7話
戻ってきたミシェリアは新しくお茶を入れ直し、話し始める。
「ちーさんの力もなかなか規格外でしたが、こちらのスイちゃん達も本来持ち得ない能力を得ていますし、驚きの存在です。」
この世界では基本的にスライムというのは、魔物の中でも弱い分類にあたる。
プルプルからドロドロまで種類はあれど、粘着質な液体状の塊で能力も獲物を体内に取り込むくらいしか出来ない。思考能力もほぼほぼ無いと言われている。
しかし、スイ達は元の一個体の時からある程度の思考能力を保持しており、分裂をした後は個々の思考能力を有している。
おまけにコピー能力も持っている。
元々の突然変異に加え、ちーちゃんとのやりとりで本来使用出来なかった能力を覚えたのではないかということだ。
「もう少し魔力の使い方を覚えるだけで、そこそこの魔物とは立派に戦えると思います。」
ミシェリアはお茶を一口飲み、話を続ける。
「私は、魔力を有するもの有しないものどちらもが脅威に晒される可能性があると分かっていながら……スイちゃん達に知識を与えどこまで強大な力を持つ事が出来るのか知りたいです。」
ミシェリアはスイ達が今以上に力を持つようになれば、今のようにおとなしいとは限らない。
何かしらの原因で暴走状態になり、無闇に魔物や人を襲っていく可能性はゼロではないと言う。
「スイちゃん達は生まれたての赤子のような状態で……例えば、思考能力と一緒に感情が発達していけば怒りや憎しみといった負の感情で動いてしまう事があるかもしれません。それは、ちーさん達も危険な状況になるかもしれません。」
スイ達は、ミシェリアの話がまだよく分からないのか困惑したような表情になっている。
「それが分かっていながらも、私は未知の存在への興味が勝るのです。どうかスイちゃん達に私のあらゆる知識を与える事を許していただけませんか?」
コトっとちーちゃんがお茶の入ったコップをテーブルに置いた。
今までミシェリアの話を静かに聞いていたちーちゃんが口を開いた。
「ミシェちゃん、危険分子はみんな持ってるよ。魔力だけで言えば私凄いでしょ。魔力とか関係なく、ぽんくんだって急に暴れちゃうかもだし!だからさ、スイちゃんとスニちゃんには知識を詰め込むんだけじゃなくて、赤子だと言うなら育てればいいんだよ。感情コントロール、力をどう使うか、どういう時に使うのか。」
僕が暴れるってなんだそれ……。
それは置いといて。
僕達が地球にいた時は毎日どこかの国と国が戦争したり虐待・殺人……ニュースで見ない日はなかった。
魔力はなくても、武器がある。身近にあるもの全てが凶器になる。
魔力があるこの世界だからそれだけが危険ということはない。
「スイちゃんとスニちゃんの気持ちも大事だよ。スイちゃん達がこのままがいいなら無理意地しちゃダメ。」
「そうですね、すみません。つい熱が入ってしまって、スイちゃん達の意思を無視するところでした。」
夢にまで見た異世界をただただ楽しんでるだけかと思っていたが、ちーちゃんはちーちゃんなりに色々考えているんだな。
すると、スイ達がちーちゃんに何かを訴え出した。
「ふむ、ふむふむ。スイちゃん達は私達のお手伝いがしたいみたいなの。だから、簡単に負けないくらいの力は欲しい、と言っております。」
それなら、丁度いい。僕の考えていた事を聞いてもらおう。
「ちょっと口を挟んでもいいかな?」
僕はミシェリアの家に着いた時から薄らと考えていた事と今の話を聞いて思った事をみんなに話した。
僕達はこの世界の事を何も知らない。だから、130年以上生きているミシェリアにこの世界の事について詳しく教えてもらおうと。そのついでに、スイ達はミシェリアに特訓してもらう。
魔法の知識を与えるには規格外でイメージでどうとでもなるちーちゃんよりミシェリアの方が適任だろう。
「確かに、ぽんくんの言う通りこの世界の事を知らず闇雲に動くのもよくないよね!」
「ミシェリア、どうだろうか?」
ミシェリアはこちらを見て、一呼吸置き答えてくれた。
「いいでしょう。代わりと言ってはなんですが、ちーさん達の世界の事を教えてくださいね。」
話をしていたらどうやら昼になったようで、昼ごはんを食べようということになった。
僕とちーちゃんはお弁当があったので、それで済ますことにした。
昨日の晩ごはんの残りのパプリカの肉詰め、ほうれん草のおひたし、きんぴらごぼうとミニトマト。相変わらず彩り豊かなおかずだ。
「まあまあ!そのきれいな色のものは食べられるのですか?」
パプリカを指差しながらミシェリアが聞いてくる。ミニトマトも気になるようだ。お弁当の中身一つで違いが沢山あるのだ。これからミシェリアに教えてもらうこの世界の事もきっと驚きが溢れているんだろうな。