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行き先のない復讐の刃

 これはとある騎士の胸中。


 戦争が終わった。


 俺は復讐の機会を、復讐の相手を、失った。

 せめて1日でも戦闘の機会が、一人でも帝国の者を殺せていれば、俺は満足していただろうか?救われていただろうか?


 …わからない……


 わかることは、戦争が終わったこと。

 それがすべてで、それですべてだった。


 帝国との門戸は開かれている。帝国へ行き、復讐をするべきだっただろうか?


 だが俺はマリアさんが誰に殺されたかを知らない。マリアさんも旧小国領に配属され、敵味方入り乱れた乱戦の中で命を落としたので誰に殺されたのか、そもそもそいつがまだ生きているのかすらわからないのだ。

 それでも、それがわかっていても、俺は帝国に行き、旧小国領で戦っていたであろう者たちを皆殺しにしたい衝動があった。


「…くそっ!!」


 俺は八つ当たりのように手にしていたゴブレットを叩きつける。ガシャンと音をたててゴブレットが割れた。


 帝国で復讐をする。だがそれは終戦宣言が出され、国家間の賠償がなされた以上、それはただの殺人でありただの犯罪だ。


 どうしてマリアさんの復讐が犯罪でどうして俺が犯罪者にならねばならないんだ!!


 戦争で敵兵を殺すのは当たり前で殺人ではなく、日常で仇をうつのは当たり前に殺人だ。


「おい!なにをやっているんだ!!早く新しい酒を持ってこい!!」


 俺はおろおろしている給仕の女を怒鳴り付ける。


「…いい加減ツケを払ってくれないか?」


「うるせぇ!俺は騎士だぞ!?いいから酒を持ってこい!!」


 そんな俺に酒場のマスターは苦々しそうに言うが、俺はやはり八つ当たりのように怒鳴り散らす。


 戦争が終わっても俺は故郷へは帰らず王都で働くことにした。立派な騎士になるというマリアさんとの約束を果たすにはなにもなく平和な故郷より王都の方がまだチャンスがあると思ったからだ。


 だが現実はどうだ?

 コネも手柄もなくチャンスの巡ってこない俺はただ安い場末の酒場で腐るだけの日々。そして世間もこの店のように見たくない物でも扱うかのように俺を奥の暗がりへと追いやる。


 …くそっ!!


「となり、よろしいですか?」


「あ?」


 だがその日、そんな腐った俺に声をかける者がいた。


 薄暗い最奥の席から店内を見回すと他にも席は空いている。それより何より、俺に声をかけた男はこんな場末の酒場に不釣り合いな身分の高さが伺える高級そうな服装をしていた。


 よろしいですか?と聞いておきながら、男は俺がなにも答えていないのに席につく。


「…お偉いさんがいったいなんのようだよ?」


「知り合いからあなたのことを耳にしまして、少しお話したいと思っただけですよ。」


「知り合い?」


「ええ、あなたは少し前に王国聖騎士団へ志願を出していたでしょう? そのつてでちょっと… っと、その前に…

 すみません、エールをひとつ…と、彼に新しい物を。」


 見るからに身なりのよい男だったせいか、さっきまで仏頂面だったマスターが恭しく酒を持ってくる。


 ちっ、気に食わねぇ。


 マスターの態度もそうだが男の余裕ぶった態度も気に食わない。だいたい王国聖騎士団に志願を出したのは事実だが俺は落とされたのだ。いったい今さらなんの用だと言うのだ。


 とはいえ、酒は酒だ。俺は差し出されたゴブレットを掴むとエールを一気に流し込んだ。



 どのくらい酒を飲み、時間が流れただろうか?

