表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
子猫転生  作者: ニャンコ先生
第一部 上巻
9/57

子猫編 そのニャニャニャーン

 魔法の球はすんなりと魔物に命中した。敵は油断していたのかもしれない。


 そして光球は訓練場の時と同じように大きく爆ぜる。

 だがあの時とは様子が少し違うようだ。


 接触部分でまばゆい反応が起こり、何かが吸い込まれていくような音が鳴る。

 数秒後その反応が収まると、魔物はがくんと大きく膝を突いた。


 胸の辺りの鱗が白く変色している。

 見た目からしても、かなりの効き目だとうかがえる。


 それを見届けると退避していた兵たちが再び魔物に張り付いた。

 おそらく止めをさしにいったのだろう。




「続けて二番隊! 魔法を放つ! 回避準備ーっ!」


 今度はパパ上殿が杖を掲げ上げた。それには赤い光が宿っている。


「回避ー!」



 パパ上殿は兵たちの回避をゆっくりと確認してから、その腕を振り下ろす。


 その杖から稲妻のように鋭い光が走る。

 ニャルミの魔法とは比べ物にならない速度だ。

 回避不能のその光が魔物にあたると、そこから巨大な炎が燃え上がり魔物を焼き尽くす。


 今度は兵たちが戻ることはない。


 次に来る魔物たちに備え、隊列を整えている。




「二番隊、そのまま左手で迎撃準備! 一番隊は右手で待ち構えろ!

 三番隊は最終ラインで待機!

 中央は開けろ! 続けて魔法を放つ! 弓兵、魔法とともに矢を放て!

