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会議。

 これはとある騎士の追憶。


「やあ! とお!」


 カーン、コーン


 俺は固い木の棒で太い木の幹を叩く。遊んでいるわけではない、剣の練習だ。

 貧乏暇なし。忙しい両親に変わって剣技はマリアさんが教えてくれた。いや、剣技だけじゃない。読み書きも勉強も全部マリアさんが教えてくれた。キスの仕方も、それ以上も……


「やあ!!」


 強めに打ち込んだら腕にジーンと響き、手のひらのマメがズキッと痛んだ。


「いててててっ。」


 俺は打ち込みをやめて手のひらのマメを擦る。

 マリアさんが戦場に行ってからはいつも一人での稽古。だから手のひらにできた小さなそれが自分の成長の証のような気がして、少しだけ誇らしかった。


 …マリアさん、どうしてるかな……


 俺は通りを眺める。

 戦場に行ってから、マリアさんは時々手紙を書いてくれる。お金がなくて返事を出せず心苦しいのだけど、それでもマリアさんからの手紙は何物にも代えがたい宝物だ。


「来た!」


 そんな想いが届いたのか、通りに郵便やさんの陰が見えた。

 僕は走り、手紙を受けとる。


 今すぐにでも読みたいが、なんだか少し気恥ずかしくて僕は一人になれる物置に急いだ。

 物置につくとすぐ、俺は手紙を開けた。そこにはいつものようにマリアさんの綺麗な文字が並んでいる。


『お元気ですか? この間また小さな手柄を立てることができたのでまたこうしてお手紙を書きます。遅くなってごめんなさい。』


 そんなことないよ… 俺なんか返事を出すことすら出来ないのに……


『君のことだからきっと毎日剣の稽古をしているでしょう。無理をしていませんか?』


 無理じゃないよ。俺はマリアさんを迎えに行けるならどんなことだってやるよ。


『ちゃんと勉強もしていますか? 土地持ち貴族として認められるには頭もよくないといけませんよ。』


 うぐっ、確かにそうだ… 今日からちゃんと勉強もするよ。


『…とはいえ、私も偉そうなことは言えないのですけどね。』


 ん? どうしたの?


『戦争は思っていたよりもずっときついです。』


 ……


『つらいです。』


 …


『怖いです。』


 …どうして俺はそばにいてあげることができなかったのだろう……


『ごめんなさい、こんなことを書くつもりなんてなかったのに…』


 …どうして謝らせているのだろう……


『ごめんなさい、でもせめて今日は甘えさせてください。』


 …どうして……


『君に、早く会いたいです。』


 ……


 俺もだよ。マリアさん……



 しかし、これを最後にマリアさんからの手紙が来ることはなかった。







 ギンが抜いた木がほぼ丸太に変わった頃、フィリオ様の命令で開拓団の主要な人間が大きな天幕の下に集められていた。以前あった神竜山脈を越えるか否かの話し合いとの違いは職人や農家代表の平民が加わっていることだ。


「さて、そろそろ畑の方のキリが付きそうだが… 次に何をすべきか、皆の意見を聞きたい。」


 進行を務めるガルバスが静かに口を開いた。


「そうですな、まずはワシの邸宅を……」

「ギン、アルバー。なにか意見はあるか?」


 ジャンミールの発言を遮り、エイスは二人にふる。

 フィリオ様が話し合いに平民を加えることに決めたのだが、その理由はギンが話し合いにいなければ山脈を越える意見など出なかったこと、ボーマンたちとのちょっとした会話で現場の意見を聞く重要性を感じたことが理由だ。

 しかしそうはいってもいきなり貴族のいる話し合いに加えられた平民が意見を言えるわけがない。なのでこんなことで気後れしそうにない二人にエイスはまずふったのだ。


「酒場。」

「娼館。」

「よし!お前らは黙ってろ!!」


 エイスの意図を読んだのか、二人の意見にボーマンが的確にツッコミをいれた。

 エイスとしても戦闘専門、しかも突撃志向のヴァルハラ・クランの二人がまともなことを言うとは正直思っていなかった。だがエイスがツッコミをいれて、おかしなことを言えば貴族に睨まれると思わせたくもなかった。


 そのおかげか、二人の発言に一瞬ぽかんとした初参加の各代表たちも「ああ、気をまぎらわせようとしてくれたのだな」とか「おかしな意見でも罰せられたりはしないんだな」と感じてくれたようだ。


「あの…」


 大工の男が手を上げた。


「なんだ?」


「力仕事は皆が手伝ってくれるとのことですが、専門的なことが出来る者が限られております…」


 大工は厳つい男だがガルバスに促されて恐る恐る語り出した。


「それで、その… きちんとした邸宅を建てようとすれば冬までに完成させることすら難しい、です。なので、その、皆で冬を越せるよう、とりあえず簡素な物を複数建てるのがいい、と思います。」


