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イチから始める冒険奇譚  作者: アキカン
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複数人でパーティを組み、そのパーティで様々な場所から要請のあった案件をこなしていく。

その案件をミッションと呼ぶ。

それは討伐から探索など様々だ。それらをこなして報酬として金銭を得る。

そしてそんなパーティ達の最大目標が魔王討伐。どこに城があるかも分からない。

しかし絶えない女性の失踪、村が一夜にして消える…確証はないがそんな事をやってのけるのは三百年前にも災厄を振りまいた魔王に違いない。魔王討伐こそが全パーティの目標になる。



仲間たちと時にケンカをして――そういった事も必要だ。

仲間たちと笑いあい、涙を流して――まさに理想。

仲間たちと共に傷つきながらも――冒険してるんだからそりゃそうだ。

仲間たちと一つになって、困難を乗り越える――でも、そんなのは。


「セージはアルミが好き…なの?」

「嘘よ、セージがアルミを好きなんて…」

「…確かにアルミは仲間だ、でも…俺が二人に抱いている感情とは違うよ。だから…!」


勝手に三角関数にぶち込まれ、


「あ、アルミちゃんさあちょっとお金貸してくれない?ほら、村の女の子にカワイイ服買ってあげるのも俺の仕事でしょ?」


遊び人に金をせびられ、


「うちの子にひどい事を言ったそうじゃないの!あなたねえ、どこの育ちか知らないけど常識を疑うわ!」


マザコン男の母親に文句を言われ、


みんなで一緒にがんばろう、なんて理想の理想の、そのまた理想だ。


いつのまにかこんな風になったパーティにいるのは私、アルミ・ユグゼラ。

お金がないからパーティに登録して、偶然同じ時期に登録をした5人とパーティを組んだ。

パーティの制限はただ一つ、17歳以上である事だけだった。だから私は17歳になるとすぐにパーティへ参加したという次第だ。母様は反対したけれど妹二人に病気の父がいては働きにもいけない。だから私は家を出た。

そこまでに後悔をする要素はない。つまり、その先にある。


まずパーティの1人目、自称勇者のセージ・ハインズ

金髪で藍目。そして顔立ちも整っていて長身。まさしく敵なしの男だけど、性格が好きになれない。

最初は気さくでいい人だと思っていた。過去形だ。

今は女二人に好意を寄せられている現状に酔いまくりの優柔不断、公私混同野郎だ。


「なんだ、アルミ?お前も俺に言いたい事があるのか?…大丈夫、愛を伝えられる準備は出来てる」


そして最近になってナルシストになりつつある。

次にそんなセージに恋する乙女その1、アマネ・クルーゼ

内巻きカールに冒険に似つかわしくないフリルのたくさんある服を纏って、常に上目遣いを決めている乙女だ。しかも天然なのか狙ってなのか分からないドジっ子属性も兼ね備えている。ちなみに私の方が背が小さいはずなのに彼女は常に上目遣いをしてくる。つまり身長と言う概念すら超えてくる猛者だ。


「アルミちゃん、眉間にしわが寄ってるよ…?」


誰のせいだ、誰の。


そして恋する乙女その2、ミレイナ・テパス

ツインテールに、やや狐目の低身長。口癖は「べ、別にセージの事なんか好きじゃないんだからね!」

もう本当に勘弁して欲しい。言わずもがなツから始まってレで終わるアレだ。遠目から見ている分には可愛らしいが毎日見ているとちょっときつい。いや、きつくなってきた。


「ぼうっとしてると置いてくわよ!」


普段は良い子なのに、セージが絡むと周りが見えなくなる。

これは二人に同じ事が言えるけれど。

窮地に陥っても二人がセージと同じ道に行くといってきかない。戦闘中もセージばかり守って、セージも二人ばかり守っている。嫉妬か?と言われればそうかもしれないけど、それってパーティなの?


次は遊び人で金遣いの荒いエドワルド・ニース

これまた色男で歯が真っ白だ。

行く先々で女の子とそういう関係になり、金が足りないと私に言ってくる。

人生楽しまなくちゃ損だろ?とどうだと言わんばかりの顔で言ってくるけど金を貸して欲しいって言った人に言うセリフじゃないと思うんだ。


「あれ?マリアちゃんにあげるネックレス代、少し足りないかもなあ…」


見るな。頼むからこっちを見るな。


最後はクランデルタ・プリセラ

実家が金持ちのくせに世間を知るためとか言う理由でパーティにいる根暗な男だ。

会話もしなければ戦闘でも後ろでほぼ見ているだけ。泥が跳ねるのが嫌だそうだ。

普段は黙っているくせに誰かに注意をされると電話で母親を呼び出して電話越し、または直接のお説教だ。

おかしい。何で母親に言うんだ、そして私が「ちょっと猫背なんだね?」と言っただけで母親を出してくるのはやめて欲しい。


「……なに、また僕の悪口…?」


電話かけようとするのをやめろ、やめて下さい。


以上が私たちのパーティになる。

最初は違った、みんなが一つになろうとしていた。でも今は、惰性の塊。

私は冒険がしたい。母様を楽にさせてあげたい、魔王を倒して世界から闇がなくなれば良い。そう言ったら、彼は…セージは魔王なんていないと、そんなのは時代遅れだと笑っていた。

悔しいとも悲しいとも違う、その時に感じたのは虚無感だった。


でも、だから私は冒険がしたい。悪い奴等をやっつけて村を、街を平和にしたい。

他のパーティが当たり前にやっている事をやりたい。

このまま同じ街に意味もなく留まって飲み食いし、痴話げんかをしているパーティにはいられない。


「あの、みんなに話したい事が…あるんですけど…」


中央区にある、ミッションを管理しているアバンデラという施設に戻ると5人は変わらず視線が合わないままミッションが張り出されている掲示板へと進んでいく。少し声を大きくしてそう言うと振り向いてくれた。


「私ね、大きいミッションとかやってみたい。魔王捜索でずっとミッション続けているパーティとかいるでしょ?ああ言うの―」


「魔王討伐なんて無理だよ、そもそもそんな大きいのは俺たち向きじゃないだろ?」


「あんまり痛い事とか、私は嫌…かな?」


「じゃあ、さ…ええと、もっとちゃんとミッションとかやりたいな。せっかくパーティ組んだんだからね。だから―」


「ちゃんとって何よ?やっているじゃない」


「そうそう、それにそんな熱くなるのってすげえダサいじゃん?」


…分かっていた。もう、私と彼らの溝は埋まらない。これから埋めるような事も、ここまできたら出来ない。

しようとも思えない。だってもう、私は彼らを仲間ではなく一緒にいる人たちとして考えているから。

怖い、これから先に自分が放つ言葉がとても怖い。でも言わなければならない。

さんざん考えて出した自分の答えだ、大丈夫、きっと大丈夫。

私はすっと息を吸い込んでから言った。


「私、このパーティ抜けるね」


ずっと同じでいる方が楽だ。でも、それだけじゃダメな時もある。きっと今がそうだ。

セージが少しして「分かった」といつもみたいに笑って言った。他の人たちも小さく頷いて、すぐに掲示板の方へ歩いて行った。

理由も聞かない、あわよくば引き留めてくれるかもしれないなんて儚い妄想は消えた。

でもこれで良いんだ。このパーティに私は必要ない。そして、私にもこのパーティは必要ない。

これでゼロだ、いや、ゼロじゃないな、イチから始める。私がイチからやり直していくんだ。






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