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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第一部 上巻
7/57

子猫編 そのニャニャーン

「ごめんなさい、パパ。

 ニャスターが逃げ出しちゃって、追いかけてきたらここに来ちゃったの」


「ニャ!?」

 え、僕のせいにするの? ひどいよ!

 そりゃ兵士が近づいてきたのを教えなかったのは悪かったけどさ。


「えー、そうなのか。わるい子猫ちゃんだね。

 じゃあそんなわるい子猫はうちにはおいておけないから、明日返しに行こうね」


 パパはニャルミから僕をひょいと取り上げた。


「ニャニャ!?」

 なにそのとばっちり! 勘弁してくださいよ!


「ち、違うの! ニャスターは悪くないの!

 本当はパパがいなくてさびしくて、不安でたまらなくて会いに来ちゃったの。

 もう魔物はパパがやっつけちゃって聞いたから、安心してつい……。

 だからニャスターは返さないで! お願い!」


「うーん、そう言われちゃ怒るに怒れないにゃあ。

 反省しているなら、子猫は返さなくていいよ」


「わーい! パパ大好きー」


「ニャー!」

 助かった。パパ大好きだ!


 パパは僕の頭をウニャウニャと撫でる。

 どうやら単に僕のことを触りたかったらしい。



 だがそんなパパから僕を奪い去る者が現れた。

 その人は僕をやさしく抱きかかえると、あごの下や耳の後ろなどデリケートなところをやさしくさすってくれる。

 それは手馴れた様子でツボを押さえており、なかなかに心地よい。


 そしてその一部始終を黙って見ていることしかできなかったパパを、その人がたしなめる。


「だめですよ、パパ。ニャルミをちゃんと叱ってあげてください」


 その声や風体から推測すると、おそらくニャルミのママなのだろう。

 僕を取られて手持ち無沙汰になったパパは、しょんぼりとしつつもニャルミに説教をはじめた。


「う、うん。そうだな……。

 いいかい、ニャルミ、よく聞きなさい。

 魔物は無事パパたちが倒したが、あれ以外にも潜んでいる可能性があるんだ。

 最近は魔物が活動的になってきているという報告もある。

 安全が確認されたわけじゃないんだ。

 それに夜一人で歩くのも危ないんだ。どんな危険が待ち受けてるか分からない。

 昼間にはなんてことのない側溝も、夜は危険なトラップと化す。

 ま、まあ、今日は満月だから大丈夫かもしれないが、だからといって安心はできない。

 これは何か罰を与えないといけないな」


 パパのお説教が延々と続く。

 うんうん、いいぞ、もっと言ってやれ。


 だが堪えきれなくなったニャルミが、ママに泣きつく。


「うぇーん、ママー。パパが怒ったー」


「だめですよ、パパ。ニャルミがおびえてるじゃないですか。

 やさしくしてあげてください」


「ど、どうしろって言うんだ……」


 パパが複雑な表情でうろたえている。


 いや、パパは悪くないと思うよ。自分を信じていいよ。

 娘に嫌われることよりも、正しい教育を施すことの方が大切だ。

 それがパパの役割なんだ。


 もちろん僕も自分の役割を果たすよ。

 みんなから愛される子猫の役目をこれからも一所懸命に務めるよ。

 お互い損な役回りだけど、頑張って続けていこうニャー。



 さてそんなパパを尻目に、ママがなだめるようにニャルミを撫でる。


「今夜はしょうがないから、このままここに泊まっていきなさい。

 明日ママと一緒に帰りましょう」


「そ、そうだな。おい、誰か屋敷に使いを頼む。

 ニャルミが今詰め所にいることを伝えて、屋敷の警備を半分こちらにまわすよう指示を出してくれ」


 ふーむ、この家で一番権威があるのはママなのか。

 これからは敬意をこめてママ殿とお呼びしよう。

 決してマッサージが気持ちよかったからではない。






 ニャルミパパは仕事に戻ったが、ママ殿は休憩がてらニャルミを寝かしつけるようだ。

 ニャルミは今日の出来事をひとしきり話し終えると、電池が切れたように寝てしまった。


 ママ殿は寄りかかるように寝ているニャルミをそっとベッドに移す。


 僕も寝たふりをしていたら、ついでにその枕元に置かれてしまった。

 まあこの方が面倒がなくていいか。






 さて、ようやくニャルミから開放されて一人で集中できる時間がとれた。

