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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第一部 上巻
8/57

子猫編 その五

 ママ殿は治療魔法の使い手らしい。

 パパは主に攻撃魔法が得意だが、一度に複数を相手にできるわけではない。

 そのためいわゆる前衛役の兵士が必要であり、必然的に負傷者が出る。

 その負傷者を治療するのがママ殿の役目なのだそうだ。



 夕刻の先頭では、大鬼級の存在を懸念したパパが惜しみなく魔法を使ったため被害は少なかった。

 だが、今回はどうなるか分からないという。

 なぜなら……。






「見回りに出た人が襲われて怪我をしているの。

 ママは治療をしてあげないといけないから、ニャルミはここでおとなしくしていてね。

 パパとの約束は守れなかったけど、ママとの約束は守れるわよね? 返事は?」


「は、はい!」


 ゴホンと咳払いをするパパ。


「な、なあニャルラ。それなんだがな、えーと。

 ……その、今回ニャルミには悪いが、わたしとともに出陣してもらおうと考えている」


「なんですって?!」


「そう怒るな、ニャルラ。理由を聞いてくれ。

 まず夕刻の戦闘で少々魔力を使いすぎてしまった。

 そのため魔力が十分に回復していないんだ。

 今回の襲撃にはおそらく足りないだろう。

 それでもなんとかなるとは思うが、兵士たちに甚大な被害が出ることになる。

 だが、ニャルミが出ればその被害を抑えることができる。

 それならばニャルミに出てもらうのがベストだ。

 これは領主たるわたしの判断だ。分かってくれ、ニャルラ。

 いや、分かってくれなくてもいい。これは決定だ」


 話している間中もずっとママ殿はパパをにらんでいた。

 だがニャルミパパはそれには屈せず、そこまで言い終えると強くママ殿を見返す。

 そして意外にもママ殿が折れた。


「……かしこまりました」


 おおすごい、あのママ殿を制した。

 これからはパパ上殿とお呼びせねばなるまい。


 だがママ殿も完全に屈服したわけではないようだ。


「……で、でも、いきなり準備もなしに初陣なんて……」


「大丈夫、ニャルミは魔法の天才なんだ。

 兵士たちみんなとの連携はとるのは難しいだろうが、そこはわたしがサポートする。

 さらに良いことに、ニャルミの属性は聖魔法だ。

 味方に当たっても心配は要らない。

 いつもの練習どおり、魔法を放てばよい。

 それに私がニャルミを守る。危険はない」


「……ですが、ニャルミの意思も尊重してあげてください」


「ニャルミ、話は聞いていたかい?」


 ニャルミはこくりとうなずく。



 ニャルミの意思、これがママ殿の最後の砦である。

 だからこそパパ上殿も慎重に言葉を選んでいるようで、短い沈黙の後ひざまずいてニャルミに語りかける。


「これは使い古された話だけどね、今のニャルミにしておきたいことなんだ」


 パパ上殿はニャルミの目をやさしく見つめてから話を続けた。


「いいかいニャルミ。今まで良い暮らしをしてこれたのは何故だと思う?

 それはみんながニャルミを助けてくれたからなんだ。

 だけど逆に今、ニャルミはみんなのことを助けることができる。

 今もしニャルミが頑張ってくれたら、みんなが笑顔でいられる。

 もちろんまだニャルミには早すぎるかもしれない。

 もしニャルミがまだやりたくないのなら、それでもいい。

 何もしなくても誰もそれでニャルミを責めたりなんかしない。

 だけどいつかはそうしなければいけない。

 だからニャルミ、お前が決めなさい。

 今ここでみんなのために頑張るか、後で頑張るか、どちらかを選びなさい。

 頑張るといっても大したことをするわけじゃない。

 いつもの練習どおりのことをやればいい。それだけなんだ」


 ニャルミは再びこくりとうなずいた。

 それを見て、パパは再び問いかける。


「やってくれるんだね、ニャルミ」


「……はい!」


 パパ上殿はニャルミの肩に手をやり抱き寄せる。


「勝手に屋敷を抜け出した罰を与えるはずだったのに、逆にご褒美をあげなくちゃいけなくなるとはね」


 そんな風に言われてニャルミは恥ずかしいのか、パパ上殿に抱きつくようにして表情を隠した。



 どうやらパパ上殿とママ殿の戦いはこれで決着がついたようだ。

 だが何故かママ殿の表情は、満足したように穏やかになっていた。



「ニャルミ」


 そのママ殿の声は驚くほど落ち着いていた。

 呼びかけに応えて娘が振り返るのを待ってから、ママ殿は話しかける。


「いい、ニャルミ。よく聞いて。

 ニャルミはやさしいから、魔物でさえ傷つけたくないと思うかもしれない。

 だけどもし魔物を見逃せば、やつらは街のみんなを襲うでしょう。

 つまりもしニャルミがやらないのなら、それは逆にみんなを傷つけることになるのよ。

 だから躊躇ってはいけないわ。

 そうだ、一緒に子猫を連れて行きなさい。

 そしてもし心に迷うことがあったら子猫を見なさい。

 あなたは子猫を守らなくてはいけないの。それを忘れちゃいけないわ。

 これがママとの新しい約束よ。今度こそ守ってくれるわね」


 え、僕も巻き込まれるの? まだ僕何もできないよ? 邪魔になるだけだよ?

