幸せを見た日
19歳、6月
私は2番目の兄の結婚式に出席するために地元へ戻ってきていた。
久しぶりの実家にホッとして、家族の顔を見て安心した。
久しぶりに会った姪も、いつの間にか掴まり立ちができるようになっていた。
覚えたての化粧をして、実家を出る前に買ってもらった青いドレスを纏った。
胸元でキラキラと光るビーズが、私の心を照らした。
「おーい!そろそろ出るぞー!!」
一階から聞こえた父の声に慌てて小さなカバンを手に取った。
結婚式場は田舎者の私からすれば、とても人の多い街の中心にあった。
コツコツとヒールを鳴らして歩けば、少し大人になったと錯覚しそうになった。
白い壁に高い天井。
楽しそうな笑い声と、忙しそうな足音が反響して混ざりあっていた。
「おはよう。」
そう言って私は従兄弟の娘に声をかけた。
久しぶりに会う2人は、恥ずかしそうに小さな、小さな声で返事をした。
「おはよう…。」
なんとか拾ったその音は、とてもかわいいソプラノの声だった。
当然のように2人もおめかししていて、お揃いのお団子頭が印象的だった。
もちろん私の姪もフリフリのドレスを着て、まだ生えきらない少ない髪を束ねていた。
姪の父である私の1番目の兄は朝から少し浮き足立っていたように思う。
余程、弟の結婚式が楽しみなのか、それとも緊張してガチガチの父を面白がっているのか。
兄にしては珍しいいたずらっ子のような笑みからすれば、それが後者であることは明らかだった。
父は会場に着いてから何度も襟を整え、袖口をいじっていた。
こんなに落ち着かない父を見るのは2度目だった。
1度目は半年ほど前の長男の結婚式。
挨拶の時にしどろもどろになり、自分でも苦い笑みを浮かべるほどの結果となった。
その記憶がまだ新しいためか、何度もセリフを確認していた。
先ほど整えていた襟元は、すでに黒い蝶ネクタイが曲がってしまっていた。
「お父さん。」
そう声をかければ、ん?と見開かれた大きな目がこちらを向いた。
「ネクタイ、曲がってるよ。」
そう言って手を伸ばせば、父は大きな体を少し屈めた。
結局こうして私が直しても、父は落ち着きなくキョロキョロと周りを見渡すので蝶ネクタイはすぐに曲がってしまった。
それに私は小さく笑って、指定された先に着いたのだった。