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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第ニャー部 下巻
43/57

怠惰な襲撃の一日編 その三

前回のあらすじ


早朝に猫集会が行われている!

当然ながら主猫公ニャスターは集会場を目指す!


 朝の散歩かあるいはお仕事なのか、こんな時間でもそこそこ人が歩いている。

 そして僕を見るとみんな立ち止まる。


「おや、見ない顔だね。新顔かい」

「おいでおいで、怖くないよ、にゃーにゃー」

「綺麗だねー、美人さんだねー」


 そんな声をかけてくる人もいれば、無言で座り込み手招きしたり指を伸ばしたりする人もいる。


 だけどごめんよ、僕は急いでいるんだ。





 ちなみに『魔力隠蔽』スキルは、ニャルミに協力してもらって十分に鍛えてある。

 だから万が一学園長と鉢合わせしたとしても、ただの猫としか思われないはずだ。


 その点は心配無用。大丈夫だ。とはいえ油断は禁物だね。


 いや正直に言えば、むしろこの姿のまま知っている人たちに会ってみたいかな。

 ゴロゴロと甘えてみたら、みんなどんな顔をするのか楽しみだ。

 特に教頭先生はムッツリ猫好きっぽいから、一度デレデレの顔を拝んでみたいかも。





 そんな妄想をしていると、やがて目的地を示す立て札が目に入った。


『降下訓練場跡地、進入禁止』


 大きな文字でそう書かれている。



 ここには砦拡張前の城壁の一部がそのまま残されているらしい。

 それを利用して、降下訓練を行っていたようだ。

 もしもの時に備え、三メートルの高さの城壁からロープか何かで降りる技術を身につけさせたのだろう。




 バリケードを潜り抜け、僕は空を見上げた。


 穏やかなスロープがつづら折になっていて、頂上へとつながっている。

 目指すのはそこだ。たくさん猫がいる気配を感じる。



 さて、ここを登るのは色々と楽しみが多い。

 思わず指折り数えてみたくなる。



 まず一つは、スロープ自体が登ってくださいと誘っているようで、登攀自体が面白そうだということ。


 二つめは、立て札で禁止されてることを破っているという背徳感に似た解放感。



 それに昨日のオリエンテーションで城壁に上がらなかったのだが、そこからの眺めはとても良いと聞かされている。

 それに絡んでさらに二つ。


 まずは言わずもがな、頂上からの景色それ自体。


 そしてみんなより一足先にその景観を楽しめる優越感。

 ニャルミたちと一緒に見た方が楽しめるかもしれないけれど、僕猫だもんね。

 抜け駆けしても許されるはずだ。




 そして最後に、猫の集会に参加できること。

 みんなと仲良くなれるかどうか、転校初日のような不安と期待が僕を包む。



 そんなこんなで僕はワクワクしながらスロープを登った。

 楽しさが足先から尻尾の先まで充填されているようで、体中がこそばゆい。


 その感じは頂上に近付くにつれて強くなっていく。



 やがて頂上まであと数歩というところまでたどりついた。


 ここからが大切なところだ。

 まずはそっと頭を出して様子を覗うことにしよう。


 こうやって物陰に隠れつつ様子を覗うのは、猫である僕にとって非常に興奮するシチュエーションである。




 そーっ………………。




 いるいる! いっぱい居る!

 分かっていたことだけど、テンションが上がる。



 興奮した気持ちを抑え、僕は覗き見していたことを気取られないようにさっと頭を引っ込める。



 ドキドキと跳ね上がった心拍数が落ち着くのを待つ。


 平静を装い、いかにもたまたま通りがかったという感じで僕はさりげなくその社交場に足を踏み入れる。



 みんなに興味はありませんよ。

 僕はそこのちょっと空いたスペースに用事があるんです。

 かまって欲しくなんかないんだからね!

 誤解しないでよね!

