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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第一部 上巻
6/57

子猫編 その三

「大鬼級か。それに数が多いな。分かった、わたしが出よう。

 ニャルミは子猫と一緒に部屋で待機だ」


 どうやらニャルミパパが出陣するらしい。

 パパは伝令の男を引き連れ、あわただしく中庭を出て行った。



 僕とニャルミの二人だけがとりこのされる。


「そっかー、ニャスターが見つめていたのは魔物の群れだったんだね。

 ごめんね、せっかく教えてくれたのに」


「ニャー」

 いやいや、違います。ただの偶然です。


「心配しなくても大丈夫だよ。大鬼級くらいパパの敵じゃないわ。

 パパはね、貴族級も退けたことがあるのよ。

 数が多いからちょっと心配だけど、多分いつもどおりすぐに片付くわ。

 おそらくママも一緒だからね」


「ニャー」

 心配しているのは、僕が転生者と気付かれないようにということです。

 そもそも小鬼級とか大鬼級とか貴族級とか言われても困る。

 どれだけ強いのか、さっぱり見当がつきません。


「うん、部屋に戻ろう。またいっぱいお話しようね」


「ニャ、ニャー」

 またあのとりとめのないお話が続くのか。

 言葉の練習だと思ってあきらめるか。仕方ないにゃあ。






 大鬼級はパパの敵じゃない。



 そのニャルミの言葉どおり、魔物は撃退されたらしい。

 メイドさんらしき猫耳のお姉さんが、パパたちのその後の話を報告してくれた。


 しかし負傷者治療や警戒強化、設備補修などの指示にあたるため、今夜は現地に残るらしい。

 ニャルミの母親もそれに付き添うらしく、夕食はニャルミ一人である。



「そっかー、じゃあ子猫と一緒に食べたいので、食事は部屋に運んでもらえますか?」


「うけたまわりました。早速運んでまいります」



 猫耳メイドさんは僕にウインクをしてから部屋を出て行く。




 テーブルの上に料理がいくつも並べられる。

 ニャルミの希望で僕用の食事も一緒に配膳され、僕自身もテーブルにちょこんと置かれた。


「ニャスターのご飯はそっちだよ。じゃあいただきます」


「ニャー」


 ニャルミの夕食は色とりどりで、つい味見をしたくなる誘惑に駆られる。

 だが、人間用の食事を猫が食べるのは身体に良くない。

 ねだるのはやめておこう。


 それに僕用のご飯も悪くない。

 品数も量も少ないものの、見た目はニャルミのものに遜色ない。


「ニャスター、おいしい?」


 その声が心なしかさびしそうに聞こえた。

 よく考えれば、こんな年端もいかない少女が家族と離れて一人なのだ。

 メイドさんたちがいるとはいえ、心もとないのだろう。

 よし、気が済むまでおしゃべりにつきあってやろう。


「ぐるるニャー」


「そっか、おいしいか」


 ニャルミが笑顔を見せた。






 ニャルミのお話はつまらないわけではない。


 ただ僕が喋れないために、どうしてもニャルミからの一方的な語りになってしまう。

 そのためもう少し掘り下げて聞きたいところを流されたり、逆に流して欲しい話を続けられたりする。

 それが不満なのだ。


 その上言葉がわからないフリをしつつ、ただニャーとだけ相槌を打っていると段々モヤモヤしたものがたまってくるニャー。



 そんなわけでニャルミの話し相手は少し疲れるのである。

 ちなみに今ニャルミは僕を膝の上に乗せ、唐揚げにレモンをかけることについて熱弁を振るっている。


 これはさすがに聞き流しても問題はないだろう。

 神様からもらった能力についてもう少し考えをまとめよう。



 ひとまず僕のチート能力だが、魔法タイプであるとほぼ確定した。

 さらに残りポイントの少なさから考えると、何かに特化させたと考えるべきだろう。


 ひょっとしたらニャルミと巡り合ったことも偶然ではないのかもしれない。

 つまりニャルミをサポートする役として、僕は生まれてきたのかもしれないのだ。

 分かりやすく言うと、魔法少女のマスコット的存在だ。


 ただそうなると、かわいいだけではすまされない。

 なんらかの役割が期待されるだろう。


 例えば魔力探知に特化してニャルミ専用レーダー要員となったと考えるのはどうだろうか。

