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憂鬱シリーズ

宮本ハヤシと憂鬱ディファレンス

作者: 黑ねこさん

前作__『私と憂鬱タイム』とは別の話ではあります。


アマチュアですが、まぁ出来ちゃったんだから投稿しよう的な感じで今に至ります。


暇潰し程度にお読みくださいませ。


これは、僕のお話。

今となっては、過去の話で。

僕にとっては、現在の一部ってだけの___ 本当に、どうでもいい、情けない話。






「ふふふっ、面白いねぇミャーくんは」


彼女は笑った。


「ねぇミャーくん。何でいつも私のそばに居るの?」


彼女は尋ねた。


「ナーちゃんが好きだからよ」


僕は応えた。


「へぇ、そう。私も好きよ、友人として」


僕は項垂れた。




彼女は空っぽだった。

彼女は心を知らなかった。

彼女に父はいなかった。

彼女は本心で語れる家族がいなかった。

彼女に愛は、なかった。



初めてあった彼女は、良い人だった。良い子だと、皆が思ったろう。

誰かが困っていたら協力して。誰もが嫌な役割を率先して。

気遣いもできる、できた子だと。


けれども。

彼女にとって、それは、事を進ませたに過ぎない行為だった。


彼女は望まれるように行動する。

彼女はその行為に何の感情も含めていない。

彼女は___……。



「ミャーくん? ……ゴメンだけど、私 メールなんて受け取ってないよ?」

苦笑いして彼女は言った。

「え?」

いや、しっかりと送ったはずだ。恋文のメールを。

わざわざメールアドレスをクラスメイトに訊ねまわったんだ。そりゃ驚かせようと本人には聞いてないが、ちゃんと件名には自身の名前を打った。

「宮本 ハヤシって件名でなかった…?」

「……」

すると彼女は思い当たる節があるみたいで、暫く閉口したままぼうっと僕越しに何処かを見詰めていた。


「えっと、返信がこなかったから直接来ちゃったんだけど……」


自分の頬が赤らめるのを感じつつ、言葉を紡いだ。


___君のコトが好きなんだ。


そんな事を、喉の奥まで出掛かったところで。


「あ、あの名前ミャーくんのなんだ! ごめん、誰のか分からなくて迷惑メールリストに登録しちゃった!」


そう言って彼女は頭を下げ、屈託のない声で謝罪した。


息が、一瞬止まった。

その時 初めて、僕は彼女の瞳が濁っている事に、気付いた。


___ 今思えば、あれが彼女なりの断り方だったのだろう。



彼女は漫画が好きだ。アニメが好きだ。小説が好きだ。サイトを閲覧するのが好きだ。絵を描くのが好きだ。


いつもハマっている描写は、決まって主人公が苦しむ場面だった。

いつも涙ぐむのは、登場人物が報われずに死ぬシーンだった。

いつも腹から声を出して大きく笑うのは、ストーリーを鑑賞している時だけだった。

そして楽しそうに、悲しい歌詞を歌うのだった。


「ミャーくんは最近、私を観察するのが趣味なのかなぁ?」


「そのとおりですね」


「警察にでも相談しよっかな……」


「やめて!」


許可が降りるまで土下座した。



僕は、彼女が好きだ。

けれども、それを言ってしまえば彼女は拒絶するだろう。


彼女は、本当の意味で、直接会った人に興味を持つことはない。

好きな漫画があれば、どんな人がつくって、その人はどんな経緯を持っているのだろうと、それではじめて他人に興味を示す。

気に入ったものはとことん追究し、そして飽きたら何処かに留める。

浮き沈みが激しいのだ。


「へぇ、宮本くん?だったらミャーくんだね」


彼女はいつもアダ名をつける。

フルネームで覚える気がないらしい。

他の接点の少ないクラスメイトには、苗字で呼ぶか、ただの知り合いとしか認識していない。

必要さえなければ、彼女は「あの、すみません」で事をすませるのだ。

今まででそうやって不自由なく過ごせたらしいから不思議だった。


「僕の名前、覚えてる?」


「宮本ハヤシくんでしょ? もう覚えたよ」


おどけて彼女は回答した。

僕は会う度にいつも質問する。

彼女はああ言うが、半年もすればまた忘れる。夏休みあけに久しぶりに会った時、アダ名まで忘れていたのが何よりも証拠なのだった。


「それよりもさ、今季のアニメ見た?」

「うん、見た」


……それより。

