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平穏な日常

 これはとある騎士の追憶。


 ガラガラと音をたてて、荒野を馬車の隊列が進む。


 …ようやくだ……


 そのうちの一台に乗り込んでいる俺は強く拳を握りしめてそう思い返す。


 帝国のやつらにマリアさんが殺されてからもう何年もの月日が流れたが、俺はその恨みを忘れたことなど1日たりともなかった。


 ようやくだ。


 俺はこの日を、ずっと待っていた。

 復讐を誓ったあの日、俺はすぐにでも戦場へ飛び出したかった。

 でも、それはできなかった。

 それは、マリアさんとの約束があったから…

 立派な騎士になる。

 その約束が果たせたら、マリアさんがひょっこり帰ってきてくれるのではないか… そんな淡い期待があったのかもしれない。

 ともかく俺は待った。ひたすらに鍛練し、勉強し、マリアさんの遺品が届いてもなお、俺は待ち続けた。

 待って、待ち続けて、15歳になり王国に剣を捧げて騎士に任命されるとすぐに俺は戦場へ志願した。


 ようやく… ようやく帝国のやつらに復讐できる!!


 俺たちを乗せた馬車は今、戦場へと向かっている。皆、俺と同じで戦場へ志願したものたちだ。

 手柄をあげて土地持ち貴族になると豪語した者もいた。体面のために親に送り込まれた者もいた。

 だが、馬車の隊列はまるで通夜の参列のように暗く、皆一様に重苦しい表情で押し黙っていた。


 旧小国領。

 そう呼ばれる地域が俺たちの行く先だ。

 そこは帝国との戦争の始まりの地であり、政治的な要所。あるのは塹壕、砦、荒野のみ。この地にいる人間は戦士のみ、住む者のない不毛の地。新兵の8割が死に、五体満足で帰れるのはさらにその内の1割と言われる最大の激戦区。

 この隊列が通夜の参列と言うのはあながち間違いではない。


 だが俺はそんなこと気にしていない。

 俺の目的は敵を、帝国のやつらを一人でも多く殺すこと。

 むしろ敵が多く戦いの激しい旧小国領に配備されたことに喜びを感じてさえいた。


 しかし……


 夕暮れが近づき、空が茜色に染まり出した頃、俺たちは戦場に着いた。

 だが、そこでは撤収作業が行われ、あちらこちらから「やっと終わった…」「ようやく帰れる…」そんな感動の声が嗚咽混じりに響いていた。


 …おわっ、た……? なにが……??


「あちゃー、伝令と行き違いになったか…」


 所々傷付き、泥で汚れているがそれでも高級とわかる鎧を着た男が決まり悪そうに頭を掻きつつ現れた。


「将軍!! それに、その…これはいったい……」


 俺たちを運んできた輸送隊長が将軍に詰め寄る。


「なんだ、その… 秘密裏に会談が行われていたらしくて、な? 先日、国王陛下と帝国の皇帝との連名でシュウセンセンゲンがなされたのだ。」


 …シュウセン、センゲン……?


「それは、つまり……」


 その言葉がうまく理解できないのは俺や輸送隊長だけではない。俺たちはみな、将軍の答えを固唾を飲んで待つ。

 数旬の沈黙の後、やはり決まり悪そうに将軍は口を開いた。


「つまり、だな…

 戦争は(・・・)終わった(・・・・)のだよ。」










 神竜山脈が被る雪の帽子も麓まで下り、ついに冬がやって来た。

 家の建設もなんとか間に合いはしたが、如何せん実質的には倉庫、野晒しのテントよりましとはいえ暖炉がないのでみんなで身を寄せあって寒さを凌いでいる。

 そんな中ギンはというと、周囲の地図作りの協力も石臼のための石材の運搬も終えて防衛のための待機任務に従事していた。



「やはり問題は聖職者、ヒーラーの不在なのですよ。」


 そんなわけでギンはマルフィリアと彼女の私物のチェスで遊びながら雑談である。

 マルフィリアのチェスは魔法使いのチェスと呼ばれるボードも駒も魔法晶でできた特別な物だ。普通の人には宝石でできた豪華な物に過ぎないが魔法使いが遊べばマスに森や沼地などの地形的効果が追加されたり霧や雨などの天候も反映されたり、ターンベースでは無くリアルタイムで遊ぶルールになる。

 具体的には敵の駒は自分の駒から見える駒や索敵を行って見つけた駒しか見ることが出来なかったり、駒を動かすのに地形が影響したり、駒の強さにプレイヤーの実力が反映されたりとより実戦的になっている。


「まあ、確かにな… 風邪引きが出たら一気にうつって全滅しかねん。」


 そんなチェスをボーマンも眺めながら雑談に加わっていた。

 第三者は立ち位置で見え方が変わる。プレイヤーの後ろならそのプレイヤーと同じ視界、ボードの横なら全体が見える感じた。

 なので時々ボーマンもプレイヤーとして参加して彼の指示で駒を動かしたりもする。


「そのためにポーションを作ったんじゃないのか?」


 ギンはマルフィリアに言う。

 錬金術の覚えのあるマルフィリアはギンたちと地図作りに行った先々で薬草を採取し時間の合間をぬってポーションを作っていたのだ。


「それなりに備えは出来てますですが、蔓延したらさすがに足らないです。それにもう冬になってしまったので追加の材料は厳しいですし… う~ん……」


 マルフィリアは盤面をにらみ唸る。

 ちなみにこのチェスでギンとマルフィリアの勝率は8:2といったい具合だ。力任せに真正面からぶち破るヴァルハラ・クランの戦いは正攻法で綺麗な守備をするマルフィリアと相性が非常にいい。


