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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第ニャー部 下巻
54/57

怠惰な襲撃の一日編 そのニャニャニャニャニャニャニャン

忙しかったりなんだりで時間がとれず、一週お休みしてしまいましたニャー

今回二話分ですが、長いのでご注意くださいニャー


 ニャルミの残存魔力全てを注ぎ込んだ魔法が放たれる。


 次の瞬間、真っ白な光があたり一面を照らす。

 昼間だからと油断していたが、あまりのまぶしさで僕は反射的に目を閉じた。



 タンスからベッドに猫がダイブしたときのような、鈍い振動が伝わってくる。

 やや遅れて、猫が走りよってきたようなふわりとした風も感じた。



 視力が回復した時、そこには白く変色した大鬼級が横たわっていた。




「やったにゃ!」

「今度は一撃にゃ!」

「合計六十人分の働きだにゃ!」

「さすがドラスレにゃ!」

「大鬼級なんか目じゃないにゃ!」



 大歓声が聞こえてくる。

 みんなとても興奮しているようだ。




 だが多分一番衝撃を受けていたのは、おそらくニャロリーヌだろう。


 悔しさを通り越し、憧憬に至ったような複雑な表情でニャルミを見つめている。

 魔力をほとんど出し切ったため、弱気になっているのかもしれない。




 それはさておき、これで僕らに課せられたノルマは達成した。


 残りの大鬼級は三体だ。

 少し手こずるかもしれないが、大人たちがどうにかしてくれるだろう。






 当のニャルミはよろめきながら、護衛の女性兵士に肩を借りて戻ってくる。



「お兄ちゃん……」


「ニャルミ、よくやった。休め」


「うん……」



 ニャルミは魔力切れを起こしている。

 僕にもたれかかると、全身の力を抜いてその身をあずけてきた。


 バランスを取りながら僕はゆっくりと座り、その背中を撫でてやる。



 女性兵士がどこか休めるところに運ぼうかと提案するが、僕はそれを断る。

 代わりに何か温かい飲み物でも用意してやってくれと頼むと、彼女はうなずいてどこかへ向かっていった。




 新入生達は、残された僕らを遠巻きにみつめている。


 先ほど勝利の歓声をあげていたみんなだが、どこかよそよそしい。

 心の距離が遠くなってしまったようで、少しさびしい。



 だけど考えてみれば、それも仕方のないことかもしれない。

 ニャルミは、彼ら何十人分もの仕事をしてみせたのだ。

 そのことでみんなのプライドを傷つけてしまったのかもしれない。



 それにしてもこういう空気はちょっと嫌だな。




 せめてニーオが来てくれると心安らぐのだが、ニャロリーヌが魔力を使いすぎてへばっているらしく、その世話で忙しいようだ。

 気遣いの達人であるニャーフック先輩も、兵士たちと真剣に何かの議論をしている。






 そんな中、トヨキー教頭先生が人の輪をおしのけて僕らに近付いてきた。

 そして殿下の口調を真似て大きな声でこう言った。



「ニャルミさん、ありがとうございます。これは大戦果です」



 ニャルミはそれが聞こえているのかいないのか、ぐったりとしたまま動かない。

 先生は満足気に目を細め、そんなニャルミを見つめていた。



 とても嬉しい言葉だ。

 それに先生が来てくれたお蔭で、疎外感が緩和された気がする。

 本当にありがたい。




 あれ? だけど何か変な予感がするよ?