ちょっと傷つく。


以前はそれほどアニメに興味を示さなかったが、僕は共通点をつくる為に見るようになり、そしてハマった。


「ミャーくんが言う見どころ、教えて?」


彼女は聞き手に回った。

僕はその言葉を待ち望んでいたとばかりに、ノートを取り出して今季のアニメについて評価等を述べた。


彼女はそんな、茶番を用意してくれた。

僕は接点ができるならと、喜んでのった。

そんな茶番にも罠がある。

これを通じて、彼女との交際を深めない事。

抱きしめたり、彼女の名前を真摯に呼んだり、手を握ったり、彼女の家まで押しかけたり。

最良な距離を常に保ち、そして他人であることを常に意識して接する事。


__ 彼女は、僕がどう動くのかを見ている。彼女の目は、僕がどういう人物なのかを探っている。


僕は喋った。


「あはは、やっぱ面白いねー、ミャーくんは」


……何とか、耳にする価値はあるようだった。



「この人たち、スゴイよねぇ」


そう言って彼女は僕にパソコン画面を見せる。

アニメサイトで賛否両論のコメントが表示されていた。

放課後。

情報処理室でいつものようにネットダイビングをしていた時だった。


「ああ、実写化のこと?僕は反対だね」


「そうなの? でも結構似てない?」


「ぬぐ……けど受け付けねぇや」


「まあ、分かるよ。私も実写化は苦手だわ」


苦手。

彼女らしい意見だ。


「過去に受け入れられた作品はあまり無いからね。でも割り切って考えると、感慨深いよ。原作ではこうだったけど、ここではこんな風にあらわすんだーとか。でもお金を払ってまで鑑賞しようとは思わないし、そこまでの興味もないけどね。あ、でも作者には良い話なのかな? 著作権でお金が貰えるし?」


「そうなのかなー…… でも、うなじを曲げちゃったら悪い話じゃないか?」


賛成もせず否定もせず。

感情を出さず、悪魔で自分の意見を言う。オブラートに。可能性が広がるように。


「あー、いたね、ひど過ぎて原作を強制終了させた作者」

「そこについてはタブーだな」


主にこの語りでは。


「うん」


何かを察した彼女はあえてキーワードを出さない。


「あ、僕が前貸したノベル。あれアニメ化してたんだけど知ってる?」


「知ってる知ってる、一話見たよ。声優あってたね」

「五話まで進んでるからな」

「サイトで見たよ。ヒロインまじかわええのう」

「……オッサンになってる……」


好みの女の子がその発言をされると、僕にとってはよろしくない。

……ヨダレが出てないだけマシか?



沈黙。


彼女は質問されない限り、応えない。言葉のボールを出すにしても、興味の引くものでないとキャッチしてくれない。


手が詰まった。


「ねぇ、どうして動画続き見ないのさ?」


そんな時は、こんな感じに遠慮無く質問するといい。


「サイトで大体の内容は知ってるよ。私が見るのは不法動画だからね、ハマったやつしか見ないようにしてるんだ。ミャーくんには悪いけど、あとのは気が乗ったらレンタルでもして見るよ。……まぁ、気が乗れたらだけれど」


気分次第で、こういう事を言ったりする。



彼女はストーリーの流れを楽しんでいる。

キャラクターの名前などは、メイン以外は曖昧だろう。

どうしてこうなるのかの説明に興味は示さない。こういうふうなのだと頭で納得している。

なぜ?と疑問に思うことは、キャラクターがどういう思想を描いて、このような行動に至ったか。

誰を思って。何を思って。何がキッカケで。

細かなセリフや設定などはあまり覚えることは無い。


「え?どんな風にして気に入るようなモノ探してるのかって……?」


いつも新しい作品を見ているから気になる。

そんな理由で、相談するように訊いてみた。


「あえて言うなら……作風?かなぁ」


曰く。

マンガを例に上げるなら、読者に読みやすく、且つ魅力的に描かれた作品を手にしているらしい。

細い線と太い線を使い分け、またトーンもしっかりとうまく活用され、見やすいのが理想。キャラクターの表情は特に厳しく見ているらしい。それでも、ストーリーが自分好みに面白ければ見るらしい。滅多にそういう出会いはないらしいが。


「あと、長過ぎるのも苦手ー。集めるのがメンドイんだよね。そういうのは極力買わんようにしてるかな。ネタバレのほうで満足してるよ。読者にも配慮した作家さんが私的にあってるかなぁ」


