14話
突如僕達の前に現れた女性はミシェリアの母親で稀代の魔女、ルヴィと名乗った。
「あ、こっちの悪の化身ぽいのは現魔王でミシェリアのパパで私のダーリン、 アルベールです。」
「ミシェリア、パパ傷ついちゃったぞ。」
禍々しい姿のままプンプンなんて可愛い格好をする魔王、お茶目さんなのか。
ミシェリアは力が抜けたのかへにゃへにゃと座り込んだ。
「あらあら、ミシェリアちゃん大丈夫?パパがねどうしても異世界から来た方達との対面は威厳のある姿がいいとかで変身させちゃった。」
ミシェリアの父といい母といい、語尾に「てへっ」とついているように聞こえるのは気のせいだろうか。
それからすぐに、無言を貫くミシェリアを先頭にひとまず全員家の中に入る。怒っているであろう態度のミシェリアだが、全員にお茶を入れてくれる。
「ミシェリア、可愛い可愛い私の天使ちゃん。パパが悪かったから許しておくれ。」
「私の父はそのような禍々しい姿ではありません。どちらさまですか。」
ミシェリアが怖い。絶対零度のようなオーラをまとい、つららのように鋭い言葉を発する。
魔女のミシェリアに天使ちゃんって……ちーちゃんが笑いを堪えてるじゃないか!
大きく息を吐いた魔王がルヴィさんに何かを耳打ちすると魔王はぽふんっという音ともに煙に包まれた。
僕の隣でちーちゃんがワクワクしている。魔王の姿は細身のイケメン系なのか、ガッシリしたモンスター系なのか、想像しているようだ。
しかし、煙の中から現れたのは想像していた姿は僕の想像の中にはないパターンだった。
撫でつけられた綺麗な白髪、捻れた見事な角が両耳の上から生え、整えられた口髭、魔王と言うより紳士だ。
「やーん!アル、やっぱりその姿が一番素敵よ。」
ルヴィさんが目をハートにしながらうっとりしている。ラブラブか。
「やだ、イケおじ。ぽんくん、ちょーイケおじがいる。」
あ、はい。確かに映画とかにさらっと出ていそうなカッコイイおじ様です。見た目は60歳前後のいい感じの。魔王というか賢者って言われても納得しそう。
「自分の魔力とママの魔力を合わせるなんて、タチが悪い。パパ嫌い。」
あー、ミシェリアすごく怒ってる。分かる、もうなんか人一人サクッと殺せそうなくらいの怒り。
「ルヴィたん、娘が反抗期だよぉ。」
「今回は異世界のお客さんの確認も兼ねてだからね!ミシェリアちゃんも許してあげて。」
あ、そうだ。すっかりミシェリアの怒りを見て忘れていたが、魔王は僕達が危険じゃないか見に来たんだった。
「あの、結局のところ僕達は、その抹殺されたりはしないということでいいんでしょうか?」
ここまできて、抹殺とか言われてももちろん困る。まだ出来れば死にたくない。
「あらあら、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。こう見えてダーリンは優しいから、理由もなく殺生はしませんよ。」
こう見えてというか、見た目だけなら紳士だからいきなりじゃあ抹殺しますなんていう残酷極まりない事はしそうにない。
あぁ、なんだかほっとしたら緊張も溶けてなんだかどっと疲れが……。
「しかし、五百年以上生きてるがスライムが人型をとり言語を操るなんて見たことがない。」
魔王はスイとスニにも興味を示している。やはり、魔王もルヴィさんもスイやスニのようなスライムは見たことも聞いたこともないみたいだ。
元々が特殊な個体だった可能性もないとは言いきれないが、その場合今までに存在が確認されていてもおかしくない。
やはり、ちーちゃんの何かしらの力が大きく働いたと考えるのが妥当だと魔王もルヴィさんもそこで落ち着いた。
僕達はミシェリアに話した様に魔王とルヴィさんにもここへ来た経緯を説明した。
「ふむ。まったく分からんな。ヴァイデンとしては呼び寄せる理由はないし、魔族が英雄召喚なんぞするはずもない。」
「でも、ちーさんの力は明らかに英雄レベルなのよね。ダーリンと私の娘以上の力だもの!」
魔王の見解は魔族を敵視している者達が行った英雄召喚において不備が生じた……というのが濃厚な線のようだ。
「お城は行く目的の魔王さんに会っちゃったから行かなくてもいいよね!じゃあ、進路変更してここから一番近い大陸にでも行こうっかなー。ふふふ、どうしよっかー?」
どんな状況でもマイペースなちーちゃんの独断でコロッと目的地が変わった。
一番近いナフィル大陸に目的地を変えた。