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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第ニャー部 下巻
47/57

怠惰な襲撃の一日編 その七

都市名の件はちょっと先になりそうです


 授業が終わり、校舎を出る。

 これから夜警の説明会だ。


 例年僕ら新入生は、クラスごと八方にそびえる塔に集まり、そこで夜警について基礎的なことを学ぶ。


 そんなわけで新入生みんなの行き先はバラバラだ。


 直接塔に向かうのではなく、一旦寮に戻る子も多い。

 空き時間ができるかもしれないので、退屈しないですむよう何か本でも持参するようにと言われたからだ。



 今日は怠惰デーだから、そんな時間ができるなら大歓迎だ。


 ちなみに僕は猫を吸う予定なので、家には寄らない。

 寄ってる時間もない。塔への移動だけで手一杯だからだ。




 さて今年の一年生は一クラス多い。

 そのため、どこか二つのクラスが合同でやるらしい。

 おそらくそのうちの一つは、僕らのクラスになるだろう。



 僕らが向かうのは北西の塔だ。

 校舎からだと、およそ五百メートルほど歩くことになる。


 怠惰な一日計画を立てていた僕としては、近場の東の塔に行く子達がうらやましかった。

 あっちなら、百メートルちょいで済むからね。




 さて、ニーオとニャロリーヌに支えてもらいながらよたよたと目的地に向かっていると、ニャルミが追いかけてきた。


「あ、ニャルミさん、こんにゃーっス」

「こんにゃーっス」


「こ、こんにゃーっす。ええと、二人ともありがとうね。

 疲れたでしょう。少し代わらせて」


「いや大丈夫ですよ、お気になさらないでください」


「いいの。ちょっとお兄さまと話したいこともあるし」



 またお兄さまと呼ばれた。


 どうやらニャロリーヌの前ではお兄さまと呼ぶことで通すらしい。

 何かニャロリーヌに対する対抗意識のようなものを感じる。



「そうですか。それじゃあお言葉に甘えておまかせしますね。

 あ、ついでに忘れ物を取りに行ってきます。

 もし何かあったらお呼びください、すぐ駆けつけますから。

 よしついて来いニャロリーヌ!」


「はい、兄上! ではお二人とも、失礼します!」



 二人は来た道へと引き返していった。

 忘れ物とやらは、僕らに気を遣わせないための作り話かもしれない。



「別に聞かれても良かったんだけどな。悪いことしちゃった」


「気にするな。本当かもしれない」


「そうね。さて、お兄ちゃん。わたしたち、どうやら一緒になるみたいよ、北東の塔でしょ?」


「そうみたいだね。ところで大丈夫だった?」



 今朝ニャルミが気にしていたことを、なんとなくぼかして聞いてみる。


 それはつまり、ニャルミの立場が変になっていないかどうかだ。


 ニャルミが僕に話したいこととやらも、多分そのことだろう。



「うん、まあ、なんとかね。

 わざわざニャーフック先輩が来てくださって、みんなに説明してくれたのよ。

 そのおかげで何とか体面が保てたわ。

 先輩は本当に気が利くわね。

 今日は頑張ってねって、励ましてもらっちゃった」


「それにしてはあまりスッキリした顔をしていないね」


「分かる? 実はね、新しいあだながついちゃったのよ。

 新しいって言い方は変かな。ドラスレがドラスケにかわりつつあるのよね」


「ドラスケ? それって、もしかして……」


「うん、そうなの。おそらくスケ番のスケだと思うの。

 それと考えすぎかもしれないけど、ドラ猫スケ番ていう意味かもしれない」


 ニャルミはフニャーッとためいきをついた。


「でも受け入れるしかないのかな。

 実はわたしね、お兄ちゃんがニャンコ番長って呼ばれてるのを内心楽しんでたんだ。

 だからこれはその罰かもしれないって思うの。

 免許証作ろうとか言って、ごめんね」


「そのことならもう良いよ。

 それよりここは何て言うべきかな。えーと、ニャルミ、同情するよ」


「うん、ありがとう」



 ニャルミもようやく僕のつらさ苦しさを分かってくれたようだ。

 だが彼女を責めることはできまい。今では彼女も被害者なのだから。



「普通に『ニャルミちゃん』って呼ばれたいけど、しばらくはあきらめるわ。

 それに何と呼ばれようが、わたしはわたしだもんね。

 お兄ちゃんも、早いところ受け入れちゃった方が楽になれるわよ」


「そうかもしれないね。そうだといいね」



 ニャンコ番長の名前を受け入れたら何か良いことあるのかな。


 僕は想像してみる。


 僕が番長になったら……、うーん、そうだな。

 黒髪ぱっつんの清純そうな猫耳女子から、ある日突然こんなことを言われるかもしれない。






『ニャンコ番長! そんなに猫吸ってばかりじゃなくて、わたしの猫耳も吸ってください』


『え?! ちょっと待ってくれ! 君は何を言っているんだ!』


『良いのです、これで学園の平和が保たれるなら。

 さあ、誰も見ていないうちに早く!』


『だ、だけどこんな不適切な関係は……。

 本当に良いのかい。でも、君の気持ちはどうなんだ』


『お願いです。どうかこれ以上、恥をかかせないでください』


 女の子はうるんだ目を隠すように背中を向けると……。






「ふうん、そんなこと考えてるんだ……」


 ぞっとするような声でニャルミが耳元でそうささやく。

 あれ、普段はそんな怖い声出さないのに、一体どうして……?!

