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子猫転生  作者: ニャンコ先生
第ニャー部 下巻
38/57

偽りの劣等生編 そのニャニャニャーン

 図書館内ではどこにいてもみんなのひそひそ声が聞こえてくる。


 利用初日で人が多いから仕方ないのかもしれないが、話が気になって落ち着けない。

 みんな! 図書館は静かに利用しようね! ニャンコ番長との約束だよ!



 さてこんな時は他の事を考えるに限る。



 え、えーと、この学園に来た目的は何だったかな……。

 やりたいことがたくさんあるんだよな。


 当然最初にあがるのは、猫言語魔道書の下巻のことだろう。

 お姉ちゃんの話では行方不明になっているそうだが、あきらめるのは早い。

 スキルは偶然ではなく運命なのだ。僕自身が望めばそのうち出てくるだろう。


 もちろんそれ以外の魔道書も読んでみたい。

 杖を用いずに魔法を使うやり方を知れたのは助かった。

 それ以外にも色々応用の仕方があるはずだ。

 授業で教えてくれるのかもしれないが、受身で待つよりも自分でやれることはやっておきたい。


 だって魔王復活のその時まで、多分そんなに時間がないしね。


 ついでに魔物や魔王に関する文献も漁ってみたいな。

 それらがどんな存在なのか、未だに情報が足りていないんだよね。



 そしてあわよくば他の転生者とめぐり合うこと。

 それを僕は期待している。


 夢で見た百五十ポイントのあの子も、この世界に来ているのだろうか。

 あの子がどんなスキル構成にしたのか覚えていれば見つけやすかったかもしれないが、全く記憶に無い。残念だ。



 僕の知らない転生者がいる可能性も考えられる。

 そう思って入学式の時に一通り探してみたけれど、残念ながら目立った魔力を持つ子はいなかった。


 いや、魔力の多寡だけで判断するのは早計だな。


 それに転生者だけで全てを解決しなくてもいいのだ。

 普通の人達の中から協力してくれる子を探したっていい。


 ううん、それも違うな。探すんじゃない。自分から作っていくんだ。

 能力の高い子も低い子も、みんなそれぞれが出来ることをして助け合えばいい。

 これからの学園生活で、そういう人脈を築いていくんだ。




 そういった意味ではこの現状はあまり好ましくないだろう。

 ニャンコ番長という肩書きは、何も知らない他人を警戒させる。


 その名前がチャーミングなことが救いだが、既に広まっている誤解を正すのが課題だな。


 番長という地位を利用して協力を仰ぐというのも一つの手だが、それはあまりやりたくない。

 魔王を退治しようというのに、僕自身がそれに近いものになってしまっては本末転倒だからね。






 そんなことを考えていると、また誰かのささやき声が聞こえてきた。

 しかしそれは今までに聞いた話とは少し違っていた。



「それにしても、今年はすごい幼女が入ったみたいだね」


「ああ、魔法の才能はすごいんだけど、滅茶苦茶生意気なんだ。

 全然言うことを聞かないので、先生も手こずってるみたいだよ」


「クラスメイトにもひどく当たり散らしているそうじゃないか。

 自分の能力を鼻にかけ、みんなを蔑んで傲慢な態度をとっているんだってさ。

 いくら成績が良かったからって、それってどうかって思うよ」



 ニャルミの噂だろうか。それにしても誇張しすぎだ。

 ニャルミは素直で良い子だぞ。そんなことをするわけがないだろう。

 あれじゃニャルミがかわいそうだ。事実無根過ぎる。


 兄としてペットとして、この状況は見過ごせない。看過できない。


 どうしようか迷ったが、僕自身の存在をアピールするだけに留めることにした。

 僕が聞いていると分かれば、彼らもくだらない噂を止めるはずだ。


 問答無用で彼らを締め上げるというのも効果的だと思うが、それでは暴虐な番長のイメージが定着してしまう。

 それは僕が望むところではないし、下手をしたらニャルミにも迷惑がかかるだろう。



 大丈夫だ。まだやりなおせるはずだ。



 しばらく普通に生活していれば、僕ら兄妹が温厚なただの猫好きだとみんなに分かってもらえるだろう。

 いや、きっとそうなるはずだ。誤解はいつか解けるに違いない。


 そのためにも一番穏便な方法で済むならば、それを選択しよう。


 もちろんそれで止めないようなら、もっと率直にお願いするしかない。

 だけどそうするとしても、丁重にあくまでも紳士的にだ。



 僕はわざとらしく咳払いをしてから、彼らの視界に入るように移動する。

 すぐに二人は僕に気が付いた。


「あ、番長。ちーっす」

「ちーっす」


「お、おう」


 しまった。番長と呼ばれて普通に挨拶を返してしまった。

 二人が気まずそうに立ち去るだろうと予想していたので、想定外だったのだ。


 これでは自分から番長だと認めたことになる。


 さらに困ったことに、彼らはいっこうに噂話を止めようとしない。



「いくら実力があるからって、あれじゃ人間として終わってるね」


「うんうん、反面教師ってああいうのを言うんだね。

 僕も魔法が使えない人たちに対して、ああいう振る舞いをしないよう注意しないと」



 あれ、おかしいな。ニャンコ番長様がいらしたんだよ?

 その妹のことを悪し様に言うのは普通ひかえるんじゃないの?


