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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第ニャー部 下巻
50/57

怠惰な襲撃の一日編 そのニャニャニャニャニャン

ちょっと遅れましたが2月5日はニャンコの日ということで…


「全員集合にゃ!」



 移動黒板を運んできた猫耳の若者が、大きな声で叫んだ。

 ニャルカお姉ちゃんの二つか三つくらい年上という感じだろうか。

 名前が分からないので、とりあえず猫耳お兄さんと呼ぼう。



「あ、えーと、猫乗せてる人は無理に立ち上がらなくても良いにゃ!」



 猫耳お兄さんは僕らを見て、そう言葉を付け足した。


 僕の膝の上でオレンジ猫が香箱を組んでいたので、猫耳お兄さんの言葉に従いそのまま待機する。

 この学園は猫にやさしい。




 やがてぞろぞろとベテランぽい兵士のおじさんたちが集まってきた。



 その中に一人、気になるおっさんがいた。

 腕の中に真っ白な子猫を抱えているのだ。


 子猫はおそらく今年生まれたばかりだろう。

 推定生後一ヶ月か二ヶ月くらい。

 時折ミャーミャーと甲高い声を上げる。


 黒板の横にカーペットが敷かれ、さらに椅子が置かれた。

 おっさんはそこに座り、子猫をあやしている。


 カーペットは子猫のためだろうか。おっさんのためだろうか。



 子猫が気になったのか、ハチクツくんがそのおっさんに近寄っていった。




 さてこうして見比べてみると、子猫と僕はほとんど同じサイズのようだ。

 ほんの少し僕の方が大きいが、わざわざ主張するほどの差ではない。


 前々からそうじゃないのかと思っていたのだが、僕はどうやら成長が遅いらしい。

 もうじき一歳になろうというのに、首根っこを咥えられて運ばれちゃうのはおかしいと思っていたのだ。


 これは毎日ほぼ全魔力を放出している影響なのだろうか。

 それとも子猫のまま長くいられるスキルでもあるのだろうか。


 僕としてはそんなに不都合はないので、あまり気にするのはやめておこう。



 それにしてもあの白い子猫は、なかなかにあざとい。

 おっさんの目を見て、気を惹くようにミャーと鳴いている。


 そのたびに意味もなくおっさんはうなずいている。

 おっさんのハートを完全に猫掴みしているのが分かる。




「これから説明会を始めるにゃ。みんな注意して聞くようににゃ」




 子猫に注意を向けていたら、そんな声が耳に入った。

 どうやら説明会がはじまったようだ。

 講師は先程の猫耳お兄さんがやるらしい。



 でもね、注意しろと言われても、子猫が気になってしょうがないんだよね。


 子猫がきょろきょろとあたりの様子を窺っている。


 大丈夫かな。子猫は突然意外な行動に出るからな。

 これは注意してみていないといけないな。




「……魔物はこのように、キノコなどに近い生物だと考えられているにゃ。

 地中で菌糸のような状態で育ち、それが地上で凝集して羽化……」




 猫耳お兄さんがせっかく話してくれているけれど、あまり頭に入ってこない。

 実を言うとほとんど知っている話なんだよね。


 せめて要点だけ聞き逃さないようにしとこう。


 あっ、子猫があくびをしたぞ! たいへんだ!

 ちゃんとあくびをやり遂げるまで見届けないと……。




「……例えば、硬い装甲は武器防具や道具などに用いるにゃ。

 ただし胞子核を処理……」




 子猫がおっさんの腕をよじ登り始めた。


 ちらりとおっさんの顔をみると、迷惑そうにしつつもまんざらでもない薄笑いを浮かべている。


 うぬぬ、にくらしい。




「……魔物は北の森からせめて来るにゃ。

 北の森のさらに奥地に、魔物の羽化地点が……」




 ハチクツくんが、おっさんに尻尾をからめて甘えている。

 おっさんが手を出すと、今度はそちらに頭をこすり付けている。


 両手に猫とかなんて贅沢なんだ。




「……魔物が現れるのが一番多いのは、満月及び新月の夜だにゃ。

 襲撃の九割は、その前後に集中……」




 これもパパ上殿から教わっている。

 そういえば昨夜は満月だったな。

 静かだったし大丈夫だったのだろう。



 そんなことより、ハチクツくんは誰にも身体を触らせないっていうみんなの話はなんだったのか。

 おっさんが誇らしげにハチクツくんの背中を撫でている。


 何さそれくらい! 全然うらやましくないんだからね!

 僕なんか毎日吸わせてもらってるよ!