 酒精のせいもあっただろうが男は人の心にするりと入り込む不思議な男だった。

 はじめは警戒していた俺だが、いつしか管を巻き、愚痴を吐き、マリアさんの恨みを、終戦の虚しさぶちまけていた。


「…わたしも、戦争で弟を亡くしまして……」


「…あんたもか……」


 俺の長い愚痴が終わると、男はそう呟いた。


「わたしは立場上戦場に行くことが出来ず、人を遣ったのですが……結局弟の名誉を取り戻す前に終戦ですよ。」


「…そうか……」


「でもようやく同じ仇を持つ同志に出逢えましたよ。」


 男は眼を輝かせてそう言った。


「…同じ仇?」


「ええそうです。あなたは他の多くの蒙昧な者たちとは違う。だから殺人者になりに帝国へ向かうことはせず王国に残った。」


「…なんのことだ?」


 本当になんのことだかわからないが男は気にした素振りもなく続ける。


「ああっこんなところで大きな声で話すことではありませんでしたね。わかっていますね、わかっていますよ。

 フィリオですよフィリオ。」


「フィリオ?」


 元王太子フィリオは確かに終戦へと導いた立役者だ。だがその行いは多くの者から喜びで迎え入れられたはずである。


「あの男は領土を帝国へ売り渡した売国奴。そのためにあなたの大切な人の名誉は泥を塗られたまま打ち捨てられたのです。」


「なっ!?」


 王国を売っただと!? …なるほど、だから王太子から追いやられたのか……

 だがそれを認識すると俺の心に沸々と怒りが沸いてきた。


「許せない、ええ許せないでしょうとも。わかりますよ、もしフィリオがいなければ、あなたは復讐を果たせていた。あなたは今あなたの大切な人の誇りと共にあれたのですから。」


 そうだ。

 戦争さえ終わっていなければ俺は復讐を果たせていた。

 マリアさんの名誉を取り戻していた。

 戦争さえ終わっていなければ俺は手柄をたてていた。

 こんなところで腐っておらず、土地持ちの貴族になっていた。

 戦争さえ終わっていなければ、

 フィリオが戦争さえ終わらせていなければ…

 フィリオさえいなければ……


「…フィリオは辺境の開拓に行かされることが決まりました。…どうですか?参加されてみては…?」


「……」


 フィリオは仇であり復讐だ。だがそれは王子の暗殺…


「ご安心ください。辺境の開拓に事故は付き物。もし、フィリオに万が一のことがあり開拓が失敗に終われば… そのときはわたしが責任を持ってあなたを召し抱え、十分な地位を約束いたしましょう。」


 つまりフィリオさえ亡き者にできれば事故として処理してもらえる。そして俺は生きて帰れば土地持ち貴族…


「…わかった。」


 俺はフィリオの開拓団に入ることにした。




 それから何ヵ月が過ぎただろうか。

 俺は復讐の機会をずっと待っていた。

 田舎騎士の育ちで権力者にすり寄る術など知らない。恨みと共に鍛えてきたので殺意を隠す術など知らない。

 だから俺は待った。

 獲物が殺意に麻痺するのを、フィリオが油断し隙をつくるのを。

 待つのは容易いことだ。何故なら俺はずっと待っていたから。


 そして……



「ではフィリオ様。そのように命令して参ります。」


「ええ、頼みます。」


 エイスは鍛練をしていてここにいない。そしてたった今ガルバスもこの場を離れた。


 おそらくガルバスが戻って来るまでそう時間はないだろう。だがその前にフィリオを殺り王都まで逃げれば、俺はマリアさんとの約束の立派な騎士、土地持ち貴族だ!!


「逆賊死すべし!!!」


「っ!?」


 モーガンは剣を抜き、フィリオに斬りかかる。


 が……


「失礼しますですぅ。フィリオ様、おはな…」


 間が良いのか悪いのか、ポーションの献上と風邪対策の話にやって来たマルフィリアは突然修羅場に巻き込まれてしまったのだった。

うん、あれです。やっちまった自覚はある。だがどうしようもないと思ったので突っ切った。

そんな感じです。

何がといいますと、わざわざ『とある騎士』とか書いたんでバレバレと思いつつも一応モーガンの影を薄くするように書いていました。

結果キャラが全く立っていないままここまで来てしまいました。どのくらいかと言いますと自分が名前あやふやなレベルです。

バレないようにして「こいつ誰だっけ?」はアウトだろ……

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