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盗賊騎士

 盗賊騎士。


 騎士の中には盗賊などという不名誉な呼ばれかたをする者もいる。

 もちろんそれは正式な称号などではない。ではなぜそんな呼ばれをするのか? それは彼らが騎士に認められた決闘の権利を悪用する者だからだった。





 メルトノアールを撃退したあと、村ではささやかな祝宴が行われていた。

 といっても、備蓄用の肉なんかを何時もより多めに使っているだけの質素なもの。だが死者が一人もでなかったこともあり、宴は大いに盛り上がっていた。


「…あれは俺がまだヴァルハラ・クランに入ってまもない頃の事だったな。」


 そんな中、ギンはアルバーが思い出したという盗賊騎士の話を聞いていた。

 アルバーが話すのはギンもよく覚えているとある戦いのものだった。


 戦いのきっかけは斥候が帝国軍が隘路を抜けて別の戦場の味方背後へと進軍しているのを発見したことに始まる。

 当然、そんなものを看過するわけにはいかない。突然のことにあまり多くの兵を集める時間はなかったが狭い隘路であれば少ない兵でも大軍を押し止めることができる。そのためヴァルハラ・クランを含む幾つかの傭兵団は騎士たちの指揮の元で現場へと急行した。

 が、着いた頃には時既に遅く、帝国軍は左右を森に挟まれて平原とは言えないまでも十分部隊を展開できる場所まで出てきた後。とはいえお互い、強行軍の疲れをとるために一夜明けての開戦となった。

 日が登り、セオリー通り横陣に構える帝国軍に対し、王国の騎士たちが出した命令は無茶苦茶なものだった。

 まず第一陣として傭兵隊が敵前線の中央部隊に突撃して楔のごとくこれに穴を開け、ついで第二陣の騎士隊がこれを突破して本陣にいる指揮官を倒す。

 もちろん他の傭兵団は反対した。要するに死に役を傭兵たちに押し付けて自分たちは美味しいところをもらう作戦なのだ。だが断れば敵前逃亡と見なして処罰すると脅され、結局作戦は実行された。


「…でもあの時騎士たちは動かなかっただろう?」


 ギンは当時を思い出しながら言う。


「ああ、俺もあん時はマジ死ぬかと思ったぜ……」


 アルバーも昔を懐かしみながら答えた。


 そう、傭兵隊が突撃し前線に綻びを作っても騎士たちはまごついて動かなかった。いや、動こうとした者もいた。しかし半数近い騎士たちは敗戦の理由を独断(・・)先行した傭兵隊に押し付けて安全に逃げ帰るつもりでいたのだ。

 結果、騎士隊は唯一の好機をみすみす逃し、傭兵隊は帝国軍両翼によって完全に包囲された。


「退路は無く、活路は薄くなった前だけ… なら突撃するしかないよな?」


「ああ、でも生きて包囲を抜けられた傭兵は半分もいなかったよな…」


 無論、ヴァルハラ・クランからも何人もの犠牲者が出た。


「まっ、抜けた先にいたのが慌てて穴を塞ごうとして足並みの乱れた敵の本隊だっからホント助かったぜ。」


「今思えばそうだが、…あん時の俺はつんだかと思ったさ。」


 でもきっと今頃死んだやつらはヴァルハラで楽しくやっている。おかげで今となっては笑い話、二人は声に出して笑う。


 おそらく帝国軍は馬鹿正直に真っ向からの突っ込まれるとは思わず、森からの奇襲を警戒して予備隊を両翼背後に置いていたのだろう。

 ともかく、包囲を抜けたら距離を取って防衛が固まっているでも、距離を詰めきれて攻撃準備が整っているわけでもない、なんとも中途半端な状態の敵本隊がこんにちは。経験のある傭兵にとっては死地を脱したかと思ったらご馳走が出迎えてくれたようなもの、やる気にならないわけがない。

 そこからは敵本隊になだれ込んでの乱戦。その中でギンは敵の指揮官を倒し、始めての大手柄を立てたわけだが…


「…いや、全く思い出せないんだが……?」


 何度思い返してもジャンミールが出てこない。


「いや、ジャンミールが出てくるのはその後だ。ほら、あの後初の大手柄の後ってことでみんなで盛大に飲んだだろ?」


「ああ、飲んだな。」


「その時だよ、あいつが出てきたのは……




 ~回想~


「今日、我らが友がヴァルハラへと旅立った。彼らは高潔な戦士であった。彼らは勇猛な戦士であった。彼らは勇敢な戦士であった。そして今、我らは彼らと共に戦えた名誉の中にある。さあ!共に誓おう! ヴァルハラで会おう!!」


「「ヴァルハラで会おう!!」」


 並々に注がれた祝杯を掲げて、戦勝の宴が始まった。


「なーなーギン。たんまり褒賞もらったんだろ?なんに使うんだよぉ?」


「だぁーっ!暑苦しい!!しがみつくなアル! ってかお前酒飲めないんじゃなかったのか?何で酔っぱらってんだよ!!」


「酒なんて飲んでねぇよ?ミルクだよ? でもねぇーなんだかこの部屋にいると頭がほぉーっとすんだよぉ??」


 周囲が浴びるほど飲んでて酒臭い部屋とはいえ、こいつ空気で酔ったのか!?