 予感と言うよりは、予測かな。


 次に先生が何を言うのか、子猫でもなんとなく分かっちゃうニャー。




 そしてその予測どおり、先生は真剣なまなざしを僕へと向けた。



「ニャスターさん、あなたも力を貸してくださいませんか」



 ああ、やっぱりそう来たか。でもなあ、困ったなあ。

 僕が魔法を使うには、練習不足なんだよね。




 面接試験の時のように目の前で炸裂させるのならともかく、目標との距離がありすぎるんだ。


 投射系の魔法っていうのは、全身運動で投げる必要がある。

 足、膝、腰、背中、肩、腕、指先と流れるように力をつなげていって、最後に杖の先からニャーンと放つわけだ。

 今の着ぐるみの身体では、そこまでスムーズな連係動作をするのは不可能に近い。


 それでも無理に力を入れれば、ある程度までは飛ばせるかもしれない。

 だけどその分コントロールがおぼつかなくなるのは目に見えている。


 あさっての方向に飛んでいっちゃって、魔力を無駄にしちゃうだけだろうな。

 それどころか、みんなの頭上で爆発させて大顰蹙を買うことになりそうだ。

 殿下もいらっしゃるし、やめておくのが無難だな。




 子猫転生の書にあった『ネコテティックパンチ』を使う選択肢がないことはない。


 けれどあれは魔力の消費が桁違いすぎる。

 そうホイホイと使えるような魔法ではない。


 それに『ネコテティックパンチ』は派手すぎるし、学園のみんなにはまったく未知の魔法なのだ。

 どう誤魔化せばよいのか見当も付かない。

 子猫転生の魔法書が本当でした、なんて説明するわけにもいかないよね。


 本当のピンチになったらためらわずに使うけど、今はとてもそんな状況じゃないや。




 しかたがない。変に期待させてもいけないし、ここはきっぱりと断る勇気をもとう。




「どうされましたか? ああ、体調が悪いというのは聞いています。

 無理をしない程度でかまいませんよ」


「えーと、たいへん申し上げにくいのですが、お断りさせていただきます」


「そうですよね、ヒーローは遅れて登場するものですよね……ってあれ?

 よく聞こえなかったんですが、もう一度言ってもらえますか」


「すいません、体調が悪いので、今日はお休……」



 しかし教頭先生は僕の口元に手のひらを近付け、僕の言葉をさえぎった。

 そして声をひそめて語りかけてくる。



「ですから、それは知っています。それでもあえて言わせてください。

 あなた以外の特待生二人は、既に結果を出しています。

 もしもこのまま何もしないのなら、あなたはニャルミさんのコバンザメだとか噂されることになりますよ。

 それでもいいんですか?

 わたしはあなたの本当の力を知っています。

 貴方の魔法はニャルミさんのそれに匹敵するはずです。

 大鬼級くらい敵じゃありません。

 ですからそんな不条理な噂が広がるのは、わたし自身とても耐えられないのです。

 どうかわたしのためにと思って、戦っていただけませんか。

 この通り、お願いします」



 そう言って先生は深々と頭を下げる。



「先生、どうか頭をお上げください」



 やれやれ、そこまで言われちゃ仕方ないニャー。


 先生の言うとおり、『コバンザメ番長』などと呼ばれるのは確かに嫌だからね。



 僕が少しやる気になったと、先生にも分かるらしい。

 口元がほころび、何度もうなずいている。



 新入生隊がそうだったように、僕の魔法も数撃ちゃ当たるだろう。

 だいぶ消耗することになりそうだが、一体くらいは倒してやるか。











 それに僕がここで力をみせれば、ニャルミをひとりぼっちの英雄にしないですむからね。











 だけどその瞬間、僕は『予感』が示していた未来の正体に気がついた。






 ここで先生の熱意にほだされて戦場にしゃしゃり出ていったら、おそらく僕は大失敗をする。


 それだけならばまだいいが、先生は僕を過剰に評価しているから困る。

 援軍は不要だ、とか余計な報告をするだろう。

 そして被害は拡大することになる。




 聖魔法で戦うにしても、よく考えれば杖が使えない。

 その分、さらに飛距離が稼げない。これは致命的だ。


 かといって杖を使ったら、火属性になってしまう。

 火魔法になるとさらに練習不足だ。せいぜい他の新入生達と同程度の火力しか出せない。

 魔力量は無尽蔵とはいえ、それでは倒しきれずに接近を許してしまうだろう。



 そして頼みの綱のネコテティックパンチだが、これが一番危ない。


 ネコテティックパンチの原理は、ミサイルやロケットのようなものだ。

 そしてミサイルは、本来とても高度な技術が必要とされるのだ。


 姿勢制御や誘導機構などが無ければ、最悪の場合ブーメランのように返ってきて自爆する恐れがある。




 いや、多分その最悪の事態になってしまうのだろう。



 だからこそ『予感』は、僕に今日一日何もするなと警告してきたのだ。






 ここは当初の予定通り、石にかじりついてでも動かない方向でがんばろう。


 残りの三体は、適任の者に任せた方がいいな。

 だけどそれをどうやって伝えるか。




 僕の決心が変わったのを察して、トヨキー先生はがさらに寄ってきてささやく。




「実は小鬼級の対処に手こずっておりまして、予定していた戦力補充が間に合わないのです」



 え? それ本当なの?