 ちょっとパパ上殿も何か言ってやってよ!

 そんな僕の気持ちが通じたのか、パパ上殿が二人に割って入ろうとした。


「おいおい」


 だが、ママ殿のひとにらみで何もなかったかのように目を逸らす。

 ちょっとパパ上殿! さっきまでの勢いはどうしたのさ!



 そんな僕たちの思惑をママ殿はどう受け取っていたのかは知らないが、すぐに立ち上がると、パパ上殿にうやうやしく一礼した。



「ニャルミをおまかせました。ニャット様」


「うむ。分かった」


「では、わたくしは負傷者の救護に行って参ります」


「うむ。任せた」


 ママ殿は再びニャルミを抱きしめると、待たせていた救護兵とともに負傷者の治療に向かった。






 戦場まで徒歩で移動だ。護衛の兵たちとともに戦場へと向かう。


「状況は?」


「子鬼級が七体です。

 現在なんとか戦線を維持しておりますが、皆疲労がたまっており既に怪我人が多数出ております」


「ふむ、一度撃退して気が抜けてしまったのだろう。

 しかし七体か……。多いな……」






 戦場はこう着状態が続いていた。

 兵士たちは長槍やさすまたのような武器をかまえ、小隊ごとに魔物を待ち受けている。

 後方には弓兵が構え、近づく魔物を威嚇するように時折矢が放たれる。


 魔物は大きな牛や馬のような下半身と、人間のような上半身を持っている。

 それゆえその姿をケンタウロスと形容したいところだが、それは余り正確ではない。

 なぜなら全身が真っ黒な鱗のようなもので覆われているからだ。


 そしてもう一つ特徴的なのが、槍のように長く伸びたその腕だ。

 先端は鋭くとがり、それ自体恐ろしい武器であることが察せられる。

 あんなもので突き刺されたらと考えると、僕は思わず身震いした。



 魔物が三体同時に押し寄せてくる。

 そのうちの一体は弓兵の集中砲火を受けて逃げ出した。

 残りの二体にそれぞれ小隊が張り付き、槍で進路を阻みながら攻撃を加える。






 さて、戦場をよく見れば我々は守りやすそうな地形に陣取っているのが分かる。

 左右両側が急な斜面で塞がれており、こちらに来るにしたがって次第に細くなるようになっている。


 したがって魔物が同時に攻めてこられる数は、三体でほぼ限界になるらしい。

 それ以上では仲間の退路を断ってしまうからだ。


 この場所で構えていれば、少なくとも包囲されることは無い。

 敵の数の有利を打ち消すことができるのだ。




 ニャルミの息が整うのを待ちながら、パパ上殿が詳しい説明を続ける。


「魔物は再生能力が高い。

 そして今のところ、こちらからの攻撃では決定打を与えられない。

 やつらはそれが分かっているから、持久戦に持ち込もうとしている。

 だが、我々が魔法で攻撃をはじめた途端、おそらくそれは一変する。

 残りの魔物全てで捨て身の攻撃をしてくるだろう。

 だから、攻撃をはじめたらできるだけ速やかに全てを終わらせるんだ」


 ニャルミは真剣な表情でうなずく。


 状況説明が終わると、パパ上殿は魔法を放つ合図や討伐の段取りを打ち合わせた。

 そして最後にニャルミの緊張を解きほぐすように語りかける。


「ニャルミは初戦なのだから狙いを外しても当たり前、そのくらいの気持ちでいなさい。

 たとえうまくできなくても大丈夫だ、すぐ後にパパが控えている。

 何があっても慌てず騒がず、パパの傍を離れないように」




 そして準備は整った。






 パパ上殿が叫ぶ。


「一番隊! 魔法を放つ! 回避準備-っ!」


 ニャルミが魔法の準備を完了し、その杖を大きく振り上げた。

 魔物を取り囲んでいた兵士たちが連携を取りつつ左右に集まる。


「回避ー!」


 さらに兵士たちは掛け声とともに射線を塞がないよう大きく退避する。

 そしてそれと同時に、振り下ろしたニャルミの杖の先から白く光る魔法の球が放たれた。




2014.10.05 修正 以外にも→意外にも 攻めてられる→攻めてこられる


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