6話
ミシェリア・フリーベン、魔女はそう名乗った。
「ミシェリアと呼んでくださいね。年は130くらいだったと思う。途中で数えるのをやめてしまったのでもうあやふやなの。」
あれから、ミシェリアと名乗った魔女の家に入れてもらいお茶を飲んでいる。美味しい手作りお菓子も出してくれた。
「家の周りで育てている薬草を煎じて薬にして売って、のんびり暮らしてるのよ。」
煎じた薬はあちらこちらの町でいい評判らしいのだが、黒いローブで姿を隠して森を出るため、森には怪しい魔女がいるという噂になったようだ。
以来、噂が噂を呼び森に入ると出てこれないとか呪われるなどと広まり、森にあえて近づく者もなく静かに暮らしているという。実際、森に入ろうとしても入れない魔法をかけているという。
「私の事は、これくらいでいいでしょう。さて、異世界からお越しとのお話ですが詳しく教えていただけますか?その……青いお2人も何なのか気になって仕方ないんです。」
興味津々というのが溢れ出ているミシェリアに今度はこちらの話をする。
「私の名前は千景ちーちゃんって呼んでね!こっちが旦那さんの雅臣さん。私はぽんくんって呼んでるの。で、スライムのスイちゃんとスニちゃんです。」
僕達が異世界に来た経緯、スイとスニとの出会いにミシェリアに会いに来た理由を簡潔に説明する。
あと、ちーちゃんが簡単に魔法使えた理由も分かるのであれば知りたいので伝えておく。
「いきなりこちらの世界に繋がった……そうですね、いくつかある王国の魔術師による召喚の可能性は低いですね。召喚の場合は魔法陣のある場所に召喚されますから。すみません、私にもこの問題は分かりかねます。」
なぜこちらの世界に来たしまったのかは分からないか。
ちーちゃんの力については、魔脈という魔力が体の中を巡る血管のようなものの発達が優れている上に体内で生成される魔力の量も多い。
さらに、魔力コントロールも並外れているようでイメージが魔法と直結出来るのではないかという事だった。
ちなみに僕はこの魔脈というものがないから魔法が使えないらしい。
「魔力や魔脈といったものは基本的に魔族・魔物やそれに準ずるものにしかなく、人間は持って生まれないと言われています。それがちーさんにある事自体が不思議です。」
人間が使えるのは、魔道具を用いた魔術といって所詮まがいものだとミシェリアは言う。
ミシェリアはちーちゃんの力がどれ程のものか知りたいという事で、二人は家の外へ出ていった。
家の中には僕とスイとスニになった。
僕は2人とどう接していいか分からず、なんだかソワソワする。
2人はそれぞれミシェリアが用意してくれたお菓子をパクパクと食べ、空になった皿を少し残念そうな顔で見始めた。
僕の分の皿には、まだ少しお菓子が残ってる。
「あの、良かったら僕の分のお菓子も食べるかい?」
無くなったお菓子をこれ幸いと話しかける。きっかけが出来てちょうど良かった。
スッと皿を移動すると、二人はペコっとお辞儀をして手を伸ばした。その姿が出会った頃のちーちゃんのようで可愛くつい笑みがこぼれる。
出会った頃は色々と気を使いすぎて遠慮気味だったちーちゃんも、時間が経つにつれてだいぶ緩くなってきた。それはそれで僕に心を開いてくれてるんだろうなと嬉しいのだが。
僕の笑った顔を見たからか、2人も笑顔になりお菓子を食べだした。
ニコニコしながらお菓子を頬張っている二人を眺めているとバンっと勢いよく扉が開いた。
「あー、ぽんくん浮気!?ねぇねぇ浮気なの!?」
どこをどう見れば浮気なのかさっぱり分からないが、ブーブー言うちーちゃんとそれを見て笑うミシェリアが家の中に入ってきた。
そもそも、スイもスニも姿はちーちゃんなんだから浮気になるのだろうか。
「浮気ってなんだよ。そんなわけないだろう。で、早かったけどどうだったの?」
簡単に言えばちーちゃんの力はとんでもないものだった。ミシェリアから出されたお題はすべてクリア、イメージさえ掴めれば攻撃、回復とどのジャンルも一通り使える特異体質。
ご都合主義にもほどがある。
続いてスイとスニを連れてミシェリアはまた外へ出て行った。
ミシェリア達が出ていくと、ハイテンションだったちーちゃんが下を向いていた。
「あのね、ぽんくん……ちょっと自分が怖くなっちゃったよ。」
苦笑いしながらちーちゃんが言う。薄らと涙が浮かんでいる。
確かに、いきなり許容量以上のものが自分の中にあって、特異体質などと聞けば、異世界万歳ドンと来いスタイルのちーちゃんも流石に怖気づくのも仕方ないと思う。
「ねえ、ちーちゃん。僕の分もちーちゃんが力を得たのかな。情けないけど、この世界で僕は今のところ役に立たないんだよ。僕を助ける力がある事を怖がらないでよ…ね!だって、異世界転移にご都合主義は付き物で、君は僕のちー様でしょ?」
「ぽ、ぽんくぅぅぅぅぅん!うわぁーん、ぽんくん好きぃ、さすが俺の嫁ぇ!!絶対守るぅぅぅぅう。ご都合主義万歳って思うようにするぅ。」
抱きついてくるお前が俺の奥さんなんだけどね!
立ち直りの早いちーちゃんで助かる。
「んんっ。仲の良いところ、お邪魔して申し訳ないのだけど。お話よろしいですか?」
ピンクに染まった両頬に手を当て目を逸らしミシェリアが戻ってきた。椅子に座った僕の上でちーちゃんはお姫様抱っこのような状態で抱きついている。流石に僕も見られるのは恥ずかしいです。