表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
子猫転生  作者: ニャンコ先生
第ニャー部 下巻
49/57

怠惰な襲撃の一日編 その九

前回のあらすじ


トヨキー先生からおつかいを頼まれた

ニャンコ番長一家に若頭ニーオが誕生した

おつかいが完了した

 ニーオの話によると、入れ替わりを阻止したことは学園側からもプラスとして評価されるそうだ。


 それを踏まえて、僕らはトヨキー先生に報告することにした。



「……そういうわけで、全員にルールを守ることの大切さを分かってもらいました。

 その証しとして一人も欠けることなく、こうして集まってもらっています」


「そうでしたか。やはりご存知だったのですね。

 試すようなことをして申し訳ありません」


「いえ、これも教育の一環なのですから謝っていただく必要はございません。

 むしろ今回誰も罰せられなかったことは、ひょっとしたらみんなに良くない影響を与えるかもしれません。

 それが少し気掛かりです」


「それならおそらく大丈夫でしょう。

 今回のことは、いずれ他のクラスの子から噂話として広まるでしょう。

 そしておそらく、委員長のお二人に従っていけば安心だとみんな思うはずです。

 ですからお二人がしっかりしていれば問題はありません。

 どうかこれからも、クラスのみんなを良い方向に導いてあげてください」


「は、はい。もちろんです」



 ここまでニャルミに報告をまかせ、僕はただうなずいていた。

 しかしそこまで話すと、トヨキー先生は僕に正対してにっこりと微笑んだ。



「ニャスターさん、わたしはあなたを誤解していました。

 これまでのことはお互い忘れることにしましょう。

 いえそれでは一方的過ぎますね。

 わたしのことをどうか許してください。

 そして、ともに魔物と戦ってくださいますか」



 トヨキー先生が大きな手を差し出した。

 僕は少し照れながら、その手を握った。



「あ、いえ、こちらこそすいません。

 これからもよろしくお願いします」



 僕とトヨキー先生は、固い握手をした。


 するとなぜかニーオたちが拍手をする。

 先生は笑いながら、ニーオたちとも握手を交わす。

 トヨキー先生はサービス精神旺盛だ。



 そんなわきあいあいとしたムードになったところで、先生が僕らに言った。



「さて、さらに二十分ほど説明会は遅れます。

 みなさんはもう少しゆっくりしていてください」



 なぜさらに二十分もかけるのだろう。


 そう疑問に思っていると、トヨキー先生が城壁の上に視線を移した。


 すると新入生達が何人か歩いているのが目に入った。

 入れ替わりが発覚した生徒達を、本来いるべき場所へと移動させるらしい。

 なるほど、その移動時間でさらに二十分ということか。



「ではわたしはこれで」



 トヨキー先生は、夜警説明会が遅れることをみんなに伝えにまわるのだという。

 僕らに手を振ると笑顔で去って行った。



 もちろん僕にも屈託無く微笑んでくれた。



 どうやら教頭先生との関係は完全に修復されたようだ。

 平穏な学園生活を送りたいと願う僕にとって、唯一心残りだったんだよね。



 僕に抱かれていたハチクツくんが、それを祝福するようにニャーと鳴いた。

 頭をそっと撫でると、ハチクツくんは嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らした。





 さて、今度こそニ十分ほどの休憩時間ができた。



 暇な時間、そして手元には猫。

 となれば、何をするかは決まっている。



 手ごろな場所に座り込み、猫をかわいがるのだ。


 僕の『猫ハーレム』スキルのお蔭か、どんどん猫が集まってきた。

 さながら猫集会だ。


 ニャルミも猫達をブラッシングしはじめた。

 みんな気持ち良さそうにうっとりとしている。



 そして僕らと同じく手持ち無沙汰の新入生達が、周りに集まってくる。



「なんにゃなんにゃ」

「何々? 何の集まりなの?」

「ニャンコ番長の集会だな。番長猫集会だ」

「え? ってことは私達もニャンコ番長一家の一員?」

「そうなるね、ニャハハ」



 そんな暴走族みたいな言い方はやめていただきたい。


 だけどみんな、手ごろな猫をじゃらしたり撫でたりと幸せそうだ。

 番長としてやっていこうと決意してしまったし、否定する必要もないだろう。



「あれ、あの番長が抱えている猫って入学式の時の猫じゃないか」

「ねえ知ってる? あの猫がこの学園のボス猫なのよ」

