私とぽんくん(千景視点)
小休憩がてら、ちーちゃんとぽんくんの出会いやちーちゃんの思いです。
私は斎藤千景、27歳。旦那さんの雅臣さんと一緒に異世界にやってきました。
雅臣さんとは二年前に私の実家の近くにある書店で出会った。
雅臣さんは店員さんで、私はお客さんという形。
私は所謂オタクと称される分類にいて、毎日と言っていいほど、その書店に通っていた。
マンガやライトノベル、アニメ雑誌などお給料の半分を使って買っていた。
仕事終わりで楽しみにしていたライトノベルの新刊を買うためにいつものように書店に行った。
しかし、その日求めていたライトノベルは新刊置き場になかったのだ。
欲しければ予約しておけばいいじゃないかという人もいるだろうが、本がズラッと並べられたところから手に取るという行為自体が好きなのだ。
だから私は毎回、在庫がある場合は新刊置き場から買うようにしている。
でも、この日はなかったのだ。
近頃アニメになったりライトノベルというものが話題だから売り切れるのも仕方ないだろう。
うんうん、世間にライトノベル文化が広まるのはいい事だ。
無いものを探しても見つかるはずはないから、今日は注文して帰ろう。
ちょうど近くに店員さんがいることだし。
「すみません。注文をお願いしたいのですが。」
「はい、お伺いします。」
この時声をかけた店員さんが未来の旦那さんだということは、この時夢にも思ってなかった。
平均より肉付きがいい体、清潔感を損なわない程度の長さに整えられた髪(もちろん黒)、きれいにアイロンがけされたシャツにネクタイ、書店員さんのマストアイテムともいえるエプロン。
名札には「斎藤」と書かれている。なかなか見かけは好みだ。
「ご注文のタイトルを教えていただけますか?」
ちょっと好みだからって見とれていたら、軽い笑顔で声をかけてきてくれた。
「あ、えっと、あの。今日発売のライトノベルなんですけど。異世界で魔王に会いたいっていうタイトルなんですけど。」
比較的恥ずかしくないタイトルの本でよかった。これが、めちゃくちゃ長くてちょっと恥ずかしいタイトルだったら穴掘って埋まりたいね。
レジまで一緒に行き、注文を受けてもらう。
斎藤さん字がすごくきれいだな。姿勢もピシッとしているし、物腰丁寧で……こういう人好きだな。人として好きだな。
「注文の本が届いたら連絡しましょうか?それとも、お見かけした時に声からましょうか?」
あれ、もしやほぼ毎日通っていることバレてるのかな。私はこの人見たことない気がするんだけど。
「あぁ、出すぎたことをすみません。僕はライトノベルや小説を担当しておりまして、売り場で毎日のようにお見かけしてたので……。」
斎藤さんは申し訳なさそうな顔で言ってきた。
いや、こちらこそ眼中になくてすみません。
どうしても欲しいものを前にするとそこ一点で他に目が動かないもので。
「申し訳ないついでに、ちょっとしたお願いをしたいのですが……。僕は全くライトノベルに詳しくなくて、よければ売り場のアドバイスやおすすめ作品があれば教えて欲しいと思うのですが、いかがでしょうか?」
「そんなことでしたらお安い御用ですよ。でも私でいいんですか?」
確かに毎日のように本を買って、家ではネット小説も読むくらいだから、そこら辺の人よりは詳しいと思う。でも、ちょっと詳しいってだけでいいのかな?
「ぜひ、お願いします!」
う、好みのタイプが目の前でキラキラした笑顔で喜んでる。ご褒美か!
これはご褒美なのか!誰得、もちろん俺得ですよ!
それから、毎日のように通いつつおすすめ作品を教えたり、面白かった作品のおすすめポイントを箇条書きにして渡したりしているうちに少しずつ距離が縮まった。
時間が合えば食事をして、食事を重ねているうちに休日遊びに誘われ、動物園デートを経てお付き合いするようになった。
付き合い出してから、ついつい気になっていたお腹を触らせてもらい、期待通りのぽんぽこお腹だったので「ぽんくん」と呼んでもいいかと聞けば、いつもの笑顔で「ちーちゃんにならいいよ。」と即答。
ぽんくんは私が何をしても何を言っても基本的にはノーと言わない素敵な人!あ、叱る時はちゃんと叱ってくれる。
そんなぽんくんだったから一年交際して結婚。
それから一年ちょっと、毎日楽しい生活を送ってたら、異世界にきちゃった。
ぽんくんは魔法とか全然使えなくて、私のこと守れないって言ってたけどぽんくんがいたらなんでも大丈夫!ぽんくんの為なら私が激強さんになってぽんくんを守るから。
伊達にオタクしてないからね、ご都合主義バンザイ、ゴブリンだってリザードマンだってなんだって倒し方知ってるもの!
ぽんくんは非日常的な世界にきて困ってたりしてるかもしれない、でも私はどこだってぽんくんといれるならいいの。ぽんくんが私の世界だから。