かっていることが王家に伝わるのは必然だ。


 …配送に人を遣り、賊に奪わせますか?


 いや、駄目だ。

 王家に仕える貴族である以上、責任をもって届ける義務がある。賊に奪われれば、奪われるような配達人を手配した辺境伯への責任も追求される。


 別に王がフィリオを心配しているわけではない。辺境伯に開拓妨害の手助けをするくらいだ、確実に亡き者にしたいくらいでいる。

 だが、フィリオからの書状を気にしないわけではない。フィリオが魔境へ行って以降、辺境伯ですら掴めていなかった動向が記されているかもしれないのだ。そんなもの喉から手が出るほど欲しているに決まっている。


「…やはり、届けるしかないですか……」


 もし、書状の内容が開拓が順調に進んでいるという報告だったら?

 困ったことにマキナの言っていた通り、その可能性は高い。そうなれば辺境伯家は王から助力を受けながら、フィリオの開拓を失敗させるのを失敗したことにより罰を受けることになる。もちろんそれは明かされることなく表向きは辺境でなくなったことを理由に特権が剥奪されるという物だろう。


「そのための、これですね。」


 アーンボルトはリストに目を戻した。

 商機に目敏い商人たちは既にフィリオの村に目を向けていた。このリストはそんな商人たちをまとめたものだ。


「さて、どなたたちに犠牲になってもらったものか……」


 辺境伯家がその権利を残すためには魔の森がまだまだ危険であると諸侯に認識してもらう必要がある。その認識があれば王や議会も簡単には辺境伯家の特権を剥奪出来ないはずだ。

 そのための犠牲。何人かの商人には魔の森でモンスターに襲われたという体で死んでもらう。


 ここで重要なのは犠牲により恐怖を伝える必要はあるが恨みを買うわけにはいかないということだ。

 商人は税という形で貴族に貢献している他、個人的に繋がりを持つ者も多い。あまり多くの犠牲を出してしまえば諸侯から恨みを買うことになり、自分たちの辺境伯としての資質が問われることになる。辺境伯の特権は必要だが現辺境伯はその役割を果たせていない、となっては困るのだ。


 …いや、これは父を排するチャンスなのでは?


 辺境伯を変えると言ってもすぐに別の家に任せるわけでもない。むしろ父に責任を着せてしまえば自分が次の辺境伯になれる。


 …いや、この手はないな……


 まだ早い。

 父にすべての責任を着せて処分するのは最後の手段。父を排した後は自分が責任を負うしか無くなる。フィリオの情報が十分に集まっていない今、そのカードを切ってしまえば、場合によっては完全に手詰まりになるのが見える。


 なんとか王の機嫌をとるしかないか……


 王に貢ぎ物をするのは当然として、味方を増やすために王の周囲の者や議会の者も篭絡せねばならない。フィリオからのドラゴンの鱗を届けるとなれば王に渡すのはそれ以上のもの… さらに王の機嫌を取り持つために奥方へのプレゼント、大臣や議会の者への袖の下……


「…頭が痛いな……」


 ざっと試算しただけで恐ろしい額だ。だが辺境伯家としては全然出せない額ではない。


 これでなんとか乗り切るしかないですね…


 犠牲者の選定、献上品の手配。篭絡できそうな者、せねばならない者への面会を求める手紙と早馬の準備。

 アーンボルトが羽ペンを走らせる音は空が白むまで続くのだった。







「やっと帰ってこれたのです~!」


 出発して半月以上、久々の開拓村にマルフィリアは大きな声をあげた。

 たかが半月、されど半月。その大半が野宿、しかも何泊かは雲の上ともなれば無事帰ってこれた達成感はひとしおだ。

 移動は基本ギンの飛行魔法、ラーガシュヴィヴァールの鱗のお陰で戦闘は無し。だが荷運びで着いてきた男たちは家族と抱き合い、再会を喜んで涙を流す。


「俺も彼女欲しいなぁ……」


 その様子に偵察で同行していた鷹の目の若いのがぼそりと呟いた。


「そういえばギンさんにはそういういい人はいないですか?」


 感動とは別の、悔し涙を流す鷹の目の若いのを横目にマルフィリアはふとギンに訊ねる。


「ん? 特にいないな。」


「またまたぁ。」


 さらりと答えたギンだが、鷹の目の若いのはにまにまと絡む。


「ギンの旦那には姐さんがいるじゃないですか。」


「あいつか? …あいつは……」


 姐さんとはギンが懇意にしていた娼館の嬢のことだ。

 珍しく悩む素振りで首を傾げるギン。


「…なんだろな?」


 しかし悩んだわりにギンの口から出たのはそんな曖昧な答え。


「なんですかそりゃ??」

「そんなんだから朴念仁って呼ばれるんすよ??」


 思わせ振りな間のせいか、鷹の目の団員たちはぶーぶーと文句を言う。


「はぁ…で、嬢ちゃんはどうなんすか?なんかないんすか??」


 そんなギンに呆れたのか、鷹の目の若いのは今度はマルフィリアにふってくる。

 確かにマルフィリアは幼いが貴族の中にはこのくらいの年頃で婚姻を結ぶ者もいなくはないし、甘酸っぱいコイバナの一つや二つあってもおかしくはないだろう。


「マルフィですか? マルフィはまだまだ魔法使いとして未熟なのです。勉強中の身なのです、そういった話にうつつを抜かす暇はないのですよ。」


 真面目であることを得意気に語る子供のように、マルフィリアはむふぅとどやる。

 しかしその答えは鷹の目の者たちには退屈なものであったようで、


「…魔法使いってみんなこうなんすかね……」

「真面目でつまんねぇ…」

「まぁリコちゃんにとってはよかったんじゃないか?」


 ひそひそと好き勝手に話していた。


「むぅ… そういうお兄さん方はどうなのですか。」


 マルフィリアは鷹の目の者たちのその態度に少し頬を膨らませる。


「いや、俺たちは… なぁ?」

「真面目な傭兵ですし?」

「素振り?とか弓の練習?とか忙しいし??」


 鷹の目の者たちは顔を見合わせながらしどろもどろで答えた。

 実際、鷹の目の練度は傭兵の中ではそれなりに高い部類だ。


「そのわりにはエイムサハールできれいなお姉さんのお店に行こうとしてたです。」


「「「俺たちだって出会いが欲しいんだよ!!!」」」


 悲痛に溢れる切実な叫び。


「戻ったか。」


「ガルバス様!? わざわざご足労いただくなんて申し訳ないのです、すぐにフィリオ様の元にご報告に行かせていただくですから…」


 突然現れたガルバスにより、くだらない会話は終わりを告げて皆は真面目モードになった。


「いや、フィリオ様は少し忙しいのでな。報告は私からさせてもらう、話してくれ。」


「えっ? いえいえ、別にお手すきになるまで待つですよ?」


 別に予想通りの結果であり直接話す必要もないが、急ぎの話で待てないわけでもない。


「いや、マルフィリアとギンにはすぐに…明日の朝にでもまたエイムサハールへと行ってもらいたい。」


「……えっ!?」


 ガルバスの言葉にマルフィリアは驚いた。


「王国や辺境伯が何らかの理由をでっち上げて移民を規制されては困るからな。その前に集まった者たちを回収したいのだ。」


「…わかったのです……」


 結局、戻ってきて早々に山越え野宿旅が決定したのだった。

ふーろーしーきーがー

ひーろーがーるー

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