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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第ニャー部 下巻
45/57

怠惰な襲撃の一日編 その五

山場を越えたので、二話ほど平坦な話の予定です


「おはようございます! 兄貴! ニャルミさん!」


 教室に着くと、早速ニーオが出迎えてくれた。


 ニャルミが笑顔でニーオをにらんでいる。

 昨日の図書館での一件をまだ覚えているらしい。


 ニーオには世話になっているんだ。もう許してやってくれないか。



 そう言いかけたその時、ニーオの背後からニャロリーヌが照れながら現れた。


「お、おはようございます! ボス! ニャルミお姉さま!」


 ニーオに負けないくらい元気で艶々とした声だ。

 僕が元気ないのとは対照的に、やる気に満ち溢れている。



「おはよう」と僕は省エネモードで挨拶する。


「おはよう。

 ニャロリーヌは別のクラスなのだから、わざわざ来てくれなくてもいいのよ」


「あ、えーとですね、昨夜あれから先生にクラス替えを申請したんです。

 そうしたらすぐに受理されて、こうしてボスと同じクラスにしてくれたんです!」



 謝罪に行った時そんなことをしていたのか。


 それですぐ認められちゃうものなのだな。

 こちらの世界はそういうルールがゆるいんだろう。

 ひょっとしたら学園、というより教頭先生が、問題児を僕に押し付けようと考えたのかもしれない。


 だとしたら、それはある意味正しい判断だろうな。

 僕の手元に置いておくのなら、そうそうひどいことにはなるまい。

 既に僕はニャロリーヌからひどいことをされているけれども、これは役得もとい義務だと考え甘んじて受け入れよう。




 ニャルミと別れ、クラスに入る。

 みんなが一斉に立ち上がり、昨日と同じ挨拶でお出迎えしてくれる。



「ちゃーっす」

「にゃーっす」

「みゃーっす」


「お、おはよう」



 挨拶の錬度が増している気がする。

 おじぎの角度やタイミングやら、動きが統一されているので見ていて清々しい。


 もしやと思ってニーオを見ると、最高の出来でしょうとでも言いたげに満足そうな笑みを浮かべうなずいている。

 きっとみんなで練習したのだろうな。

 みんな何かを期待して僕を見つめている。


 番長としてはここでねぎらいの言葉をかけてやるべきなのだろうが、そんなこと絶対に言わないぞ!

 なぜなら僕は番長じゃないからだ!


 認めたら負けな気がする。だからこれだけは譲らないからな!



 だがなぜか残念なことに、この統率された様子を見てニャロリーヌが目をきらきらと輝かせている。


「さすがボスっス! 全員こんなにボスを慕ってるっス!

 わたしもボスみたいになりたいっス! あこがれるっス!

 どうやったらこんなにみんなから尊敬されるんですか?!」


「いや、あの、これは、その、えーと」



『これは僕が仕込んだんじゃないからな! 全部ニーオが悪いんだからね!?

 それにこれは、きっとみんな冗談でやってるんだよ! 本気にしちゃだめだよ!

 そうだと思いたい! みんな冗談だと言ってくれ!』


 そう叫びたかったのだが、声にならない。


 今朝の一件以来、どうにも気力が沸いてこないのだ。

 おまけに僕をこんな状態にした当の本人が目の前にいるんだよね。


 受け応えがしどろもどろになるのは仕方ないことなのだニャー。

 決してニャロリーヌに甘くなったわけではないのだニャー。



 ニャロリーヌはさらに続ける。


「一糸乱れぬこの統率された動き! 感動したっス! 凄いっス!

 ボスもそう思いませんか?! ねえねえ、そう思いませんか!」


 ニャロリーヌが僕に詰め寄る。


「そ、そうだね」


 しかたなく僕はそうつぶやいてしまった。

 するとそれを待っていたかのごとく、嬉しそうにみんながはしゃぎはじめた。


「やったー! 番長に認めてもらえたにゃ!」

「努力が報われるって、すばらしいよね!」

「俺、ちょっと自信がつきました。ありがとうございました!」


 うにゃあああ、言いたくなかったのに結局言わされてしまった。

 それはともかく、絶対こいつら楽しんでやってるよね!?


 まあいいか。

 何事も楽しむ姿勢を持つことは大切だし、僕以外誰も傷ついていないのだから。


 それにクラス全員で何かを練習するのも良いことだ。

 みんなで何かをすることで、人間関係が良くなるのならそれに越したことはない。

 僕だけ蚊帳の外だけども。



 おっと、愚痴ばかり吐いていても仕方ない。

 今日は一日自堕落な生活を送ると決めているのだ。

 これくらいのことで、惑わされたりなんかしないんだからね!




