9話
「父は現魔王なんです。」
爆弾発言すぎる。ポカンとして反応出来ない。
魔王……三百年以上在位している魔族の王。
そんな魔王と稀代の魔女との子供がミシェリア。
サラブレッドすぎるだろ。
「………ミシェちゃん。魔法少女マジカル☆プリンセスのマリアたんそっくりな上に魔女と魔王の子供。うひょぉぉぉお、その設定美味しすぎる!!」
出た、オタク脳。
隠しきれない興奮をダダ漏らししながらミシェリアに抱きつくちーちゃん。
きれいな髪をグシャグシャにするほど撫で回す。頬擦りしながら撫で回す。
「あわわわわ、マサオミさん助けて下さいぃぃぃぃい。」
涙目で助けてくるミシェリア、可愛い!
かわいそうな状況だが可愛い!グッジョブちーちゃん!
と、まあ放っておくわけにもいかないのでちーちゃんを引っ張りはがす。
「うぅ……ひどいです。髪がぐちゃぐちゃですぅ。」
涙目のミシェリアはいちいち可愛い。ちーちゃんとグーサインを送りあったのはミシェリアには秘密だ。
「あ、あの!ところで、その魔法少女なんとかというのは何なのでしょうか?」
あ、ミシェリア……それを聞いてはいけない。
「ぬふふ、気になるでしょ!」
ちーちゃんのスイッチがカチッと入る音が聞こえるように分かる。
これは語り出すと止まらない事は身をもって知っているので、心の中でミシェリアに合掌しておく。
ちーちゃんは自分の持っているカバンからスマホを出し、語り出した。
「このね、金髪のミシェちゃんにそっくりの女の子ね、最初はこのピンクと青の子達とは敵対してたんだけど…」
相槌すら打たさないほど喋る喋る。
ミシェリアは圧倒されて、たぶんちーちゃんの話は頭に入ってないだろう。
なにより、魔法少女云々よりスマホが気になるんじゃなかろうか。
止めようにもこうなったちーちゃんは止められないから、スイ達の様子でも見てこよう。
ミシェリア、頑張れ!
ミシェリアの家の外へ出れば、すぐ側の小川の近くにスイ達はいた。
「おーい。」
近づきながら声をかける。
気づいた二人は手を振り近寄ってきた。
「何かしてたみたいだけど、楽しいかい?」
二人して必死に頷く。
こちらの言うことは理解出来ても、やはり喋ることは出来ないみたいだ。
知識を与えることが出来るなら、教えたら喋るようにならないのかな。
どうせ、しばらくは時間を潰さなくちゃいけないんだし、ちょっと試しにやってみよう。
「ねえ、スイ、スニ。ミシェリアもちーちゃんもしばらく出てこれないから僕と喋れるか挑戦してみない?」
二人はきょとんとした後、お互いに顔を見合った。
少ししてゆっくりと頷いた。
「よーし、じゃあ声が出るか試してみよう!あーって出るかな?」
「…………。」
口を大きく開けただけで声は出ない。
「お腹に力を入れて、空気を吐き出しながら。」
お腹を手で抑えながら「あー」と声を出すお手本を見せる。
「………ぁ……。」
お、声のような感じが出てきた。
スライムの頃は呼吸もしなかっただろうし、感覚を掴むのが難しいかもしれないな。
そもそも、スライムだから形はちーちゃんだが水色の透明体にしか見えない。空気を吐き出すって感覚は分かるのだろうか。
でも、もう少しで出そうな気はする。
「ぁ……ぁー………。」
少しだが、スイもスニも声が出てきた。
「おー、いいぞ。その調子。」
しばらく練習していると、スニの声が出るようになった。
「あー、あー。」
「ぁぁ……。」
スイももう少しだ。
「ぁ…あ、あー、あー。」
「スイもスニもすごいぞ!一先ず声が出るようになったじゃないか!」
スイもスニも努力家のようで、途中で諦めたりはしなかった。
そういう雰囲気やオーラも微塵も感じられなかった。
僕も教えてるうちになんだか父性のような感覚が湧いてきて、自分の子供のように二人を可愛がりたくて仕方ない。
「よしよし、二人とも偉いぞ!」
二人の頭を撫でる。
すると、二人は飛び跳ねたりニコニコ笑い、もの凄く喜んでいるようだ。
見かけもちーちゃんそっくりだが、声も似てる。
やっぱり見かけだけじゃなく、身体の中の作りも丸っとコピーされて出来ているのだろうか……。
と、まあそういうことはとりあえず置いといて発声は出来たから「あ」以外も教えていこう。
気づけば陽がだいぶ傾いてきた。そろそろちーちゃんも落ち着いた頃だろうか。
あれからスイとスニはコツを掴んだのかめきめき成長した。簡単な単語は喋れるようになった。「川」「森」「家」など見える範囲で簡単なものを中心に教えていたのだが、こうも飲み込みがいいと教えがいがあっていい。
「スイ、スニ、そろそろ暗くなるから家の中に入ろうか。」
「「はーい。」」
うん、いい返事だ。
更新ペースが落ちてます。週一では更新頑張ります。