「なるほどにゃあ。一流は一流を知る、番長は番長を知るって感じだにゃ」

「あのボス猫、誰にも身体をさわらせないことで有名なんだそうよ」

「それをあんなにあっさりと……、さすがニャンコ番長……」



 そうだったのか。ハチクツくんはプライドの高い猫だったね。

 初日から膝の上に乗ってきたから、人慣れしてるのかと思ってたよ。


 さてそんなまわりの話を聞いていたのか、ニャルミがハチクツくんを招き寄せる。



「せっかくだからハチクツくんもブラッシングしてあげるね」


「ニャーン」



 今朝ブラッシングしてあげたからか、ハチクツくんはニャルミにも容易に身体を預けた。

 あの気持ちよさを知っていたら、どんな猫でもそうなるだろう。


 ハチクツくんは気持ち良さそうに背伸びしながら、ニャルミにされるがままになっている。



「さすがドラゴンスレイニャー」

「あんなにあっさりと」

「やはり番長の妹、只者ではないにゃ」

「ドラスケの異名は伊達や酔狂じゃないんだにゃ」

「さすがですにゃ」



 ニャルミはドラスケという単語にピクリと反応し、僕に目で不満をうったえた。


 まあいいじゃない。

 変な意味で使ってるわけじゃなさそうだよ。



 三十分のあとにさらに二十分も休憩時間が増えたのだが、みんな楽しそうに猫達と遊んでいる。

 穏やかな日差しのもと、僕らはとても満足な時間を過ごしていた。




 しかしそんな平和なムードが一転し、周りにいた猫たちが一斉に逃げ出した。


 ニャロリーヌが近付いてきたのだ。

 ハチクツくんだけはなんとか踏みとどまっているが、いつでも動けるように身構えている。



「あら、ひょっとしてニャルミお姉さま、猫の扱いがお上手なんですか」


「んー、まあそれなりかな」


「ああ、実はこう見えて、わたしも猫のことについては自信がありますの」



 ニャルミの謙遜にも気付かず、ニャロリーヌは胸を張ってそういった。

 やめてくれ、ハチクツくんがおびえているじゃないか。



「わからないことがありましたら、何でも質問してくださって結構ですよ」



 おいよく見ろ、どの猫もお前を避けているじゃないか。

 ニャロリーヌは猫をかまいすぎるんだよ。

 過剰にいじりまわされて喜ぶのはヘンタイ猫だけだよ。


 そう言ってやりたいところだが、その真実を知ったらショックだろうな。



 さてニャルミはやや高飛車なニャロリーヌの物言いに、何か引っかかるところがあったらしい。



「あら、ありがとう。でも要らぬお世話ですわ」


「見栄をはらなくとも結構ですのよ。

 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と申しますもの」


「その言葉、そっくりそのままお返しいたしますわ」


「あら、それどんなお冗談なのかしら、オーホッホッホッ」


「本当は分かっていらっしゃるんじゃなくて? オーホッホッホッ」



 どうやら今朝方元気を取り戻したニャロリーヌが、少しでも上の座を狙おうとニャルミに喧嘩をしかけているようだ。

 おい、やめとけニャロリーヌ。どうなっても知らないぞ。



「なんにゃなんにゃ」

「内輪もめにゃ」

「ナンバーツーの座を争って、仁義なきバトルが勃発しようとしているにゃ」

「ということは勝った方がスケ番なのかにゃ?」

「そういうことになるにゃ」



 うちのクラスの子達が、面白がって話をつくりはじめた。


 ニャルミはそんな外野の声をしっかりと聞いていたらしい。

 それで何かをひらめいたらしく、ニャロリーヌをたきつける。



「この際だからはっきり言っておくわよ。

 ニャロリーヌ、あなたは何一つ私に勝つことはできないわ。

 身の程をわきまえなさい」


「お姉さま、さすがにそれは言いすぎですわ。

 人間というものは長所や短所を持っておりますの。

 わたしが得意でお姉さまが不得意なものもございますわ」


「やっぱりあなた勘違いしているのね。

 そんなことは妄想よ。弱者の願望にすぎないわ。

 そこまで言うのなら、一つ勝負をしてさしあげましょう。

 それでもし勝てたなら、スケ番の座は貴女に譲ります。

 わたしはただの委員長に戻りますわ」



 なるほど、どうやらニャルミはわざと負ける作戦らしい。

 そんなにスケ番が嫌なのか。嫌なんだろうな……。


 いやでもそんなことしちゃって大丈夫なの?

 生徒会長の座をねらってるニャルミの経歴に傷が付くんじゃないのか


 でもそうだな。

 たとえば腕相撲とかならいいのか。

 そういう勝負なら、影響は少ないだろう。



「言いましたわね! 後悔する事になりますわよ!