 眠りに就いてしまう前に、考えをまとめたかったことがある。


 それは、転生ポイントの計算が合わないということだ。



 記憶残留で百、三毛の雄で二十。


 それにおそらく猫転生関連で最低でも二十。

 猫に転生すること自体ではそんなに必要ないが、同時取得を推奨される能力が多い。

 それらはノミ除けや免疫機能強化などの地味な能力だが、医療技術が期待できない世界では非常に有効らしい。

 人間ならまだしも、何かあったら対処が難しいからね。

 あのお固そうな神様のことだから、その辺りはきっちり守らせたはずだ。



 さて問題はここからだ。



 それだけでポイントはカツカツのはずなのに、まず先ほど試した魔力探知がある。

 断定はできないが、これはおそらく達人級以上だろう。


 さらに僕はかなりの魔力を所有しているようだ。

 まわりの人々や動物たちと比べ、際立って大きいのは確かだ。

 おそらくこれも神様からもらった恩寵なのだろう。



 これらをポイントに換算し加算していくと、どれだけ控えめにやっても百五十では足りないのだ。


 魔力探知だけなら誤差の範囲としてごまかすことはできた。

 だが魔力があるということは、必然的に関連する魔法スキルを取得したことになる。


 いったいどういうことなのだろうか。




 ポイントの辻褄を合わせる仮説は一応考えてみた。



 特殊な効果を持つ神器やマジックアイテムを知らぬ間に使っているのでは?

 スキルコピー、能力簒奪、スキル習得速度上昇系などで後天的に取得したのではないか。

 使役や統率系能力の影響下でマスターからの恩恵を受けていることもあり得る。



 だがこれらの可能性はどれも否定される。



 マジックアイテムどころか、僕は首輪一つ身につけていない。

 スキル操作系能力はそれぞれ習得ポイントが軽く百を超えるため、なおさら計算が合わなくなる。

 使役系などで恩恵を受ける場合は、忠誠心があがるなどの特徴があるはずだがそれがない。



 うーん。いくら考えても答えは出ない。


 そして僕はいつの間にか眠ってしまっていた。







 三時間ほど寝ただろうか。なんとなく目が覚めた。


 ついたての向こうに誰かがいるようだ。この気配は多分パパやママ殿たちだろう。

 寝起きで喉が渇いたな。水を飲みたいが、二人にねだればもらえるだろうか。


 あたりを見回すと、サイドテーブルの上に水と食事が食卓カバーのようなものに入れて用意してある。

 なんだ、気が利くじゃないか。


 僕はカバーの中に滑り込み、音を立てないように注意しながら水を飲む。

 せっかくなのでついでにご飯もいただこう。



 夜も更けてきたというのに、まだあちこちで人の動いている気配がする。

 交代で休んでいるのだろうが大変だな。




 さてせっかく起きたのだから、夜遅くまでがんばっているパパたちを労ってやるか。

 膝の上で丸くなっておなかをみせるくらいはしてあげよう。

 なんなら指に甘噛みくらいしてあげてもいい。


 ただそれをやるにしても、うまくタイミングを見計らわないと邪魔になる恐れがある。

 あまり忙しいようなら何もしないほうがいいかもしれない。

 ひとまずは様子を見てから考えるか。




 のんびりとそんな作戦をたてていると、不意に空気が変わった。


 それまで寝ている人たちに配慮していた物音が、急にそれを気にかけないものとなったのだ。




 見回りに出ていた人たちが帰ってきたのだろうか。

 聞こえてくる足音は、彼らが走っている様子を伝えてくる。

 どうにも様子がおかしい。


 だがそれは状況を知らせる兵士たちの叫び声によってすぐに解明された。


「敵襲ー! 数は不明! 増援求む!」

「敵襲ー! 総員起きろー!」


 それに続けてドラを慣らすような音が鳴り響く。

 その音で兵士たちが目覚め、準備をはじめたようだ。


 静寂が喧騒へと変わる。


 尋常でない気配により、ぐっすりと寝ていたニャルミも目を覚ます。


「うにゃ……? なに……? ごはん……?」


 寝ぼけたニャルミが誰ともなしに問いかける。


 やがてテントの中にまでその騒乱が押し寄せてきた。

 兵士がパパたちに事態の詳細を報告している。


「ニャルミ、起きて! 魔物よ!」


 娘を気遣うママ殿が、ニャルミのもとへと駆け寄ってきた。




ニャー

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