 驚きの表情をみせると、トヨキー先生は大きくうなずく。



「現在ここにいる人員を総動員すれば、なんとか勝てるという予測が立てられてはいます。

 しかし先ほどの戦いぶりを見る限り、新入生達に期待をかけるのは酷だと思いませんか」



 トヨキー先生は慎重に言葉を選んでそう言った。

 本心では『残りの新入生では無理だ』とでも言いたかったのだろう。




 確かにそうなんだよね。



 新入生隊は全員魔力を使い切ってしまったみたいだし、見学の子たちはほとんど戦意をなくしている。

 そんなメンバーでチームを組んでも、雷術士の魔力の無駄遣いになってしまいそうだ。


 使い物になるのはおそらくニャーフック先輩くらいだ。



 そのニャーフック先輩は、いまだに兵士達と何か話している。

 おそらく生徒会代表として、見学の子達の戦闘参加について検討しているのだろう。


 先輩はとても困った表情を浮かべて、時折僕らの方をちらりと見る。

 まるで助けてくれと言っているみたいだ。






 仕方ないニャー。

 それではスピードアップするべきですね。






「先生ありがとうございます。

 ですが僕が出ても足を引っ張るだけでしょう。

 僕のことは放って置いていただけませんか」



 しかし僕のその言葉を受けて、ついにトヨキー先生が叫ぶ。



「あ、あなたねえ、謙遜するのもほどほどにしなさい!」



 僕達の様子をうかがっていた新入生達が、ついに好奇心に負けて近寄ってくる。



「にゃんだにゃんだ?」

「どうしたんにゃ?」

「何かもめてるにゃ」



 先生はとりつくろうように咳払いをした。



「もう一度言います。ここは活躍できるチャンスなのです。

 いくら体調が悪くても、ちょっとだけ頑張ってみませんか。

 みんなにいいところを見せる最高の機会なのですよ」



 先生はわざと大きな声でそう言った。

 それは周りの子達に説明するための言葉だったようだ。



「番長戦わないのかにゃ?」

「体調が悪いみたいだにゃ」

「そうなのかにゃ、でもニャンコ番長のかっこいいところ見てみたいにゃ」



 新入生達を何人か味方につけ、先生は『これでもまだやる気になりませんか』と僕を見る。



 ああ、ごめんなさい。

 今はそれどころじゃないんだよね。




「……入学試験のとき、ニャルミさんはあなたを敬愛していると言っていました。

 最初わたしには、その意味が分かりませんでした。

 しかし今なら理解できます。あなたはやれば出来る人です」



 先生はあの手この手で僕にやる気を出させようと頑張る。



「つまりどういうことにゃ?」

「ニャルミさんが番長を愛しているらしいにゃ」

「でも二人は兄妹なんだにゃ」

「わたし知ってるにゃ。ああいうのを、シスコンブラコンって言うにゃ」

「なるほどにゃー、だから抱き合ってるのかにゃ」



 先生が余計なことを言ったせいか、変な誤解が広まりつつある。


 だけどそれを訂正している暇はない。




 僕はまわりの状況を確認してみる。


 とりあえず大鬼級残りの三体の位置を探る。

 もうかなり近くまで接近してきているようだ。


 そして先生の情報どおり、迎撃戦力はやや不足気味らしい。





「ニャスターさん、あなたならきっとやれるさ!

 そうだ、なんならわたしも一緒に行こうじゃないか!

