2話
「ぽんくーん、帰り道なくなっちゃったね。」
「そうだね。やっぱりそういう事だよね…。」
芝生のような草が広がる草原に座り、ただいま夫婦会議中。
いきなり異世界なんて思ってもないから、いつもの出勤スタイルだし、ちーちゃんに引っ張られ準備する間もなく、一瞬で帰り道は閉ざされた。
ポカンと放心状態の僕と違い、ちーちゃんはカバンをゴソゴソ探り始めた。
「えーと、やっぱりスマホは電波入らないや。異世界って事はお金も違うよね。あ、お弁当持っててよかったね!食料確保!」
お気に入りのアニメキャラクターのシールが貼ってあるスマホや僕が誕生日プレゼントとしてあげた財布。
仕事の休憩時間に読むつもりだったのだろう読みかけのラノベ(異世界で魔物に転生しちゃう話らしい)、お弁当などをカバンから出してチェックしては元に戻していく。
「ぽんくーん、これからどうする?」
それは僕が聞きたいところだ。来てしまったものは仕方ない、ボーッとしていてちーちゃんを危険に晒すわけにはいかない。
異世界だとしたら何か得体の知れない動物とか魔物とか出てくるかもしれないし、食料とか色々生きていく上で必要なものも手にしなくちゃいけない。
人間がいたとして、言葉が通じるかも分からない。何かあればちーちゃんを守らないと。
とはいえ、ここが草原って事しか分からない現状でどこへ向かうのか…。
ぐるぐると考え込んでいるとちーちゃんが僕を呼んだ。
「ぽんくーん、見てみて!魔法使えたよ!ほらぁ、火が出た。」
「え、はぁ?魔法!?」
少し考え込んでいる間に、ちーちゃんは魔法が使えるようになったらしい。この世界には魔法があるのか。
「ぽんくん怖い顔して黙っちゃって話しかけても答えてくれないんだもん。」
「あー、ごめん。黙ってたのは悪かったよ。それは置いといて、魔法ってそんなに簡単に出来るものなのか!?」
「昨日読んだラノベっぽく「我は求める、炎よ!」ってやったら出来たよ。でもね、なんか言葉はなんでもいいみたいだよ。頭でイメージしたら出来たの!簡単だから、ぽんくんも出来るんじゃないかな?」
まさか、ラノベ知識がこんな所で役に立つとは。さすが異世界なんでもありなのか。
試しに僕もやってみる事にした。
頭でイメージして、それっぽい言葉を言えばいいのか。
火、火をイメージして。
「火よ出てこい!」
何度も試してみたが………ちーちゃんと違ってうんともすんともいわない。呪文のような言葉を思いつくまま言ってみたが何も起こらない。
横でぽんぽん火を出したり水を出したり、結構自由に魔法を使っているちーちゃんと対照的に全く魔法の「ま」の字も感じられない。
「ぽーんくーん、とりあえず火・水・風・雷・土属性は使えるっぽい!」
さすが、毎日異世界転生とか異世界転移のラノベやらマンガを読んでるだけあって適応力がとてつもない。
「はぁ……ちーちゃん、凄いね。僕は魔法はまだ使えない、というか使えるのかすら分からないよ。」
「ふっふーん。このちー様に任せなさい!日頃ラノベやマンガで培ってきた知識をババーンっと発揮するよ!ぽんくんは私が守ってあげるよ!」
胸をぽふんっと叩き、渾身のドヤ顔である。
男の自分がちーちゃんを守ってあげなくちゃとか思ってたけど、ちーちゃんの方が明らかに頼もしい。この状況下ではちーちゃんついていけば、よく分からない異世界でもなんとかなりそうな気がする。そう思う僕は相当ちーちゃんにメロメロなのかもしれない。
「ぽんくんは司令塔って感じでよろしくね!とりあえず、町とか村ないかな?いつまでもこんな草原にいたらスライムとかゴブリンとか盗賊とかに襲われちゃうよね。王道だよね!スライムってやっぱり獲物を丸呑み出来るのかな?ゴブリンって女の子見つけるとエロエロな感じで虐めちゃうのかな…あれ、それはオークの方だっけ?」
カッコイイ事を言ったと思ったら、これである。
感激してた僕の心返して欲しい。
「異世界転移のテンプレだったら、魔術師がおお勇者よって感じなのにね。勇者って感じで召喚されてなさそうだし。ゲーム世界に来ちゃったって事でもないからメニュー開いたり出来ないもんねー。」
宙に手をかざして何やら、ああでもないこうでもないと色々試している。
僕はとりあえず頼まれた通り、司令塔の役目を果たそうと思う。
「じゃあ、ここに居続けても仕方ないから、あの遠くに見えてるお城目指そうと思う。お城があるって事は城下町もあるかもしれないからね。ちーちゃん行こうか。」
「はーい!司令官殿は私の後ろを歩いてくださーい!」
ちーちゃんの中で何やら設定と配役が決まったらしい……。