 さて少し目を放した隙に、黒板になにやら書かれていた。



『子鬼 1:兵士 50:精鋭兵 25:火術士 5:雷術士 1

 大鬼 1:兵士150:精鋭兵 75:火術士15:雷術士 3

  竜 1:兵士500以上』



 これははじめて見るものだ。

 僕はあわてて猫耳お兄さんに注意を向ける。




「……やや昔の換算方式なので実情に即してはいませんが、これが平地でのおおよその戦力比ですにゃ。

 ちなみにここで言うところの術士とは、この学園を卒業した称号のようなものと考えてくださいにゃ」


「われわれ新入生はどれくらいに相当しますか」


「そうですにゃあ。

 文字通り半人前ということで、皆さん二人で火術士一人分くらいですかにゃ」



 猫耳お兄さんがそう答えると、生徒達がざわめいた。

 遠くからささやき声が聞こえてくる。



「ということは、えーと、ドラゴンを倒したニャルミさんは、最低でもわたしら五十人分になるってことなの?」


「それは火術士換算でしょ。

 うちらは半人前だから、その倍、つまり百人分になるってことよ」



 その噂話に反応するように、誰かが叫んだ。


「百人!」


 ざわめきがさらに大きくなる。


「百人分なんですかにゃ?!」


 そう誰かが大声を上げると、矢継ぎ早に質問が飛ぶ。


「ドラゴンって、わたしたち百人分なんですか?」

「ニャルミさんって、わたしたち百人分なんですか?」

「もしドラゴンが襲ってきたら、どうなりますか?」

「ニャルミさんって、ドラゴン百人分なんですか?」

「もしニャルミさんが襲ってきたら、どうなりますか?」


 ちょっと最後の方におかしな質問があったけど、聞かなかったことにしよう。



「みんな落ち着くにゃ! いっぺんに言われても困るにゃ!」



 静まるのを待ってから、猫耳お兄さんは答えてくれた。



「……もちろん単体でもドラゴンは強敵だにゃ。

 だけどドラゴンは他の敵とともに現れたときが一番恐ろしいにゃ。

 空と地上、両方に注意力を分散されるのが大きな脅威なんだにゃ。

 背後をとられる心配もあるから陣形が崩れ……」



 ニャルミがドラゴンを倒した時は、単体だったからね。

 他の魔物がまだいるときに攻めて来られていたら、確かに危なかった。


 百人分というのはそれを加味しての評価らしい。

 だけどそれを差し引いても火術士数十人分の戦力に相当するのだろうにゃ、と猫耳お兄さんは答えた。




「……ドラゴン対策としてこのように八基の塔が立てられているにゃ。

 それぞれの塔に雷術士が数名づつ待機し……」



 猫耳お兄さんの話はこうして終わった。

 ニャルミは恥ずかしそうに猫耳をペタリと倒している。






 さて、子猫を抱えたおっさんがいよいよ何か話してくれるようだ。



「まず最初に言っておく、そのままの姿勢で良い。

 次に一つ、クイズを出そう。

 この学園で一番偉いのは学園長だが、二番目に偉いのは誰だ?」



 その質問の意図が分からず、みんな不思議そうな顔をしている。

 何人かは自信ありげに教頭先生の方を見た。


 だが待てよ。

 さっき誰かが言っていたな。『ボス猫はボス猫を知る』だ。


 僕はまっすぐその謎のおっさんの顔を見た。


 決して肩の上までよじ登った子猫が気になったからではない。

 膝の上に足をかけているハチクツくんが気になったからでもない。



 そしてそんな僕を見て、おっさんはニャリーンと笑った。



「気付いたやつもいるみたいだな。

 まあ二番目に偉いなんて誇るようなことでもないんだが、指揮系統がどうなっているのかはっきりさせておきたくてな。

 では自己紹介をしよう。

 わしの名はニャングリック・ニャン・コクーチュー・サン・カイテンだ。

 この砦の守備隊長をしておる」



 サンで始まるその名前を聞いて、生徒達が慌てて姿勢を正す。

 おっさんは、つまり王族なのだ。


 僕も動こうとしたが、それを制するようにおっさんの手が伸びた。



「初めに言ったとおり、そのままでかまわん。

 むしろ猫達がびっくりするから、急に動くな。

 それより指揮系統の話だったな。

 おい、ヒヨッキー。

 わしの代わりに説明してやれ」



 ヒヨッキーと呼ばれてトヨキー先生がおずおずと前に出てきた。



「では僭越ながらわたくしが」



 それにしてもヒヨッキーってどういう意味だろう。

 ヒヨコか何かと関係があるのだろうか。



 それはさておき。

 トヨキー先生の話によると、教頭というのはあくまで教師の筆頭でしかないそうだ。


 学園長、守備隊長、守備兵、教頭、教師。


 それがこの学園の偉さの順番らしい。


 さらに付け加えるならその下に三年生、二年生、一年生と続く。



「殿下、以上でよろしいでしょうか」


「おう、ご苦労。下がってくれ」



 トヨキー先生が会釈をして立ち去る。



「そういったわけで、お前たち新入生は言うなれば一番下っ端になる。

 そんなお前たちに期待されるのは、間接的な戦力だ。

 伝令や輸送、巡回などがこれにあたる。

 実際に何をするかは、後ほど具体的に話がある。

 わしからの説明は以上だ」



 伝令、輸送、巡回。どれも歩かされることになりそうだ。

 僕には向いていないな。


 こんなことなら夜警も休ませてくれと交渉すべきだった。


 後で学園長に掛け合ってみるか。

 だけど今からでも間に合うだろうか。



 そう思っていたところ、おっさん、もとい殿下が話を続けた。



「さて、これからちょっとした選抜試験を行う。

 実は偵察兵が不足気味でな。

 ああ、偵察と言っても魔力探知で探るだけだから安心してくれ。

 お前たちの中から使えるものがいるかどうか、これから調べる。

 能力が認められれば、さっき言った雑務から解放され、待遇も良くなるだろう。

 だが毎年二百名の中で、使えそうなのは数名しかおらぬ。

 誰も該当しない年もある。

 よっぽど自信があるのでない限り、期待せぬように」




 そういう話ならちょっと頑張ってみるか。

 身体を動かさなくてもいいから、怠惰の戒めを破ったことにはならないだろう。


 それに探知ならそこそこ自信もあるからね。



「ではヒヨッキー、後は任せる」



 選抜試験が始まる。

 僕の肉球がじわりと汗ばんだ。




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