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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第ニャー部 下巻
41/57

怠惰な襲撃の一日編 その一

「ニャーン!」


 僕は毎朝恒例になっているブラッシングを期待して、ニャルミに一声かけた。

 ここだけの話、ニャルミのテクニックは神技クラスなのだ。


 何故ニャルミがそんな卓越した技能を身につけているのか。

 その秘密はニャルミの持つ接触テレパスの能力にある。



 接触テレパスとは、触れている対象者が注意を向けたものの方向と距離が分かるというものだ。

 その定義だけを聞くとたいしたことのないように思えたのだが、全然違った。


 実はとても凄い能力なのだ。

 なんとこの能力は、対象者の潜在意識にアクセスできるのだ。



 ニャルミに言わせれば、注意と緊張は似たようなものなのだそうだ。

 それゆえ潜在意識あるいは無意識における緊張、たとえば肩が凝っているとか背中がかゆいとかそういった感覚でさえも、次第に読み解けるようになったのだという。




 そしてその感覚を利用して、まさにかゆいところに手が届く至れり尽くせりのブラッシングをしてくれるというわけだ。


 なぜだか良く分からないけれど、気分が優れない時ってあるよね。

 ニャルミはその原因をみつけて、的確に対処してくれるんだよ。


 軽くマッサージしてくれたり、温めてくれたり、ストレッチをしてくれたりするんだ。

 終わる頃には身体はぽかぽかと温まり、気分爽快すっきりさわやか間違い無し。



 それがニャルミのブラッシングテクニックを神技と評する理由だ。




 もちろんいくらニャルミといえど、一朝一夕にこのレベルまでたどりつけたわけではない。

 毎朝僕がトレーニング相手として献身的に協力した賜物だと言ってもいいだろう。



 尻尾の先がかゆいとか、そこはもう十分だとか、もっと優しく撫でてくれとか、そういった細かい注文を出し続けた甲斐があったというものだ。

 同じ転生者の僕という存在がなければ、この境地に達することはなかったはずだ。


 今では対象者よりも鋭敏に様々な感覚を知ることが出来る、とニャルミは豪語していた。



『相手が何を思っているか、大体分かっちゃうレベルまで来たと思うわ。

 エッチなこととか恥ずかしいこと考えていたら筒抜けよ。

 ニャスター気をつけてね』



 ニャルミはそんなことを言うが、僕は何も怖くない。


 知られて恥ずかしいと感じることなんて、僕には何もないんだよね。



 それは何故かって?


 なんていうか、首までどっぷり使っちゃえばもう恐れるものは何もないっていうのかな。

 いや違うなあ。


 尻尾の毛の数まで知られている相手にこれ以上何も隠すことはないっていうのかな。

 うーん、それも違う。


 ……よし、理由の説明はあきらめた!


 うまく表現できないけれど、とにかくそういうことなんですよ!






 あ、ニーオの一件を忘れていた……。


 まずい、話しすぎちゃったなー。あー、どうしよう。




 えーと、彼の名誉のためにも、ちょっと訂正があります。


 みなさん、ニャルミの能力は全然たいしたことないですよー。



 せいぜいブラッシングをしながら、こんなことができるくらいです。



『ここか? ここがええのんか?』


『ニャ、ニャーン』


『隠したって無駄やで、丸わかりやで、ほれほれ。

 身体は正直やなぁ』


『ウ、ウニャニャーン!』


『ヒッヒッヒ、とんだエロ猫やで。

 こんなピンク色の肉球見せられたらテンションあがってまうわ』



 ※ ブラッシングは飼い主による医療行為のようなものです。




 実際にそんな羞恥プレイが毎朝あるかどうかは想像におまかせいたします。



 繰り返しになりますが、ニャルミの能力は全然たいしたことないですよー。

 ニーオは何もされてないし、みんな笑顔で平和な夕食会があっただけですよー。



 え? 今のよりももっとひどい何かが起きたんだろうって?

 そんなことあるわけないじゃないですかー。やだなー、もー。






 さ、さて、先程の呼びかけで僕に気が付き、ニャルミはこちらを振り向いた。



「おはよう、ニャスター」


「おはよう、ニャルミ!」



 挨拶もそこそこに、ニャルミは小さく溜め息をついた。


 どうやらご機嫌があまりよろしくないらしい。




 原因はおそらく、昨日のニャロリーヌの一件だ。


 僕らに関する変な噂を否定しようと色々頑張っていたのに、みんなの前でそれを証明するような行動をとってしまったのだ。

 気持ちが沈むのもしょうがないだろう。


 その推測を裏付けるように、ニャルミが口を開いた。



「クラスに行きたくないわ。どんな顔して入れば良いのか分からないの。

 お嬢様らしく、とまでは言わないけれど、ここ数日みんなに『わたしは普通の子よ』って振舞ってきたの。

 そんなところに昨日のアレでしょ?

 まるで猫かぶってたみたいじゃない。

 かぶってないとは言わないけれど」


 猫かぶり? そんなこと、どっちだっていいじゃない。

 僕はお嬢様のようなニャルミも好きだけど、毎朝かわいいペットに羞恥プレイを強要するニャルミも大好きだよ。



 そんな軽口を叩こうとしたその瞬間、健康チェックをされている僕の姿が脳内に浮かび上がった。

 そのイメージに意識を凝らすと、さらに恐ろしいシーンが次々と現れてくる。



 これは僕の『予感』スキルが発動したものとみて間違いないだろう。



 僕の予感はそれなりに当たる。

 ニャロリーヌの神託スキルほど具体的ではないのだが、だいたいそのとおりになる。

 この予感に助けられたことはもう数え切れない。



 これは絶対に回避すべきだな。



 繰り返して言うけれど、絶対に回避だ。

 そうなったら良いな……、なんてことを僕はこれっぽちも思っていない!