曰く。

見づらいのは、分かりづらいのは、読者に配慮する努力が足りないから。またそれでも読む者は居る筈だと、自身の作ったストーリーに過信しているから。それは傲慢だ、無謀な人だ。そんな人の殆どは、決まって結末が面白くなく、また消えやすい。

漫画を売るということは、商いなのだ。漫画家を名乗るということは、プロなのだ。それなりの、技術、お金、発想力、覚悟やら理由やら忍耐やら根性やら意志やら信念やら、その他諸々が必要になってくる___まぁ、私が偉そうに言えたことじゃないし、実際どうなのかは憶測しかできんけどね___と。


それでも、前記に例外はいる訳で。そういう人は、ストーリーに勝負を仕掛けた伸びしろのある、面白い作者だと、彼女は言った。

そういう人は、皆の期待に応えなきゃいけない、可哀想な人だとも。


「だから応援したくなっちゃうよねぇー。尊敬しちゃうよ」


ま、それでも。

だからといってその人の作品を買うかどうかは、別とするけれども。

人それぞれって事で。


そこまでの興味を、持ちあわせていない。


だから言う。


「私はオタクとは言い切れないよ〜。趣味だよ。そんなお高い名誉はないよ〜、にわか以下の以下だよ」


アニメ専門店に行っても買うのはマンガ。

グッズもなければ、イベントにも行きたいとも言わない。


ただ、楽しそうだと言うだけで、時間を割いてまでして行こうとは思ってないんだろう。


「んじゃあさ、何でそれを趣味にしてるの?」


彼女は器用だ。

楽器が弾ける。スポーツもできる。絵が描ける。裁縫だってお手の物。

気分でたまたま作っていたお菓子も美味かった。彼女が興味を示せばそれなりに上手く作るだろう。


趣味になるものはいくらでもあったろう。


「面白いからに決まってるじゃん」


何言ってんのコイツ的な目で見られた。





「雨が降るよ」


彼女が空を見上げて言った。決まってその後は、雨が降る。


「わーい、予想どーり当たった〜」


学校の廊下。


「__面白い」


窓の向こう側を見て、彼女はそう呟いた。



彼女のクラスで窃盗事件があったらしい。

そこでちょっとした口喧嘩もあったという。


「__……ああ、盗まれた子。クラスメイト疑ってたらしいよ」


風のうわさで耳にした僕は、話題潰しに喧嘩の発端を訊ねた。


「……そりゃすげぇな。誰?その子」


「へ?」


「いや、その盗まれたっていう子」


「私よりも身長が低くて、ふたつ結びしてる声のデカい女の子だよ」


……流石に名前覚えるんじゃないか?


「ああ、野球部のマネージャーやってる子?」


「うん、それそれ」


さして興味がなさそうに肯く。


「ナーちゃん的にはどう思う?」


「別に、私なんて三回くらい財布落としてなくなってるしなぁ……。まぁ、別に、どんまい?」


「からーの?」


「自業自得だね」


本音を言ってくれた。


「どんなに理不尽だーとかいっても、警戒を怠った自分が悪いよ。昔なら、金目当てに殺しにかかる人なんてしょっちゅういただろうに。今もあるかもだけれど。そう思うと、マシな方じゃない?」


一理ある。

けどそれは他人だからこそやることであって。

いつも同じ教室で過ごしてるから、一緒に体育祭とかのイベントでは頑張った仲だというのに、窃盗事件があるのは悲しいことじゃないか?


「何言ってんのさ、クラスメイトでも変わらないよ。人間なんだからさ、魔が差すこともあるよ。けどねニャーくん、まだ犯人がクラスメイトとは限らないからね」


「犯人見つかったの?」


「いや?一生 分かんないと思うよ。まぁ、怪しい子はいたけど、確証ないしね」


「誰?」


「大澤 ヒカルちゃん」


「その子クラスメイトじゃん。頭良い子じゃないか。僕と同じ出身中だよ」


「……ああ、だから知ってんのね」

クラスメイトであることを知っている僕に合点がいったと、彼女は呟いた。


ナーちゃんの様子を密かに、さり気なく見る為に彼女のクラスの男子生徒とつるみ、今となっては全員の名前のだいたいは周知済みだとは口が裂けてもいえない。その際に大澤ヒカルについても知る事ができたのである。