 来るぞ! 全員気をひきしめてかかれ!」



 パパ上殿の言葉どおり、それまで成り行きを見ていた残りの魔物五体全てが突撃してきた。



 その一方、ニャルミの魔法の準備は既に整っていた。

 今度は予告なしに魔法を打つ。それを援護するように一斉に矢が放たれる。


 光の球は惜しくも先頭の魔物には避けられた。

 しかしそのすぐ後ろにいた一体は視界を塞がれていたため、気付くのが遅れたようだ。

 光球が弾け、あたり一面を白く照らし出す。




 パパ上殿もそれに続けて魔法を放つ。中央を先行してきた一体から火柱が上がる。

 けれどもこころなしかその炎は、先ほどのものと比べてやや小さく見える。


「残りはあと三体だ! 落ち着いて順番に撃破していく!」


 勝機が見えてきたのだろう。パパ上殿の声が少しばかり穏やかになったように感じる。


 だけど安心するにはまだ早い。

 両脇から二体が駆け寄り、その後ろからさらに一体が向かってくる。


「ニャルミ、まだ魔法は撃てるか?」


 父の言葉に猫耳の少女がうなずく。

 掲げたその杖は、既に白い光で包み込まれている。


 中央から遅れて来た一体に向け、それが放たれた。

 しかしニャルミの放った光の球は、またしても魔物にかわされてしまった。


 それも仕方のないことだ。

 石を投げた程度の速度しか出ない上に、この暗闇の中を光る球が向かってくるのだ。

 かわすのは容易いだろう。

 もっともそれゆえに最初の魔物はあなどっていたのかもしれないが。


 交戦中の一番隊と二番体の間をすり抜け、魔物はそのままこちらに突進してきた。

 すぐに待機していた三番隊がその行く手をさえぎる。


 目の前で激しい金属音が鳴り響く。

 それに気圧されて、ニャルミが数歩後ずさる。



 パパ上殿は杖を構えて念じていたが、それが赤い光をまとうことはなかった。

 大きく肩で息をしている。魔力が足りないせいだろうか。


「すまない、ニャルミ、もう一度頼めるか」


 攻撃をはずしてしまったショックからか、あるいは戦場の壮絶さにおびえているのか、ニャルミは震えながらうなずいた。


「全員、魔物の足を狙え! 回避力を少しでも奪うんだ!」






 残りが一体になってからは、数の勝負だった。

 もはや魔法は使わず、兵士だけで魔物を組み伏せる。


 それまで待機していた兵たちもそれに参加する。

 経験の浅い新兵に場数を踏ませるためなのかもしれない。






「よくやった、ニャルミ。それでこそパラリー家の娘だ。今日のことは誇ってよい。

 さあ、もう夜も遅い。疲れているだろうし、詰め所で寝てくると良い。

 一緒に行ってやりたいが、パパはまだ仕事が残っているんだ」



 ニャルミは何も答えずに、ただ父の裾を掴んだ。

 詰め所に戻っても、おそらくママ殿は救護の仕事で手一杯だろう。

 一人さびしくベッドで眠ることになる。

 それならばここでパパと一緒にいたい。

 おそらくそう願ったのだ。


 今夜はいろいろなことが起こりすぎた。

 それらの出来事を一人の胸のうちで片付けるには、ニャルミはまだ幼すぎる。

 胸の高鳴りを抑えるには、誰かがそばにいてやらねばならないのだ。



 さすがにどことなく鈍いパパ上殿もそれを察したらしい。


「ここには何もないが、いいかね。

 おい誰か、すまんが今日の英雄のために椅子を運んできてくれないか」




 背もたれのない簡易な椅子が二個並べられ、パパ上殿とニャルミが座っている。

 先ほどから入れ替わり立ち替わり部下たちが訪れ、パパ上殿の指示を仰いでいく。


 負傷兵たちの状況報告、物資の確認と補充、炊き出しの準備、設備補修や休憩時間の再調整。


 問題は山積みである。パパ上殿の顔に疲労の色が伺える。


「かがり火をもう少し追加したほうがいいな。

 それからみんなにカリカリ茶を配ってくれ」



 ニャルミはもらったお茶で身体を温めながら、父の采配を眺めている。



「力仕事ですまないが、アレはやはり今のうちに隅に寄せておこう」


 パパ上殿は魔物達の残骸を指差した。


「何かあってからでは遅い。邪魔になる。

 力のありそうなものを何人か見繕ってくれ」


 ここは一応重要な防衛拠点のようなので、念のためということらしい。


 魔物は板の上に乗せられ、丸太のコロで運ばれていく。

 とても重そうなのに、それを運ぶみんなの顔が心なしか嬉しそうにも見える。

 一体ごとに大まかな値踏みをしているから、おそらく金になるのだろう。




 そんな中、他に魔物がいないかどうか調べるため、探索部隊が組まれることになった。

 地面に大きく地形図が猫かれ、それを大勢で囲みながらあれこれと意見が出ている。

 ニャルミパパも立ち上げり、その議論に加わる。


 いろいろ話し込んでいるが、論点は大きく分けて三つのようだ。


 少数精鋭でいくか、それとも不慣れなものを混ぜるかどうか。

 探索ルートは既定のものがいくつかあるが、そのうちのどれを選ぶか。

 そして万一見つかった場合の対処。誘導するか、かく乱しつつ逃走するか。


 戦力の消耗が激しいことが、議論を長引かせているらしい。






 さて魔物の探索か。

 そういうことなら、僕も少しはお役に立てるかもしれない。


 先ほどの戦闘中、僕はただ物見気分で眺めていただけではないのだ。

 彼らの戦いを魔力探知で注意深く観察していたのだ。

 そしてどうやら魔物には、特有の波長のようなものがあるらしいと分かった。


 魔力探知の練習がてら、事前調査してあげるのも悪くないだろう。


 ただ普通の猫らしからぬ振る舞いはできれば控えたいな。

 どういうわけか魔力探知をしているとニャルミに勘付かれることがあるんだよな。


 しかし幸いなことに、現在彼女はパパの仕事振りを観察するのに夢中のようだ。

 今のうちならニャルミに気取られることはないだろう。

 戦闘中も気付いていなかったみたいだからね。

 まあそんな余裕がないのは当たり前か。


 よし、やるか。


 もしさらなる魔物がみつかったならその時は仕方がない。

 ニャルミに知らせよう。

 魔物が見つからなければそれでいい。




 そうそう少し脱線するが、ついでに魔法を放つ過程もきっちり見ておいた。

 特に魔力の流れの一部始終が魔力探知で確認できたのだ。


 見よう見まねではあるが、僕にも同じことができそうな気がする。

 つまり僕にも魔法が使えるかもしれないのだ。

 あとでこっそり一人のときにでも試してみたい。




 しかしとりあえずは魔物の探索だ。僕は精神を集中させる。


 半径百メートルほどの範囲を探ってみると、兵士たちの波動がたくさんひっかかる。

 多すぎて大変だが、あの特徴的な波動はないようだ。


 探索範囲を徐々に広げていく。


 やや大きな反応がみつかったが、波長が違う。おそらくイノシシか何かだろう。

 詰め所がみつかる。ママ上殿が怪我人を治すのにがんばっているようだ。

 川の流れをみつけた。魚がたくさん泳いでいる。


 さすがに範囲が広すぎて、情報を処理しきれなくなってきた。

 対象を魔物に限定することで、その負担を軽減できないだろうか。


 ためしに特定の波長だけを選択的に探れないか試してみる。

 するとあっけなくそれができた。それに思いのほか楽になることが分かった。

 これならもっと遠くの様子も探れそうだ。一気に探索範囲を広げてみる。




 すると突然巨大な反応が引っかかった。

 先ほど戦っていたやつらと大きさがまるで違う。

 けれどもこの特有の波長は魔物の類に違いない。


 ゆっくりではあるが、その魔物はこちらに向けてまっすぐ向かって来ている。

 いや、距離があるから相対的にそう感じられるだけのようだ。これは意外に速い。


 この勢いではもうあまり余裕がない。

 これはまずい。とにかくニャルミに知らせなければ。



「ニャー! ニャー!」


「ん? ん? どうしたの? ご飯が欲しいの?」


「ニャー」


「ん? あっちに何があるの?」


 どうやら僕が何かをみつけたことが分かったらしい。

 ニャルミは立ち上がり、魔物の向かってくる方角をじっと見つめている。

 遠すぎるのでニャルミに分かるか心配だったが、なんとかそれを見つけることができたようだ。



「何か、来てる……。何これ……、大きい……。ん、これってもしかして……」


 ニャルミはすぐさまパパ上殿のもとに駆け寄る。


「パパ! 大変! あっちから巨大な魔物がやってくる!」


「何、それは本当か!?」


 ニャルミは真剣な表情でうなずく。




 その直後、僕の魔力探知はその大きな魔物が地を蹴り空へと飛び上がる様を捉えていた。




「くっ、おい! 探索部隊を呼び戻せ!」


「だめ! 間に合わない! 空を飛んでるみたい! あと数分でこっちに来るわ!」


「飛んでいるだと? まさか……!?」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