 試しに警告の意味も込めて彼らをにっこりと見つめてみたが、同じように微笑み返されてしまった。


 これってどういうことなの? こっちの文化なの?

 地球の常識で考えちゃいけないの?


 混乱している僕のところへ、ニーオがやってきた。



「兄貴、兄貴ー! また移動ですよ!

 次は魔道書取り扱い部だそうです。

 兄貴あんなに話を聞きたがっていたじゃないですか!」


「あ、うん。行く行く」


 魔道書の話はきちんと聞いておかねばなるまい。

 貴重で高価な魔道書を利用するためには、複雑な手続きを覚えなくてはいけないみたいだからね。







 図書館利用法の説明が終了し、僕らはようやく学生証と図書館利用証をもらった。


 これで今日は解散だ。

 そのまま図書館に残る者、クラブへと向かう者など様々だ。



「さて、ここからは別行動にしようか。

 ニーオも図書館でやりたいことがあるのだし、あまり迷惑をかけたくない」


「何を水臭いこと言ってるんすか。

 最後までつきあいますぜ、兄貴」


「いや大丈夫だよ。今日は館内をゆっくり見回るだけだからね。

 それに同行してもらったら、ニーオの時間を無駄にしてしまうだろう。

 とても落ち着いて見れそうにないよ」


「僕ならそれでも全然かまわないんですけど、まあそこまでおっしゃるなら……。

 あ! 分かりやした! ではそういうことにいたしましょう。

 でも、何かありましたらすぐお呼びくださいね。

 ちなみにお探し物は小説コーナーの二番の棚にあると思います」


 ニーオはペコリと頭を下げて、書架の迷宮へと消えていった。


 小説? 二番の棚?

 このニャンコ番長に薦めるくらいだから、猫関係の小説とかだろうか。

 何のことか分からないが後で行ってみよう。


 その前にもう一度館内地図を見て、図書がどう分類されているのか確認しておこう。

 噂話が気になって、どんな本があるのかあまり見れなかったし、今しがた別れたニーオと早々に出くわすのも避けたいし。




 地図を見ながら散策ルートを考えていると、ニャルミがやって来た。


 がっくりと肩を落としている。その理由はなんとなく察せられる。


「お兄ちゃん、あのね、昨日のことが噂になってた……」


「うん……、気が付いたら番長扱いされてた。

 お互い困ったことになったね」


「みたいね。ちょっと軽率だったわ。もっと気をつけましょう」


「反省しよう。もうああいうことはやらない方向で。

 そうすればきっと誤解も解けるさ」


「そうだよね。普段の行いが大切だよね」




 さっきの噂が気になっていたが、それは言わずにおこう。

 別の話題でも振ってみるか。



「そうだ。さっきまでニーオと一緒に居てね。

 別れ際、小説コーナーの二番の棚に行けって薦められたんだ。

 何があるか知ってる?」


 僕が全て言い終わらないうちに、ニャルミは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。


「知らない」


 知ってるじゃないか!

 まあここで言う『知らない』の意味は、アレだ。

 どういった類の本があるかは知っているが、具体的には知らないってことだろう。


「そ、そうか。ごめん……」


 ニーオのやつめ!

 きっと変な勘違いをして成人向けコーナーでも教えやがったな!


 絶対許さないよ! まったくけしからん!

 後でニャルミがいないときにこっそりチェックしに行くよ!



 それはともかく、この気まずい状況はどうしたらいいのか。


 知らないのに何故そんな態度を取っているのか追求してみたくはある。

 だがそれをやったら、僕が最初から全てを知ってニャルミをからかっていることになってしまう。


 さっきニャルミが言っていたとおり、普段の行いは大切だ。

 それを改めたいと思うなら、まず身近な人々に対して始めるべきだ。


 ここは何もなかったことにしていつもどおりに振舞うのが無難だな。

 何か別の話をしよう。僕をストーキングしている猫たちのことでも話そうか。



 そこへ突然、静かであるべきはずの館内に誰かの叫び声が響き渡った。


「にゃあああああああああ!」


「おい、何だろう。ちょっと行ってみようか」


「う、うん……」


 本当はそんなに興味がなかったけれど、この空気をかえられるなら利用させてもらおう。


「いったいなんだろうね」


「そうだね、こわいね」



 一瞬、先程の変な噂と何か関係があるのではという予感がした。

 だが僕は深く考えず、道を急いだ。






 声がしたあたりに着いてみると、既にたくさんの人が集まっていた。

 もちろんニーオもそこに居て、僕らを見かけると駆け寄って来た。



「あ、兄貴! それにニャルミさん!」


「ニーオ、いったい何があったんだい?」


「それが……、僕にもよく分からないんです。あそこから……」


 しかし、ニーオの話が終わらぬうちに、ニャルミが割り込んだ。


「ところでニーオくん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかしら。

 さっきお兄ちゃんに何か面白い本があるところを教えてくれたって本当かな?」


「えっ!? あっ、その……。喋っちゃったんですか、兄貴ー!」


 す、すまないニーオ。

 だけどどんな本があるか具体的に教えてくれなかったニーオも悪いよ。


「ふふふ、ニーオくん、今晩お暇かしら? あとでたっぷりお話しようね」


「にゃあああああ!」


 その日図書館で二度目となる悲鳴があがった。

 ニャ、ニャルミ……。普段の行いが大切なんじゃないのかい……。




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