怪しい子。

理由を聞きたがる僕を睨んで、彼女はため息混じりに答える。


「……窃盗時間があった時間帯が、情報処理室に行く間の休み時間から授業が終わって教室に戻ってくるまでの間。その後はずっと教室で授業だから人が絶えることはないので不可能。

被害者が金が盗られてるのに気づいたのは昼休み。

移動時に食券代をとるために財布をだして、それから机の引き出しに入れるという行為をしていたから、クラスメイトの一部は財布がどこにあるのか知っていた。

その中にヒカルちゃんもいた。

私が一番最後で教室を出た際に、ヒカルちゃんは財布を忘れたといってグループから離れて私とすれ違った。

情報処理室の向かい窓で、ヒカルちゃんが走ってグループと合流するのを私は見た。

その後、空いた教室を別のクラスが検定勉強に向けて使用したらしいので容疑者はクラスメイトとは限らない。

不可解な点をあげてくと、私は教室に戻ったヒカルちゃんを見たんだけれど、ヒカルちゃんが入った出入り口は奥の方だった。席は前にあるから手前から入ったほうが早いのに不思議。

棚に財布でもおいてるのかなって思ったけれど、彼女の鞄は机の上だった。奥には被害者の席がありました。

他の生徒が使ってたらしいけれど、一番乗りは先生だと思う。それも向かい窓から目視しました。ので、クラスメイト以外に盗む人の可能性は低いかなーって個人的に思ってます。

すぐにグループと合流したらしいけれど、事前に見ちゃってるし走ってりゃ盗むのに一分も掛からないので、それで不可能と決めかねない。

確証がないのは、鞄を棚から机に移動させた場合もあるから。

つか証拠もクソもないから!いじょーです!」


異論は認めんとばかりに鼻息荒く言い切る。


「教室に皆が戻ってくるときは?」


「一番乗りは私と大差なかったよ。その時教室にいた別クラスの子は先生とお話してたね」


「それってほぼ確定じゃ……」


「補足追加。非常階段から一階の不良男子共が上ってきて教室に入っている可能性もあり。ま、そういう奴に限って姑息な手は使わんと思うがね。ねぇねぇニャーくん、この前の遠足でさ、財布の窃盗事件があったでしょ」


「あー、あったね。僕が乗ってるバスだったよ。おかげでなかなか帰れなかった」


「そこにヒカルちゃん、いた?」


「…………」


いた。たしかに。

思い返せば、中防の時にもあった。窃盗事件。ヒカルちゃんとクラスメイトになった時。

結局犯人見つかってないけど。


僕の反応に満足してか、彼女は微笑む。


「ふふっ、面白いねぇ」






彼女は人を信じない。

彼女がお願いすることは全て、結果がどうなってもいいコトだけ。

彼女は、人を愛せない__。




「ああああ〜!あんのクッソ親マジ疲れる!」


親。

母親の事だ。


「どったの」


「車の税金の支払いしといてって……役場行くの面倒いい〜!」


彼女の母親は外国人だ。

だから漢字とか読めないらしい。そういう時は、決まって彼女が書類やら何やらを書く作業を務めているらしい。


それと、彼女と母親は別居中だ。

母親は仕事の関係上、県外で暮らしてるらしい。

詳しくは知らない。


「何でナンバープレート変更しないのって聞いたら、親なんて言ったと思う? ……『地元の人が田舎から来たんだーって気遣ってくれるから』だってよ! 甘えん坊か!しまいにゃ高速道路で運転出来ないって……逆だろ!? 複雑だろ市内の国道のほうが! もぉヤダ可笑しいよ、私の親……三十路過ぎてんのにさぁー」


いつもよりも興奮気味の彼女を、僕は珍妙な感覚で見詰める。


「そういや何でその呼び方なの?」


愚痴ぐちと言い放つ彼女の言葉を遮り、疑問を口にする。


「親が一人しかいないからだよ」


視線を交えた彼女は、真っすぐに、落ち着いた装いで答えた。

躊躇なく発した言葉が、酷く冷たいように感じた。

眼差しは、明るくない。


__彼女は。

母親が嫌いなのだろうか。

母の事になるとマイナス点しかあげてこない。

……まぁ、面倒くさがりな彼女ならそう思うのも不思議じゃないか。

それか反抗期?