「嬢ちゃんが負けたら次は俺な。」


 ボーマンが楽しそうに言う。

 ボーマンとギンではボーマンの方が強い。ギンがぶつかろうとするのをうまくいなして逃げ回り、奇襲を使って左右からごりごり削って来るからだ。


「…ボーさんとはやだよ。」


 なのでギンは言う。ちなみにボーマンとマルフィリアの戦いは奇策対王道で戦いかたは真逆だがギンが駒の強さをマルフィリアに合わせると勝率が若干マルフィリアに傾くくらいでなかなかに伯仲して楽しい。


「嬢ちゃんとかぁ… 手の内を出し尽くしたら勝ち目がなくなりそうだからなぁ……」


「まだ奇策があるのですか!?」


「これでも戦争で飯食ってたからな。こいつらと違って実力がない分策はいくらでもあるさ。」


「それも実力だろ?」


 ギンが言うとボーマンは少し照れくさそうにポリポリ頬を掻く。

 だが実際、実戦でヴァルハラ・クランがこのボードゲームのように奇襲で削り潰されたり2割の惨敗をしなかったのはボーマンたち鷹の目の活躍が大きい。


「そういや嬢ちゃんはここでこうしていていいのか?」


「ふぇ? マルフィは開拓方面はまるで役立たずですから、ここで一緒に暇させてくださいですよぉ。」


「いや、そういうことじゃなくてな… ほら、最近騎士の赤毛のがアルバーとよく一緒に訓練してるだろ?」


「あー、そういうことですか…」


 ボーマンの言葉にマルフィリアは納得したようだ。

 確かに種まきで剣舞して以降、二人は仲良くなったようで訓練を一緒にしている姿をちょくちょく目にしている。


「…どういうことだ?」


 一人理解できないギンはボーマンに訊ねる。


「…あれだ、嬢ちゃんは元々フィリオ様の子飼の騎士じゃなくて外様だろ? それが傭兵団長やSランク魔法使いと仲良くしてんだ。結託して反乱起こされたらまずいだろ? だから同じSランクの戦士であるアルバーを取り込もうとしてんのさ。」


「なるほどねぇ…」


「…急激に興味が失せたような返事だな……」


「…ぶっちゃけそういった策謀論はまどろっこしくてかったるい……」


「…言っとくがお前も当事者だからな!」


 思ったことを口にしただけなのにボーマンに怒鳴られてしまう。


「あー… でもわかるですよ、マルフィも正直面倒臭いですし…」


「…嬢ちゃんもか…… 魔法使いってみんなこうなのか?」


 ボーマンが小さくぼやく。

 だがまあ、実際魔法使いはそういった国の権力に興味がない者が多い。

 魔法使い独特の秘密主義から他人と関わりを持ちたがらないという理由もある。しかしもうひとつ、魔法使いたちが所属する魔法協会という組織が特定の国や集団と太い繋がりを持つ者を重用しない方針にあるからだ。

 というのも魔法協会は国境を超えて全世界(今となっては神竜山脈より東側の大陸半分)の魔法使いを束ね、自分たちを世界の管理者と自称する組織だからだ。そのため、ギンたち三強はあくまでただの平協会員で俗世を離れすぎて世間では全くの無名の者たちが中枢を担っている。

 そして魔法使いにとっての出世をランクや特定の国での地位ではなく、魔法協会の地位に見出だす者が多い。


「とはいってもマルフィもさすがにまずいなぁと思ってるですよ? でもマルフィから「敵じゃないですよ。」って言うのは不審なだけじゃないですか?

 だからポーション貢いで問題になりそうなことの対策案出して、ちょっと仲間として認めてもらえるよう頑張ってるですよぉ。」


「…嬢ちゃんそこは、ちょっと『でも』仲間として、じゃないのか?」


「がっつり仲間として認識されたらあの殺意を纏った黒子の対策にあてがわれそうなのでごめん蒙るです。」


 殺意を纏った黒子とはフィリオの後ろに黒子のように常に控えているのに殺意を放ちまくっているモーガンのことだ。


「確かに面倒臭そうだが、赤毛のを離せるようにはなったんだ。あんまり気にしなくてもいいんじゃないか?」


「そうかもですけど… うぅ、それよりなにか案ありませんですか?」


「っと、そういや風邪対策だったな。…ってもなあ。現状でできることといったら、病人が出たときのための隔離場所と看病する人手を計画しておくことくらいじゃないか?」


 普通の街であれば隔離場所が教会、看病する者として聖職者がいるがここではそうもいかない。


「やっぱりそれくらいですよね。フィリオ様でもすでに計画をたててそうですが…はぁ、こっちも詰みなのでポーション貢ぎがてらフィリオ様のところに行ってくるですぅ。」


 そういってチェスを投了したマルフィリアはとてとてと歩いていった。

 そして残されたのは待機任務で暇をしている二人。


「…なあ。普通のチェスでもするか?」


「…より勝ち目ないじゃん。やだよ。」


 現状、開拓村は平和です。

おーやーしーらーずーがーあーあーあーあー……

とりあえず抜くまで元気がないです。そして予約とれたの1週間以上先……痛みはひいたけどつらい

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