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神竜山脈

 東の空が白みだし、たなびく雲が紫色に染まりだした頃。


「おい、生きてるか?」


「はぁい、なんとかですが。」


 そう答えるマルフィリアは疲労困憊の様子だが大きな怪我はない。

 夜半に始まった戦闘はオークたちの襲撃から血の臭いに群がってきたウェアウルフたちとの戦いを経てようやく終わりを迎えた。オークたちはウェアウルフが来た時点で早々に立ち去り、ウェアウルフも夜の帷という有利が失われた今、木々の間に隠れている。

 おかげでギンたちは血の海死体の山の中、背中合わせにへたり込んで一息つけることが出来た。

 しかしいつまでもそうしているわけにはいかない。


「とりあえず魔石だけ回収して先に行くか。」


 ギンは立ち上がりマルフィリアに手を差し出した。


 死体の山はウェアウルフにとってはご馳走の山である。このまま彼らの縄張りに留まりでもしないかぎり、余計な追撃はないだろう。


「そうですね。」


 マルフィリアもその手をとって立ち上がる。


 ギンたちは魔法使いにとって生命線になり得る魔石だけ回収し、先に進むのだった。





「あのぉ、言い忘れていましたですが…」


 飛行魔法でしばらく進んで休憩をとっていた時のこと、マルフィリアがそう切り出した。


「…なんだ?」


「ご想像の通り、マルフィは帝国の騎士ですよ?」


「……ずいぶんあっさり認めるのだな。」


「別にマルフィはフィリオ様に不利益をもたらすつもりはないですから。でもバレてしまうとあらぬ疑いをかけられてしまうですから内緒にしてもらえたら助かりますです。」


「わかった。」


「…ずいぶんあっさり認めてくれるですね?」


 マルフィリアは少しいたずらっ子っぽく言った。


「まあ裏切ったらその時に殺すだけだ。とはいえ背中を合わせて戦ったんだ、そうならないと信じているよ。」


「はぁい、そうならないと約束するですよ。」


「ん、じゃあそろそろ……」


 ゾクッ


 『魔法軍師』や『聖女』を彷彿させる理外の強者の気配にギンは戦闘態勢をとって山の上をにらむ。


 …なにも、いない??


「どうしたですか?」


「…いや、何でもない。行こう。」


 ギンたちは再び山を登りだした。





 さらに2日、ギンたちは山を登り続け、ようやく山頂があと少しのところまで来た。

 岩や礫のゴロゴロする荒涼とした岩場では巨大なロックバード、見渡すかぎり白色だけの凍える氷雪地帯では雪男たちの襲撃があったがなんとかしのいでここまでこれた。


「大丈夫か?」


「はぁ、はぁ… はぁい。なんとか、です…」


 山頂が近くなると何故かパタリとモンスターの襲撃がなくなったのだが、マルフィリアはかなりきつそうだ。

 昼夜を問わずいつモンスターに出くわすかわからず出会えば戦闘、そんな中で強行としか言えない登山。疲労はピークに達したのに空気が薄くなりすぎて休んでも疲れが取れないどころかむしろ疲労が溜まる。

 まだ戦えない幼い頃から昼間は矢の束や薬、包帯を抱えて戦場を駆け回り、夜は吹きっさらしの塹壕で眠る。Sランクになってからも前線の固定砲台として極大魔法と仮眠を繰り返していたギンならまだしも、幼いマルフィリアには酷な状況だろう。


「…神竜山脈を越えるのは不可能ではないか?」


 その様子を見てギンは言った。

 ギンの体力、魔力的には問題はない。だが開拓団の一般人たちには厳し過ぎるし、モンスターから彼らを守りきるのも困難だ。


「いえ、…まだなにか、なにかあるはず、です。」


「…どうしてだ?」


「神竜山脈の、山腹を開拓する方が、不可能です。モンスターの襲撃から戦闘で守りつつ、モンスターの襲撃から守る防壁は、作れませんです。絶対に一般人たちに大きな被害がでて、開拓は失敗に終わるです。」


 …確かにそうだ。フィリオに王国と戦う意思がない以上、魔の森開拓の選択肢は無く、神竜山脈を越えるしかない。


「すみませんでしたです。お待たせしましたですよ、マルフィは行けるですよ?行くですよ?」


 マルフィリアはそう言うとよろめきながら立ち上がる。


 やれやれ…


「ほら。」


 ギンにマルフィリアに背を向けしゃがむ。


「…すみませんです……」


 ギンはマルフィリアを背負うと山頂に向けて飛ぶ。


 そして山頂が目前になった途端、ギンたちはフッとなにかを越えた。


 結界!?


 それは他者の侵入を拒むような攻撃的なものではなかったため、ギンたちは気がつきもしなかった。


 突然の事態に焦るギンたちの目の前にさらに驚きの光景が広がっていた。

 先程まで吹き付けていた冷たく激しい風はなくなり、穏やかで暖かい光に包まれたそこは、草花が生い茂りまさしく常春の楽園といった別世界だった。


「ここは、いったい…?」


 あまりの出来事に柔らかな緑の絨毯に降り立ったギンたちは言葉を失った。


「…天国、なのですか??」


「違うぞ、人の子よ。」


「「!?」」


 後ろからかけられたその声にギンたちは驚き振り替える。


「なっ!?」


 バサリと巨大な羽根を翻して着陸したのはあまりにも大きな白く輝くドラゴンだった。


「ここは我の領域であるぞ。」


「なっ、なっ!?」


 ドラゴン、それは神話の登場人物、実在しない神の化身。

 未だかつて知るよしもなかったほどの力を内包したあり得ない存在がそこにいる。


「えっ?…えっ??」


 ドラゴンが敵意を発していなかったため、ギンはただただ驚愕するしかできない。


「かっかっかっ、言葉もないか。では我から名乗ろう。我が名はラーガシュヴィヴァール、変化を後押しし停滞を守護する王である。」


 ラーガシュヴィヴァールと名乗ったドラゴンは堂々としている。


「…俺の名はギン。ここには……」

「よい。」


「えっ?」


 ギンの言葉はラーガシュヴィヴァールに遮られた。


「我は見ていた。開拓のために山脈を越えに来たのだろ?」


 …なるほど、途中で感じた気配はラーガシュヴィヴァールのものだったのか。


「ではラーガシュヴィヴァールよ、山脈を越える許可を。」


「ああ、だがその前に……その資格があるのか我に示してみよ!!」


 ぶわりと強烈なプレッシャーが広がり、一瞬で草花は枯れてマルフィリアは小さく悲鳴をあげてへたり混む。


「…きしっ」


 絶望的な死の気配にギンは果てしない高揚を感じた。


「さあ、来るがよい!人の子よ!!」



 そして白きドラゴン、ラーガシュヴィヴァールとの戦いが幕を開けた。

ドラゴンのいう『王』は強大な力を持つものの意味です。ランクが下がると『王子』、のーまるなぺーぽーはなんにもつきません。

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