 わたしが守ってみせる! どうかわたしを信じてくれ!」



 演説のような話が繰り返されるうちに、だんだん先生の味方が増えてきた。



「そうにゃ! 番長! がんばるにゃ!」

「先生と番長の師弟パワーで魔物をやっつけるにゃ!」

「番長! 応援するにゃ!」



 加速度的にその勢力は増えていく。

 困ったな。魔物退治は見世物じゃないんですよ。




 そこへニーオがふらりとやって来た。

 どうやらニャロリーヌの世話が一区切りついたらしい。


 そして僕の困っている様子を見て、ニーオは先生にとりなそうとする。




「先生、申し訳ありません。

 ニャスター親分は、今日一日怠惰に過ごすのだと、先ほど誓いを立てたのです。

 ですからどうか、親分をそっとしてあげてくださいませんか」


「た、怠惰の誓い……ですと?!」


 先生があきれ返ったような目で僕を見る。


「ええ、そうです。

 それにこのくらいの状況なら、親分の手を煩わせる必要はないでしょう」


「そ、そんなことは……、ありません!

 どんな時でも全力を尽くすべきです!

 それがわたしのモットーです!」



 どんどん近付いてくる大鬼級が気になるのか、先生の語気がだんだん荒くなってきた。

 だけど焦っているのは僕も同じだ。



「ニャスターさん、今ニーオさんが言ったことは本当ですか?

 本当にそんなことをかんがえているのですか?!」


「ですから僕は今、こうしてできることをしているのです!」


「できることをしているって、君はただ寝転がっているだけじゃないか!

 それとも何かね?! 自分は猫のように寝ているのが仕事だとでもいいたいのかね?」




 いやいや、そんなこと言われても僕は猫なんだよね。



 そう反論したかったができるわけがない。

 それにもう先生の相手をしている時間がもったいない。


 僕はあえてうなずく。


 せっかく先生との関係がうまくいきかけていたのに、これでまた少しこじれるだろう。

 しかしこれも、仕方がないことなのだ。



「君とは分かり合えたと思っていたのに……! うあああああ!

 君は特待生としての義務とか、貴族の義務とか、そういったことをどう考えているのかね!

 ウニャレス・ウニャリーズをニャンプルプルル!」



 教頭先生の声は裏返り、最後のほうは何を言っているのかもう分からなかった。

 本当にごめんなさい、今は許してください!



