メルトノアール
ガンっ!!
アルバーの振り下ろしたバスターソードがメルトノアールの黒い鱗に当たり鈍い衝突音が戦場に響いた。
「ひゃはっ! かってぇなおい!! 俺のバスターソードで傷もつかないなんて… 何で出来てんだ?その鱗!!」
アルバーが愉快そうに笑う。
アルバーのバスターソードは世界最高の硬さと切れ味を誇る金属、アダマンダイトで出来ている。異次元の軽さと硬さ、そして切れ味を持つミスリルがどんな者でもワンランク上の戦士に変える武具なら、それすら上回る硬さと切れ味の反面、並みの者では持ち上げることすら叶わない超重量のアダマンダイトは選ばれし最高の戦士をワンランクあげる最高の武具だ。
「ナメられたものだな、ただの武器で殴ったところで我らドラゴンに意味があるわけなかろう!」
「すまんすまん、ここんところ歯応えないのしか相手にしてなかったからなっと!!」
メルトノアールの鋭い爪の攻撃をかわしつつ、アルバーが気合いを入れた。
魔法使いや武芸を極めた者にはアルバーが薄く発光しているのが見えるだろう。
身体強化。
武芸の流派では気やオーラと言われるもの、魔法使いからしたら本人の魔力、を燃やして自身の身体能力、アルバークラスの達人であれば自身の得物までも、強化する技だ。
「っだらあぁぁぁ!!!」
その効果は歴然だ。アルバーの攻撃に対してメルトノアールは今度はしっかりガードをとる。
馬鹿アル!遊びすぎた!!
アルバーの上段からの攻撃を見て、ギンは内心抗議した。
バコーン!!
アルバーの攻撃は防がれ、反す刀のメルトノアールの尻尾が直撃。アルバーは逆茂木に突っ込むことになった。
当たり前だ。人間にしては巨漢、更にアダマンダイトのバスターソードといえど巨体のメルトノアールに比べたら軽すぎる。そんなんで身体強化した超パワーで上から攻撃叩き込んでも反作用でむしろ自身が浮く。宙に浮いた身体などただの的だろう。
だが同じSランクでもアルバーは戦士のSランク。魔法使いのギンの予想を反する結果になった。
「…ほう、咄嗟に空を蹴って反対に飛び退きダメージを軽減するとは…… 器用なことをするな。」
空を蹴った!?
メルトノアールの言葉にギンも驚く。
だがその証拠に髪に枝を指してるだけでほぼ無傷のアルバーが逆茂木の中から這い出してきた。
「始めてやったんだがな…案外空気って踏み台になるんだな。まあ着地も決まれば格好ついたんだが、それより……」
ブシャッ!
メルトノアールの尻尾に切り傷が付き、血が噴き出す。
「今度はちゃんと斬れたぜ?」
アルバーはニヤリと笑う。
ったく。空気を踏み台にするってなんだよ…
思わずあきれ笑いが出そうになった。
とはいえアルバーはほぼ無傷であって無傷ではない。自分で逆茂木に突っ込んだ結果かもしれないがダメージはダメージ。いい加減介入させてもらおう。
「泥傀儡の饗宴!!」
ハルバートをかざし、ギンは既に詠唱の済んでいた魔法を発動させた。
ズモモモモ……
メルトノアールの足元がぬかるみ、泥で出来た数多の腕がその四肢に絡みまとわり、より深くへと引きずり込む。
「第一射っ、ってぇーっ!!」
そんなメルトノアールにボーマンの号令で鷹の目が矢の雨を降らす。
ごぅ!!
だが矢の雨は上空に向けたメルトノアールのブレスで吹き飛ばされてしまった。
しかし、
「今度はドジらねぇぜ!!」
「私もいるぞ!!」
腹の下に潜り込んだアルバーの切り上げ、さらにはショートソードと見間違える速さで振るわれるエイスのロングソードの連撃。
…当初、戦いはギンたちの優位に始まったように思われた。
だが時間が経つにつれて実力の差が露見し出す。
「…まずいな……」
結界を張れる魔法使いがギン一人という状況で嫌でも全体を見なくてはならないギンはその戦況をシンプルにそう評価した。
まず鷹の目が疲れ始めている。
元々、偵察からの奇襲、ヒットアンドアウェイ、地形を利用したゲリラ戦法、そういった奇策を得意とする鷹の目を真っ向からの防衛に使用しているのだ。根本的に運用方から間違えているのに彼らはメルトノアールの鱗を貫くために矢じりに気を込めざるおえず、余計に消耗が激しい。
ブチブチブチっ!!