「兄貴、何だか具合悪いみたいっスね、大丈夫ですか?」


 僕の反応が今ひとつだったからか、あるいは元気がないように見えたからか、ニーオがそうたずねてきた。


「うん、風邪とかじゃないと思うんだけど、なんだかちょっとね。

 胸を張って言うことじゃないが、今日は一日のんびり過ごすことに決めたんだ」


「了解しました! 怠惰で退廃的な一日にするんすね!

 ということだ、二番舎弟! 今日は静かにしているように!」


「わかりました、兄上! ボス! 静かにしています!」


「う、うん。お願いね」



 ニャロリーヌが二番舎弟なのか。


 何をどうやったのかは知らないが、ニーオはうまいこと一番舎弟の座をキープしたらしい。

 正直なところニーオなどすぐに下克上されるんじゃないのかと心配だが、そんな想像をするのは彼に失礼か。


 それにしても怠惰はともかく退廃的ってなんだよ。

 それが番長のイメージなのだろうか。



 席に着くと、ニャロリーヌを避けて姿を消していたらしきハチクツくんがいつの間にか現れて机に上ってきた。

 遅れてやってきたオレンジ猫は、ひょいと僕の膝の上に飛び乗り、少し残念そうにニャーと鳴いた。


 二匹ともニャロリーヌにおびえているようだが、ニーオをはさんでこの距離ならセーフらしい。


 ニャロリーヌがうらやましげにこちらを見ている。

 あとで猫に対する正しい礼儀作法を教えてやらないとな。

 猫達がかわいそうだし、何より僕の身が持たない。




 さてハチクツくんがお腹を見せて僕を誘っている。

 おや、今日はハチクツくんを吸ってもいいのかな。


 よし、それなら早速吸わせてもらおう。



「今朝はいきなり猫吸うんスね」

「ほら、さっき怠惰で退廃的な一日を送るぜって言ってたじゃない。

 有言実行してるのよ!」

「なるほど! 気合入ってるっス」


 外野の声がうるさいが、僕の癒しの時間なのだ。

 それにそんなことを言ったのは僕じゃない。ニーオだ。


 どうか僕のことはそっとしておいてください。


「ニャロリーヌさん、目つきがすごいですよ。

 そんなに猫吸いたいんですか? 禁断症状ですか?」

「ち、違うわよ!

 わ、わたしも今朝かわいい子猫ちゃんをいっぱい吸ってきたんだからね!

 全然うらやましくなんかないんだからね!」

「ほう、子猫ですか。さすが二番舎弟ですにゃ」

「ニャロリーヌさんやるっスねー!」

「ニーオさんもうかうかしていられないっスね」

「え?! 僕!? そんなとんでもないっスよ!」



 そうやってみんな楽しそうに盛り上がっているのを尻目に、僕はちゅうちゅうと猫を吸うことに専念していた。


 やがて授業開始を示す銅鑼が鳴りトヨキー先生が入ってきた。



「みんな既に知っているとは思うが、今日からニャロリーヌさんがこのクラスの一員に加わる。

 みんな仲良くしてあげてください。

 ではニャロリーヌさん、時間がないので手短に挨拶をしてくれますか」


「ニャロリーヌです。みなさんよろしくお願いします!」


「よろしくねー」

「よろしくにゃー」

「がんばるにゃー! 二番舎弟!」


「はい! 早く番長みたいになれるように、がんばりますにゃ!」


 何をどう頑張るのかしらないが、無事に受け入れられているようで良かった。



「では授業の前にもう一つ。

 この授業の後、今日は夜警説明会があります。

 一ヵ月後、君達新入生にも夜警演習がはじまります。

 それに向けての大切な話がたくさんされると思いますので、説明会はできるだけ注意して聞いておいてください」


「了解ですにゃー」

「わかりましたにゃー」

「にゃーにゃー」



「さて授業に移りますが、伝統的にこの時間はやることが決まっています。

 みなさんの魔法と魔物に対する知識がどれくらいのものなのかを確認させてもらうのです。

 これは試験ではありません。あくまでみなさんの知識レベルを確かめるだけです」



『試験ではないから記録に残らないが、何をどう答えたのかはみんなの記憶に残ってしまう。

 分かりませんを連発しちゃったら、勉強の出来ない子と思われるんじゃないだろうか』



 みんなそんな不安を抱いたのだろう。

 にゃーにゃーと楽しそうだった教室の雰囲気が、明らかに変わった。




次は授業回なのですが、お話まとめるのに手間取ってます

遅くなるかもしれませんニャー



2015.01.14 変更

 試験ではないとは言っても、その生徒への印象は変わるだろう。

 分かりませんを連発すれば、勉強の出来ない子として烙印をおされてしまうのではないか。

 ↓

『試験ではないから記録に残らないが、何をどう答えたのかはみんなの記憶に残ってしまう。

 分かりませんを連発しちゃったら、勉強の出来ない子と思われるんじゃないだろうか』


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