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ラーガシュヴィヴァール

 ぶぉん!!


 丸太のようなラーガシュヴィヴァールの尻尾が激流のような速度で薙ぎ払われるのをギンはかわす。


「かっかっかっ、どうした人の子よ!」


「きしっ、最高だよ!最高だよあんた!!」


 爪、牙、尻尾。どれをとっても必殺の一撃。

 対してこちらの攻撃は重く業物のハルバートでも得意の魔法でもラーガシュヴィヴァールの輝く鱗に傷をつけることすらかなわない。


 絶望的な状況。なのにギンの心はまるで恋にときめくうら若き乙女のように高揚していた。


 俺ごときの武では通用しない。タイマン用の通常魔法も無意味… ならどっかで極大魔法を当てるしかねぇ!


 移動での飛行魔法、戦闘中の消費を考えると極大魔法は一発撃てるだけだろう。


「なにを考えているのか知らんが、立ち止まっていてはただの的だぞ!」


「うおっ!!」


 迫り来る鋭い爪をなんとかかわすが、その斬撃は地面を深く抉った。


 考えてもしかたがねぇ!!


「主、与え賜うは始原の火。」


 ギンは襲いかかるラーガシュヴィヴァールの猛攻をかわし、詠唱を始めた。


「我、欲するは四元の火。」


 ギンの中からハルバートへと魔力が流れる。


「熱せよ!乾せよ!」


 ハルバートの魔法晶に赤き光が灯った。


(くら)きに(くら)(くら)きに(くら)い、(くら)(くら)いは深淵が底、冥府に燃ゆるは炎獄が火。」


 小さな火球がギンの前に現れる。


「紅々と燃え、煌々と輝く。攻々と焼き、荒々と滅ぼす。」


 詠唱に従い、火球に力が渦巻きだす。


「そは主が愛、我が力!生者が畏れ、亡者が罰!」


 その間も、攻撃をくぐり、


「此岸を燃やし焦土に変えよ!そは生者を滅す業火!!」


 攻撃をかわし、


「彼岸を焼いて浄土に変えよ!そは亡者を生む聖火!!」


 ギンは一歩前へと踏み込んだ。


「爆ぜて生まれよ!!燃え尽きて死ね!!」


 そして…


炎獄爆(インフェルナ・ノヴァ)!!!」


 火球はラーガシュヴィヴァールへと放たれる。


 それは石の城壁を吹き飛ばす爆発と鎧ごと敵兵を焼き溶かす熱量を併せ持つ炎系最強の極大魔法。


 しかし…


「っぬん!!」


 バサッ!!!


 羽ばたき一つ。ラーガシュヴィヴァールのたったそれだけの行動で生じた猛烈な風により、軌道はねじ曲げられ必殺の一撃は遠く山脈の岩肌を消し飛ばすだけに終わった。


 …ちっ


「かっかっかっ、今のはよかったぞ人の子よ!

 では今度は我の炎を受けてみよ!!」


 ラーガシュヴィヴァールはカッとその大きな口を開く。


 ゴウ!!


 その口から放たれたのは灼熱の炎。

 神話でドラゴンブレスと呼ばれるその攻撃は詠唱も溜めもないでたらめな魔法攻撃。


 くっ!せめて一瞬の隙があれば…


 炎獄爆を当てようと一歩踏み出していたのが災いし、ギンは回避する間もなくその炎に包まれる。


 ドーン!