「はんっ!平民が何を軟弱なことを!!」


 ジャンミールがいきりたてる。しかし、


「わっ、私もそれがよろしいかと!!」


 少し気の弱そうな、純朴な農家の男が意を決したように大きな声を出した。


「なぜだ?」


「ふ、冬さえ越せれば私たちはまたテントでの生活でも大丈夫です。そっそれで簡単な、倉庫のような物を建てて置いてもらえたら私たちが出た後にすぐに収穫した小麦を保管することが出来ます。」


「なっ!?きっ貴様!貴族に倉庫で暮らせと言うのか!!」


「ひっ!」


「ジャンミール。」


 農家の発言に激怒したジャンミールが鼻息荒く声をあげ、それをフィリオ様が窘めた。


「なんですかフィリオ様!今こやつは平民の分際で貴族を馬鹿にしたのですよ?これは貴族の沽券に関わる重大な叛逆です!今すぐこやつを絞り首に……」


「ひっひえぇ……」


「ジャンミール!!」


 エイスは思わず怒声をあげる。


「ん?なんですかなエイス殿?私は貴族の正しいあり方を説いているのですよ? 貴族とは蒙昧な平民を正しく導くのが責務、なのにフィリオ様は平民に媚びへつらうご様子、これでは僻地に追いやられるのも当然のことでしょうな。まったく、正しい貴族とはストレイクーガ辺境伯殿のような……」

「貴様ぁ!!」


「エイス。」


 エイスが激昂し剣を抜こうとするとフィリオ様が止めた。


「しかし…」


「よいのです、エイス。

 …ジャンミール。忌憚なき意見を求めたのは私です。忌憚なき意見を述べたからと罰しては筋が通らないでしょう。少し口をつぐみなさい。」


 フィリオ様の言葉にジャンミールは不満げながら黙った。

 しかし会議の場は完全に冷えきってしまった。


「では、私から警備に関する要望を上げさせてもらいます。」


 小さくため息をはき、ボーマンが手を上げた。


「現状、村の周囲を逆茂木で囲んでおりますが、これは冬の間、薪としても利用する予定です。なので利用し無くなった箇所から順次柵、可能なら防壁を築くことを要望します。」


「…わかりました。しかし冬の間に可能な限り更なる開墾に人手を使いたいので対応可能であれば柵でお願いします。」


 逆茂木とは根や枝の先、つまりトゲトゲ出ている方を拠点の外に向けて転がした非常に簡易的な防壁だ。


「わかりました。あと、現在平時における村の周囲の警戒を人をやって行っていますが、より少人数で行うために見張り台の建設を要望します。」


「見張り台、ですか……」


 フィリオ様が少し思案する。

 防壁について拒否したことも考えて悩んでいるのだろう。

 見張り台を建てれば確かに防衛隊の仕事は楽になる。だが防衛隊の仕事が楽になったからといってその分開拓の方に人員を回せるわけではない。彼らはなにか起きたときの備え、手が空いているからといって他の仕事をさせては有事の際に使い物にならないからだ。


「…どう思いますか?」


 フィリオ様はそう大工の男にたずねた。


「えと、その…すぐに取りかかります!!」


 ジャンミールの一幕で場が冷えきっているせいか、男は焦ったように答えた。


 だが、そういうことではない。


「フィリオ様は忌憚なき意見を求めておられる。言いたいことがあるのなら遠慮せず述べよ。」


 なのでエイスは大工にそう促した。


「あの、その…正直じきにいうと倉庫とはいえ皆が冬を越せるように作ろうと思うと時間が……」


 大工の男は申し訳なさそうにいう。


「小腹すいたなぁ… パンでいいからこう、ちょっとつまめるものが欲しいな。」


「…自由だな、おい……」


 そんな中、ギンがボソリと呟き、ボーマンがツッコミをいれる。

 場の空気をまったく気にしないのはすごいが、ボーマンのいうことがもっとも過ぎてエイスもただ呆れる。


「パン? ……はっ!おい、石工の!お前の方は人手はいいのか??」


 一人、なにかに気付いた大工の男が隣に座るスキンヘッドの男に声をかけた。


「むっ? ……村で使う大型の臼となると… 人手が欲しいな……」


 石工の男は無駄に渋い声でいった。


 確かにそうだった。


「はっ! そうなると麦の収穫前に水車小屋も造らねぇと。」


「あの、水車を作るのなら水路を畑まで伸ばしてほしいのですが……」


 神竜山脈を越えた結果、当初の計画と違い冒険者を人足として雇えず人手が足りない。



 何を優先させ、どういう順で開拓していくのか。

 その後の話し合いは長く続いた。

中盤以降の部分を当初はエイス視点にしようと思っていましたが騎士より平民中心の話なんでなんか中途半端になってしまいました。

読みにくかったらごめんなさい。

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