 やめて! 心を読まないで!


「いや、これは……! ごめんなさい!」


「カマかけてみたんだけど、やっぱりそうだったのね!

 お兄ちゃんのヘンタイ! 一体何を考えていたの!?

 正直におっしゃいなさい!」


「えっ!? いやこれは違うよ!

 番長としてシミュレーションをしていただけなんだ。

 その……、やっぱり僕に番長は向いていないみたいだよ」


「じゃあどうして謝ったの? おおよそ分かってるんだからね!

 あきらめて白状しなさい!」



 そんなこと言われても、さすがに今想像していたことを語る勇気はないよ!


 ヤバイ! こんな時はどうするか!


 僕はとっさに振り向く。

 ニーオ達が数十メート後ろを歩いているのが目に入る。



「あ! 兄貴ー! お呼びですかー?!」


「お呼びでしょうかー?」



 ニーオたちが駆け寄ってくる。

 でかしたニーオ! 僕の心の叫びをよく感じ取ってくれた!


 ニャロリーヌに弱みを見せたくないと思ったのか、ニャルミはあきらめたようだ。


「お兄さま、あとでたっぷりお話をきかせてもらいますね」


 ニャルミは笑顔でささやいた。

 困った。どうしよう。



 そ、そうだ、良いことを思いついたぞ!

 二人っきりで僕の恥ずかしい妄想を聞いてもらう羞恥プレイだと思うんだ!

 何事も前向きに考えよう!



 ……前向きにはやっぱりなれなかった。

 正座させられて説教される未来しか思い浮かばない。


 どうやってごまかそうか。頭が痛い。





 塔に着いた。

 ゆっくり歩いてきたため、移動だけで結局二十分近くかかってしまっただろうか。

 案内の先生から屋上へ向かうようにと指示を受ける。


 他のクラスは塔内の一室で説明会をやるのだが、僕らは人数が多いので屋上でやるそうなのだ。

 荷物搬入用のスロープを使わせてもらい、僕らはウニャウニャと上っていった。




 屋上に到着すると、既にほとんどの生徒が集まっているようだった。



「あれが来た時に通った道だにゃー」

「上から見ると人も猫も小さいにゃー」

「猫が小さいのは当たり前だにゃー」


 みんな景色を楽しんでいるらしく、そんな感想が聞こえてきた。


 他のクラスの新入生は塔の中だ。

 つまりこの屋上からの展望は、僕とニャルミのクラスだけの特権だ。



 実を言うと説明会が合同になったことで、不満に思う人がいるんじゃないかと心配していたのだ。

 だけどそんな不満があったとしても、この屋上へ来れたことで解消されるのではないだろうか。




 ぽかぽか暖かい日差しと澄み切った青い空。


 僕の後をついてきた猫たちが、屋上の居心地の良さからか無防備な姿をさらしている。

 そんな猫たちを、僕のクラスメイトが猫じゃらしを使って誘っている。


 それを見ていたニャルミのクラスメイトらしき女の子たちが、何か話しかけている。

 どうやら猫じゃらしを貸してあげることになったらしい。


 みんな笑顔で楽しそうだ。



 僕も家からお気に入りの猫じゃらしを持ってくれば良かったな。

 でもそれだと僕自身がじゃれついちゃうか。それじゃだめニャー。




 さて、せっかくなので僕らも屋上からの眺めを楽しんでみようということになった。


 それはなかなか素晴らしいものだった。

 建物の屋根が絨毯のように並び、さらにその遠くの景色までも一望できた。

 さすがに五キロ先の街とやらは見えなかったが、自分の住む街の周りがどうなっているのかを知るのは意外と面白いものなのだ。




 そうやって屋上をゆっくり一巡りし、そろそろ説明会が始まる時間かという頃、トヨキー先生が屋上に来たのが見えた。




 しかし何故かその瞬間、この平和な日常が終わりを告げたかのような『予感』がした。


 さらにこの運命から逃れるため、怠惰に磨きをかけなければいけないとその『予感』は告げる。



 困ったことに、僕の『予感』は的中率がとても高いのだ……。




2015.02.04 修正

近場の西の塔→近場の東の塔

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