 僕はエロ猫なんかじゃない!

 だから絶対回避! 絶対に絶対だ!




 よし、それじゃとりあえず、ニャルミを挑発するようなことを言うのはやめておこう。



「う、うん。それを考えると頭が痛いね。

 僕もみんなにどう接したらいいのか分からないよ」


「ニャスターは番長キャラが定着してるから良いじゃないの。

 どう言えばいいのかな。わたしの場合、それがまだ保留中なのよね。

 女の子の世界ではそういうことはとっても難しいのよ。

 ちょっとしたことで人間関係が崩れたりするの。

 クラスで変に浮いたりしないか心配だわ」



 男同士でも人間関係は難しいよ。色々気を使うよ。

 例えば教頭先生とか。それから教頭先生とか。


 でもニャルミの言うことも分かる。

 下手すると居場所がなくなるもんね。




 それはさて置き、ニャルミへの対応をちょっと間違えたかもしれない。


 だってこのままでは、ニャルミの不満の矛先がこちらに向かいかねないのだ。

 いつもならそれくらい全然平気なのだが、先程の予感が僕を慎重にさせる。


 おそらく、話の聞き役に徹するのが最善だったのだろう。

 僕の事情など話すべきではなかった。



 うーん、ここから路線変更するにはどうするべきか。

 冗談で場を和ませるのというのはどうだろう。


『誰だって大なり小なり猫をかぶっているものだよ。

 僕も猫かぶりまくりだからね。最近は猫耳の着ぐるみもかぶりまくり』


 いやいやだめだな。

 これだと『真面目に話を聞いてよ』と怒られるような気がする。


 どうするべきか。




 迷った末、僕は月並みなセリフに頼ることに決めた。

 無理に気の利いたことを言う必要は無いのだ。



「ニャルミ、僕にできることがあったら何でもするよ」


「うん。ありがとう。もし本当に困ったことになったらお願いするわ。

 心配させちゃったのならごめん。でもちょっと気弱になってるだけだから大丈夫だよ。

 ただ、今日だけはブラッシングをお休みさせてもらえるかな。

 なんて言えば良いのかな。少し自分を見つめなおしたいの。

 少しの間だけ一人になりたいのよ」



 意外な答えが返ってきて、僕は少し戸惑った。



 ニャルミはそれほど深刻そうにはしていない。

 その言葉どおり、単に一人きりの時間が欲しいようだ。


 それならニャルミの言うとおりにしてやるべきか。



 その判断を後押しするかのように、僕の『予感』スキルはそれが最良の選択だと告げてきた。


「わかった。じゃあ僕はちょっと散歩に行って来るよ。

 運動と日光浴を兼ねてね。

 着ぐるみにこもりっきりだと、両方とも不足気味になっちゃうんだよね」


「うん、そうしてもらえると助かる」


「授業の準備もあるし、一時間か二時間くらいで戻ってこようと思ってる。

 はじめてのお散歩だから、帰宅時間はあまり正確に予測できないかも。

 だから多少遅れても心配しないでね」


「ん……、やっぱり今日はやめておく?

 ニャスターが迷子になったりしないか心配だわ」


「大丈夫だよ。

 もし迷子になっても、魔力探知でニャルミを探して帰ってこれるさ」


「そっかー。ニャスターは探知が得意だものね。

 わたしには難しそうかな。

 この学園の中って、人やら猫やら反応が多すぎるもの。

 ……うにゃー、そんなこと言ってたらまた不安になってきたわ。

 ニャスター、本当にわたしを見つけられるの?」


「ニャルミは心配性だなぁ。

 そうだ! 僕の帰りがあまり遅かったら、時々ピョンピョンとジャンプしてみてよ。

 集団の中で特徴ある動きをする個体っていうのは、簡単に見分けられるものだよ。

 逆に僕をニャルミに見つけて欲しい時には、僕がピョンピョン飛び跳ねるよ。

 それでどうかな?」


 そう言って僕は数回ジャンプしてみせる。


「なるほど、それなら安心ね。だからと言って油断はしないでよ。

 あんまり遠くへは行かないようにね」




 そんなわけで、久しぶりに猫の姿で外出することになった。






 朝の空気が心地よい。


 この時間は僕ら猫にとって、不思議なほどやる気が沸いてくるものなのだ。


 空気の一粒一粒がきらきらウニャウニャと輝いているようで、僕は大きく深呼吸をする。

 そして猫特有の背伸び運動をしてから、僕はゆっくりと歩き出す。




 さて、体感速度というものは、基本的に地面に近いほど増すものである。

 そして今、僕は猫の姿である。

 目線の高さは地上数十センチである。


 つまりひょいと加速するだけで、ジェットコースターに乗っているかのような疾走感を得られるのだ。



 僕は、知らぬ間に走り出していた。

 ここのところ人間の高さ目線に慣れていたから、猫の視点で走るのが楽しいのだ。



 今日は何か特別なことが起こりそうな予感がした。




感想たくさんありがとうございますニャー

頑張りますニャー


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