 うん、その可能性が一番高そうだ。


 やり方を教わってもいないのに、探知が成功したこともそれを裏付けている。

 それならニャルミには悪いが、この時間を利用してちょっと練習させてもらおう。

 唐揚げにレモンの話はさすがに聞き飽きた。



 ニャルミの話にあわせ、適当に「ニャー」と相槌をうちながら探知をしてみる。

 まだ無理かもしれないが、ニャルミパパたちが向かった方角に向けて意識を飛ばす。

 しばらく何もみつけられなかったが、ようやくパパたちらしき気配を探り当てた。


 遠い。かなり遠い。

 距離の感覚がまだつかめないので、歩いたらどれくらいかかるか分からない。



 それにしてもこの距離を初日で探り当てられるということは、やはり僕は探知特化なのだろうか。


 そんなことを考えていると不意にニャルミが表情をかえ、僕を抱え上げる。



「んー、ニャスター、もしかして退屈してる?」


「ニャー」

 ち、違いますよ。だから放して下さい。


「そうだよねー。パパたちが気になるよね。

 さっきからあっちの方角をずーっと探ってたもんね」


「ニャー」

 えっ、もしかしてそういうの分かっちゃうの? まずいなこりゃ……。


「んー……あっ! わたしもパパ見つけたよ!

 ニャスターのおかげでコツが分かってきたみたい。

 よし、パパからは部屋に居なさいと言われてるけど、こっそり行ってみようか」


「ニャー」

 そ、それは危ないだろう。やめた方がいいって。ダメ! 絶対!


「大丈夫だよ! 前にも一度行ったことがあるんだ。

 それに魔物はパパがやっつけちゃったもん」


「ニャ、ニャー!」

 やめようよ! 何かあったら大変だよ! うわー、助けてー!


 ニャルミは着ている服の胸元に僕を無理やり押し込むと、早速冒険の準備をしはじめた。






 窓から脱出した僕たちは、子供でなければ通れないようないくつもの細い抜け道を使い、敷地の外に出る。

 今宵は満月。人目がないのを確認したニャルミは大きく伸びをした。


「よーし、じゃあパパたちのところへ向けてしゅっぱーつ!

 ニャスターは念のため、近くに誰かいないか探っていてね」


 こうなってしまっては仕方がない。

 僕とニャルミの安全のためにも、気合をいれて探知してみようじゃないか。




 周囲には警戒すべき大きな生き物はいないようだ。

 木の上で寝ている鳥たちや物陰にひそむ小動物をみつけたが、無視しても大丈夫だろう。


 僕らは民家の多い通りは避けて、畑や林の多い裏道を進む。

 ニャルミのお気楽そうな鼻歌が聞こえてくる。

 こうして夜中に一人で出歩くのは、新鮮で気持ちが良いのだろう。



 僕は探知範囲を徐々に広げていく。

 脅威になりそうなものは見当たらない。

 やがてパパたちのいる詰め所らしきところまで、その範囲が広がった。


 視界良好、敵影見当たらず。


 僕はようやくほっと溜息をついた。






 臨時でつくられたらしき詰め所の前では、かがり火がいくつも焚かれている。

 見張りらしき大人が槍を持って待機し、周囲を警戒している。

 布で天幕をはっただけのテントでは、兵士たちが休憩を取っている。


 数名の集団が戻ってきて、上官に何かを報告する。

 入れ替わるように数組の猫耳兵が出発する。


 その上官は、すこしばかり豪華なテントへと向かう。

 のれんの様な入り口の布がめくられると、その奥にニャルミパパの姿がちらりと現れた。



 そんな様子を僕らは木陰に潜んで見つめていた。


「今パパが居たね!」


「ニャー」


「こら、静かにしないとみつかっちゃうでしょ!」


「ニャ、ニャー!」


「ん、何? 後ろ?」


「誰だ! こんなところで何をしている!」


「キャッ! ごめんなさい!」


 僕らは巡回中の兵士にみつかってしまった。


 ニャルミが僕を非難するように見つめる。

 いや、探知をサボっていたわけではありません。

 帰りのことを考えると、ここで見つかった方が楽かなと思ってつい……。


「こ、これはニャルミお嬢様でしたか。失礼しました!」


 騒ぎを聞きつけて、大人たちが集まってくる。


「なんにゃ?」

「なんにゃなんにゃ!」

「なんにゃなんにゃなんにゃ!?」


 これはもう誤魔化しようがなさそうだ。




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