「なんにゃなんにゃ」

「番長戦わないのかにゃ?」

「今日はサボるみたいにゃ」

「怠惰に寝てすごすそうだにゃ」

「この状況で眠れるなんていろんな意味ですごいにゃ。怠惰王にゃ」






 突然、錫杖を床に叩きつける音が響いた。


 それを聞いて、みんな一斉に静まり返る。




 そんな大層な物を持っているのは、あの人しかいないのだ。



「おい、ヒヨッキー!」



 その持ち主である殿下が大声を発した。


 振り向くと、ゆっくりとこちらに向けて歩いてくるのが見える。

 教頭先生はその声で我にかえり、殿下のところへと馳せ参じる。



「何があった」

「は! 先程勇敢な働きをしたニャルミ殿を労わっておりました」

「隠すな。ほとんど聞こえておったぞ」



 あれが聞こえていたのか。恐ろしい地獄耳だ。

 変なこと言わなくて良かった。



「はあ、実は……」

「もう良い、お前は何も分かっていないようじゃ」

「申し訳ございません」

「それよりそちらの少年、ニャスターとか言ったかのう。

 そちは面白い。とても面白いことをする。

 ヒヨッキー、お前は何も分かっておらんのじゃ。黙って見ていろ」

「はい、了解いたしました」



 僕も一旦立ち上がって挨拶したほうが良いんだろうけど、今はそれどころじゃないんだよね。

 でも挨拶くらいはしておいたほうがいいか。


 僕は殿下にぺこりと頭を下げた。殿下も満足気にうなずいている。

 分かってくれているらしい。



 トヨキー先生が苦渋に満ちた顔でこちらを見ている。

 立ち上がって殿下に礼をつくせと、僕に身振り手振りで訴える。

 黙っていろと言われて、本当に黙っている先生がちょっとかわいい。


 しかしその動きが目障りだったのか、殿下から再びお叱りを受ける。



「おいヒヨッキー、じっとしておれ。

 かまわぬ、少年の好きにさせてやれ」

「し、しかし……」

「かまわぬと言っておる。怠惰でも何でもわしが許す。

 だいたいいつも全力では疲れてしまうだろう。

 本当に必要な時のみ、必要とされるだけ力をつかうべきじゃ」

「は、はい! 失礼いたしました!」



 動くことも禁じられ、トヨキー先生の意思伝達手段は、もはや表情をころころ変えることしか残されていなかった。

 そんなわけで先生は、目まぐるしく動く顔芸を披露してくださっている。

 しかし残念なことに、今の僕にはそれを楽しむ余裕がない。




「凄い、殿下がお認めになったにゃ」

「怠惰を極めるとはこういうことなのか……」

「怠惰王……あこがれるにゃ」



 怠惰王ってなんだよ!

 今日はサボるって宣言したけど、そんな大げさなものになるとは言ってないよ!






 そんな成り行きで、座り込んだ僕達をみんながじっと見守るという、わけの分からない状況がしばらく続いた。





 そんな変なムードの中、突然空気を読まずにニャルミが立ち上がった。


「ニャルミちゃん、ふっかーぁつ!」


 その手に持った杖には、既に真っ白な光が宿っている。

 どうやら僕から魔力を充電しつつ、すぐに打てるよう魔法を準備していたらしい。

 やけに時間がかかるなと思ったらそういうことだったのか。


「これで三発うてちゃうもんね! ニャルミちゃん賢いにゃん!」


 それにしてもニャルミの様子がおかしい。

 一度魔力切れを起こしたところに急速チャージされたため、ニャルミはハイになっているようだ。


 徹夜明けのところに栄養ドリンクを飲んで、無理やり元気になっているようなものだろう。


 せめてもう少しゆっくり魔力を送ってあげればこんな状態にならずにすんだものを……。

 ごめんね、教頭先生が急かすから……。



 ニャルミの杖が光っているのを見て、人垣が割れていく。



「お兄ちゃんはそこで自堕落な一日を過ごしていてね!

 ニャルミちゃんいってきまーす!」



 明らかに異常なニャルミの行動を見て、つきそってくれていた兵士達が駆け寄ってくる。


 もしニャルミに何かあったら、随伴兵として責任を問われかねないからね。

 そりゃ止めるのが当たり前か。



 だがニャルミはそれを振り切り、魔法を放とうと走り出した。

 あわてた兵士達が必死に追いかける。

 大丈夫かな……。



 どうでもいいけど自分のことをニャルミちゃんとか言うな。




「ニャルミさん、魔力切れを起こしたんじゃあ……」

「でも杖が光ってるにゃ!」

「そう言えばドラゴンを倒した時も、魔力切れから奇跡の復活を果たしたって言うにゃ。

 きっとあれと同じ現象なんだにゃ!」

「だけど一体どうやって? そんなのありえないわよ!」

「うーん、ひょっとして兄妹愛? ブラコンパワーってやつなのかしら」

「そうか、愛の力か。なるほどにゃー」

「愛の力で魔力復活するの初めて見たにゃ!」



 違いますよ! 愛の力じゃなくて魔力譲渡なんです!

 だけどそれを説明するわけにもいかないんだよな。


 勝手に誤解してくれるなら、もうそれでいいや。

 いいですよね、兄妹愛。




 トヨキー先生はこの事態を飲み込めず、頭を抱えて何かブツブツ呟いている。


「怠惰……、怠惰って何だ……!?」


 混乱させてしまって、本当にごめんなさい……。






 さて、もはや雷術士の援護はなかったのだが、ハイになったニャルミにはそんなことどうでもいいようだった。

 迷うことなく魔法を放ち、それは見事に大鬼級の一体に命中した。

 そしてすぐさま魔法をチャージして、次弾を放とうと構えている。


 やっと追いついた護衛兵が取り押さえようとしたのをなぎ倒し、さらにもう一撃大きく空めがけて魔法を撃つ。

 外したかと思われたその魔法は、綺麗な放物線を猫いて目標に直撃した。



「す、すごいにゃあ……」

「すごい、本当に復活してる……」

「ブラコン、ドラスケ……、ねえ、ブラスケってのはどうかな」

「なるほど、ブラコンスケ番ね。

 ドラスケって呼ばれるの気に入ってなかったみたいだから、今度からそう呼びましょう」

「ブラスケ! うん、響きの良い言葉だにゃ!」

「がんばってー! ブラスケ!」

「ブラスケ! ブラスケ!」



 やめてくれ! ニャルミが聞いたら泣くぞ!