 そっちがどうしても仲良くしたいのなら、考えてあげなくもないよ!



 身体全体でそう主張しながら隅っこの方に遠慮がちに小さく座ってみる。

 それが正しい猫の礼儀作法なのだ。



 みんなの方を見る勇気はない。

 チラリと覗う気も起きない



 だって僕はまだ一歳に満たない子猫なのだ。

 まわりの猫達と比べて一回りも二回りも身体が小さいのだ。

 それだけサイズが違うと、やっぱりちょっとだけ怖いのだ。


 ああ、そういや景色を楽しむヒマなんてなかった。

 全然それどころじゃなかった。

 もちろん、今も全然余裕がないけどね。



 だって猫達はみんな僕に注目しているみたいなんだよね。

 突然見慣れぬ新参者が現れたのだから、それも当たり前のことだ。


 見えないが、視線を感じる。

 注意はこちらに向けられている。


 楽しさでムズムズしていた背中が、別の意味でむずがゆくなってきた。

 まるで息を吹きかけられているかのようだ。




 そうだ、魔力探知を使えば振り向かずに状況を確認できるな。


 僕はようやくそのことに気がつき、今更だが周りの猫達の様子を探ってみる。

 手順が悪いのは仕方がない。それだけ僕が一杯一杯な証拠だ。



 全部で九匹。

 一番高いところに陣取って、強い反応を示しているのがおそらくボスだろう。



 この距離ならみんなの動きは見ているかのように良く分かる。

 単に日光浴を楽しんでいるのか、みんな思い思いに伸びたり縮んだりしているようだ。


 どうやら僕は追い出されずにすみそうだ。

 とりあえず潜入成功というところか。



 だけどほっとしたのも束の間、一番高いところに陣取っていた猫が音も立てずに高台から降り立った。



 するとみんなは石のように固まって動かなくなった。

 まるでそのボス猫に敬意を払っているようだ。


 ボス猫はゆっくりと僕に向かって歩いてくる。

 僕の肉球がじわりと汗をかく。


 やがて鼻息が僕にかかり、背中の毛がまくりあげられた。

 二度三度と、まくりあげられる。




 ど、どうなっちゃうのかな。





 すると突然、天地がひっくり返った。






 一瞬何が起きたかととまどったが、すぐに見覚えのある毛並みが目に入った。

 ゴロゴロという聞き覚えのある喉鳴らしが耳に入った。


 どうやら僕は両手で抱きかかえられるようにボス猫にかかえられ、毛づくろいをしてもらっているようだ。



 そしてようやく僕は気が付く。ボス猫はハチクツくんだったのだ。


 さすが入学式で人間が大勢いる中を堂々と突っ切り演台まで登った猫。

 ただものではないと思っていたが、ボス猫だったのか。


 僕のことを人間の僕と同じだと分かっているのだろうか。

 まあいいか、そんなことは。

 歓迎されているということが分かれば、それで十分だ。



 その様子を見守っていた周りの猫達も、ゆっくりと僕に近寄ってきた。

 そしてみんな何かにとりつかれたかのように、匂いを嗅いだり擦り寄ったりゴロゴロ言ったりしはじめた。



 やはり猫ハーレムスキルは子猫の姿でも有効のようだ。

 むしろ効果が上がっているようにも思える。



 いや、そんな考察は後回しだな。


 今は猫まみれのこの状態をたっぷりと堪能させてもらうことが優先だ!

 そうだ! これこそが僕の求めていたものなのだ!






 こうして僕の集会場デビューは、華々しく始まった。


 できれば毎日通いたいが、ニャルミのブラッシングと時間がかぶるんだよな。

 どちらを取るか、それは嬉しくも難しい選択だ。






 しかしながら、そんな楽しい時間は突如として終わりを告げる。


 この直後におそるべき惨劇が待ち構えていたのだ。

 さすがにそれは僕にも予測できなかった。




安心して次の話をお待ちください


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