 「安上がりだなアルバーは。」「むしろすげぇよ!」なんて周囲は茶化して盛り上がるが、絶賛絡み酒、いや、絡みミルクをくらっているギンとしてはいい迷惑だ。


 その時だ。


「魔法使いのギンとやらはおるか!!」


 乱暴に扉を押し開けて、ジャンミールが数人の騎士を連れて現れた。


「…俺だけど?」


 ギンは絡むアルバーを押し退けて前へと進む。そんなギンをジャンミールや騎士たちはにやにやと見た。


「そうかお前か…

 魔法使いギン! お前は作戦を無視して騎士から勝利と言う名誉を奪った!! よってワシは騎士の誇りのために決闘を申し込む!!」


 ……はぁ??


 一瞬わけがわからなかったが、ギンもすぐにこの騎士たちが盗賊騎士だと合点がいった。

 盗賊騎士。それは騎士に認められた決闘の権利を悪用する者たち。

 本来決闘の権利とは騎士が王から下賜された土地や自己の財産を守るため、王からの承認なしに戦闘行為を行っても良いという自己救済のための権利だ。しかし盗賊騎士は適当に言い掛かりをつけて決闘を迫る。そうして武力で奪うか賠償金を支払わせるかするのだ。


 いくらヴァルハラ・クランの戦士といえど戦闘後の魔法使いは魔力切れでなにもできまいと、ジャンミールはそうたかをくくっていた。


 実際、ヴァルハラ・クランが相手ということで多くの盗賊騎士は決闘を仕掛けなかった。なぜならあらゆるところで騎士有利の決闘だが、勝者に罪はなく敗者にすべての罪がある、その基本理念からもし決闘で平民が騎士を殺してしまっても決闘の勝者ということで罪には問われないからだ。最強の戦闘集団であるヴァルハラ・クランに決闘を挑もうとする者などいない。


 だが今、目の前にいるのはまだガキと呼べそうな年齢の線の細い少年。疑いようもなくジャンミールは勝利を確信していた。


「うぉっほん。しかしまあ、見たところまだ幼い。ワシとて鬼ではないから誠意ある謝罪と……」


「いいよ、やろう。」


「へ?」


 しかし賠償金を請求しようとするジャンミールに対し、ギンはあっさりとそう答える。幼くともギンはれっきとしたヴァルハラ・クランの一員だ。戦いを避けるわけがない。


「やるよ、決闘。ちょっと待ってて、得物持ってくるから。」


「まっ待ちなさい。」


 武器をとりに移動しようとするギンをジャンミールと共にいた騎士が慌てて呼び止める。


「…あんたなに?」


「私はジャンミール殿から依頼されたこの決闘の立会人です。

 それよりもギン。お前が決闘を承諾した時点で既に決闘は始まっているのです。逃亡は許されません。」


「じゃあ仕方がないか。」


 焦る立会人を余所にギンは何事もなく護身用の短剣を抜いた。


「いくよ。」


 そして鋭く斬り込む。ジャンミールも慌てて剣を抜き、それを防いだ。


 実はジャンミールたちは決闘などする気がなかった。

 もちろん魔力切れの魔法使いなどちょろいと考えていたのは本当だ。だがもしヤバそうな相手なら適当に騎士という立場からのお褒めの言葉だけして帰るつもりだった。

 そして実際にギンを見て、賠償金を踏んだくれると思ったから決闘を申し込んだだけ。


 なのでチェインメイルを着ていないことで恐れ、あっさり決闘を承諾したギンに焦り、意識は殺傷力のある短剣にばかり向かい、


「ごふっ!!」


 ギンの蹴りがジャンミールの脇腹にきれいに決まった。


「貴様っ!!」「平民の分際で!!」


 この事態にジャンミールについていた騎士たちが、立会人と名乗った騎士までも、剣を抜いてギンへと斬りかかる。

 だが、


 ジャシュッ!!


 ギンはもっとも近くにいた立会人の両の目を横一文字に切り裂いた。


「ぎゃあああああっっ!!! 目っ目がああああっっっ!!!!」


「…決闘の邪魔をするな。」


 喚き血の涙を流す騎士に、ギンが言ったのはそれだけだった。


 騎士を、急所を、なんのためらいもなく斬りつけた。


 その事実がジャンミールに死の恐怖を与える。


 ジョボボボボ……


 へたりこみ、失禁するジャンミールにもはや戦意など無い。


「…この決闘、俺の勝ちでいいか?」


 ギンのその言葉に、ジャンミールは壊れたように頷き続けることしかできなかった。


 ~回想終わり~



 …って、あの失禁で思い出したわけよ。」


「…覚えてない。ってかそんな決闘の名に泥を塗るような決闘、覚えるつもりもない。」


 むしろ何で覚えてんのと、ギンは尋ねた。


「あの頃の俺にとってはまだ騎士は騎士様って感じだったんだよ。なのにあんなにあっさり斬りつけたらそりゃ衝撃的だったよ。」


 ふーん、そんなもんかねぇ?


 あいにく物心ついた頃からヴァルハラ・クランにいるギンはいまいち身分というものに疎い。


「とにかく厄介事を起こさなけりゃなんでも良いや。」


 ギンはそう言い捨てると、ジャンミールについてのことをまた記憶の彼方に放り捨てるのだった。

うーん……

面白くなるように試行錯誤の結果、すごい読みにくくなった気がががががががが

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