5話
魔女がいるとは思えないほど、のどかな森を歩いていく。
上を見れば小さなりんごのような実のついた木、下を見れば小さな花がたくさん咲いていて、凄く賑やかだ。
ちーちゃんが魔女を探ってみると言った後、魔力探知と透視の力は無事に発揮された。
まるで最初から使えたかのように、易々と。
「右目が、右目が疼く。ぐはっ……あぁ、見える見えるぞ!」
なんて、しっかりと必要の無い演技を披露してくれた。
スイとスニはそんなちーちゃんの厨二病ぽい演技を気に入ったらしく、喜んでいる。
「明らかにおかしい魔力が出てる方向があるねー。うんうん、人型だし、多分魔女さんだと思う。」
そう言って指差したのは、目的としていた城とは反対方向だった。
同じ方向だったら、良かったなとは思ったけれど急いで行かなければならないなんて事は無い。
ということで、森に入った。
まるでピクニックに行くかのような気分で鼻歌を歌いスキップ混じりのちーちゃん。
スイとスニも楽しそうに後をついていってる。
「魔女さん、全然動きがないねー。」
森に入ってからしばらく経つが、確かに何も起こらない。無事に森を抜けるられるか分からないと聞いていたから、てっきり何か同じところをぐるぐるしたり罠なんかあるのかと思っていた。
しかし、特に何もない。
「もう少し行けば魔女さんらしき目的地でーす。」
ちーちゃんはワクワクが止まらない、そんなオーラを振りまきながら歩いていく。
ちーちゃんが言った通り、それからしばらくして開けた場所に出た。
小さな小川が流れていて、すぐ側に水車が回る家が見える。
「ちーちゃん、ここに魔女がいるんだよね?」
「うん、魔女さんと思われる反応がありますよ。」
森に入ってからここまで何も起きなかったから、いきなり攻撃されたりはしない気がするが、念のため警戒しつつ慎重に近づくべきだ。
「お家に行ってみましょう!レッツゴー!」
魔女に会いたくてうずうずしていたちーちゃんは、危険があるとかそんな事は一切無視。警戒して慎重にという僕の考えを口にする前に行ってしまう。
魔女さーんどこですかー、と大声を出しながら家に向かって行く。
僕は少し距離を開けて後をついていく。
コンコン、とドアをちーちゃんがノックする。
すると、家からドタバタと音が聞こえ、中から声がした。
「ど、どちら様ですか?」
聞こえたのは、若い澄んだ声。
「魔女さんに会いに来た異世界人です。怪しくないので、ちょっとお話しませんか?」
いや、怪しい!異世界人って怪しすぎるよ。僕なら警戒度マックスまで上げちゃうくらい怪しい。
「異世界…?異世界から来られたのですか!?」
バンっと勢いよくドアが開いた。
現れたのはちーちゃんと同じか少し低いくらいの身長、頭の後ろに大きなリボンでひとつに束ねた膝まで伸びる金髪、襟や袖にフルリのついたメイド服のようなワンピース。
推定十代前半のめちゃくちゃ可愛い女の子だ。
魔女と聞いてここに来るまで、鷲鼻でしわがれた声、曲がった腰のお婆さんを想像していたが、現れたのは少女だった。
あ、これは…と思った時には遅かった。
「きゃ……きゃわぃぃぃぃぃぃいいい!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!?」
めちゃくちゃ可愛い少女に飛びつき撫で回し始めるちーちゃん、びっくりして叫び出す少女。
そりゃあ、いきなり見ず知らずの人から抱きつかれたらびっくりして叫び出すのも頷ける。
「金髪ロリっ子魔女!まるで魔法少女マジカル☆プリンセスのマリアたん!!!うわぁ、可愛すぎる!」
遠慮、そんな言葉は知らない知らないですって勢いで少女から離れようとしないちーちゃん。
半年ほど前に放送していたアニメ「魔法少女マジカル☆プリンセス」のちーちゃんイチオシキャラとそっくりなのだ。
最初は敵だったキャラだが、中盤から主人公側になるマリアちゃん。放送開始からどハマりして、フィギュアやお菓子のおまけ、グッズを必死で集めていた。
そんな推しキャラそっくりな女の子が目の前に現れたのだから、まあちーちゃんの気持ちも分かる。
「異世界のお方、少し落ち着いて欲しいのです。く……苦しいのです。」
「あ、あぁ、ごめんなさい。ついマリアたんそっくりで暴走しちゃった……魔女さんごめんなさい。」
乱れた髪を直した少女は言った。
「私の名前はミシェリア・フリーベン。この森に住む魔女です。」