 そんな下着が透けてるような呼び方はいくらなんでもあんまりだよ!



「ふわっはっはっはー! ニャルミちゃん大活躍にゃーん!」



 ほ、ほら、自分のことニャルミちゃんて呼んでるよ!

 みんなもニャルミちゃんって呼んであげてよ!






 随伴兵の追跡をかわしながらもう一体をしとめると、ニャルミは香箱をつくるようにネコろがった。

 さすがに無理をしたようだ。


 ようやく追いついた兵士がなにやらニャーニャー叫んでいる。

 ニャルミの行動を非難してのものらしい。



 その様子を見て、殿下が楽しげに笑い声をあげた。


 その笑い声で、呆然としていたみんなが我にかえったように動き出す。



 接近していた大鬼級を掃討した報せが城壁で戦っている兵士達に告げられる。

 それで勢い付いたのか、やる気に満ち溢れた鬨の声が響いてくる。






 さて魔力のほとんどをニャルミに分け与えてしまったので、なんだかとても眠い。

 このまま本格的に寝ちゃおうかと思っていると、殿下が僕の顔を覗き込みながら言った。



「少年、おぬしが何をやったかは聞かぬ。

 わしが適当にごまかしておくから安心しろ。

 まあそうじゃのう、おぬしの一族のみが使える特異体質とでもしておくか。

 今はゆっくり休むが良い。

 まだ魔物一部隊が残っておるが、これだけ戦力が残っていればもう大丈……」




 薄れ行く意識の中、また殿下の笑い声が響いてきたのを覚えている。











 いつの間にか僕とニャルミは、殿下のふかふか絨毯の上に寝かされていた。

 どうやら少し眠ってしまっていたらしい。



 殿下の子猫が僕のおなかの上で丸くなり、大きなあくびをしているのが見える。

 他の猫達もたくさんいて、僕とニャルミに寄り添うように寝ている。



 僕は再び目を閉じた。

 僕らを気遣ってか、みんなささやくように殿下へと報告している。


 あれからどうなったのだろうか。

 僕はその声に注意を向けてみる。






 新入生百五十人分の働きを見せたニャルミの活躍により、戦いは大きな損害も出さずに幕を閉じたようだ。


 これから魔物の解体作業のため、全校生徒が借り出されるという。


 しかし戦闘に参加した生徒は、特別に免除されることになった。

 僕も殿下の特別のはからいにより、お休みをいただけるらしい。






 聞き耳を立てていた僕のことを、殿下は気がついているらしい。

 お付きの者が離れたのを見計らって、独り言のようにつぶやいた。



「少年、起きておるのか。

 そのような場所で寝かせておいてすまぬな。人手が足りんのじゃ。

 落ち着いたら誰かに家まで運ばせよう。もう少しそこで我慢してくれ。

 そうそう、さっきの話の続きじゃ、後のことは気にするな。

 窮地を救ってくれた英雄を悪いようにはせん。

 何をやったのかは追求しないし、誰にもさせる気もない」






 それ以後の話は、詳しく語る必要はないだろう。



 ただ一つ残念なことに、今日この日の出来事が『怠惰な襲撃の一日』事件として伝説に刻まれてしまったとだけ告げておこう。




「本当に怠惰をきわめているにゃ、すごいにゃ」


 伝説の証人の一人が、楽しげにそうささやいた。




今回が怠惰な襲撃の一日編最終話ですニャー

猫勝負の話など後日談編を何話かつける予定ですが、第ニャー部もだいたいこれで完結ですニャー


ここでお願いですニャー

創作意欲維持のためにも、ここでまとめてお気に入り登録や評価やニャーをお願いしますニャー



それとちょっと忙しいので次回更新おくれたらごめんなさいですニャー


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