「ちっ!!」
泥傀儡の饗宴の腕が引き千切られるのが見え、ギンは舌うつ。
既にメルトノアールの前肢の拘束は完全に解かれ、残るは後脚に幾つか残るのみ。
だがかけ直す余裕はない。メルトノアールの巨体が動けば攻撃は全て広範囲の高威力攻撃。一撃で砕ける結界を延々攻撃に合わせて張るので手一杯。いや、拘束が解かれるにつれて上がる攻撃の回転率に既に怪我人が出始めているのが現状だ。
そしてそんな怪我人を救護班へと送る後方支援も機能不全を起こしている。
とはいえ実戦経験も訓練すらもない一般人をいきなりドラゴンとの戦闘に引っ張り出しているのだ。無理もないことかもしれない。
そんな中、なんとか戦線を維持できているのはフィリオの存在が大きいだろう。
王子という身分の者が自分と同じ戦線に立って激を飛ばす。これに士気の上がらない兵士はいようか?
王子という身分の者が自分より前の戦線に立って激を飛ばす。これに奮い立たない市民はいようか?
まあ、他にも理由はあるだろうが……
ギンは矢傷、切り傷で鮮血を流しながらも楽しそうに暴れるメルトノアールを見る。
っていうか絶妙に攻撃の届かない距離でジャンミールが攻めろ攻めろ、ちょっとでも攻撃の余波が自分の近くに来れば守れ守れと喚いているのが聞こえるので、あまり後ろに気をまわしたくない。ぶっちゃけ殺したくなるから少し黙れ!
っと!!
「緩衝的干渉」
さすがについていけなくなったのだろう、とうとうエイスがメルトノアールの攻撃に掴まりぶっ飛ばされたので風魔法でキャッチする。
…限界か? 自分も攻撃に参加しよう!
泥傀儡の饗宴の拘束は完全に引き千切られ、もはやメルトノアールの動きを阻むものはない。いっそ戦線を維持するより多少強引でも仕留めに動いた方が良いのかもしれない。
だがそれは常日頃死の隣になく、その覚悟のない村人を守るために、その覚悟のある鷹の目を見捨てるという判断。
だが…
「ふぅ、一度休戦としようではないか。」
「だな。」
メルトノアールの言葉にアルバーもドガッと胡座座で座り込む。
それには攻撃に参加出来ず消化不良のギンも矛を収めた。
すると皆続々と武器を下ろし、安堵の声が溢れ出す。
そんな中、メルトノアールが凛とした姿勢で踵を反す。それは数多の傷はあれどとても敗走とは呼べない姿だった。
が、
「何をしておるのだ!! ドラゴンが逃げるぞ!追え!追わぬか!!」
…はぁ……
「いくら怪我をしていてもメルトノアールにはまだこんなバリケードくらい簡単に突破する力はあるさ。そうなりゃ村人に多くの犠牲がでる。そしたらメルトノアールを倒せたとしても開拓は頓挫、俺たちの敗けさ。
でもメルトノアールは誇りある戦士として非戦闘員を攻めるのを良しとせずに休戦を提案したんだ。そんな戦士を後ろから狙うなんてみっともない真似ができるか! やりたきゃあんた1人でやれよ。」
そう、戦線が維持できていた最大の理由、それはメルトノアールだったのだ。彼が怪我人を下げるのにもたつく村人たちを攻撃しようとしなかった。彼はあくまで戦士とだけ戦っていたのだ。
「…やるというのなら、相手になるぞ?」
メルトノアールが横目でジャンミールを睨む。
「ひぇっ……」
ジョボボボボ……
腰が抜け、へたりこんだジャンミールの元に湯気立つ水溜まりが生まれる。
「…あっ、思い出した。あいついつぞやの盗賊騎士だ。」
そしてその姿を見たアルバーがそんなことを言ったのだった。
緩衝的干渉
…思い付いたら他が思い付かなかったのでとりあえずこうしました。
世界観にあってない気がしてならないんで他にいいの思い付いたら直すと思います。
……思い付いたら