「……ただの皮肉だね」


ふと彼女は、僕に聞こえない声でひとり言を言う。

僕は、そのことについて聞き出さない。

何やら地雷があるようだった。





「冬だ! だが暑い!!学校だ! だがここは山!!」


彼女と僕しかいない山道の中で宣言する。


「登山だぁ!!」


「ナーちゃん 、はしゃぎ過ぎ」


「さっさと登り、さっさと下山してマンガ見る!」


恒例の学校行事で登山がある。

先に女子から、少し遅れて男子が出発する。始発点と終点、それから森に入るポイントに先生方が待機しており、パートナーとの確認ができ次第、スタンプを貰って最終地に集合というのが一連の流れである。

因みにパートナーは男女別で構成されている。


ん? だったらなんで僕と彼女は並んで歩いてるのか?

彼女はパートナーを置いて先に行き、僕もパートナーを置いて全速力で追い掛けて来た。

ただそれだけの事で御座いまする。

こらそこ、協調性がないなんていわない。


ポイントについたらまったりと寛ぎ、スタンプを貰ったらお先に行く。生憎と僕のパートナーは普通ペースで歩いてるので、必然的に女子の方が早く着き、彼女が先に行き、僕は必死に追い掛ける、という感じである。


…… 僕、頑張ってると思います。

待ってくれません。容赦無いです、あの子。

一方的に片想いなんで、彼女は気遣うなんてこれっぽっちも考えてないのかも。……そうだろうなぁ。


にへらと僕は苦笑する。



頂上についたら昼食を食べる。

とはいっても、食欲がないとか荷物になるから先生に預けるなどの理由で、あまり食べていく生徒は少ない。


「おにぎり一個だけ?」


乗り心地良さげな岩に腰を下ろし、昼食をとっていたが、どうやら彼女は軽食ですますらしい。


「お腹が重くなるからね」


そう言って彼女は肉を包んだおにぎりに齧り付く。

僕も彼女が食べ終えるまでの間、弁当に手を付けた。

彼女はいつも静かに黙々と食べる。

お喋りしながらの食事は好まないらしかった。


十分もたたずに下山する事となった。

獣道には岩があちらこちらにあり、苔も生殖しているため滑りやすくて危険だった。


それでも彼女は嬉々として先へ先へと進む。

土がぬかるんだ所で尻もちをつくと、声をあげて笑い、すぐさま立ち上がって進む。


「あはは、面白い!」


時々 足首を捻ってたりしていた。以前 捻挫をしたから癖になっているらしかった。


彼女は、前に進んだ。





僕は震えた。主に脚が。

スポーツマンではないから、ここらへんでガタがきたのだろうか。


彼女は、大丈夫だろうか。


「あはは、疲れたねえ!」



彼女は屈託ない笑顔だった。

本当に、意地の悪い表情だった。

楽しそうに、歩みをすすめていた。


幾度となく試されたけど。……コレはキツい。

男勝りな彼女。

見た目は小柄だというのに何処からそんな力が湧いてくるのか。

それに対して僕はどうだろう。

男としての自信がなくなってきたや……。






あともう少しで卒業式。

そうなると彼女とはおさらばだ。


僕は進学。彼女は就職。

きっと、茶番なんてできないだろう。

そんな価値を、彼女はないと、判断するだろう。


……彼女は、とても、残酷だ。


僕の気持ちには察しがついているだろう。

わかっていながら、彼女は僕の話し相手になってくれた。

そして自分の事を、語ってくれた。


時々口にする、冷徹な彼女の本音を聞くたびに、問われているような錯覚がした。


___ それでもお前は、好意を抱くのか? と。



勿論だ。だから出来る限り彼女と居続けた。


だから。

リベンジしようと、思った。

離ればなれになる前に。

彼女に、告白をと。


けれども。

この語に及んでも。

まだ彼女は、心を開いてくれない。



___ああ、なんか…………疲れたなぁ。


こんな事で。

____ 本当に、情けない。




「ミャーくん、先行くね?」


立ち止まる僕に彼女は言う。


「__……うん、ちょっとパートナー待ってるや。気にせず進んでて」


「オッケー、じゃあねー」



彼女は「あぶねぇ あぶねぇ」とひとりごとを言いながら、僕の前から姿を消した。


見限った。

見限られた。


そんな妄想を、考えてしまった。







彼女は何も想わない。ただ、感じて、考えて、応じる。

好きも嫌いも、想わない。

いつも自分で精いっぱい。応じることで、精いっぱい。


でも、だからこそ。

だからこそ、人は、誰かと寄り添おうと思うんじゃないかなぁ。