 刹那、耳をつんざく轟音が轟き、ギンの姿は爆煙に飲み込まれた。


「…ふぅ、しまったしまった。我としたことが少し興がのってやり過ぎてしまったわ。」


 未だ煙に包まれるギンのいたであろう場所を見てラーガシュヴィヴァールはため息をつく。


 ぼふっ


 そんなラーガシュヴィヴァールの横っ面に空気の弾が当たった。


「マ、マルフィがあ、相手するです…!」


 魔法を放ったのはマルフィリアだった。

 しかし立ち上がってはいたもののその足腰は生まれたての小鹿のようにガクガクと震えている。


「…なにをするのだ小娘。貴様より強い者が敗れたのだ、大人しくしていればいいものを……」


「う、うるさいです!ギンさんは負けてないのです!あの人が…御師匠様が最強と認めたあの人がこんなことで負けるわけがないのですよ!!」


 きっ、とラーガシュヴィヴァールを睨むマルフィリア。


「…世迷い事を…… しかし戦うというのなら…相手になるぞ?」


 ずいとマルフィリアへ一歩踏み出すラーガシュヴィヴァール。


 その時だ。


「炎獄爆!!!」


 突然、立ち込める煙を切り裂いて火球が飛び出し、ラーガシュヴィヴァールの腹を直撃。凶悪なほどの爆発を起こしてその巨体を宙へと弾き飛ばした。


「きしっ、今度は直撃だぜぇ…どうよドラゴン様ぁ!!!」


 剥がれ落ちるラーガシュヴィヴァールの白い鱗がキラキラと光を反射する中、立ち込める煙からギンはゆらゆら幽鬼の如く現れる。


 かわせたわけでも受けきれたわけでもない。その証拠にギンのローブはボロボロに焼け焦げて酷い有り様だ。

 だがギンは無事である。

 それこそが多くの魔法使いがギンを三強で最強に推す理由だ。

 思い出してほしい。ギンの逸脱は『回復』ではなく『吸収』。その最たる強みは単純な回復速度ではなく、敵の魔法攻撃を受けてもダメージを負わずむしろ自身の魔力を回復することにある。ドラゴンブレスの直撃を受けたギンはその魔力を回復し、再び極大魔法を放ったのだ。


「くっ…くくくっ、かーっかっかっかっ!!」


 高らかに、豪快に、ラーガシュヴィヴァールの笑い声が響いた。ギンの渾身の極大魔法も多少の鱗を剥がした程度のダメージしか与えられていない。


「きしっ、極大魔法の直撃すらかすり傷ってわけか…おもしれぇ……」


 余裕などない。せっかく回復できた魔力だが、隙をつくために『無詠唱』という予備動作をなくす代わりに倍の魔力を要するに発動法を用いたため、再び空に近くなっていた。


 それでもギンは絶望的状況に、圧倒的強敵に、本心から歓喜していた。


「ふっ、合格だ。」


 しかしそう一言いうとラーガシュヴィヴァールは戦意を解く。


「……へっ?」


「始めに言っただろう、力を示せと。」


「まあ、そうだが…」


「見よ、人の子よ。」


 ラーガシュヴィヴァールは首を西へ向けた。


 遠くに見える、宙に浮かぶ島々、密林に生える山ほどある巨木、絶えず噴煙をあげる火山、地平に沈む夕陽が見たこともない世界を赤く染めていた。


「うわぁ…絶景、です……」


 美しすぎる未知なる世界。


「見たか人の子よ、この世界は山脈のこちら側にも広大な大地が広がっている。そしてそこには我以外にも多くのドラゴンが住んでいる。我の鱗すら剥げぬようではそやつらに食われなんの変化ももたらさぬからな。よってこうして試させてもらったというわけだ。」


 なるほど、多くのドラゴンねぇ…


「そんな連中より俺としてはあんたとケリをつけたいんだがな。」


「あわっ、あわわわわっ!ギンさん!何てことをいうですかっ!」


 ギンの言葉にマルフィリアはあわあわする。


「さっきは負けたりしないって言ってくれた気が…」


「しっ、知らないです!!」


 マルフィリアはぷいっと膨れてそっぽを向く。


「かーっかっかっかっ、血の気の多い人の子よの。」


 そんな二人にラーガシュヴィヴァールは好々爺のように笑った。


「まぁそう急ぐでない。こう見えてもドラゴンで最上位の王という位を持っておる。そしてそんな王の中でも我は最強のドラゴンを自負しておる。

 力不足は理解しておるのだろ? 仲間を集め力をつけよ。そして位無きドラゴンを倒し、王子を名乗る上位のドラゴンを倒し、我と同じく王を名乗るドラゴンを倒してみよ。

 もし誰かしら王のドラゴンを倒したのなら、その時また相手になってやろう。」


「言ったな?」


「ああ。

 っと、そうだ。剥がれた我の鱗を集めておくとよい。それを持っていれば我が縄張り、この山脈のモンスターは襲ってくることがないだろう。餞別として受けとれ。」


「っ!! ああ、ありがとう。」


 ギンは素直にお礼を言う。いきなりの棚ぼただがこれで無事に開拓団を連れて山脈を越える術ができた。


「なに、我は変化を後押しし停滞を守護する王。汝らがもたらす変化、楽しみにしておるぞ。」



 こうして、ギンたちはようやく真の魔境を目にしたのだった。

とりあえず3万文字超えたと思うとで賞用のタグを付けました。


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