 わたしの本気をみせてさしあげますわ!」


「もちろん何で競うかは、ニャロリーヌ、あなたが決めていいわよ。

 ただし簡単なものにしてちょうだい。

 勝負に一年もかかるようなものはもちろんダメよ」



 単純に腕相撲で勝負とかいう話になればニャロリーヌが勝つ可能性が高い。


 だがそれだけでは面白くないと思ったようだ。

 ニャロリーヌは目を閉じて何か考え始めた。



 いや、違うな。

 魔法を使ってるわけではないのだが、何か特別なことをしている気配がする。

 みんなには分からないだろうが、ニャロリーヌの魔力が急速に減少していくのを感じる。



 一体何をやっているんだ……。



 そう思っていると、突如あたりが真っ暗になった。



 誰もが空を見上げる。

 不思議なことに一面黒雲が覆っている。


 これはいったいどういうことだ。


 あ、ニャロリーヌ、お前……、ひょっとして!


 やがて雲の切れ目から一条の光が差し込み、ニャロリーヌを神秘的に照らし出した。

 光に照らされたニャロリーヌは、自信満々の顔つきでニャルミを見つめている。


 オイ馬鹿! お前こんなことで『神託』スキルを使ったのか!

 確実に勝てる方法を教えてもらったんだな!

 運命の猫探しの件といい、無駄遣いしすぎだよ!




「ふっふっふ。分かりましたわ。では猫勝負といきましょう」



 なんだよ猫勝負って! わけの分からないことを言うなよ!



「明日の朝、一匹の猫を連れてまいります。

 その猫をどちらが手懐けられるか勝負です」


「それでいいわよ。わたしになびかない猫なんていないですもの」



 うーん、猫勝負だとニャルミが勝っちゃうんじゃないのかな。

 神託って、実は頼りにならないんじゃないのか。



「知りませんわよ。わたしは今朝方、運命の猫に出会いましたの」



 え?! よりによって僕なの!?



「なんだ。やけに自信有り気だからどれだけなついた猫を用意してくるのかと思ったら、たった一日ですか。

 わたしに勝ちたかったら十年、いや百年連れ添った猫を連れてくることね」


「オーホッホッホッ、またご冗談を」


「オーホッホッホッ」



 ところでニャルミ……、今までの努力が台無しじゃないかな……。

 ニャルミのクラスの子がみんな引いてるよ。



 でも正直なところ、僕はこれがニャルミの地の性格だって知ってたから驚きは少ないんだ。


 思い込みが激しくかなり頑固な性格で、さらにちょっぴりエッチときている。

 こうと決めたらエネルギッシュにそのまま突っ走っていっちゃうんだよね。


 ニャルミが転生する時がまんまそんな感じだったんだ……。



 立派なお屋敷で育ったからそれがかなり矯正されてたけど、記憶を取り戻して以来どんどん元の性格が色濃くなってきている。


 ニャルミはそう思っていないだろうけど、つくづくスケ番向きの性格だと思うよ。




 さて、それで二人の対決は一旦終わった。



 ニャルミは一心不乱にハチクツくんのブラッシングをしている。

 ハチクツくんは「何が起きたの?」とでも言いたげに神妙な顔つきで僕を見ている。


 やめて、僕を見ないで。今はニャルミとかかわりたくない。



 ニャロリーヌは少し距離を空けて座り、僕をちらりとみて何か言いたげな表情をしてみせてから、ぷいと顔を背けた。


 いざとなれば『偽りの劣等生』である僕だけ味方にできれば大丈夫だとか思っているんだろうな。

 よっぽど『神託』スキルに自信があるようだ。

 まあだいたい間違っちゃいないだろうけどね。



 ニーオが心配そうにニャロリーヌに駆け寄る。



「お、おい、ニャロリーヌ。

 今からでもニャルミさんに謝って許してもらいなよ。

 僕からも許してもらえるようお願いしてあげるからさ」


「申し訳ございません、兄上。

 ですがわたしも女として引けない時があるのです」


「だけど……」


「これはわたしの意地でございます」


「う、うん、そうか、分かったよ。

 僕は立場上ニャロリーヌを応援してやれないけど……」


「ええ、ありがとうございます。お気持ちだけで十分です」



 ああ、それにしてもどうしよう。

 ニャルミに今朝のことを打ち明けなくちゃいけなくなった。


 これは久しぶりに健康チェックコースだな……。

 いや、それだけで済めばいい方だろう。ああ、考えただけでもおそろしいよ……。


 そういえばさ、今朝『予知』スキルで見たビジョンの中で、健康チェックだけがまだ未回収だったんだよね。


 おっと、未回収って言い方はおかしいか。

 それじゃまるで僕が望んで選んだみたいだ。


 そうか、これも運命だったのか。

 それならば受け入れるしかないね。




 僕らに与えられた二十分間はこうして過ぎ去った。


 ようやく説明会が開始されようとしていた。




ニャー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