登山終了。


最後のポイント地点に彼女はいた。

宣言通り、マンガを読んで、時間を潰す。鞄にもたれ掛かって、寛いでいた。



僕の視線に気が付いて彼女も顔を向ける。



「やっほー、お疲れ様。うちの相方見てない?」


「ああ、さっきすれ違ったよ。そろそろ来るんじゃないかな」

ほとんどの女子生徒は体力の面もあって、後半に連れて男子が追い越してしまっていた。


「そっか、ありがと」



そう言って、彼女はマンガを読み進める。

パートナーがスタンプを先生から貰ったようだから、僕は最終地点の公民館へと向かった。




きっかけは、何だったろう。


___ たしか、授業で体育館に行っていた時だったか。


彼女のことは知っていた。

スポーツが上手いからだ。バレー部ではないのに、バレー部並に強かった。バスケも、バトミントンも強かった。


体育の時間は、別のクラスと合同で行う。

だからいつもどおり、体育館に訪れていた。

蒸し暑かったから、ドアを開けていると、目の斜め上に彼女がいた。

校門近くの庭木を植えた花壇に向かい、合掌していた。

急斜面で足場が悪いのに、器用にバランスを保って突っ立ていた。


「何してんの?」


彼女は、振り向いて微笑む。


「お墓参りだよ」


彼女はそれ以上は口にせず、花壇に向きなおって黙祷をした。


……説明が足りないですよ、あなた。





卒業考査期間に入った。


僕は、放課後に情報処理室に出向くことはしなくなった。

彼女とお喋りする頻度もなくなってきた。


彼女は、相変わらず、趣味に没頭している。

今だって、情報処理室でネットダイビングでもしているんだろう。

……… 勉強、大丈夫なのか?





卒業式当日。

難なく終わった。

後輩から手紙やら花束を送られて。

アルバムにメッセージを書いて。

担任教師からの言葉を貰って。感謝の言葉を、卒業生は返して。

最後に教室で集合写真を撮って。


終わった。



「ナーちゃん」


すれ違いざま。

僕は彼女を呼び止めた。


「卒業、おめでとう」


「そっちもおめでと」


「好きだよ」


「私も好きだよ、友人として」


いつもどおりの、冗句。


彼女は、変わらない。

笑っている。仮面をつけて、笑っている。


「満足した?」


不意に、問われた。

彼女は、微笑む。


___ ああ、やっぱり。彼女は酷い。酷すぎる。


「うん、満足した。けど、時々 寂しくなるだろうから、連絡するね」


「そう。時間があれば、応じるね」


「……うん。さよなら」


「ばいばい、またいつか」


彼女は振り返らずに軽く手をふって、帰路へと歩を進めた。


別れ。

彼女は立ち去る。


呆気無かった。


その時みた夕陽は、綺麗だった。

なぜだかとても眩く、切なく感じた。




彼女を知った。


彼女のことを、いろいろ知った。

自分の事を、語ってくれた。


恋愛に、興味がないこともわかった。

趣味に、興味があることもわかった。

家族に、あの笑顔を向けていることもわかった。


彼女が、さみしがりで、面倒くさがりなのを知った。

どうしようもなく中途半端なのを知った。


いろいろ、知りすぎた。

だから、僕は、諦めてしまった。


情けなかった。

情けなさすぎた。

ついて、いけなかった。



だから、せめて___ 彼女が望むように、僕は幸せを掴むことにした。


彼女がいつかの時に、口ずさんだ言葉。


「ミャーくんは、幸せになってね。こんなせずにさ」



彼女はいつも、応じてくれていた。


自分の為にも、僕の為にも。


人のこと、知らないくせに。

人の気持ち、理解もしないで。

憶測しか、想像しか、していないくせに。


___どうして。そう、はじめから、そんな顔をするんだ。

諦めたような、何も望まないような、どうでもいいよみたいな、もう飽きたみたいな、面倒みたいな、似合わないみたいな、予想はしていたみたいな、だからどうしたみたいな、無関心な____…… もう、終っているような。




本当に、彼女は、自分勝手で____ 本当、変わらない。




ここまで読んでくださり、

本当に恐れいります m(_ _)m


この言葉の使い方とかあってるのかな……とか毎回読み返して調べたりしてますが、間違いあったらすいません。

その時は、『コイツ間違ってるぜww』とわらっといてください。


彼をバカにしてきますので。

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