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凶刃

 グサッ


「ぐっ!」


 振り下ろされた凶刃にフィリオは呻き声をあげる。

 だが突然の乱入者にモーガンが焦ったのか、その傷は致命傷と呼ぶには浅い。


「フィリオ様っ!」


 突然の事態に困惑するマルフィリアであったが、ともかくナイフを抜き応戦した。


 キンッ


 普段フィリオが執務に利用している幕舎の中、金属と金属のかち合う甲高い音が響く。


 どうしてフィリオ様とモーガンが二人きりなのです?


 こういった事態を避けるためにガルバスがいたはずだ。


「邪魔を、するなぁああ!!」


「くっ…」


 上段から振り下ろされる剣撃をマルフィリアはなんとか受け止める。

 体格も剣の腕も差は歴然。狭い幕舎と小柄な体格を活かして立ち回るというのも怪我を負ったフィリオを守らねばならないから無理。むしろ幕舎の狭さが仇となって魔法を使うための距離がとれずマルフィリアの不利だ。

 無詠唱の魔法でもタメが全く無いわけではない。経験豊富で戦い慣れしているギンなら可能だろうがマルフィリアはまだ武器を振りながら魔法を使うことはできなかった。

 マルフィリアはひとつ大きく息を吐くとナイフの切っ先をモーガンに向けて構えをとる。


 …でも、完全に詰んでいる状況でもないですぅ……


「フィリオ様、大丈夫ですか?」


「あ、ああ。」


 背後から聞こえるフィリオの声。

 致命傷ではないとはいえ結構ざっくり斬られた。幕舎から逃げ出るのは困難だろう。


「どうしてそんなやつを庇うんだあああ!!」


「……」


 モーガンが癇癪を起こしたように叫ぶがマルフィリアは無視してナイフをぎゅっと握る。

 柄頭に魔法晶を象嵌したそのナイフはひどく特徴的な見た目をしている。

 長く伸びた2本の鍔。幅広で分厚い刀身。何より奇妙なのは櫛のようになった峰だろう。

 長い2本の鍔は盾、櫛状の峰は敵の剣を絡めへし折る。ソードブレイカーと呼ばれるそのナイフは防御の為の武器だ。


「俺を!!無視!するなぁああ!!!」


 怒ったモーガンが剣を振るう。

 出鱈目な連撃。しかし理不尽なことに体格がよく、その分のスピードやパワーがあるだけで小柄な者には十分な脅威になる。


 シャンッ、キンッ、ガッ


 だがマルフィリアはその連撃を反らし、弾き、受け止める。

 マルフィリアは身を守るために剣士のふりをする魔法使いではない。剣も使えるちゃんとした魔法剣士を目指していた。

 だからこそ、体格差や筋力差を理解してそれを補うためにソードブレイカーを杖にして訓練していた。


 剣士としての実力は負けていても、ただ耐えるだけ、守るだけならやれるです!


 すでに騒ぎを周囲の者は聞き付けているだろう。しかし身分の差を考えると彼らが中に入ってくるとは考えにくい、だがすぐにガルバスやエイス、ギンやアルバーを呼んで来るだろう。


 それまで耐えれば、マルフィの勝ちです!


「そいつさえいなければ!! くそっ!!くそっ!!くそっ!! どけ!!邪魔をするなぁああ!!!」


 怒りを顕にモーガンが剣を振るうがマルフィリアは冷静に捌く。怒れば怒るほど威力は増すが攻撃は単調になり捌くのは容易い。


「ふざけるな!!ふざけるな!!ふざけるなあぁぁぉ!!!」


 キンッ、シャンッ、シャンッ


 だがモーガンの攻撃の手は止まない。むしろどす黒い瘴気のようなものがどんどん溢れ出てくる。

 マルフィリアが冷静に対処出来ていたのはそれがフィリオに向かっていたからだろう。もし真っ正面からそれを受けていたら、足がすくんで動けなくなっていたかもしれない。


「そいつは!マリアさんの仇なんだ!! 俺は!マリアさんの復讐をするんだ!!!」


 キンッキンッシャンッ


「仇?復讐? いったいなんのことですか? 私はなにも…」


 モーガンの言葉にフィリオが反応した。


「知らないつもりか!! わからないつもりか!! ははっ!お前ら天上の王族からしたら俺たち下級騎士の生き死になんて虫けら同然のもんなんだろうなああぁぁぉ!!!!」


「だからいったいなんのこと…」


 血を失ったからだけではない。明らかにフィリオはモーガンが瘴気に当てられて青ざめていた。


「お前ら王族が戦争なんて始めなければマリアさんは戦争で死ぬことはなかった!! お前が勝手に戦争を終わらせなければ俺はマリアさんの復讐を果たせていた!!」


 ガスンッ!!


 感情をぶちまけだし、モーガンの怒りが、攻撃の威力がさらに増す。


「勝手に初めて勝手に終わらす!! 戦場で命をかけるのは俺たち下級騎士だって言うのにその名誉はまるで無視だ!俺たちの命に名誉などないと言うのか!!俺たちの名誉など泥にまみれて見ることも出来ないと言うのか!!!」


「それは……」

「耳を貸してはダメです!!」


 モーガンの言葉は呪いだ。心を蝕む呪い。そんなものを聞かせるわけにはいかない。


 だがそれと同時にマルフィリアの心には沸々と怒りが沸く。


 モーガンの言葉はあまりに一方的な暴論だ。

 そう、帝国の者の命を無視した暴論。


「マリアさんとやらはあなたにとってとても大切な人だったのでしょうです。でも戦争に出ていたのならその人もきっと帝国の誰かの仇です。その事を見ようとしないあなたもおんなじです!!」


 思わず、マルフィリアも叫ぶ。


「…お前もか……?」


 ぴたりとモーガンの動きが止まった。


「お前もそいつと同じ売国奴!!マリアさんの仇なのかぁあああ!!!」


「ひっ!?」


 突然、その言葉とともにモーガンの怒りが瘴気がマルフィリアに向けられ身体が強張る。


 ガキンッ!!


 振り下ろされた剣を受け止められたのは本当にとっさの偶然でただの幸運だった。しかしソードブレイカーの櫛状の峰はしっかりとモーガンの剣の刃を噛んでいた。


 チャンスです!!


 バキッ


 マルフィリアは手首を捻り、その剣をへし折る。


 やったです!!


 武器を奪い、マルフィリアは勝利を確信した。いや、してしまった。


 ゴスッ!!


 ??


 直後、感じたのは顔面への痛烈な痛み。


 訓練であればそれで勝ちだった。終わりだった。

 だが実戦はそうではない、剣がなければ拳がある。死ぬか敗けを認めるまで敗けではない。終わりではない。


「お前が!!お前のせいで!!マリアさんは!!マリアさんが!!」


 ゴスッ!ゴスッ!ゴスッ!!


 馬乗りにされ、上から振り下ろされる拳。


 痛い、痛い痛い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い


 ザスッ!!


 そんなモーガンの胸をフィリオが剣で貫いた。


「…ごふっ」


 モーガンの吐血が顔にかかる。


「…どうして、俺が…… 俺はまだ、復讐を……」


 剣が引き抜かれ、胸に空いた穴からみるみる血が溢れ出す。

 モーガンはフィリオの顔を見ようと顔をあげて倒れると、


「…のろ、われちまえ……」


 中指を突き立ててそう言い、事切れたのだった。

ピンチに駆けつけない系主人公ギン。

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